「ウサギじゃなくて男」
「さぁて、死んでもらおっかな~!」
目が覚めたのは、おそらくプレイヤーと思われる男がベルに剣を振りかぶっている丁度そのときだった。
その男は皮のローブを着ていた。あのローブは確か一番初めの街で買える安物だったはずだ。しかし剣は次の次の街辺りで手に入るはずの武器。ドラ○エで言うなら鋼の剣と言ったところだろうか。
ローブを着ていることや、腰に杖を下げていることからおそらく魔法使い、もしくは魔法も剣も使えるタイプだろう。そういう万能タイプは穴が少ない分、1つ1つの能力はそう秀でているわけではない。
つまり、格下には安定して勝てるが、格上相手だとてこずる場合があるということだ。まあ、そんなことを格下である俺がねちねち考えても何も変わらない。
今、男は俺に背を向けている。
もしかしたら不意打ちで倒せるかもしれない。
俺は指先を男に向けると、小さな声でばれないようにつぶやいた。
「水よ、切り裂け」
指先から勢いよく水が線状になって飛び出す。
その水の刃は男の頭を貫き、そのままばしゃりと地面に落ちた。
「......うん?」
持っている剣の格からして最弱モンスター娘である俺たちよりも強いと思ったのだが、なんかすごいあっさり倒せた。
もしかして、見掛け倒しの雑魚だったのか?
そんなことを地面に倒れたまま考える俺だったが、ベルがしりもちを付いてがくがくと震えているのを見て考えるのを一時停止した。
すぐに立ち上がると、ベルのほうへ走る。
「大丈夫か?」
「え、う、うん。大丈夫」
まだ少し動揺しているようだが、一応怪我などは無いようだ。
顔が赤い。きっと緊張から開放されて、安心したせいだろう。目の端に浮かんだ涙については見なかったことにする。どうせフォローなんてできないからね。
ゴゴゴゴゴゴ........
男が死んだと同時に、炎の勢いがさらに増した。
もはや地震かと間違えるほどの地響きが集落を襲う。
「早く逃げたほうがいい。逃げるぞ」
「う、うん.....」
殺されかけたショックだろう、茫然自失といているベルの手を引いて、俺は泉のほうに走り出した。
「何とか逃げ切ったな」
「うん.....」
集落から出てもまだぽーっとして心ここにあらず、と言った状態のベルを見て、気の毒に思う。確かに急にやってきたプレイヤーに集落を壊され、一度殺されかけたとなればこうなってしまうのもうなずける。
俺も殺されかけたし、その気持ちもよくよく理解できる。
だが、いつまでもこの調子だというのもそれはそれでかわいそうだし、少し元気付けることはできないだろうか。
でも、俺たちに帰る場所はないしあまりここにいるとまたほかの人間に殺されるかもしれない。
だがプレイヤーを殺したことによって人間の戦力は削られたはずだ。もしプレイヤーが吹く数人いたとしても、確実に戦力は削ることに成功したはず。
「これからどうすっかな......」
これからのことを考えて独りごちる。
正直、これからどうすればいいのか見当も付かない。俺たちは集落で隠れて生きているから人間に殺される心配も無かった。
だがその隠れ蓑をなくした俺たちはどうすればいいのだろうか......。
「街に行けばいいんじゃ....ない.....かな」
そうやってぶらぶらと考えながら歩いていると、急にベルが提案してきた。
なんだか恥ずかしながら言ってる気がしたが、気のせいだろう。たぶん、まだショックが抜けきらないのかもしれない。
「街?でもそれって危なくないか?」
「――っ......このまえ言ったみたいに、一応街にもスライム娘はいるから、その人たちに頼れば.....」
目が合っただけで急いで顔を伏せるベル。その状態でぼそぼそとしゃべる。
正直聞き取りにくいが、なんでこんなしゃべり方を――もしかして俺、嫌われているのだろうか。
そうだとしたら俺はこの世界で誰と暮らしていけばいいんだ......。
「うん.....じゃあそうするか......」
少しだけ意気消沈しながら街に向かって歩き始める。
マップはゲーム時代とそう変わってはいないようなので、道に迷うことはないだろう。
ざくざくざく.......
ざくざく......
ざくざくざくざく......
無言で歩き続ける俺とベル。
ベルは目線を伏せて歩いているし、俺は特に話すことも無いから前を向いて歩き続ける。つまり、スーパー気まずい空間の完成。
「え、えっと」
「ん?なに?」
「い、いや.....なんでもない」
ベルが俺に話しかけて、俺が返事をする、がすぐに何も無いと言い張り引っ込める。
そんな感じの気まずい空気がずっと続いていた。
そんなとき、まるで救いのようにしげみががさごそとなった。
「あ、魔獣が出たぞ!」
「ホントだ、戦闘準備しなきゃね」
そういって音のしたほうに手を向ける俺たち。
たぶんこの前も狩ったウサギだろう。それなら俺たちが負けるわけもないし、怪我をする可能性も低い。
この気まずい空気を打ち破るのにはもってこいだろう。
と、思っていた時期が俺にもあった。
「げへへへへ、スライム娘か。殺しちまわないようにナ!」
「よっしゃ、2匹だな。俺とお前で1匹づつな」
茂みから現れたのは人間だった。
それも、なんか三下っぽい台詞を吐きながら。
もちろん、いくら三下っぽい台詞をはくようなやつでも確実に俺たちよりは強い。俺がかかっていったところで負けるだろう。
かといって逃げようにも今はあの服を着ていない。スピードは人間と変わらない。
なら、男の体であるあちらのほうに分があるだろう。
ベルはすっかりおびえて俺の後ろに隠れている。
こんなときだが、なんか当たってすごい集中できない。
「さあて、やるカ!」
男二人が飛び掛ってくる。
大男二人が同時に飛び掛ってくると、あまりの迫力に身がすくみ動けなくなる。
俺たちは一瞬でつかまった。