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数多の世界の可能性  作者: 鈴木 啓
10/20

10話

「いったい何をしたの?お姉様」

ティファニーは額に青筋を浮かべグレイシアを睨みつける。

一般人ならあっという間に意識を刈り取れる程の殺気が真っ直ぐグレイシアに叩き付けられる。

しかし、向けられた当の本人は柳に風とばかりに受け流して平然と笑っている。

「人聞きの悪いことを言うわね?それじゃあまるで私が悪役みたいじゃないの…フフッ」

グレイシアはくつくつと嗤う。

そして、やっと事態を飲み込めてきたカーネはランプに叩き付けたあの殺気を溢れ出し始める。

否応なしに兵士達に緊張が走り、カーネは雅桜の布を外し始める。

「あらあら、ダメじゃないティファ、飼い犬にはちゃんと“躾”をしなきゃ」

「この子は犬なんかじゃない…」

「へぇ、随分と入れ込んでるじゃない」

ニタニタと気色悪く嗤うグレイシアは蠱惑的に口唇に舌を這わせる。

「まぁいいわ。お父様の決定を聞かせて上げる」

グレイシアは勝ち誇った様な笑みで顔を歪めるとそばにいる兵士から黒い首輪を受け取る。

「これが何か知ってる?」

それは見た所何の装飾もされてないただの輪っかだ。

材質は恐らく鉄、金属特有の艶が冷たく鈍く光を反射している。

継ぎ目が無くまるで型に溶かしこんで作られただけのようだ。

「ふふ、知らないようね。これはね、“隷属”の首輪と言う魔導具よ?」

「れい…ぞく?」

「そう、効果はお察しのとおり、コレを貴女か、そこの狂犬の首にかけろって言うのがお父様の命令よ」

「お父様がそんな事言うはずが無いっ!」

歯を剥いて睨みつけるティファニー。

しかし、グレイシアは愉快そうに嗤うだけでまともに取り合う様子もない。

「ねぇ、ティファニー」

グレイシアは会話の流れをぶった斬りティファニーにを呼ぶが、ティファニーは睨みつけるだけで返事をしない。

元々返事など期待していなかったのかグレイシアは首輪を振りながら嫌味な笑みを浮かべている。

「最近ね、とある平行世界人が新たな技術を公表したのよ?知ってる?」

無論、屋敷から滅多に出ないティファニーは知らなかったがグレイシアの勝ち誇った様な笑みに妙な胸騒ぎがした。

カーネはティファニーの不安を感じ取りスッとティファニーの前に立ち雅桜を構える。

「魔術の適性を調べる魔導具だそうよ?私も調べたんだけどね?驚いたわぁ…」

グレイシアは咬み殺すような笑い声をあげる。

すると、グレイシアを中心に黒い煙のようなものが広がり始める。

「私、適性、闇、らしいのよぉ、フフフッ」

闇系統、人の心に干渉し捻じ曲げ操作し破壊する魔術。

ティファニーは理解する。

本来、一般人であればカーネの殺気をまともに浴びればかつてのランプの様に対峙するだけで幾度と無く殺される幻覚を無理矢理頭に捩じ込まれ立つことすらままならなくなる。

それはグレイシアも例外ではない筈だった。

だが、その例外が目の前にある。

その秘密が“それ”だ。

それはつまるところ、グレイシアが平然と立っているのも、ガイルが本来する筈のない事をやるのも、兵士達が戸惑いも無くティファニーに剣を向けるのも…

「全て私の力、という訳なのよ、くふふふふ」

「………。」

グレイシアは上機嫌に手の中の首輪を弄んでいる。

「大変だったのよ?ここの人間全てに“心握”を施すのは」

ニタリ、口角を横に引き伸ばし…嗤う。

「特にお父様は一番手がかかったわぁ、気付かれないように、分からないように、勘づかないように、慎重に慎重に少しずつずらしてここまで連れてきたのよ?」

ギシリ、牙を晒しながら奥歯が軋む。

「だからねぇ、あまり殺して欲しくないのよはここの兵士は」

