後編2/2
太陽の暑さも、蝉の声も、木々のざわめきも、ささやく風も、全てを忘れて走り抜ける
あの場所へ、走っていく
思い出したんだ、あの場所を
忘れたくなかったんだ、あの場所を
でも、思い出になってしまった
馬鹿野郎
殴るように、そう言った
生い茂る木々をかき分けて、俺は一心不乱に走った
「母さん!」
俺は叫んだ
でも、そこには誰も居なかった
大自然が、静かにざわめく
暫くの間、何も出来ずにただ、立ち尽くしていた
意識を取り戻すと、隣に親父がいた。
優しい口調で
「覚えてるか、母さんが死ぬ前、最後にお前と一緒にここ来たんだ。母さんはここが好きでね、悩み事があれば、よく湖を眺めて黄昏ていたんだよ。それに、ここで鶴を折るのも好きなんだ」
呆然としている俺に親父が続けて話しかけた
「もしかしたら母さんが...千鶴が呼んでくれたのかもしれないな」
「...本当はお前が20歳になるまで隠しておこうと思ったんだが、母さんから手紙があるんだ」
親父が大きな木の根元で土を掘り始めた
そんなに深くないところに土を被った箱がでてきた
中を開けると
一枚の手紙が出てきた
連くんへ
お元気ですか、母さんはとっても元気です。成長したあなたを、一目で良いから見てみたいです。私はこの手紙を通して、一番あなたに伝えたいことを書きました。
今までの人生、沢山の困難を乗り越えて来たはずです。ですがまだまだ人生は長いです。本当に自分のやりたいことを見つけて、それを目指して頑張って欲しいです。連という名前は、私が付けました。多くの人と連なって欲しい、繋がって欲しいから。
母 千鶴より
「ごめん、母さん。全然人と繋がれてないや」
大自然が騒いだ
視界が歪む
その箱の中にはもう一つ、何かが入っていた。
鶴だ
とても不格好だ
羽は歪んでいて、頭は潰れ、おまけに尾が切れている。
せめて、なんとかしようと羽の端を折ってある。それが逆に不格好になっている始末だ。
「どこの阿呆が作ったか知らないけど、こんな馬鹿丸出しの鶴なんか作って恥ずかしくないのかよ」
景色が歪む中、小馬鹿にするような言い方で、そう嘲笑う
そしてその場に崩れる
「帰ろうか」
「うん」
俺はその箱をもう一度埋めた
20歳になった時、もう一度母親に会えると信じて
家に着いた
荷物を家に下ろし、一息ついた
まだまだ、人生は長い。精一杯今を生きなければならないと思った。
「さて、勉強でもしようかな」
呟いた
すると親父が
「お、珍しいな、明日は大雪でも降るんじゃないか」
馬鹿にした様子で言葉を投げる
「勉強ていうのはな、自分の可能性を広げるための道具なんだと母さんが言ってたぞ、だから俺はやりたい事の為に勉強してやる。勿論、親父よりもな」
と、かなり馬鹿にした様子で言葉を投げ返す
互いに笑い合う
ふと、俺が生まれた時の写真を見た
そこには、ピントがズレていたはずの写真が、こんなにも綺麗に写っていた
赤ん坊の俺を抱いている女性は黒い長い髪の毛で、とても綺麗だ。20代前半くらいだろうか
その顔は、笑っていた
「ふっ」
頬が崩れる
「ピントがズレていたのは俺の方か」
そんな下らないことを考えた
―完―
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました
この小説は、最後まで書き終わってから一気に全部載せました
一応感動系のつもりで書いたのですが、いかがでしたか。
僕自身の意図は一応あるのですが、何かしら感じとっていただければと思っています。
改めて、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました




