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「リョナラーだったのは、もう過去の話のようだ」

「うぐ......」


 死んで動かなくなった後も傷口からだらだらと血を流しているウサギの長い尻尾を束ねて、5匹くらいのウサギの束にして持ち歩いているベルをみて俺は吐き気をこらえていた。

 昔は「俺はリョナラーだ!リョナ最高!」と胸を張っていえたが、今となってはそんなことはいえないだろう。たぶん、言っただけで思い出して吐き気がすると思う。


 まさか、リアルの血がこんなにもグロい者だとは思わなかった。

 なんだか鉄くさいし、2次とは違ってドロっとしてるし、なんか.......口では言えないような生理的嫌悪感がある。


 もうモンムスはできないだろう。


 だがここはどれだけ現実逃避してもモンムスの世界。

 グロイことからは逃れられないだろう。ましてや、この世界ではゲームとは違って魔獣なんてものもいるのだ。

 ゲームよりもやばいことになるのは目に見えている。


「ケイのおかげでいつもよりもいっぱい獲物が取れたよ!ありがとう!」


 実のところ、結局俺はビビッて一匹も倒すことができず、挙句の果てに危うく攻撃をもらうところだったのをベルに助けてもらうという醜態までさらしたのだ。


 で、結局さんざベルのお荷物になった後お荷物になるぐらいならと荷物もちになった結果効率はグンと上がり、いつもよりも大量の獲物を手に入れることができた、ということだ。

 つまり、正直俺ってば小学生でもできる仕事しかしていない。


「でも、ウサギには殺されかけたし結局一匹も倒せなかったし迷惑かけたし.....」


 そう言っていじけると、ベルは笑顔で――


「そんなの、初めてな上に女の子なんだから仕方ないよ!男ならおなかを抱えて笑ってたけどね!」


 ――俺の心の傷に塩を塗りたくりながらがぱぁ、と傷口を広げたのだった。






 集落に帰ってくると、俺たちは解体屋、という場所に向かった。

 解体屋では魔獣の死体を受け取って解体し、部位ごとに分けて売却、まったく使い道のない部位は焼却して処分するという、メンドクサイ処理をすべて代行してくれる業者のことらしい。


 もちろん、依頼料として素材を売ったときの何割かをもっていかれるが、あちらも商売でやっているのだから当然だろう。


 今回はウサギの食べられるもも肉の部分だけ引き取って、後は売却してもらう。特定の部位だけは売却せずにこちらが引き取る、といった細かいこともできるらしい。 

 その場合売却した分から引かれる割合が多くなるが、あまりお金を必要としていないらしいベルにとってはどうでもいいことだという。


「はい、これ。今回は2人でパーティーを組んでウサギを狩ったんだから、お金は等分ね!」

「え、でも俺特に何もしてないし......」

「拒否権はないの!それがここのルール!」


 そういって解体屋から受け取った金の半分を俺に押し付けるようにして渡すベル。今回ほとんど役に立たなかった俺が受け取るのは正直気が引けたが、これも彼女なりの気遣いなのだろうとしぶしぶ受け取った。


 渡された通貨はコイン形式のもので、表には女性の横顔が、裏にはよく分からない紋章のようなものが彫られていた。

 や、表裏は分からないのだが。


「その通貨は人間のお金と一緒だから、外でも使えるよ」

「え?でも人間は俺たちを見たら殺しにかかってくるんじゃないのか?」


 確か人間たちはモンスター娘のことをモンスターと呼び、必要以上に恐れていたはずだ。そんなモン娘が街に出たりすればすぐに傭兵(ハンターとは違った、さまざまな依頼をこなす職業)や騎士(国や街が直接雇っている兵士)がすぐに出てきてきそうなものだが。