ギラリ、柄を握りしめ真っ直ぐ視線を合わせる。

「知った事じゃないわ、そんな得体の知れない物もそんな得体知れない術もかけられる訳にはいかない」

桜色の光がティファニーの周りを囲う。

護るように、慈しむように、拒絶するように

「ここから先は誰ひとりとして立ち入ることを禁じる」

狂犬が妖刀を構える。

「僕はティファ様を護る、ティファ様を害するなら例え誰であろうと僕は殺す、ここを超えたら生命はないと思え」

グレイシアは未だ余裕の表情を浮かべている。

兵士達は支配された頭の片隅に残った本能で恐怖を感じ取ったのかじりじりと下がり始めている。


「超えられるなら超えてみろ」


狂犬が…嗤った。



「行きなさいっ!」

グレイシアの怒声と共に兵士達は突撃を始める。

一番速く到達した兵士は裂帛の声を上げ横薙ぎに剣を振るうが、兵士の踏み出した右足が桜色の光に触れた瞬間全く同じ軌道で兵士より遅く踏み出したカーネが兵士よりも速くその胴を一文字に切り裂いた。

兵士の身体は上下で二分され、それぞれが黄金の塊に姿を変える。

しかし、猛攻は止まらない後ろにいた兵士が切り裂かれた兵士の隙間から槍を繰り出す。

カーネは半身になって槍を躱すと左脇で槍の穂先を挟み込むと右手のスナップだけでその後ろにいる兵士の頭を裂き金粉に変える。

「ちょっと借りるぞ」

敵から奪った槍を手の中でくるりと回すと左から迫る兵士の首に穂先を叩き込む。

それと同時に右から迫る兵士には雅桜を首筋に叩き込む。

人体分の金粉が舞い、兵士達の視界を遮る。

次の瞬間、金粉の霧を突き破り槍が飛来する。

槍は霧を食い破り縦に並んだ三人の兵士の身体を突き破り床に刺さる。

呻き声すら上げさせてもらえず6人が死体にあるいは黄金に姿を変えられた。

カーネは室内に目を走らせ残り人数を確認する。

グレイシアの隣に兵士が1人、白杖を持ったローブ男が1人、食卓に座りじっとこちらを窺っている薄汚い男が1人、正面には腰の引けた兵士が残り2人、後方で様子を窺っている兵士が3人。

冷静に人数を数えるカーネに底知れない嫌悪感を抱いたのか兵士達はにわかに殺気立ち始める。

後方にいた兵士3人は見えていないとでも思ったのかティファニーを人質に取るべく静かににじり寄る。

「貰ったァ!!」

先頭を行く兵士が喜色満面の笑みでティファニーに飛びかかるが。

「声を出して襲い掛かるとか…アンタら馬鹿か?」

カーネの呆れた声と共に桜色の切先が先頭の兵士の脇腹に突き刺さる。

「あああああっ!!」

黄金に変わり始めた身体に怯え、無我夢中で刀を抜こうと刃を握る兵士だったが刀身を握った手すら黄金に変わり始める。

その一瞬の内にカーネはティファニーの後ろに回ると突き刺した雅桜を切り上げる形で振り抜き、また兵士を1人金粉に変える。

再び黄金の目眩しを展開するが後続の兵士2人は大きく下がる事でこれを回避し油断無く構える。

黄金の霧を喰い破りロングソードが飛来するが横に転がり回避する。

が、立ち上がり前を見据えた時、既に視界は桜色の光で覆われている。

「なっ!!」

驚愕の声を上げるものの瞬く間に切先は兵士の右目に侵入し。

「遅い…」

再び黄金の霧を撒き散らす。

「う、うわあああああ!!」

気が付けば仲間2人が殺されており、恐慌に陥った兵士は腰を抜かしめちゃくちゃに剣を振り回す。

だが、そのどれもが空を斬るばかりで掠りもしない。

「来るな!来るな!来るなァ!」

カーネはめちゃくちゃに叫ぶ兵士の足を掴むと残りの兵士のいるところ目掛けて投げつける。

兵士は情けない叫び声を上げながら逆側に居た兵士に激突する。

推定80キロの塊に衝突され兵士の1人は無様に押し倒される。


アイツが来る、武器を構えなければ殺されるっ!


