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苦手な方はご注意ください。

剥製屋事件簿

剥製屋事件簿その二<人殺しは見れば分かる>

作者: 仙堂ルリコ

街で桜が散る頃、山にも遅い、騒がしい春が来た。

山ツツジ、梅が満開で、山桜の蕾も丸くなっている。

ウグイスは数が減って相手が見つからないから啼きっぱなし。

獣達も活発になって、鹿がバシャバシャ日の出を待たず暁から水をのみにやってくる。


あれから加奈はメールもしてこない。

なのに、アリス名のブログを見たという若い女が、アポも無く、突然来た。

何気なく目をやった玄関に知らない女が居た。

ぎょっと、した。

勝手にドアを開け入ってきたらしい。ノックをしてもアニメのDVDを見ていたから、気がつかなかった のかと思った。


女は剥製依頼の客では無かった。

「人殺しは見れば分かるんですよね、奈良で吊り橋の近くの剥製屋さんて書いてあったから探してきたんです」

話を聞き、呆れかえって言葉が出てこなかった。

 見知らぬ若い女ではなく、加奈に呆れたのだ。

 霊感など無いと、きっぱり告げたでは無いか。

 納得したのでは無かったのか、それとも理解してくれていなかったのか。


「私怖くて頭が変になりそうなんです。殺人犯人が隣に住んでるんです」

 厄介な話が始まりそうだ。

 慌てて止める。


「そういうのは警察でしょ? 自分にそんな話されても困り、」

 さっさと追い出すつもりが、言いよどんだ。

 女をしっかり見てしまったせいだ。

 年は二十歳前後に見えた。

 痛々しいほどに、か細く青白い顔。それでいて美しかった。

 とりわけ細い顎と腕から指先が、白鳥か水蛇のように滑らかだ。


 その上に、なんでだか、アリスを筆頭に鷹も狸も「助けてあげて」とでも言いたげに小刻みに揺れ始め    

 たから。

 

 女は

 山本マユと名乗った。


 聖はマユに、椅子に掛けるように促した。

 だが、マユは立ったまま、話し始めた。


「大阪の、双子のお婆さんが殺された事件、知ってますか?」


 聖は、テレビは朝七時のニュースを見るだけだが、その事件は知っていた。

 世間を騒がせていた残虐な殺人事件だった。

 被害者の米田錦と池尻飾は双子で七十四才。


 姉の米田錦は大阪府東大阪市の自宅(古い建売住宅)で首を絞められていた。

 遺体が発見されたのは死後二日後の十二月十日。

 米田錦は二年前に夫を癌で亡くしていた。

 一人息子は重い障害があり施設にいた。


 池尻飾のほうは大阪府八尾市のタワーマンションの高層階で、やっぱり一人暮らしだった。

 結婚はしていない。元看護士で定年前には公立の総合病院の婦長だったという。

 池尻飾がマンションの地下駐車場で倒れているのを発見されたのは十二月八日だ。

 やはり首を絞められていた。

 二人は同じ日に殺害された。


 山本マユは、この事件の一週間前に、被害者と思われる双子の老婆を見たという。

 

 思われるというのは、確証は何も無いからだ。

 

 マユは被害者らしき老婆を見たというだけではない、犯人を特定できる会話を偶然、聞いてしまったという。

 

 場所は東大阪市のY病院、最上階のレストランだ。

 マユは診察後、サンドイッチとミルクティを注文し、窓際の席に座っていた。

 隣の席の会話が否が応でも聞こえてきた。

 老人特有の粘っこい大きな声だった。

 レストランは広く、ほぼ満席だった。

 それで、注文してから長く待たされた。

 退屈な時間は結構長かった。

 最初は隣の席の会話は雑音でしか無かった。

 

