3話
いつもどおり目が覚める。
いつもと変わらない石造りの冷たい小屋のさらに冷たい檻の中で数時間前とは何かが足りない少年は鉄格子を背にして立ち上がる。
カーネは気付かない、否、気付くことは出来ない、自らの変化を、ねじ曲がってしまった心境の変化を。
今、カーネはこの状況に不満を感じていない。
不当だとは思っているが、どこかに救いを感じていた。
いったい何に期待しているのかは分からないが確かに救いを見出していた。
ふとカーネは自分の中にある疑問が生まれる。
自分の心境についてだ。
昨日の朝と比べて目覚めが良すぎる。
いつも嗅いでいるはずの反吐の出るような小屋の臭いも、窓から見える爽やかな青空も、嫌悪感を煽ることしか無かったはずなのに何故か柄にも無くいい朝だなんて考えてしまっている。
今までどう朝を迎えていたのか、どんな気分でこの檻の中に居たのかが分からなくなってくる。
しばらく同じようなことをぐるぐると考えていたが、結局何も分からなかったのでとりあえず飯の後で考えることにした。
少年の疑問に答えてくれるものは居ない、一緒になって考えてくれる人など居るはずも無い。
だからしょうがない事なのかもしれないが少年は止めてしまった。
自分の中の疑問について考えるのを止めてしまった。
もしここでもう少し考えていたとしたら何かが変わっていたのかもしれなかったというのに、と言ってもそれはほとんど誤差のようなものなのかもししれないが……。
しかしもう少年カーネは今日のクソみたいな朝食の事を考え始めている。
たった一つの重要な疑問は忘却の湖に投げ入れてしまった。
とりあえず、半分日課になってしまっている檻の番をしている兵士への呼びかけをしようと 扉側の鉄格子に近づく。
裸足で鉄格子にそっと触れる。
冬が近いのかひんやりとしていて冷たい。
足を鉄格子から離して勢いよく蹴りつける。
「おぉーい!低賃金!豚野郎!低能馬鹿!また寝坊かよこのろくでなし!さっさと飯もってこい!聞いてんのかこらぁ!デブ!チビ!ホモ!・・・・・たん・・」
「誰が短小だ!このくそ化け物がぁ!」
「やっときやがったか腐れ童貞」
檻番はすぐさま言い返そうと口を開くが諦めたように頭を垂れる。
「はぁぁぁ、まったくどこからそんな言葉覚えて来るんだよ」
「夜、外から聞こえてくるてめぇらの怒鳴り合いからだよ」
「そりゃどうもすいませんでしたね!ったく、やってらんねぇなぁ!この仕事もよぉ」
檻番は壁にもたれかかってずるずると床に座り込む。
ポケットから銀製の箱を取り出し、中から紙タバコを出す。
気だるげに箱をしまいながら紙タバコをくわえる。
マッチでタバコに火をつけ煙を肺いっぱいに吸い込むと、鼻と口からゆっくりと煙を吐き出す。
カーネはその一部始終を興味深そうに見入っている。
「あ?なんだ?餓鬼の癖にタバコに興味でもあんのかい?」
檻番は皮肉げにニヤリと笑う。
カーネは男の手元のタバコをじっと見つめたまま言う。
「おぉ、いやなんかたまに匂ってくるから気にはしてたんだけど、それ、なんだ?」
檻番はカーネが年相応の好奇心あふれる子供のような顔をしているのを見て驚いたような安心したようなそんな気分になる。
「大人が好きで飲む毒みたいなもんだよ」
「毒?」
「吸ってる間はちっとばかしだが苛々すんのが収まるんだよ」
「ふーん、麻薬みたいなもんか?」
「ちげぇ!って言いたいとこだが、まぁ似て否なる物って感じだな」
「へぇ………。」
カーネは藁の山の上に腰掛ける。
長くなったタバコの灰がポトリと落ちる。
「この臭いは嫌いか?」
「いや、割と好きだ」
「そうか・・・。」
檻番はまた深く味わうように紫煙を吸い吐き出す。
その表情はどこか嬉しそうだ。