そんな強迫観念に襲われ兵士は必死で立ち上がろうとする。

しかし、お互いがお互いの動きを邪魔し上手く立ち上がることが出来ない。

「おいっ!退けよ!」

「うるせぇっ!ジタバタすんなっ!」

罵り合いながらも何とか立ち上がり前を見据えるが既にカーネの姿は無い。

「や、野郎どこに…」

「ぐぎゃっ…」

真横から蛙を潰した様な声が上がり直ぐにドサリと倒れる音が聞こえる。

焦って音のした方向に構えるとそこにはさっきまで向こう側にいた筈のカーネが左手を真っ赤に染めて立っていた。

足元には首の無い死体と苦悶の表情を浮かべた頭部が転がっている。

「首を…握り潰したのか……?」

指抜きの黒い皮のグローブが血肉の破片でテラテラと光り、その結果の証拠としてそこに残っている。

「あ、あ、あ、ああ」

「な、ひぃ、う、わあああああああ!」

人の膂力では到底創り得ないその光景に反狂乱になった兵士2人は真逆の行動をとる。

1人は槍を構え突撃し1人は扉に向かい逃走する。

しかし、そのどちらも達成される事は無かった。

カーネは雅桜を床に突き立てると、心臓目掛けて真っ直ぐ伸びる槍の穂先を掴み止め、奪い取ると同時に石突で頭部を粉砕する。

槍を手元に引き寄せ直すとすかさず左手に持ち直し逃走をはかる兵士目掛けて投擲する。

槍は直線の軌道を描き兵士の頭を壁に縫い付けた。

「………はぁ」

ふと、そんな声を漏らしたのは誰だったか。

グレイシアにとってほんの一瞬の内に手駒である兵士が一人、二人と黄金の霧に変えられ、物言わぬ肉袋に変えられた。

カーネは滑るように下がると、雅桜を緩く構え、ティファニーの前に立つ。

それと同時に戦闘中であるにも関わらず食事を続けていた青年がするりと立ち上がり、カーネに向かい合う形で無骨な両刃の剣を構える。

「…話には聞いていたけど、ここまでとはね…」

余裕たっぷりだったグレイシアの顔は全くの無表情に変わる。

ティファニーはそんなグレイシアの表情を見て落ち着きを取り戻したのか、ゆったりと腕を組み微笑む。

しかし、その内心は全くの逆だ。

今、正面で構える男に見覚えがあったからだ。

いつもわざと薄汚れた格好をし、時には下位冒険者の世話を焼き、時には増長しだした中位冒険者の鼻っ柱を叩き折る、ギルドの虎の子、最上位冒険者、『陰剣』、サイロス・ハミング。

