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ドラゴンと巫女

「気高きドラゴンの長よ」


それはこの世界で一番大きい山の上。

そこにいるのは全てのドラゴンを統べる長。

漆黒の鱗に覆われた巨体と、その頭部に爛々と赤く輝く赤い瞳はその巨体に相対するにはあまりに脆弱な、しかし内に一際輝く光を宿した少女を見つめていた。


「すべてのドラゴンを統べる黒きドラゴンよ」


そのドラゴンの死線を振り払い。

その少女は視線を返す。


「もう争いは終わりにしましょう。もう、私は人もドラゴンも、その何方も傷つく姿は見たくないのです」

「戯言を。この身を焦がす怒りの炎は人間全てを滅ぼすもの。どうして今更やめることができようか」

「えぇ、そうでしょう、その通りです。原初の白きドラゴンを打ち滅ぼした人がこのようなことを言うのがどれほど恥知らずであるか、私には到底わかりません。ですから------」


手に持った神具を捨て。

身にまとった神具を捨て。

そして少女はその場に跪く。


「この身全てを捧げましょう。八つ裂きになっても構いません。

 この魂全てを捧げましょう。地獄の業火に焼かれても構いません。

 ですから少しだけ、ほんの少しだけでも人と歩み寄ってください」


あぁ、この少女は自身のすべてを捧げても望むのはそれだけなのか。

争いをやめるのではなく耳を傾けろと、一方的な赦しではなく、真の意味での平和を望むと。

その気高き少女の在り方は、どこから懐かしい白いドラゴンを思い出させた。











「ぬおおおおぉぉぉおぉおぉおぉおおぉおぉぉおぉぉおおおぉっぉおぉおおおぉおぉおおぉおおジャンヌぅぅぅぅぅぅううぅううぅうううぅうぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」


それはまさしくドラゴンブレス。

そのドラゴンの巨体に相応しい彼の叫び声は大気を振るわせ、周囲の洞窟の壁にひびを入れる。



「うるせぇよマジで、時間考えろ時間」


と、そんな音の嵐の中で平然と突っ込みを入れる精悍な男が一人。

ドラゴンからはジーくんと呼ばれているゲーム友達である。

ちなみにただいま午前6時。朝の鶏の鳴き声の代わりにしてはその音の被害は大きすぎる。


「いやぁスマンスマン、ちょっと千年くらい前のことがフラッシュバックして思わず慟哭してしまった。あぁジャンヌ可愛いよジャンヌ」

「キモイわ、このドラゴンキモイわ」


この器用にバカみたいにでかい指を使って、これまたバカでかいタブレットを操作して漫画を読んでいるドラゴン。何を隠そう千年くらい前に人間とちょっとばっかりどちらが先に絶滅するかを競走していた気高き黒きドラゴンの長である。


「ジャンヌ可愛いって……実物もそんなに可愛かったのか?」

「全然。漫画とリアルは別だから、こんな可愛い子実在するわけないじゃん、夢見んな」

「お前、聖女に呪われるぞ」

「聖女が呪いとか……いや、アイツならやりかねないか」


どこか遠い瞳でドラゴンはそう呟いた。

過去を思い出すとそれくらいの事はやってきそうなくらい破天荒で型破りな人間であった。

単身でドラゴンの長の山に乗り込んできて話し合いをしようとするくらいであるからその異常性がよくわかる。


現在の聖女ジャンヌのイメージは品行方正清廉潔白笑顔がとても可愛らしい超絶美少女であるが、ドラゴンに言わせれば「誰の話?その子紹介してほしい」と返して、聖女の事であると知ると数日間コミュニケーションが取れなくなるほど抱腹絶倒していた。