さらにもう一度深く吸った後、煙を吐きながら靴の裏で短くなったタバコを消して二本目を加え火をつける。
「なぁ、どう…」
「童貞じゃねっつの!……で、なんだ?」
カーネは檻番の脇においてある桶に視線を移す。
「飯、さすがに腹減って死にそー」
「あ…。」
檻番は焦って立ち上がり脇においていた桶を檻の中にこぼす。
カーネは頭を下げ食事を始めるがふと頭を上げ、毒だと言いながら美味そうにタバコをふかしている男の手元を見つめる。
「なぁ、ど…おっさん」
「今なんか…まぁいいか、どうした?」
「美味いのか?」
カーネの突然の物言いに男は怪訝な表情を浮かべる。
「なにがだ?」
「その…タバコ?だっけか?美味いのか?」
檻番は煙を吐き出した後一息ついてからきっぱりと言う。
「くっそ不味い」
檻番の言葉に若干カーネは残念そうに眉毛を下げる。
「不味い…のか?」
「あぁ、だが、悪くは無い」
「そうなのか?よく分からんな」
檻番の矛盾めいた答えに苦笑いを浮かべる。
「あぁ、そうだ。大人ってのはよく分からないもんだ、いいからさっさと食いな、もうすぐ時間だ」
何となく納得出来なかったがカーネは食事を続ける。
いつもどおり犬のような格好で残りの残飯を平らげる。
さすが残飯と言えど貴族の専属コックの作った料理と言うところか多少味が混ざっているものの不味くは無い。
カーネが食事を終えると男は黒い皮のマスクを持って檻の扉を開く。
「またこのマスクか」
「文句言うな、さっさと後ろ向け」
カーネは肩をすくめながら後ろを向く。
顎から顔の半分をすっぽり包むようにマスクをはめると首と後頭部の位置でベルトを固定する。
手錠を後ろ手から前に替え、鉄格子に繋がれている足枷の鎖を鉄球に繋げ直す。
「さぁ、今日はいつになく無駄話しちまったからな。急ぐぞ、貴族様がお待ちだ」
最後に首輪をはめると鉄の扉がゆっくりと開かれる。
豪華すぎる廊下を静かに進む。石材を削りだして作られた廊下にブーツのカツカツという足音と、裸足の軽く肉を打つような二つの音が響く。
館の中ではカーネはあまり周りを見ないようにしている。
何故か分からないが豪華すぎる調度品を見ていると酷く違和感を覚えるからだ。
まるで外見を気にして無理に置かれているような違和感、見ているだけで自分まで異物のような気がしてきてしまう。
しばらく進むといつも通っている豪華な扉の前に着く。
檻番が扉をノックすると部屋の中から気だるげな女性の綺麗な声が聞こえてくる。
「入りなさい」
檻番は扉を開け体を半分部屋の中に入れカーネを中に誘導する。
ティファニーはカーネが入ってきたのを見て嬉しそうに目を細める。
「やっと来てくれたのね?カーネ」
カーネはティファニーの妖艶な笑みを見た瞬間思わず膝をついてしまう。
跪き頭をたれるカーネは不自然に拍動する心臓を押さえようと戒められた両腕で自分の胸を押さえる。
まるでのぼせたように頭がくらくらし顔は火が出ているかのように熱くなる。
「どうしたの?よく顔を見せて頂戴カーネ」
カーネはいつもの心無い返事をしようとするも発声が上手くできず強い重圧に押さえつけられてるように頭すら上げられない。
檻番は意外そうにカーネを見ている。
「そ…そんな……恐れ多い……こ…ことは、できません」
「ふふふ、あらあら、急に恥ずかしがっちゃって、本当に可愛いわね。こちらに来なさいカーネ」
カーネはティファニーの言葉に誘われるようにふらふらとティファニーの足元に吸い寄せられるように歩いていく。
ティファニーはカーネの頭をなでるようにマスクのベルトをはずす。檻番が驚き、焦ってティファニーに進言する。
「お、お言葉ですがティファニー様、それは大変危険なものです。不用意にマスクをはずされるとどんな危険があるか分かりません!」