カーネはそこら辺の剣士と比べても圧倒的な程の実力はあるが、それは力推しに過ぎない。

グライアスやギルドに屯していた中位冒険者達との戦いから明らかにカーネは戦闘に置いて技と言えるものを使うことはなくなっている。

たが技巧派である『陰剣』相手に力技は通じない。

数々の力技での実力でのし上がってきた冒険者達を完封し完敗させて来たその実力は到底無視出来るものでは無い。

今のカーネでは勝てない、今は逃げなければならない、だから……


「お姉様、取引しませんか?」


無理矢理にでも不敵に笑うのだ。



「私がお姉様に求めるのは、不干渉、それだけです」

決して焦りを見せないように、決して不利を悟られないように、勝ち誇ったような顔のまま細心の注意を払って話を続ける。

グレイシアは顔を下げたままこちらをチラリとも見ない。

「元々、私だってお姉様に仇なそうとこの子を買ったわけではないんですよ?」

あくまでも上から目線で優しく諭すように話すが、グレイシアは顔を上げない。

『陰剣』は構えをとき、笑っている。

「だから、今日の事は水に流してあげようって言ってるんですよ?」

グレイシアは顔を上げない。『陰剣』は笑っている。

「なんだったら私の事は死んだ事にしても構いません」

ポツリ、ポツリとティファニーの中の不安が首を擡げる。

「私の屋敷に定期的に物資を送ってくだされば私は今後一切表に出ないと約束いたしますし」

グレイシアも『陰剣』も何の反応も返さない。

ティファニーの中に不安が、ストレスが、刻一刻と溜まっていく。

カーネもまたティファニーの不安を感じ取り殺気を漏らし始める。

「………なんとか言ったらどうなの?」

状況は変わらない。

強い不信感が首を擡げ、ティファニーを苛む。


自分は何か勘違いをしているんじゃないのか?何か重要な事を見逃しているんじゃないのか?


疑えば疑うほど、考えれば考えるほど不安がいやます。

グレイシアは未だ顔をあげようとはしないし、『陰剣』は薄い笑いを浮かべ姿勢を緩めている。

「お姉様?貴女、自分の立場が分かっているの?」

焦りからか、ティファニーは思わず今、一番取ってはいけない手を取ることとなる。

「私が命じればこの子は今すぐにだってお姉様の首を取ることが……っ!」

ティファニーはその先をいうことは出来なかった。

グレイシアが不意に顔を上げたからだ。

笑顔、それもふんわりと笑う様な爽やかなものでは無い、悪意を悪意で煮詰めた様などす黒い悪意に濡れた笑顔。


間違えたッ!!交渉なんてするべきでは無かった!!最善を尽くすのなら脱兎の如く逃げ出せば良かった!


「ねぇ、ティファニー?貴方何か勘違いしてないかしらァ?」

先程の態度から一変して、グレイシアは嫣然と微笑む。

「私はねぇ、初めから逃がすつもりなんてないのよ?特にその化物は、ね?」

「……何を言ってるのかしら」

「ふふふ、“話には聞いていたけど、ここまでとはねぇ…”ますます欲しくなったわぁ」

「欲しく……?」

「そう、元々その為に連れてくるように仕向けたんだもの…当然じゃない」

グレイシアが『陰剣』に目配せすると剣を収めていた『陰剣』はやれやれと言った様子で再び剣を抜く。

「それにね、自分の立場が分かってないのは貴女の方よ、ティファニー」

「一体、どういう…」


───ガギィィィイイン!!