 が、B家、Aと繰り返し言うから耳に付いた。

 しかも会話してる二人の声が同じだ。

 気になって横目で見た。


 隣のテーブルには、ふっくらした体格も同じなら横顔も同じの、お婆さんが二人、向き合って座っていた。

 二人は、(二人にとって)妹か年下の従姉妹にあたる人

 C、を 

 見舞いに来たらしかった。


「CはAを乗せとったらしいんや」

「なんでまた、Aなんか、外へ連れていかんでええやろ」

 Cは交通事故にあったらしい。

 事故はAのせいだと言う。


 ずっとAの悪口が続く。


「Aのせいで皆が不幸になったんや、B家はもうおしまいやで」

 このフレーズが何度も出てくる。

 どういう不幸かというと、


「CはAが車の中で暴れたからハンドルを誤ったんや。事故はAのせいや」

 と一人のお婆さんが言えば

「だいたいDがAに惚れ込んでるのが厄介や」

 と、もう一人が言う。

 DはCの息子であるらしかった。

 そして二人で


「Aは長く生きない筈が生きている、年々元気になってるのが気味悪い」

 ともいう。

 マユは、双子の老婆の語る話に聞き入ってしまった。

 

 二人に気づかれないように、手帳を出して書き留めてた。

 Cは二人の妹か従姉妹。車を運転する年齢。

 DはCの息子。

 Aは……病弱。あとは不明。


「Eが死んだのもAのせいかもしらん」

 E。

 登場人物が増えた。

 しかも死人だ。


「そうや、Eはな、裸にバスタオルまいて、風呂場の外で倒れてたんや。

 はんこ握ってな。宅急便が来たと思って慌てて出たんちゃうか、って救急隊の人は言うてたな。

 血圧が高かった。頭の血管が切れたんやろって。ほんでも宅急便やなかってんで。

 不在通知はいってなかったんや」


「Cが旅行で出てたときやろ。Dも夜勤やったんや」

 ここで、Dは社会人と、分かった。


「Eは八時まで残業してたんや。帰りに晩ご飯食べて帰ったとして、すぐに風呂ったとしても、十時より早い時間は無理や。そんな遅くに誰が家に訪ねてくるかいな」

「誰もおらんでもAはおったんやろ。アレが誑かすようなこと言うたに違いないんや」


「Cは亭主が死んでも、まだAを庇ってるんや」

「あほや、今もまだ、『姉ちゃんら、Aが悪いんじゃない』、って言うてたやろ」

 EはCの夫。

 Cは二人の妹だ。

 

 マユは単に世の中には疫病神みたいな人もいるのだと、

 興味本位で話に聞き入ったのではなかった。

 Bは珍しい名字だった。 

 実は、マユが住んでいるマンションの、隣がBという名字であった。


「お隣はね、三人家族だったけど、去年ご主人が亡くなって、今は奥さんと息子さんの二人暮らしなんです」

 六十代の母親と三十前の息子だという。

 その母親の方が、最近交通事故にあって入院している。

 どこの病院か知らなかったが、この、総合病院でも不思議はない。


「隣の、オジサンも、オバサンも温厚な人です。息子さんは私より五歳上です。集団登校の班長さんでした。子供の時も今だって、優しいお兄ちゃんです。Dという名前なんです」

 

 隣のお兄ちゃん(D)を慕ってると表情で分かった。


「隣は、三人家族ですよね? 双子のお婆さん達の話に出てきたB家にはAというもう一人の人間がいたんですよね」

 聖はこの話に興味が涌いた。


「Aは、……隣に居た、みたいなんです」

「……居たみたいって。それ、どういう意味ですか?」


「Aの姿を一度も見たことがないんです。家から出かけるのも帰ってくるのも。

 でも声が聞こえるんです。大抵昼間です。

 気味の悪い声で……多分若い男です。

 Aっていうのは間違いないんです。

 オジサンやオバサン、お兄ちゃんがAって呼んでるの聞きましたから」

 

 聖は首をかしげた。

 ずっと家に居るA。若い男だという。

 何故出ていかない?