ティファニーはカーネに向ける笑顔をさっと消し冷徹な表情を向ける。
「黙りなさい、この子にそのような言い草、許しませんよ?」
「す、すみません。」
檻番はティファニーの冷たい視線に怯え深く頭を下げる。
「かわいそうなカーネ、私にとってはこんなにも愛らしい子はいないというのに…そうだわ!」
ティファニーは何か思いついたのかカーネの手を引いて立ち上がらせガチャリと手首の戒めをはずしてしまう。
ティファニーは意地悪く微笑むとカーネの足枷をはずしていく。
カーネは久しぶりになんの束縛もない状態になれたが今まで一度もはずされたことのない足枷まではずされて困ったようにティファニーを見上げる。
「あ、あの、なぜ?」
「ふふふ、テストって所かしらね。ちゃんと効いてるかのテスト」
「え?それってどういう」
ティファニーは寝台の上においてある黒い鰐皮のグローブをカーネの手にはめる。
光沢のある黒いグローブは指の部分が無く指の第三関節の部分には鉄のプレートがあてがわれている。
その形状はまるでメリケンサックのようだ。
「あの・・・これは?」
「“彼を殺しなさい”カーネ」
「は?」
檻番は素っ頓狂な声を上げ思わず頭を上げる。
いきなり殺人命令を受けたカーネはというと、ただきょとんとした顔でティファニーを見ている。
まただ。
今朝と同じ、今までとは違う感情がカーネの心を支配する。
嫌だったはずだ、あの猫なで声が。
不快だったはずだ、命令されるのが。
「それをするとご主人様は嬉しいですか?」
「えぇ、とっても嬉しいわ」
心臓が不規則に跳ね回る。
彼女に笑顔を向けられるたびにどうしようも無く胸が高鳴る。
「それをしたらご主人様はほめてくれますか?」
「えぇ、えぇ、たっくさん褒めてあげる。頭だって撫でてあげるわよ?」
ティファニーの返事を聞くたび今まで感じたことの無いような高揚感がカーネの頭を支配していく。
ご主人様に喜んでもらえる、ご主人様が褒めてくれる、ご主人様の為に出来る事がある。
「分かりました。“それ”を殺すことにします」
カーネはグローブの具合を確かめるように手を握ったり開いたりしながらゆっくりと檻番に詰め寄る。
「お、おい、待てって!」
「わりぃな、待てないんだ。さっさとあんたを殺して喜んでもらわないと」
「はぁ?おかしいだろ!昨日まであんなに嫌ってただろ!?今更なんでそんな顔して従ってるんだ!?」
「あ?そんな顔?そんな顔ってどんな顔だよ」
言い切ると同時にカーネの正拳突きが檻番の鳩尾に突き刺さる。
檻番がうめき声を上げながら倒れ込む。厚い脂肪のおかげか気は失っていない。
「その顔だよ・・・・緩み切った顔・・・おれは何度も見てきた・・・その顔のまま使いつぶされて死んでいく仲間をなっ!」
檻番はすばやく腰のナイフを抜くと横なぎにカーネの足を狙う。
カーネは檻番が動くのと同時に右足を振り上げかかとから檻番のナイフを持つ右手を踏み抜く。
ぐしゃりと檻番の右手がつぶれる耳障りな音が部屋に響く。
「ぐあぁあぁっはぁ、くそ・・・何でこんなことに」
「・・・・なぁ、あんたが死んだ後さ、あのタバコ?とかいう奴貰うけどいいよな」
カーネは檻番の頭の上に足を乗せる。
少しずつ力が加わり兜がぎちぎちと音を立てて変形していく。
「なぁいいだろ?あんたはもう死ぬんだし捨てるよりましだと思うけど?」
兜がへこみ檻番の頭に食い込んでいく。
彼を見下ろすカーネの目はまるで幼子が蟻を潰して遊んでいるような不気味なほど純粋な目だ。
檻番は必死にカーネの足をどけようとカーネの足にしがみついているが意味を成していない。
「なぁなぁなぁ、いいだろ?な?」
返事をしない檻番に苛々してきているのか徐々にカーネの表情は曇っていく。
