最終話
カーネはティファニーの傍で横になる。
死んでいても、やっぱりティファ様は美しいままだ。
何とも言えない感慨深さを感じるカーネ。
これからティファニーと一緒になれると言う事実に胸は大きく高鳴り始めていた。
目を閉じれば沢山の思い出が脳裏を横切る。
それはどれをとっても幸せなものばかりだ。
何時、どんな時でもティファニーは優しくカーネを見つめていた。
過去の記憶に怯えて震えていた時、何も聞かずに優しく宥めてくれた。
道に迷った時は手を引いてくれた。
何時だって自分を全身で愛してくれた。
甘く優しいあの日々はもう帰ってこない。
だが、今のカーネには必要なかった。
カーネはそっとリアレイに目配せをする。
リアレイは遂にこの時が来たか…、と頷く。
雅桜が抜かれ、カーネはその切先を自分へと向ける。
「リアレイ、最期に頼みがある。」
「なんだ?」
少し疲れた声でリアレイが応答する。
カーネはほんの少しだけ微笑むと真っ直ぐにリアレイを見た。
「この“雅桜”はアンタに持っててもらいたいんだ」
「………カーネ」
「アンタなら変な所に捨てたり悪い事に使ったりしないだろ?」
「………分かった」
リアレイは辛そうに首肯する。
カーネはそんな様子に苦笑いするとリアレイの肩を叩く。
「そんな泣きそうな顔しないでくれよ……。
言わばこれは俺とティファ様の新しい門出なんだ。
笑顔で見送ってくれ……な?」
カーネは1度優しく微笑むとティファニーに向き直る。
「雅なる徒桜よ、美しき乙女の血と貴様の所有者の肉を持って己が身を包む鞘とせよ。
是とするなら高く泣き、否とするなら無言をもって答えよ。
願わくば、我が想いを汲んでくれる事を祈る。」
カーネの指が雅桜の刀身を撫で上げる。
────オオォォォォン
雅桜は先程より高く鳴り響く。
すると、刀全体が淡く光り始めた。
カーネは、上手くいった、と笑うと淡く光る刃を自らの腹に突き立てた。
いつもと違い刺した場所は黄金に変わらず、ボタり、ボタりと血が流れ始める。
苦悶の表情で痛みを堪える。
「ぐ、ぐ、ぐああああああ!!」
そして気合い1発、雅桜を柄のあたりまで貫通させ背中から刃を生やす。
そこで漸く傷口から零れるのが金粉になり始めた。
雅桜がカーネを受け入れた証拠だろう。
自分の足元に金粉が溜まり始めたのを確認したカーネは満足気に微笑むとティファニーを抱き寄せる。
すると、今度はなんの抵抗もなく雅桜の柄はティファニーの体に吸い込まれていった。
二人の体は俄に輝き始め、その光はだんだんと強くなっていく。
雅桜は一瞬強く発光すると形を変えカーネとティファニーの中に入っていった。
「成功だ………!」
嬉しげにカーネが呟く。
リアレイだけが泣いているのか笑っているのか分からないような表情でただカーネを見下ろしていた。
「リアレイ、ありがとう」
カーネは穏やかな調子でリアレイに言う。
「ありがとう、なんて。
何も出来なかったじゃないか、俺は……」
「それでも、だ。
なにかしようと手を差し伸べてくれた。
それだけでも、僕は嬉しかったんだ。」
「………カーネ」
カーネは半ば光の粒子になりかけた顔のままリアレイを見上げる。
その眼は何処までも深く、優しい眼だった。
「ありがとう、リアレイ。
僕らの事を頼んだ。」
パッと光が弾ける。
リアレイの視界を一瞬で真っ白に染め上げ、それきり、カーネの声は2度と聞こえることは無かった。
気が付けばリアレイは泣き声も上げず、ただ静かに大粒の雨を降らせていた。
「カーネ、分かったよ。
君たちは俺が大事に保管しておく。
誰も君らを汚せないように、俺が消滅するその日まで、俺が預かっておいてやるよ」
何処か遠くで、幼い子供と女性の優しい、優しい笑い声が聞こえた気がした。
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