 それは出て行けない事情があるからだと普通は考える。

 たとえば身体が不自由なら仕方が無い。

 だが、車に乗せて事故にあったとか言ってたから、時々は外出していたんじゃ無いだろうか。

 ただ、この(綺麗な)子が知らなかっただけで。


 マユは、偶然耳にした会話が、隣のB家かしら? から、そうに違いないと思える程に、

 聞けば聞くほど全てが符合したと、興奮して喋った。


「オジサンは、家で倒れ、救急車で運ばれてすぐ亡くなったんです、ね、話あってるでしょ」


 双子の老婆はAが疫病神だと繰り返し、しまいには

「Aを始末せなあかん。このままではB家はおしまいや」

「窓から放り出せっていうても、聞く耳もたへんやろ」

 とても物騒な話になってきたと言う。


 その一週間後に、双子の老婆殺しが起きたのだ。

 マユは驚きと恐怖で震えた。


 新聞の写真は若干若かったが、病院のレストランで見た双子に似ていた。

 

 犯人はAだ、

 と、

 マユは思った。


 壁一つへだてた場所に居る、気味の悪い声のAに違いない。

 殺人犯が隣にいると思うと怖くてたまらない。


 両親に話したかったが、ためらわれた。

 昼間家にいない両親はAの声を聞いているかどうか分からない。

 両親に話して、

 信じてくれても信じてくれなくても、余所様の事に首を突っ込むなと叱られそうだった。

 それに、警察が調べればわかること。

 すぐに捕まえてくれると、思った。

 ところが、

 一週間過ぎても二週間過ぎても隣の、B一家は安穏に暮している。

 異変は無い。


「Aの声は相変わらず、昼間、聞こえるんです。

 人殺しなのに何故、つかまらないんでしょうか?」

 

 聖は、マユが大きな考え違いをしているのだと、理解した。

 双子殺しの犯人をAだと決めつけている。


 家から一歩も外へ出ない、一人では出かけられないAが二人を殺せる筈が無い。

 だが、マユはAが犯人だと確信してしまっていた。

 毎日隣に警察官が来るのを待った。

 壁にくっついて、気配を伺い、待った。

 そして、耐え切れなくなったという。


 ネットで「人殺し」「人殺しを知っている」で検索した。

 結果、加奈のブログ、「人殺しは見ればわかる山奥の剥製屋」にたどりついたのだ。

 悶々とした状況に救いを見いだしてしまったらしい。

 

 この世の中に、人殺しを見れば分かる人が居るなら、

 一人で抱え込んでいる重荷から解放されると希望を見いだした。

 Aの画像を見せたら<人殺し>と分かるのだと。

 

 でも、

 肝心のAの画像を取り込むのは無理だった。


 「それでね、声は録音しました。人殺しの写真が無いからアカンかも知れないけど、声でも分かるんじゃないかと……これがその……あれ、なんで出えへんの」


 聖は、マユがあまりに生き生き話すから、

 (剥製の)アリスや鳥が遠慮なしに蠢いている意味に気がつかなかった。    

 

 ……マユの全身にさっと目をやれば、

 手ぶらで、靴を履いていなかった。

 モコモコした薄茶色の靴下を履いて、聖から二メートル離れた場所に立っている。

 フード付きのベージュのダウンのコートは、四月中旬には暑苦しい。


 「凄い、迷惑って分かってるんですけど、いてもたっても居られなくって。こんな激しい衝動にかられて、家からでたのは初めてなんです」

 耳元に聞こえる澄んだ声と、

 立ってる位置が合わない。


「おかしいなあ、全部音が消えちゃってる。でも、確かに録音したんです。ちょっと待ってくださいね」

 スマホをいじっていてるような動作を止めない。

 

 白い指の先には……何も無い。

 白い指の先は……透けている。


 可哀想でかける言葉が見つからない。

 諦めず、見えないスマホを操作しているのを、長い間見ている他無かった。

 途中で椅子に座り、コーヒーを飲んで、

 眠気覚ましのタバコも吸って、

 朝日に美しい姿がかき消えるまで……。


「これを見せてやればよかったのかなあ」

 聖はネットで過去の事件のニュースを検索する。

 双子の叔母殺し。遺産狙いの事件だった。


 犯人はDだ。

 マユが優しそうな息子さん、と言っていた男だ。

 飾は裕福で、子供がいない。その飾の遺産を狙ったのだ。

 飾が死ねば遺産は錦にいく。

 錦には一人息子がいるが重い障害があり施設にいる。

 錦が亡くなれば犯人(D)の母親(C)が後見人になる。


 飾の財産が目的で、双子の老婆を殺した。

 しかし計画性のないずさんな犯行だった。

 犯行から一ヶ月後の一月十日に逮捕されている。

 連行される犯人の手は隠されている。

 人殺しの徴、老婆の手が二つあるのを、見なくて済んだ。

 犯人Dは優しい顔立ちの男だった。

 