檻番は返事をしようとしても顔面が床に押さえつけられ声を出すことは叶わない
カーネはむっとした表情を浮かべると吐き捨てるように檻番に宣言する。
「もういい、勝手に貰うから」
頭にかける圧力を一気に強めると兜と檻番の頭は粉砕する。
後に残ったのはカーネの右足を中心として飛び散った大量の血と頭のない体と砕けた兜、それから白いブヨブヨとしたゲルと眼球が一つだけ、血に混じって黒い液体もカーネの足を汚している。
潰した頭の中身をよく見ようとしゃがむとふと足の甲に何かが乗っていることに気付く。
足の甲に乗った白いブヨブヨとした物体を興味深そうにつまみ上げる。
生臭い臭いがするそれをカーネは何のためらいもなく口に放り込んだ。
「んー、まずいけど食えないほどではないか」
檻番の頭だったもののそばに転がっている眼球にも目をつけたカーネは指先で出っ張りを優しくつまみ口にふくむ。
しばらく口の中で転がしていたが美味しくなかったのか壊れた兜の中に吐き出す。
檻番の頭に興味をなくしたカーネは檻番の胴体を探って目当てのものを取り出す。
銀製のシガレットケースとマッチだ。
シガレットケースを半ば破壊する形でこじ開けると五~六本のタバコが床に散らばる。
そのうちの血で汚れなかった一本を銜え見よう見まねでタバコに火をつける。少し煙を吸うとのどの奥が痛み咽こんでしまう。
途端に興味が無くなったのかタバコの先を血溜まりに押し付けた。
カーネの行動を微笑ましく思いながら見ていたティファニーは確信していた。
成功したのだとカーネにはもうティファニーしか見えていないし十二になるまで最低限の情報しか与えなかったおかげで世界一純粋に残忍に成長した。
正直人間の臓器を興味本位で口にしたのには驚いたがこれも許容範囲だろう。
カーネはタバコの味が口に残っているのが嫌なのか自分の舌を袖で拭っている。
「カーネ、こっちにいらっしゃい?」
声をかけられた瞬間ピンと背筋を伸ばしてティファニーの元へ駆け寄っていく。
「ご主人様!ちゃんと出来ましたよ!」
カーネの嬉しそうな表情に満足そうに微笑み返すとティファニーはカーネを抱き寄せ頭を撫でる。
「えぇ、そうね。ちゃあんと見てたわ、いい子ね」
カーネは甘えるようにティファニーに体を預ける。
ふとティファニーはカーネがタバコを吸っていたのを思い出しカーネの顔を覗き込む。
「ねぇカーネ?さっきタバコを吸っていなかった?」
「はい、アレ気持ち悪かったです。匂いはいいのに味が酷いだなんて思いませんでした」
「ふふ、カーネにはまだ早かったようね?ところで、口の中が苦いままなんじゃないかしら?」
「はい」
「じゃ、治してあげないとね」
ティファニーは砂糖菓子を口にふくみ少しだけ溶かすとカーネに口移しで食べさせる。
突然口付けされたカーネは耳まで真っ赤になる。
「どう?治った?」
「は……はい、あ、ありがとうごさいます」
ティファニーは嬉しそうに薄く笑うと寝台に腰を下ろし隣にカーネを座らせる。
カーネは緊張しているのか不自然に背筋が伸びている。
「疲れたでしょう?少しだけ休みなさい」
「はい、分かりました」
カーネはティファニーの膝に頭を乗せるとあっという間に寝入ってしまった。
※
眠るカーネを横抱きにしてティファニーはまどろんでいた。
カーネは静かに寝息を立てている。
最近カーネの睡眠時間が異常に長くなってきている気がするので目覚めるのは翌日の朝だろう。
一番初めの頃と比べると徐々に睡眠時間が短くなってきてはいるがそれでも一日に起きていられる時間は長くて九時間程度だろう。
どういう事なのか聞かねばならない。
「陰」
天井の蓋がずれ黒尽くめの男が降りてくる。