「それより読み終わったならゲームやろうぜゲーム」

「えぇぇぇ、ワシ漫画は3,4周してから満足するひとなんですけどぉ」

「しゃべり方がキモイ。ほら、新作の大乱闘スマッシュシスターズDX(略称スマシスDX)買ってきたからやろうぜ。徹夜で並んで買ってきた」

「よっしゃ任せろ兄弟!!!!!」

「ドラゴンに兄弟って言われるとか……」


実はジーくん、ドラゴンスレイヤーの末裔である。

人間とドラゴンの和平が行われ、千年の時が流れればドラゴンスレイヤーの称号は過去の遺物。

ドラゴンを狩るために血統が選ばれてきた人類最高峰の超絶身体能力も今ではなんの役にも立たないのである。

オリンピックなどの身体能力を競い合う大会には基本的に参加禁止される程度には意味をもっているが。


「いやぁ長生きはするもんだ。こんな面白いゲームに漫画にアニメに特撮まで体験できるとか。シロちゃんに良い土産話ができたってもんだわぁ」

「原初の白きドラゴンが今のこいつ見たらどんな顔をするのかマジで気になるな」


一人と一匹が隣り合って座り、コントローラーを構える。

これが現代のドラゴンとドラゴンスレイヤーの血統である!!

因みに勝敗によって命のやり取りがあったり財宝のやりとりがあったりといったことは無い。

法律でそういった決闘行為及び賭博行為が禁止されているのである!!!


一人と一匹がゲームをしているとドラゴンの洞窟に入ってくる影が二つ。

少女が一人と小さな白いドラゴンが一匹である。

彼女たちは顔を見合わせて一つため息をついた。


「ちょちょちょちょっと待てって!待てって!これ嵌めだろ!?投げ嵌めだろ!?禁止だから!そういうの禁止だから!!ちょ、てめ少しは年下に花を持たせろこの!」

「禁止じゃないでーす、ルール上問題ございましぇーん。それにワシより若いんだから倒してみろやオラオラオラオラ」


ゲームに熱中しているせいで来客に気が付かない一人と一匹。

大きな体で器用にコントローラーを操作しているドラゴンの手の動きが気持ち悪い。

と、しばらくすると勝負が決した。


「アイムウィナー」

「畜生、もう一回だ!今のはノーカン!だから早くってあ!」

「まったくもう、何やってるのよ。時間よ時間」


ジーくんからコントローラーが取り上げられ、その行き先を辿っていけば少女とドラゴンがいる。


「おぉ、マルちゃんにシーちゃんじゃないか。おはよう」

「はい、おはようございます」

「キュイ」


マルちゃんと呼ばれた少女とシーちゃんと呼ばれたドラゴンが返事をする。

飽きれたような声と視線をモロともせずにドラゴンは笑った。


「ほら、ジーくん。迎えが来たようだぞ?」

「マル!あと一戦あと一戦だけだから!」

「うっさい、あんたの一回は勝つまででしょうが!さっさと立ちなさい!」


そういってマルちゃんはジーくんの首根っこを掴んで引きずるようにして洞窟の出口へと向かって歩き出した。

そのあとをドラゴンのシーちゃんが続く。


「それじゃあリュウさま。これにて失礼します」

「キュイ!」

「帰ってきたら対戦だからな!」

「あぁ、気を付けてな」


そういうと二人と一匹は洞窟から出て行ってしまった。

残されたのはドラゴン・リュウ一匹。

それまで騒ぎあった人間が居なくなったせいか急に静かになったように感じる。


「本当に、長生きはしてみるものだ」

「人とドラゴンが隣り合って暮らすことができるとは」

「シロとジャンヌが語った理想は、間違いではなかったのだ」


すでに役目を終えたドラゴンは遠い過去に思いを馳せる。

かつて人間を滅ぼすと決めた最も激しい憎しみを持ったドラゴンでありながら、ドラゴンと人の間に立ち和平へ導いたドラゴン。

真の意味での和平をと、対等な和平をと願ったその心を受け継いだドラゴンは、現代をどう生きるのか。


「おっと、そういえば録画しておいた深夜アニメを見なければ」


現代をどう生きるのか!!!!!

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