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数多の世界の可能性  作者: 鈴木 啓
15/20

15話

「『フィクションメーカー』ここで起きた事はタダのフィクションであり、実際の団体名、個人名共に実在するものでは無いという事をご了承ください。」

リアレイの足元を起点に展開された魔法陣が強い光を放ち、視界を埋め尽くす。

「リアレイ・ロアレイの名の元に、実行せよ」

リアレイの詠唱が終わると同時に視界が回復し辺りが見えるようになってくる。

「さ、行きましょっか」

リアレイは軽い調子でカーネに振り返る。

カーネはただ静かに頷いた。

時間が再び流れ出した。


カーネ達の作戦はこうだ。

まず一番厄介であるグレイシアを押さえるべくフランジット本家に向かう。

素早く本家を制圧しなければ敵にティファニーを人質に取られてしまいかなないからだ。

本家に到着と同時にリアレイが魔術封じの結界を張り突入する。

そして、この作戦の一番の難関である『陰剣』との戦闘はより念入りにされている。

まず、決定事項として絶対に1人で挑まない事だ。

『陰剣』と遭遇した場合はぐれていた場合は早急に離脱し合流する。

そして合流後、再度『陰剣』に接触する手筈になっている。

戦闘時のフォーメーションは前衛カーネ、後衛リアレイで戦う。

基本的にカーネが直接攻撃し、リアレイは後ろから少しでも『陰剣』の動きを鈍らせる。

それに加え、結界内で唯一魔術の使えるリアレイがカーネに能力上昇系の術をかけることで実質二倍まで戦闘力を底上げして『陰剣』に勝つ。

その後は速やかにグレイシアを制圧しティファニーの隷属の首輪を外させる。


「準備はいいかい?カーネ君」

リアレイは若干緊張した表情で振り返る。

カーネはただ静かに頷く。

フランジット本家は目の前に迫って来ている。

今、カーネの運命を決める戦いが始まる。


フランジット本家前、リアレイは少しでもグレイシアに安全に近付くべく、いつも通り屋敷の中を進む。

夜も遅いせいか使用人達の姿は見えずいつもならすぐに顔を出す『陰剣』も姿が見えない。

「今日に限ってどうしたんだ?」

若干の嫌な予感を抱きながらもカーネはグレイシアの部屋へと向かう。

どんなに進んでも誰も姿を見せずそろそろカーネの中の不安がピークに達した時……


─────パキィィィッ!!


リアレイの結界が張られた。

『陰剣』の姿がない今がチャンス、とカーネは不安を押し込め、グレイシアの部屋に突入する。

しかし、そこで見たのはいつも通り椅子に腰掛けるグレイシアの姿ではなかった。

「カーネ待ってッ!!失敗したッ!!これは罠だッ!!」

部屋の外からリアレイの叫ぶ声が聞こえる。

たが、カーネは目の前にいる男に引き付けられ反応を返すことは出来なかった。

全身が黒ずくめの長身の男、片手には水晶玉を持っており、その存在感は希薄だ。

カーネはその男を知っている。

だが、今その姿を見るまで完全に記憶から抜け落ちていた。

そして、カーネには確証がなかった。

この男が果たしてティファニーの味方だったのか。


「………“陰”」


陰はニタリと笑う。


「……………久しぶりと言うべきかな、カーネ?」


静かになった部屋の中、遠くからカーネを呼ぶリアレイの声だけが木霊する。

陰の持つ水晶玉だけが目まぐるしく色を変え光を放っていた。



カーネは腰を落とし何時でも雅桜を抜けるように構える。

「何でここにいる?」

陰は笑みを浮かべたままじっとこちらを見ている。

その視線はまるで研究者が実験用モルモットに向ける目と酷似していた。

何かしらの実験が上手くいって喜んでいるようにも見える。

「答えろよ」

そんな視線が不快だったのかカーネの目つきが険しくなる。

「…………研究資料の回収に、だ」

「研究資料?」

オウム返しで言葉を返すカーネに呆れたのか陰は殊更深い溜息を吐いてゆっくりと指さす。

その指先はまっすぐカーネに向かっていた。

「お、俺?どういう事だ?」

「………簡単な事、俺がって見たかった秘術をかけられた人間がいると聞いて回収に来た、持ち主はもう要らないらしいからな譲り受けたんだよ」

「どういう……」

「あぁー、いいよ理解しなくても。馬鹿にはどうせ分からんさ」

陰は心底面倒くさそうに手を振る。

すると、突然カーネの身体に激しい痛みが走る。

「がああああああ!?」

一瞬陰が何かしたのかと疑うもそんな様子はなくカーネの頭の中は疑問で溢れ返る。

一体何をした?回収?俺にかけられた術?今この屋敷で何が起こっている!?