相変わらず寡黙な男は返事もせず静かにティファニーを見つめている。
「どういうことなのか説明しなさい」
「………どのことでしょう」
「カーネの今の状態についてよ」
陰は少しカーネに視線を移した後水晶の玉をどこからともなく取り出す。
陰が軽く水晶玉を見つめるとその内側が赤茶色く曇り始める。
「いつ見ても不思議ねどこから出してるの?それ」
「………知る必要はありません」
「そう、で?」
「…………かけた術による副作用です」
「副作用…ねぇ」
「………今回のは通常の催眠術と違って催眠を解くきっかけを作っていません。」
「きっかけ?」
「はい、我々が通常使う催眠術は香と言葉を併用して対象に暗示をかけその時対象に暗示が解けるきっかけを作っておくことでそれが暗示を解こうと思い出そうとする精神の逃げ道になるんです。」
「へぇ、それが無いとどうなるの?」
「精神の逃げ道がない状態になります。長時間の睡眠はそのせいです」
「ほぉ、なるほどね」
「ご理解いただけましたか?」
「分からないわ」
ティファニーの堂々とした理解不能宣言に陰は疲れたようにため息をつき
「………ちっ、面倒な…」
と、思わず心の内を声に漏らしてしまう。
「何かいいました?」
陰に呟きに威圧するような視線を向けながらティファニーは頬を膨らませる。
陰はティファニーの不機嫌そうな声音に気付きスッと顔をそらす。
「いえ別に」
「とにかく、逃げ道が無いと何で眠るのかわかりやすく教えなさい」
陰はたっぷり間を置いてから再びティファニーに向き直る。
「………ですから彼に使ったのは」
「長ったらしい説明じゃ分からないって言ってるのよ」
ティファニーはピシャリと言い放つ。
その言い草に腹を立てたのか陰が震え声でティファニーに進言する
「・・・・・・ではどう説明すれば良いんですか」
陰の言葉に考えるそぶりをしてからティファニーは良い事を思いついたとばかりにニヤリと笑う。
「まず、原因は逃げ道がないこと、なのよね?」
「………は?」
ティファニーの唐突な言葉に陰が困ったように小首をかしげる。
「細かく質問していくから簡潔に答えればいいのよ。まったく頭が良いくせに察しが悪いんだから」
ティファニーの言葉に納得がいったのか陰はさっきの質問に短く答える。
「……その通りです」
「治せるの?」
「……負担を取り除くことは不可能です」
「何故?」
「…………負担を取り除く、というのは即ち暗示を解くことに繋がるからです」
影のはっきりとしない返事に苛々してきたのかティファニーは険しい表情を浮かべる。
「治せないということ?」
「………治す必要はありません」
「どういうこと」
「……やはり腐っても化け物なのか徐々に適応し始めています。後四日ほどで完全に回復するでしょう」
化け物という単語に眉を寄せたもののカーネが回復すると分かったティファニーは安堵の表情を浮かべる。
「そう、なら大丈夫そうね」
「………ティファニー様は今後それを如何なさるおつもりで?」
「自分の専門のこととなると貴方って本当によく喋るわね」
ティファニーがからかうと陰は不敵な笑みを浮かべ鼻で笑う。
「それが研究者というものです」
「ここに来てやっと本性を現したわけね」
「どうとでも言ってください。で、どうなんですか?」
「別に、綺麗な服を着せてあげたり勉強させたりするくらいよ?とりあえずどこに出しても恥ずかしくない位には学をつけさせないとね」
陰のそんな様子がつまらないのか寝台のシーツに体を沈めカーネの頭を撫でながら気だるげに答える。
陰はその答えに満足したのか天井の穴の中に消え蓋のしまる音を最後に完全に姿を消してしまう。
静かな部屋に寝息が二つ、今それを邪魔するものはどこにもいない。