 どうやって人間の通貨を手に入れているのだろうか。


「まあモンスターだってばれたら殺されるだろうけど、変装して人間のふりをしていたらばれないよ。よっぽどのことがない限り」

「でも危なくないか?」

「大丈夫、今までばれたのは数回だけだから」

「ばれたことはあるのかよ」


 そこまでして人間と通貨を合わせる必要があるのだろうかと思うが、そこは俺なんかの考えが及ばないような、高度に政治的な話が絡んでくるのだろう。

 俺みたいな無知なやつがとやかく言う権利はない。


 気がつけば、ベルがこっくりこっくりと歩きながら舟をこいでいた。

 もしかしたら眠いのかもしれない。


「早く帰るか」

「うん」


 俺の独り言に反応してつぶやいたベルの横顔は、いつもより幼く見えた。





 家に着くと、ベルはすぐに寝てしまった。

 その寝顔はかわいらしく、思わず胸がドキンと高鳴った――気がした。


 今日の狩りでは俺も迷惑をかけてしまったし、荷物持ちがいることによっていつもよりも仮をする時間が長くなったのだろう。

 そういった理由から疲れてしまったのかもしれない。


「......俺ももう寝るとするか」


 昨日までは掃除で忙しかったし、時間が空けばすぐに掃除、といった具合で掃除三昧だったのでこんな風に急に自由な時間ができると一気にやることが無くなり、暇になってしまう。

 集落を散策しようにも、ここは集落というよりは街といったほうがしっくりくるほど大きいので、ここに来てからまだ数日しか立っていない俺が案内もなしに出歩いたら迷子になること間違いなしだろう。


「.......ふあぁぁ~」


 なんだか、俺も急に眠たくなってきた。

 逆らいがたい、恐ろしいほどの眠気が襲ってくる。


 なんだか.....嫌な予感がするが........こういうときはどうすれば眠気を我慢できるんだっけ......?

 そうだ、思い出した。

 逆に考えるんだ......寝ちゃってもいいさ、と.........。






「ついにこのときが来たか......」


 スライム娘の集落の入り口にて、本来ここにいるはずの無い者が息を潜めて周囲をうかがっていた。

 男は異世界である地球でだらだらとモンムスというゲームをしながらだらだらとしていると、気がつけばこのモンムスの世界に似た世界にやってきたハンターであった。


 ケイは気づく由もないが、実はこの世界に来た元モンムスプレイヤーは1人ではない。

 何人ものモンムスプレイヤーが気がつけばこの世界に召喚されていたのだ。理由はまだ誰も知らない。


 さて、この男だが、モンムス界では名の知れたスライム娘フェチだった。

 スライム娘に萌えるだとか、愛でたいだとか言う理由ではない。


 ――ぐちゃぐちゃに、殺してやりたい。


 そう考える異常者であった。


「俺はこのときのためにどれだけ準備をしてきたと思っている.......できる、できる......」


 自己に暗示をかけるようにしてつぶやく男。

 しばらくするとようやく肝が据わったのか、懐から幾何学的な模様が描かれた手のひらサイズの紙を数枚取り出した。


 その紙に魔力を注ぐと、目の前に紙に書かれていたものと同じ模様が紙の数だけ重なって展開された。


「”呪術設定、範囲指定X580、Y460.、発動”」


 男がつぶやくと同時に、魔方陣は大きく広がりながら空中へと勢いよく飛び上がる。

 集落を包むほどに大きく広がると、次は高速で回転しだした。回転が最高まで高まった瞬間、魔方陣が粉々に割れて集落に降り注いだ。


 その異様な光景に気がつくものは、誰もいない。

 男だけがその異常な光景を見つめていた。


 こんなイベントや魔法、モンムスゲームでは存在しなかった。

 この世界は、ゲームではない。システムの鎖から解き放たれた『魔法』という技術は、無限の可能性をハンターたちに与えた。


「成功、か」


 男は片膝を地面に付きつつも、にやりと口を歪めた。

 その様子はさながら、生贄を喰らう悪魔のようであった。

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