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想い出  作者: 鎹 連
5/5

後編2/2

太陽の暑さも、蝉の声も、木々のざわめきも、ささやく風も、全てを忘れて走り抜ける


あの場所へ、走っていく


思い出したんだ、あの場所を


忘れたくなかったんだ、あの場所を


でも、思い出になってしまった


馬鹿野郎


殴るように、そう言った


生い茂る木々をかき分けて、俺は一心不乱に走った


「母さん!」


俺は叫んだ


でも、そこには誰も居なかった


大自然が、静かにざわめく


暫くの間、何も出来ずにただ、立ち尽くしていた


意識を取り戻すと、隣に親父がいた。


優しい口調で


「覚えてるか、母さんが死ぬ前、最後にお前と一緒にここ来たんだ。母さんはここが好きでね、悩み事があれば、よく湖を眺めて黄昏ていたんだよ。それに、ここで鶴を折るのも好きなんだ」


呆然としている俺に親父が続けて話しかけた


「もしかしたら母さんが...千鶴が呼んでくれたのかもしれないな」


「...本当はお前が20歳になるまで隠しておこうと思ったんだが、母さんから手紙があるんだ」


親父が大きな木の根元で土を掘り始めた


そんなに深くないところに土を被った箱がでてきた


中を開けると


一枚の手紙が出てきた



連くんへ


お元気ですか、母さんはとっても元気です。成長したあなたを、一目で良いから見てみたいです。私はこの手紙を通して、一番あなたに伝えたいことを書きました。

今までの人生、沢山の困難を乗り越えて来たはずです。ですがまだまだ人生は長いです。本当に自分のやりたいことを見つけて、それを目指して頑張って欲しいです。連という名前は、私が付けました。多くの人と連なって欲しい、繋がって欲しいから。


母 千鶴より



「ごめん、母さん。全然人と繋がれてないや」


大自然が騒いだ


視界が歪む


その箱の中にはもう一つ、何かが入っていた。


鶴だ


とても不格好だ


羽は歪んでいて、頭は潰れ、おまけに尾が切れている。

せめて、なんとかしようと羽の端を折ってある。それが逆に不格好になっている始末だ。


「どこの阿呆が作ったか知らないけど、こんな馬鹿丸出しの鶴なんか作って恥ずかしくないのかよ」


景色が歪む中、小馬鹿にするような言い方で、そう嘲笑う


そしてその場に崩れる



「帰ろうか」



「うん」


俺はその箱をもう一度埋めた

20歳になった時、もう一度母親に会えると信じて





家に着いた


荷物を家に下ろし、一息ついた

まだまだ、人生は長い。精一杯今を生きなければならないと思った。


「さて、勉強でもしようかな」


呟いた


すると親父が


「お、珍しいな、明日は大雪でも降るんじゃないか」


馬鹿にした様子で言葉を投げる


「勉強ていうのはな、自分の可能性を広げるための道具なんだと母さんが言ってたぞ、だから俺はやりたい事の為に勉強してやる。勿論、親父よりもな」


と、かなり馬鹿にした様子で言葉を投げ返す


互いに笑い合う




ふと、俺が生まれた時の写真を見た


そこには、ピントがズレていたはずの写真が、こんなにも綺麗に写っていた


赤ん坊の俺を抱いている女性は黒い長い髪の毛で、とても綺麗だ。20代前半くらいだろうか


その顔は、笑っていた


「ふっ」


頬が崩れる


「ピントがズレていたのは俺の方か」


そんな下らないことを考えた




―完―

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました

この小説は、最後まで書き終わってから一気に全部載せました

一応感動系のつもりで書いたのですが、いかがでしたか。

僕自身の意図は一応あるのですが、何かしら感じとっていただければと思っています。


改めて、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました

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