痛みや激痛で混乱しきったカーネは思う様に動けず地面を這う。

陰が捕縛用の縄を手に近付いて来たその時。

「カーネ!!」

間一髪でリアレイが部屋に入ってきた。

リアレイは陰を見た瞬間驚愕の表情を浮かべるが咄嗟に光弾を飛ばし陰を狙う。

陰は忌々しそうに舌打ちをすると、大きく飛びずさり光弾を回避した。

「もう来たか…リアレイ・ロアレイ」

陰のリアレイを見る目がスッと険しくなる。

リアレイもまた苦々しそうに陰を睨みつけている。

「お前は……何回殺せばいいと思ってるんだ」

リアレイは陰から目を離さずカーネを起こす。

陰も何かを警戒しているのかリアレイの一挙一動に注意を払っている。

「カーネ、ゴメンだけど行ってくれない?」

「えっ?それじゃ……」

「分かってるでも急がないとティファニーさんが危ない」

リアレイの一言に驚き目を見開くカーネ。

リアレイの様子から嘘を言ってるようには見えないが状況がわからない限り下手に動くことも出来ない。

「カーネ、アイツには数え切れない程呼び名があるんだけどね、その中でも最も旧い呼び名は“世界の悪意”って言うんだ。

アイツには随分と苦渋を舐めさせられた。

世界に一定数いる必ず消さなきゃいけない要素なんだよ

そして、俺はその為に世界を渡ってきたんだ」

カーネを陰から隠すように立っているせいでリアレイの表情は見えない。

しかし、その背中から溢れ出すほどの殺気が全てを物語っている。

「けっ、世界の犬風情が……」

「黙れ害悪、また切り刻んでやるから黙ってろ」

「ほぉ、他の俺もそうしてきたって訳か……」

「当然だ。お前らはしぶといからな。念入りに殺しておかないと」

カーネは困惑する。

時間は止まっていたが随分と長い事一緒に居た筈のリアレイの事が分からなくなったからだ。

世界の悪意?要素?必ず消さなくては行けない者?

何もかもが疑問で謎だった。

「カーネ!!」

思考の波に飲まれかけたカーネをリアレイの声が呼び戻す。

「今は話せない事も多い!でも、後でちゃんと言うから!だから行って!恐らくグレイシア達はティファニーさんの屋敷の筈だ!」

リアレイは必死にカーネが行くように促す。

その横顔は何かを悔いるような色を匂わせている。

後悔と後ろめたさを煮詰めた様な瞳でじっと見つめている。

「頼む、カーネ。行ってくれ……。

コイツを殺ったら必ず後を追う、だから……」

「~~~ッ。分かった!先に行く!すまん!」

苦渋の決断のの末カーネはフランジット本家を飛び出し、ティファニー邸へと向かった。

カーネを見送るとリアレイは背中の鞄を下ろし鞄からL字型の鉄製の武器を取り出す。

「という訳でだ、悪意。ここからは俺が相手になる」

陰は忌々しげにリアレイを睨み付けている。

その瞳には、ただただ邪魔者に対する怒りが燃えている。

「上等だ、俺は俺の目的の為にお前を殺すとしよう」

水晶玉を掲げ、陰もまた戦闘準備に入る。


「世界の為に…」

「ただ俺の為だけに…」


「死んでもらうッ!!」



いつもの様にティファニーはボンヤリと窓の外を見ていた。

唐突に訪れる拷問に耐え切るため、取れる時に休息を取らなければいけないと言う理由もあるが、もう既にティファニーの心が折れかかっていると言うのも大きな理由の一つだろう。

もういっそ殺して欲しいと言う諦観と再びカーネに会うまで死にたくないと言う意地でティファニーの心は儚げな表情とは裏腹に荒れ狂っている。

そんなめちゃくちゃな気分のティファニーの耳にノックの音が届く。

「入りなさい」

張りのない掠れた声で入室を許可すると静静とシトリーが部屋に入ってきた。

「どうかしたの?シトリー」

ティファニーの問いかけに若干口篭るシトリー。

あまり動揺する事の少ないはずのシトリーの様子に訝しげな目線を向けると、シトリーはゆっくりと顔を上げる。

「グレイシア様がいらっしゃいました」

無意識にティファニーの手が固く握られる。

「今何処に?」

「客室でお待ちです」

ティファニーは溜息を一つ吐くと覚束無い足取りで客室へと向かった。


「遅かったじゃない」

ティファニーが客室に着いたと同時に嫌味ったらしくグレイシアが言う。

右手には『陰剣』を侍らせている。

「何の用ですか?お姉様」

酷く警戒した様子でティファニーはグレイシアを睨む。

グレイシアは何でもないかのように肩を竦める。

「大した事じゃないのよ?ただちょっと貴女の処分に来ただけだから」

「ッ!!?」

『陰剣』は気乗りしない様子で剣を抜く。

「実験の為にカーネを引き取りたい人がいてね、この際だから貴女も一緒に処分して身辺をスッキリさせようと思ったのよ」

グレイシアは白々しく笑みを浮かべる。

唐突に死を告げられたティファニーは放心してしまっている。

「安心なさい?あの化物もそのうち貴女の後を追うことになるから」

グレイシアがクフフと笑う。

ティファニーはその一言で意識を一気に引き戻される。

このままではカーネは殺されてしまう………カーネを逃がさなければ、たとえ自分が死んだとしてもあの子だけでも生きていて欲しい。

ティファニーは決心した。


この女共々死んでやろう、と。


次の瞬間、屋敷の中が赤い光で満たされた。

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