気が付けばカーネが正面に立ち『陰剣』の両手剣を受けていた。

『陰剣』はニタリと笑いながらカーネの方に剣を押し込んでいく。

「ティファ様、逃げてください」

押される気配は無いものの予想以上に相手の速度が速かった事に焦ったカーネは『陰剣』から目を話さずティファニーに警告する。

しかし、ティファニーは逃げられずにいた。

頭では理解している。

しかし、心が拒否するのだ、カーネを置いて行くことを、自分だけ安全な場所へ逃げるのを

「で、でも……」

「早く!」

化物の膂力で『陰剣』を強制的に退かせ、追撃をかける。

カーネの振るう雅桜が『陰剣』のがら空きになった横っ腹に振るわれる。

それに対して『陰剣』は上体だけ倒れ込む様に後ろに反らし、いなすとバク転の要領でカーネの腕を蹴り上げる。

視界外からの一撃に反応しきれず体制を崩されたカーネは素早く下がり体制を整える。

「おぉ怖い怖い、少年ってば激しいんだから」

『陰剣』は口元に手を当て不愉快な笑みを浮かべる。

「黙れ愚物、気持ち悪い動きしやがって…黙って斬られろ」

「物騒なこと言うねぇ……黙って斬られろ…キリッ…ダハハハハ!少年面白れー」

真っ直ぐぶつけられた嘲笑と挑発にカーネは濃密な殺気と共に一瞬の光の如き突きを『陰剣』の喉に御見舞する。

カーネが動き出したのに合わせ『陰剣』は半身になりカーネの光速の突きをあっさりと躱す。

「怖ぇぇ、こりゃ当たったら死ぬな」

ポツリとおどけた様に呟き腰に下げたままの小剣を空いている方の手で抜くと、再びカーネの視界外から最小の動きで体制の崩れたカーネに剣撃を叩き込む。

「硬った!硬てぇけど思ったよりも難くねぇな」

やはりと言うべきか、小剣はカーネの身体どころか服すら斬れずにいた。

『陰剣』は続け様に右手の長剣を全力でカーネの背中に叩きつける。しかし、今回は刃ではなく両手剣の柄を用いた打撃だ。


────ゴギリ


「ガアアアアアアアアアアっ!?」

カーネの背面の肩から鈍い音が響く。

「ヒュー♪今のは肩逝ったんじゃないか?少年?」

「な…何で…?……ぐぅっ…なんだこれは?!」

それはカーネにとっては初めての感覚だった。

焼けるような熱と思考を侵食するレベルの激しい刺激で左腕の指先一つ満足に動かせられない。

「ぐっ……腕が……」

「ほう……?骨折は初めてかい?少年?なるほど、なるほど、なるほどねぇ」

『陰剣』が嫌味な笑みを浮かべる。

その間もカーネは激痛に呻き、片膝を着くのを必死に我慢していた。


ここで膝を着けばもう立ち上がることは出来なくなる……ティファ様を守る為にも膝を着くわけにはいかないっ!!


その一心で震える足を叱咤し無事な右腕で再び雅桜を構えた。



その頃ティファニーは信じられない光景を前に動けられずにいた。

瞬く間に軽々とカーネは片腕がへし折られ、苦悶の表情で足を震わせている。

「そんな……カーネが……」

呆然とするティファニーの耳に耳障りな笑い声が響く。

「くふ、くふふ、ふふふふふ」

ティファニーが鋭い視線を向けると、やはりグレイシアが不気味に笑んでいた。

「何がおかしいのかしら?お姉様?」

ティファニーが若干の怒気を含ませた声音でグレイシアに水を向ける。

「あら、ごめんなさいね?見たかったものと欲しかった物が同時に手に入りそうなんですもの…思わず」

グレイシアはさも嬉しげに微笑むと緩慢な動きでティファニーに近づいていく。

その後ろを白杖をもったローブの男が足音もなく追随する。

グレイシアの手の中であの不気味な首輪がくるりと回される。

「さてと、私は私の仕事をしようかしら?軒並み奴隷共を斬られちゃったし」

グレイシアの口元が裂けるように釣り上がり、ニタァァと不気味な笑みを形作る。

その不気味さ故の圧力にジリジリと後ずさるティファニー。

ティファニーの頭の中はもう混乱しきっていた。


脱出は?どこを通ればうまく逃げられる?そもそも1人で脱出出来るか?その場合カーネは?置いていくのか?そんなの有り得ない!ならばどうする?どうすればいい!?


必死に頭を回転させても空回りを繰り返し、必要な答えは出されない。

そして遂に、背後の壁に背がぶつかる。

「哀れな哀れな子猫ちゃん、必死に爪を研いだけど、結局相手に届かない、追い詰めたつもりになったのに、角に追われたのは自分自身……終わりのようね、ティファニー?」

グレイシアが歌うように宣言する。

己の勝利を、敵の敗北を。

「くふふ、私は優しいからちゃんと絶望させてあげるわね?」

グレイシアが上機嫌のまま指をパチリと鳴らす。


────ドサリ


グレイシアの後ろから投げ出されたのは、左腕はあらぬ方向にねじ曲がり、黒い服を来ているせいで分かりにくいが身体のありとあらゆる場所から血を滲ませたカーネだった。

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