 そして、気になるのがAだ。

 犯人の家族構成にAは出てこない。


「もしかしたら、人間じゃ無いのかも」

 空から犯人が住んでいたマンションを映しているニュース動画を静止させた。

 ベランダのカーテンが全開していて、中に白い鳥がいる。

 これが、Aだ。

 鳥かごの中で周囲を威嚇するように羽を広げている。

 大きい鳥だ。

 形はヨウムだが、色はグレーでは無い、真っ白だった。珍しいアルビノのヨウム。

 三十、いやもっと年取ってるかもしれない。

 他の人には鳥かごのようなモノと、ぼやっと白いモノにしか見えないだろうが、聖にはが分かった。

 

 マユが聞いた、

 双子の老婆の話に出てきたAはコレなのだ。


「ヨウムは、賢こくて、寂しがり屋だよな、そのうえ、神経過敏なんだよな」

 ヨウムは、人間の五歳程度の知能がある、と言われている。犬以上に賢い個体もいる。

 そして寿命は長い。平均五十年だ。

 知能の高い鳥は、その気性に個体差が大きい。

 このアルビノのヨウムが神経質で甘えん坊だったなら、

 遊んでやらないと大きな声で啼き、暴れただろう。

 

 虚弱な方なら、室温、騒音、えさに気配りが必要。

 年中エアコンで温度調節してやって、ひとりぼっちにしないように、誰かが家にいなければ行けない。……つまりコレを飼うのは生活がコレ中心になる覚悟がいる代物だった。

 医療費もかかる。手術ともなれば高額だ。

 手間も金もかかるペット。

 でも、B家にとっては、大切な家族だったに違いない。


 多分、父親(E)はAが宅急便の声まねをしたのを風呂にはいっていたから分からなくて、

 慌てて出たのだろう。

 その時Aと父親しか家にいなかったと言っていた。

 Aは父親が風呂にはいっている間、ひとりぼっちで居るのが寂しかったのだ。

 だから、父親が風呂から出てくる言葉を喋った。

 

 母親(C)はAを連れて車で出かけて交通事故に合った。

 Aを家に置いていけないから連れて出た。

 Aが騒いで気を取られて運転操作を間違ったのか。

 たかが鳥のせいで、と殺された双子の老婆は思っただろう。


 Dは父が死に、母が入院して、困った。

 自分が働いている間、Aをひとりぼっちにしなければならなくなった。

 家族以外の誰にも懐かない。

 自分が仕事を辞めて面倒みるしかないのだ。


 それには金が必要だった。


 聖には、ある風景が見える。


 Dは最初冗談で

「オバサン達が親父みたいにぽっくり死ねば遺産が入るかも」と口にしただろう。

 Aは、オウム返しにする。

 Dは、すこしはギョッとしただろう。

 そのリアクションをAは遊びだと捉える。

 AはDと遊びたくて、そのフレーズを繰り返す。


 聞いているDは、だんだんと、

 訳も分からぬ鳥が、なぜかその言葉だけを繰り返すのに、大きな意味をこじつけてしまう。

 鳥の言葉を、「お告げ」のように感じてしまったかもしれない。


「Aはどうなるって?心配なのか」

 剥製達が騒ぐので聞いてみる。

 こころもち、それぞれが聖の側に寄ってきている気がする。

 とりあえずは警察で保管されて、その後はわからない。

 所有者の判断で処分されるかも知れない。ペットは所有物の1つでしかない。


「可哀想、だよな。引き取れ、ってそう簡単に言うなよ。もうとっくに処分されてるかもしれないし」

それより……」

 山本マユ、を検索してみる。


「自分が死んでいるのに気がついていないって事は、事故かもしれない」

 行方不明者情報のサイトに、名前があった。

 ヘアスタイルが違っていたがマユに間違いなかった。

 十二月二十四日に出かけたきり帰らない。

 

