「そうだな、そうだよな」
投稿寸前にパソコンがフリーズ、書いていた3000字あまりの1話が丸ごと消えました。
oh....
男二人組みに縄でぐるぐる巻きに去れた俺たちは、乱暴に馬車の中に放り込まれた。
放り込まれた馬車は質素で、木の箱が申し訳程度におかれている。ここに座れというのか。どちらにせよ、このぐるぐる巻きの状態では座れないし意味はないだろう。
男二人は俺たちが乗った馬車を離れ、隣に止めてあった別の馬車に乗り込んだ。
一瞬だけドアの隙間から見えたその馬車の中には、中は豪華なクッションやソファーが大量に置いてあった。きっと、乗り心地もいいのだろう。
外から、「出発しろ」という号令が聞こえた。
その声に促され、馬車はのろのろと出発する。はじめのうちは速度も遅く、ゆれも少なかったのだが、すぐにスピードは速くなり、すぐに地震のような揺れに悩まされることになった。
馬車が揺れるたびに固い床と腰がぶつかり合って非常に痛い。今の体は女の子の体で、今までの俺の体とは勝手が違うのかすぐに我慢できなくなった。
「ケイ?」
突然、ベルが話しかけてきた。
上目遣いでこちらを不安そうに見つめるベルに、何かあるんだろうかと不安になり俺はできる範囲で居住まいを正した。
「あの、さっきは.....ありがとうね」
小さな声で、それでもしっかりと聞き取れるようにはっきりと、ベルはそういった。
ベルなりに、改めて礼を言うのは恥ずかしかったのだろう、顔が真っ赤になっている。だが、俺としてはお礼を言われるようなことをしたつもりは無い。
「そんなの、当たり前だろ。目の前で人が殺されそうになってるんだ、放っておけるわけが無い」
俺が当然のようにそう言い放つと、ベルは驚いたようにこちらを見つめ――ぽろぽろと涙を流しだした。
急に泣き出したベルに俺が驚いていると、ベルは縄で縛られた状態のままこちらにごろごろと転がるようにして近づいてきた。
座っていた俺の膝に顔をうずめると、いっそう大きな声で泣き出した。
「......うぅ、怖いよぉ、私これからどうなるの?このまま人間に殺されるの?シャノンちゃんみたいに首を切られて死んじゃうの?そんなの嫌だよぉ、怖いよぉ」
そのベルの言葉を聴いて、俺はハッとさせられる。
確かにベルはどこか抜けたようなところもあったし、いつも笑っていて元気だった。だが、その前に一人の心を持った人間なんだ。
たった一日で今までずっと住んできた集落を燃やされ、あわや殺されるところだったのだ、当然、不安にもなるし怖くもなるだろう。
どうして気づくことができなかったのだろう。
俺だって、ベルに拾ってもらってなかったらどうなっていたかわからない。急にこんな世界に雑魚キャラとして放り込まれて、いつ死ぬかもわからないような状況。
そんな時に一人だったら、いったいどれだけ心細かったか。
ベルは俺がいたとはいえ、自分の住んできた集落ごと燃やされ、追い出されたのだ。しかも、乱暴な人間に捕まるという最悪なオマケ付き。
ベルが何歳かは知らないが、そりゃあ泣きたくもなるだろう。
「大丈夫、大丈夫」
俺の膝に顔をうずめて子供のように泣き続けるベルに、俺はそう声をかけることしかできなかった。
「ごめんね、心配かけさせちゃって」
泣きはらした後で赤く腫れ上がった目をごしごしと擦りながら、ベルは俺に力なく笑いかけた。たくさん泣いてすっきりしたのか、さっきよりは幾分かましな表情をしている。なんというか、吹っ切れたような。
「いや、大丈夫。俺だって、大変なのはわかるからさ」
それを聞いて安心したのか、にこりと笑って寝てしまった。
本当に、子供みたいだな。普段の行動といい、言動といい。だが見た目から考えるとどう見ても16歳ぐらいはいってるように見える。
地雷な気がしたので触れなかったが、お母さんもいなかったようだし、もしかしたら過ごして来た環境がそうさせたのかもしれない。
とりあえず、その話はまた今度ベルに年齢を聞くということで置いておいて、俺も寝ることにした。
どこまで行くのかは知らないが、すでに結構走っている気がする。それに、どうせ着くまですることも無い。
俺はベルの隣に寝転ぶと、まぶたを閉じた。
「お~い、ついたぞー」
俺は雇い主である奴隷商人と一緒に乗っていた馬車から降りると、隣に停止している馬車の中に呼びかけた。
雇い主は違法であるモンスター奴隷を扱う奴隷商で、俺のほかにも二人護衛を雇っていることからそこそこ金持ちなのがわかる。
だが、好き好んでモンスターなんかを扱っているだけあってか、俺とは徹底的に趣味が合わなかった。
馬車に揺られている間もずっとモンスターの素晴らしさや不遇さなどを延々と語り続けていた。正直俺には理解しがたい感情だが、反論して依頼主の機嫌を損ねるのも困るのでずっと相槌を打っていた。
そういう事情もあって、モンスターを連れてくる仕事は俺が率先して受けた。
確かにモンスターの近くに寄るなんて、それだけで吐き気がするが、それでもあそこにいてずっとあの話を聞かされ続けるのもごめんだ。
さて、モンスターは生まれてこの方見たことも無いが、聞くところによると『龍のように固いうろこを持ち、トロールのような大きな体で、ゴブリンのような醜い姿』だという話だが、どんな奴なんだか。
俺は念には念をこめて剣の柄に手を当ててドアを開けた。
「おい、着いた、ぞ――」
そこにいたのは、トロールのような巨体を持つ者でもゴブリンのように醜い者でもなかった。馬車の中に転がされていたのは、まだ年端もいかない少女とその姉だろうか、同じ髪色の娘だった。
てっきりキメラのようなものを想像していたために、俺は少しの間考える時間を必要とした。
これが龍?これがトロール?これがゴブリン?
聞いていた話とまったく違うではないか。考えていたものとの落差もあってか、俺にはその二人が天使か何かのように見えた。
いや、それもあながち間違いではないだろう。この国で神聖な色とされている青い髪に整った容姿。天使といっても過言ではない。
モンスターが全員このような容姿だというのなら、さっきの奴隷商言う話も納得ができる。確かにこんな人間と変わりないような子供が差別されているというのなら、不遇なんてものではない。
「.....おい、着いたぞ」
すっかり考え込んでいた俺は、ふと早く連れて行かなければいけないことを思い出し、二人に声をかける。できることなら今すぐここから逃げさせてやりたいが、そんなことをしては始まったばかりの俺の傭兵ライフが一瞬で終わってしまう。
それはいけない。
だが、いくら声をかけても二人はびくともしない。
「おいおい.....」
どうやらこの二人は、自分が奴隷商に捕まったというのに呑気にも寝ているらしかった。仕方が無いので揺さぶって起こそうとして――躊躇った。
幼い方のモンスターの下腹部に、染みができていたのだ。
(も、もしかしてこれは.....!)
ばっ、と音が鳴るようなスピードで姉のほうを見る。
姉のほうは姉のほうで、少し服装が乱れている。しかも、まるで泣きはらしたかのように目の周りが赤くなっていた。
(ま、まさかまさかまさかまさか!この状況は!)
この状況を総合すると、もしかしてこいつら奴隷になりそうな状況にもかかわらず――
「ぶほぉ!」
俺は鼻血を噴出して倒れた。