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輪廻

作者: rouge
掲載日:2008/05/15

 私はいた。

 

 今、『5006回目の死』を迎えていた。

私の『自我』は、罪を犯し、その償いのため、転移していた。

過ちは簡単には償えず、まだ63億回、死を迎えなければならない。

永遠の、螺旋。

そこをグルグル回っていた。

現在の私は(もう死ぬのだが)、佐々木大悟と言う。

すでに自分に与えられた名は、本当の名は、記憶から消えてしまっている。

たしか、何か『物』と同じ名前であったのだが、お世辞にもいい名前とは言いがたかった。

今、覚えているのはそれだけ。

 

 佐々木大悟の記憶。

ここは病院のベッド。

何度死を体験しても慣れるものではない。

私は(多分)目を閉じているのに、天井が普通に見える。

小さな四角い天井を囲むようにして、青っぽい服にマスクと帽子をかぶった人たちが、私を見下ろしている。

すごく必死な顔。

音は、何も聞こえない。

海の中に3メートルくらい潜って、身体の力をふっと抜いた、そんな感じだ。

何か身体が軽くて、目の前の光景をただただ、口を開きっぱなしにして見続ける。

この不思議な感覚が続いた後、佐々木大悟は死んだ。

視界が暗闇と化す。

その暗闇は怖く、なぜか怖く、光がない。

そして、ふと、

「おかえり」

と暗闇に声をかけられる。

その言葉に安堵を抱きつつ、

「いってらっしゃい」

またすぐに出発となる。

『身体』を失った私が『身体』を受け取るのは、まだ先。


 自我だけとなり、ほんとに何もない『時』を過ごす。

その『時』は、2年くらい。

次の私が入る人にもよるだろうが、どれだけ遅くても4年。

その間、気が狂わないように必死だ。

赤ちゃんは本能のままに生きている。

だから、自我なんて必要ない。

私は必要とされない。

すなわち、『無』の『時』を過ごす。


 やっと、『身体』を手に入れた。

今の私の名は……いや、ただの63億人のうちの1人。

だから、私、でいい。

身体を手に入れたとはいえ、やることはない。

ただ、他の人たちと同じことをするだけ。

何か1つ、違うと言えば、前世の記憶があるということ。

これがどれだけ苦しいことか、分かるだろうか?

絶対に分からない、断言できる。

死の恐怖、正確には不思議、を体験したものにとって、死がどれだけ『嫌』か、分かってもらっては困る。

死は『恐い』のではない、『嫌』なのだ。

例えるとすれば、予防接種を受ける前、痛いから『嫌』、痛いけど『恐い』ではない。

目の前に狂気に満ちた人が刃物を持ってこちらに向かってきて、足を刺した。

これは、痛いが『恐い』、『嫌』ではない。

こんな感じ。


 大人となり、年をとり、そしてまた子供として戻ってくる。

それは大人から子供という大きなギャップがありそうだが、そうでもない。

なんども『死』を体感したから分かる。

老いるにつれて、幼稚になってくるのだ。

だから、次に子供となるとき、思考が変わらない。


 今の『私』は、佐々木大悟が生前、仲の良かった友達だ。

今、仮に住んでいるのは都心から離れた山梨。

本当の私は、北海道にいた。

ときに、海外へも『自我』としていったことがある。

そして日本、山梨へ戻った。

なぜ、私がこんな『自我』となってしまったのか。

それは、世界の人々全員がつながっている、ということを『私』に知らしめるため。

『私』にそうしよう、とした『私』が、咎を受けた。

結果、『私』は今の『私』となった。

すなわち、『私』はもともと、『私』ではない。

これが、以前の『私』の犯した罪。

以前の『私』の記憶などほとんどない。

徐々に消えていってしまう。

儚き、悲しいこと。

これも、『償い』の一部。


 また、死を迎えようとしている。

今回の死は、早い。

交通事故だろう、担架に乗せられた時には、あの感覚に浸っていた。

そして、『闇』。

私は『5007回目の死』を迎えた。

そして、おかえり、いってらっしゃい、と同時に、『5008回目の死』が約束される。


 私は回っている。

抜けることの出来ない螺旋で。


 私はいた。

螺旋に入る前。


 私は償いを終えたあと、『私』となれる。

 私は償いを終えたあと、すべてを取り戻せる。

 自分も、身体も、心も、記憶も。



そう、信じている。

だから、輪廻する。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。 「老いるにつれて、幼稚になってくるのだ」「おかえり、いってらっしゃい、と同時に、『5008回目の死』が約束される」など素敵な表現に惹かれました。 ただ、若干理解し難い箇所も…
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