 生まれつき心臓に障害があり、発作が起きて行き倒れになっている可能性がある、と書いてある。


 人目につかない所で死んじゃったのかな……可哀想に。

 待てよ、

 人目の無いところって、もしかして……。


 聖はシロを連れ、吊り橋を渡った。

 いつも使っている国道へ上がる道の他に、もう一本バス停まで斜めに伸びている細い道がある。

 車が通れない、誰も通らない古い道だった。

 しかし、

 スマホで見てみたナビには、くっきり、あった。

 もし、

 バスを降りて、近道に見える、こっちへ入ってしまったとしたら……絶対迷う。俺でもたどり着けない。

 ……案外簡単に、山本マユは見つかった。


 ベージュのダウンコートがボロきれと白い羽になって散乱していた。

 木の枝に引っかかってるのもある。身体もばらばら。骨になって広い範囲に有った。

 まるで飛行機事故の遺体のようだ。

 森に生息する生き物が、食い散らかしたのだ。

 食べられる部分は全て平らげて骨と髪の毛しかない。だから腐敗臭は無かった。

 

 シロが行こうとするのを止めた。

 自分も遠目で確認しただけで、足を踏み入れずに戻った。

 

 あそこまで行ってしまったら、放ってはおけない。

 すぐに交番に知らせなければいけない。当然なすべき義務から逃げたい、嫌だと感じた。

 面倒に巻き込まれたくない、他の誰かが見つける、そんな理由では無い。

 あの子の身体が森の生き物と一体化してるのなら、

 あの骨も、あのまま森にあって良いんじゃないかと思った。

 

 警察に届け、遺骨は持って行かれ、一件落着で、あの綺麗な幽霊には二度と会えないろう。

 それが何だか、、受け入れがたい。

 幽霊でもなんでも、

 ずっと森にいたらいいじゃないかと、

 無責任に思ってしまった。

(……こんな激しい衝動にかられて、家からでたのは初めてなんです)。

病弱でめったに外にでなかったのだろう。

昼間、静かな家の中に一人で居たから、隣の鳥の声を聞いたのだ。

もしずっと前に、Aがまだ幼鳥のころに会う機会があったなら、

不気味な声に怯えなくて済んだのに……。

Aはマユに懐き、マユはAを愛したかもしれない。

アルビノの真っ白な鳥と、透けるような青白い肌のマユは,同じように綺麗なんだから。


もしやと期待していたように、

その夜、

マユが工房の中にいた。

ドアの前に遠慮がちに肩をすくめ、横を向いて立っていた。

直接見たのでは無い、電源を落としたディスプレイに映っていた。


昨日と様子が違う。

自分の現状を知ってしまったのかも知れない。

声を掛けたいし、話がしたかった。

でも、あの子を悲しませない話が出来るのだろうか。

それに、ふり返って、ちゃんと見たら消えてしまうかも。

それは嫌だ。

ああ、でも、

あんなところで立ってるのも可哀想。


聖はマユを見ないようにして、

自分の椅子にくっつけて背中合わせになるよう、椅子を置いた。


「座ったら」

声を掛けて自分の椅子に座った。

部屋の空気が動く。

やがて背中に、マユの気配を感じた。


目を閉じれば長い髪がふわりと肩に触れるのもわかった。


「あの、また来てしまいました。すみません」

 澄んだ声が耳の中に聞こえた。

 彼女が自分の死に気がついて、別れを告げに来たのなら、聞きたくなかった。

 心残りが取り払われたから、逝ってしまうか。

 身体がまだ森にある間は留まってくれるのか、わからない。

 

 シロが短く啼いた。

 鳥が羽音を立てた。

 アリスが抱いて欲しそうに身を乗り出した。

 皆がマユを歓迎してるようだった。

 たとえ幽霊でも、

 美女が工房を訪ねてくれるのは、悪くないと、そんな気分になった。



最後まで読んで頂きありがとうございました。


                          仙堂ルリコ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写の美しさ。華麗な言葉を使われないのに。抑制の力でしょうか。 [気になる点] ポジティブなことばかりです。 主人公の心理、登場人物がこれからなにをどのように描いていくかが気になります。 …
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