後編1/2
夏を感じるこの季節
目に映るのは、楽しげな風景
時間を忘れ、ただひたすらにはしゃぐ
気がつけば、透明な空
もう、夏が終わる
終わりたくない想いと共に
次の日
相変わらず三人は、林間学校に泊まり込みで家にいないので、あの場所へ向かうことにした。
家を出る前に鈴子さんにどこに行くのかと聞かれたが
「散歩しにいってきます」
と、流しておいた
木々のトンネルが目印になっていて、昨日よりも早くたどり着けた
彼女は、また湖で黄昏ていた
何か考え事があるのかもしれないと思い、特にそこには触れないようにしようと思った
こんにちはと声をかける
こんにちはと声が返ってきた
「今日も来てくれたのね」
彼女が微笑む
「家にいても暇なんで来ちゃいました」
俺も微笑んだ
しばらくの間、二人で湖を眺めていた
何度見ても綺麗だ、心が洗われる気持ちになる。きっと、彼女も同じ気持ちで眺めているのだろう
「鎹君の夢は何?」
優しい声で問いかける
「工業関係の仕事に就きたいと思っています、昔から物を作ったりすることが好きで工業系の仕事に興味があるので」
続けてボソッと言った
「まぁ、そのくらいしか出来る事がないんですけどね」
すると彼女が
「自分のやりたい事を目標に出来るのは、素晴らしいことだと思うの。私は、本当は教師なんかじゃなくて、カメラマンになりたかったの。でもね、途中で挫折してしまったの」
そして続けて言った
「だから鎹君には頑張って欲しいな」
俺は、胸を打たれた
そして、励みになった
今まで微塵も知らなかった努力を知ろうと思った。
ふいに彼女は、懐から折り紙を出した
「ねぇ、鶴を折らない?」
「喜んで」
俺が嬉しそうに答えると、彼女は微笑んだ。
彼女は、どんどん鶴を折る中
俺は不器用な手探りで、鶴を折る
羽は歪み、頭は潰れ、尾は千切れてしまうという始末だ
なんとかしようと思い、羽の端を折った
だが、結果は変わらなかった。
照れ隠しに、下らないことをしてしまったとを、若干後悔している。
物作りは好きだが、物作りが苦手だという弱点が彼女に知られてしまった
彼女は慰めてくれたが、それでも俺のモチベーションがどん底に落ちてしまった。
結局俺は1羽しか折らなかった
でも、楽しかった
彼女と別れを告げ、家に帰った
それから毎日彼女に会いに行き、話をした
彼女と一緒にいる時は、時間を忘れられる。だが、いつか終わりはある。その日が来ないようにと、ただひたすらに願った
佳達が、林間学校から帰ってきた後も彼女に会いに行った。
時々佳達に、遊びに誘われる日は、会いにいけなかった。
彼女に会う以外も、たくさんの思い出ができた。川で、バーベキューもした。
そのこと彼女に話したら、喜んでくれた。
彼女と話していると元気が出る。自分の話すことを全て親身になって話を聞いてくれる。
時間を忘れて、ずっと話していた。
だが、そんな幸せな時間も終わりを告げる時がきた
親父が迎えに来たのだ
「すまんな、息子が世話になった」
「こちらこそ、楽しい夏にできたよ」
そんな会話が続く中、俺は葛藤していた。
出来ることならずっとここで夏を味わっていたい。だが、俺には俺の生活がある。戻らなければならない
佐久間家に別れを告げ、親父と帰ろうとしたとき
親父が口を開いた
「母さんが昔よくここに来て、遊んでいたんだ。家の近くに広場があっただろう、その奥に森があってな...」
唖然とした
―チリリン―
ふいに、鈴がなる
一瞬の静寂が訪れる
思い出した
何もかも鮮明に
俺はあの場所を知っている
母親が、最期に連れていってくれた、お気に入りの場所。
母親の名前は...
「鎹 千鶴」
プチッと何かが、頭の中で切れた




