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魔王迅速討伐シリーズ

ステータスはシンプルに

作者: 陽乃優一

魔王迅速討伐シリーズ第3弾。前2つとは『迅速』の意味が違うかもだけど。

 ヒドかった。町の冒険者ギルドで鑑定した私のステータスは、とにかく酷いものだった。


【名前】ルリア

【年齢】13歳

【職業】鑑定士


「これだけなんですか!?レベルは?スキルは?」

「これしか表示されないのよ。こんなこと、今までなかったのに…」


 受付嬢のミルさんは申し訳なさそうに、そう言う。

 成人の儀を迎え、本格的に仕事を始めるため、ステータスを確認しに来たのだ。

 早くに両親を亡くし、遠縁の親戚に厄介になっている身としては、早くに自立したい。


「そんな…。あ、『鑑定士』なら、魔道具使わなくても少しは鑑定できるはず」


 早速、自分自身に対して念じてみる。


【名前】ルリア

【年齢】13歳

【職業】鑑定士


「あう、同じ結果が目の前に」

「鑑定できるのは確かだけど、スキルとしては認識されないみたいね」

「これだけしか鑑定できないなら、簡単な採取の仕事しかできないのかなあ…」


 ふと、目の前のミルさんを鑑定してみる。


【名前】ミルフォード・フォン・エレニア

【年齢】18歳

【職業】政治家Lv.5

【HP】120/120

【MP】300/380

【スキル】人心掌握、財務、魅了、…


 そうそう、ステータスは本来これくらいたくさんの…って、


「…ミルフォード殿下!?」

「!?…な、なんの、こと、ルリアちゃん?」

「…あ。い、いえ、なんでも、ない、ですよ?」


 えええ…昔なじみのミルさんが、あの第二王女?

 この町から王都はだいぶ離れていて、名前しか知らなかったけど。

 田舎町でお忍びの修行、なのかなあ。今の王族の方々は庶民派と聞いているし。


「と、とにかく、これがギルドカード、ね。…これからも、よろしく」

「あ、は、はい、よろしく、お願い、いたします、ミルさん」


 『黙っててくれ』ってことよね。まあ、私が喋っても誰も信じないだろうけど。

 でも、結構細かく鑑定できるんだなあ。ギルドカードのスキル欄は真っ白だけど。



 結論から言うと、私のステータスは最強だった。

 鑑定レベルは最初からカンスト、スキルも万能、という意味だったのだ。

 私が望めば、あらゆる種類のあらゆる素性が認識できる。


「ルーク!右からウルフの攻撃!あなたなら額への一撃で倒せる!」

「よっしゃー!」

「マリー!後方の木の近くに落とし穴作って!ゴブリン3体が追加でやってくるから!」


 その気になれば、鑑定は索敵能力としても活用できた。

 広範囲に渡って『鑑定』すれば、何をどうすればいいかすぐにわかるのである。

 ついでに言えば、体力も魔力も無限のようだ。確かに、小さい頃から疲れ知らずだったけど。


「ルリアのおかげで、魔物討伐が簡単すぎるぜ」

「そうね。どこに何があるのかわかるのがこんなに楽だなんて」

「私は全く戦えないけどね。ちゃんと守ってよ?」


 今は、幼馴染のルークとマリーとでパーティを組んでいる。

 正直、採取だけでもかなりの収入になるけど、ふたりのレベルが低いうちは協力したい。

 とはいえ、弱い魔物でも効率の良い討伐はやはり実入りが良い。


「レベルもさくさく上がって気持ちいいぜ」

「報酬も計画的に入るからいいよね。あたし杖を新調しようっと」

「いいなあ…。私は成長が全くないから」


 と言ったら、贅沢な悩みとふたりに言われた。まあ、そうかもね。



 一年後。ルークとマリーは早々に中堅冒険者として成長していた。

 更なる実力をつけるため、ふたりは旅に出た。堅実なふたりなら大丈夫だろう。

 ていうか、付き合ってるんだよね、あのふたり。いやあ、今まである意味辛かった。


【名前】ルリア

【年齢】14歳

【職業】鑑定士


「年齢以外、私のステータスは相変わらずか…」

「スキル欄をどうにかできないかギルドマスターに相談しているんだけど、なかなか難しくて」

「しかたないですよ、書きようがないのは確かですし」


 むしろ困るのは、職業のレベル欄が空白なことかもしれない。

 ルークとマリーは幼馴染だったから事情を詳しく知っていたけど、他の冒険者はそうはいかない。

 ミルさんが弁明してくれるけど、合同活動を納得しない人がいるのは確かだ。


「討伐記録は充実しているから、実力のある冒険者ほど評価してくれるわよ」

「だといいんですけどねえ。まあ、普段はソロのレア素材採取で稼ぎますよ」

「この町で一番お金貯めているのがルリアちゃんというのも皮肉よねえ」


 はっきり言って、相応の土地付き一軒家はすぐにでも購入できるほどの貯金はある。

 住んでいた親戚への仕送り分を除いても。今は、ギルド近くの宿屋に住み続けている。

 たまに護衛の仕事を請け負った冒険者と旅に出て、索敵支援と素材採取でごっそり稼いでいる。


「ミスリル鉱脈の発見だけで、相当稼いでいるんじゃない?」

「…な、なんのことですか?」

「私の素性を知っていて、とぼけるの?経済も活発になって税収が増えた、って喜んでいたわ」


 王様に目を付けられた…。魔族の動きが怪しいし、そのうち王都に徴兵されるのかなあ。



 更に一年後。王都に、というか、王宮に徴兵された。やっぱりー。


「徴兵じゃないわよ。…冒険者ルリア、王国第二王女として、依頼します」


 ミルさんがミルフォード殿下として、国王陛下と共に私に依頼を伝えた。

 侵攻を開始した魔王軍に王国軍は迎え撃つ。犠牲は最小限に抑えたい、とのこと。


「参謀本部に詰めて、計画を練ってくれ。できれば、先発隊の俺達に間に合うように」

「そうね。ルリアの判断なら安心して向かうことができるわ」


 ルークとマリーは、勇者と聖女と呼ばれるようになっていた。

 事前の情報収集の徹底と、その情報に基づく慎重かつ大胆な行動で、数々の成果を挙げたらしい。


「もしルリアがいたら、って考えると、迂闊なことはできないからな」

「ルリアが示した戦術・戦略は応用の幅が広かったわ」

「私はそんなことまで考えて支援していたわけではないけど…」


 鑑定で知ったことを基に指示したことが、戦略とやらのアイデアになっていたらしい。

 たとえば、魔物の分布によっては、最初から手を出さず逃亡したりとか。

 弱腰だと罵られながらも、自信を持って行動できたのは私との経験があったからだとか。


「いくら王女殿下の支持があっても、軍参謀がこのステータスの私の意見に耳を傾けるかなあ」


【名前】ルリア

【年齢】15歳

【職業】鑑定士


「なら、実力を示したら?」


 そう言ってミルさん…ミルフォード殿下は、私に最前線の村の防衛案を求めた。

 『鑑定』で魔王軍の配置を感知している私には、奇襲作戦も簡単に立案できた。

 更に、現地司令部に行って、状況に応じた作戦変更指示も可能だった。


「完全な防衛はもちろん、敵味方共に死者ゼロとは…」

「さすがは王女殿下の推薦。我らは、ルリア殿の作戦および指揮に、今後も服すことを誓う」


 ちょっと待って、全軍の司令官に?えー。


 と、そうこうしているうちに、王国軍は魔王城まで迫った。


「あ、魔王城に魔王はいませんね。四天王のひとりの城にいる、見た目男の子が魔王です」


 ルークとマリーによる奇襲作戦で、あっさり魔王を捉えることができた。

 魔王領を支配する気はない王国側は、相応の損害賠償と相互不可侵の交渉で決着させた。

 私が魔王領で発見した資源の取引もあって、向こう百年は平和が維持されるだろう。



 また更に一年後。ルークとマリーが結婚した。

 私達ももう16歳だ。ちょうどいい頃だろう。


【名前】ルリア

【年齢】16歳

【職業】鑑定士


「ルリアちゃんは私の弟と結婚してくれるのよね?」

「殿下、お戯れを。弟君はまだ8歳でしょう」


 ルークとマリーの結婚披露宴の最中、ミルさんがそんなことをのたまってきた。


「そもそも、私は平民です。マリーのように聖女と呼ばれるほどの成果があるならともかく」

「あら、ルリアちゃんには、これまでの実績に対して爵位を授ける準備をしているわよ」

「マジですか」


 領地経営は面倒、と言ったら、名誉爵位を授けるとのことだった。

 王室顧問としての地位と、貴族の称号が保証されるそうだ。


【名前】ルリア・フォン・リヒター

【年齢】16歳

【職業】鑑定士


 年齢以外のステータス表示が、ひさしぶりに変化した。

リヒター(Richter)はドイツ語の『裁判官』ですね、どっちかっつーと。

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