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「こんなとこに寝泊りするのは勘弁だ!」

「ほう、今日から君はこの集落に住む、と.....?」

「え、えぇと.......」


 なんか気が付けばここで住む、的な話になっていたが本当にいいのだろうか。

 別に俺がそうさせてくれと言ったわけでもないし、だめならだめで仕方がないと諦めることはできるが.......やっぱりここに住めると言うのならそれがいいのだろう。


 どうせここに住めないのなら野宿しかないのだろうし。


「まぁ、そういうことになってるんですかね....?」


 と、なんとも歯切れの悪い返事をしてしまった。

 そんな俺をじろじろと幼女らしからぬ視線で観察する長老。いや、長老と言うくらいだし、もしかしたら見た目に反して実は年を取っているのかもしれない。

 最近流行の、ロリババアというやつだろうか。


 難しい顔をしていた長老は、パッと表情を変えると、


「ねえじい~?こうゆーときってどうしたらいいの~?」


 年相応の笑みを浮かべると後ろに待機している執事っぽい人に向かって声をかけた。


「えんぎするの、つかれたよぉー」

「ふぇ?」


 って、執事いたのか!まったく気が付かなかった。

 影が薄いせいでまったく気が付かなかった。あまりにも存在感が薄いせいで、心なしか体が透けているように見える。もちろん、錯覚だろうが。


 .......じゃあなんで執事さんの向こう側が見えるのかな?


 俺は目をそらすことにした。


「はい、お嬢様。この者は確かにスライム族のようですので、滞在させてもよろしいかと」

「じゃあ、いいよ、って言えばいいの?」

「いえ、「うむ、その者の滞在を許そう」と威厳たっぷりに言って頂ければ」

「え~、またえんぎ~?......がんばる」


 こほん、とかわいらしく咳払いをする長老。

 作戦会議がこっちに駄々漏れなのだが、いいのだろうか。隣を見ると、ベルはなんとも思っていないようだ。ぽけーっとしている。


「うむ、その者の滞在をゆるしょ......許そう」


 噛んだ。今噛んだ。

 顔をりんごのように真っ赤にさせている。

 なんか無性にめでたくなるような可愛さだ。


「は~い!ありがと!」


 元気よく礼を言うと、そのまま家を出ようとするベル。

 こんな幼女と言えども、長老と言うからにはこの集落で一番えらいのだろう。そんな人に対してこんな適当な態度でいいのだろか。


「いいよ~」

「お嬢様。もっと威厳ある――」


 本当にこんなのでいいのだろうか、アバウトだな~。と不安になりながらも、俺たちは長老の家を後にした。


 去り際に執事の小言が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにする。






「ここが私の家だよ!」


 そういって俺のほうを振り返り、両手を広げて元気よく紹介するベル。あまりの大きな声に周りの人(尚、全てモンスター娘。男はいない)がこちらを怪訝そうに見ているが、ベルは気にしていないようだ。

 俺は気にするから正直やめてほしいんだが。


 あたふたとうなずくと、ベルを黙らせてこちらを見ている人に適当に愛想笑いを浮かべながら会釈した。


 他の人の目がなくなったのを確認してから、ベルに続きをうながした。


「けいは住むとこまだ決まってないんだよね?じゃあしばらくはここに泊まっていってよ!」

「ああ、そういえばそんなことを言っていたようなそうじゃなかったような」


 ベルがさっき説明してくれていた気もするが、なにせそのとき俺は長老がおじいさんかおばあさんかで悩んでいたからあまり話を聞いていなかった。


 ――改めてみるベルの家は、1人で暮らすには大きすぎるサイズだった。見方によれば、小さな館ともいえるかもしれない。

 おそらく、家族と住んでいるのだろう。

 そうなれば、家族とも面識を持たなければいけない。


 はあ、コミュニケーションめんどくさい。

 なんて思って聞いてみたところ、どうやらベルは一人暮らしだそうだ。


「さあさあ、入って~!」


 中に入ってみたイメージと、外から見たイメージとはまったく別物だった。

 外から見れば豪華な家――もしくはミニマムな館――と言ったイメージだったのだが、中に入ればそのイメージは完全に消滅した。


「うわ.......」


 一般的な男子高校生の部屋らしく適度に散らかっていた俺の部屋でさえ、この家を見た後ならば輝いて見えるだろう。それほどまでに、この家はゴミと汚れであふれかえっていた。

 まず1つ。なぜ玄関にフライパンが落ちている?

 次に2つ。シャンデリアが地面に落ちて砕けている。

 最後に3つ。明らかに取り外しできないトイレがここに転がっているのには突っ込んだほうがいいのか?


 住めば都と言う言葉があるが、ここを都と言えるならいっそ道端にある排水用の溝で寝たほうが数倍ましだろう。


 一縷の望みを賭けてベルを横目で伺うが、特にこれと言った反応はなく土足で入っていった。これで空き巣に荒らされたと言う線は消えた。残念なことに。


 俺はこれからこんなところで暮らすのか?

 玄関に便器が転がっているようなところに?


「そんなの嫌だ!」

「どうしたの!?」


 俺は全力で大掃除を始めた。





 あれから約3日。

 ようやくこの家も、がんばれば住めなくもない程度にまで片付いてきた。

 なにをどうやったらこうなるのか伝授してほしいところだが、ベルいわく気が付いたらこうなっていたらしい。いや家具は勝手には動かんだろう。


「なんか急に綺麗になったね!」


 その眩しい笑顔が今はすごく鬱陶しい。

 そしてそんな無垢な笑顔を振りまくベルが着ているのは、いたって普通のシャツだった。


 だが、ゲーム時代には出てきたスライム娘は全員現在の俺と同じ――水色の布切れのような服を着ていたはずだ。

 それなのにベルが普通の服を着ていると言う事実。


 つまり俺は――


「この服装でいる必要なくね?そろそろ寒いんだけど」

「てへっ」


「てへっ、じゃねぇよ!何で俺がお前の家を冷たい雑巾絞って掃除している間にお前は暖かそうな服着て寝てんだよ!」


 って言いたい!いいたいけど.....!

 一応、俺はここに住まわせてもらう身。これくらいは.....耐えなくては.....!





「......じゃあ、何で出会ったときはこんな薄い服を着ていたんだ?」


 着替えを持ってきてもらって、その服に着替えた俺は素朴な疑問をベルにぶつけた。

 あんな服、防御力皆無っぽいし寒いし薄いし恥ずかしいだけで何の利点もないように思えるのだが......。

 何か理由でもあるのだろうか、と思い聞いてみたのだ。


「知らないの?あれは着ていると素早さがあがって早く走れるようになるの。だから狩りの時には着て行ったほうがいいってお母さんが言ってた」

「そうだったのか......」


 スライム娘の素早さにそんな秘密があったとは、驚きだ。

 と言うことは、今この集落が襲撃されたらほとんどの人が逃げ切ることができないと言うことか。ま、あんな方法で入るんだったら誰もここを突き止められないだろうが。


「あ、そろそろ狩りに行かないと」

「あぁ、また行くのか」


 もともと俺たちがであったのはベルが狩りに出ていたからだ。

 つまり最後の狩りから3日しかたっていない。


「うん、この前はけいを案内してたから獲物が取れなかったんだ」

「あ~、悪かったな」


 俺があんなところで寝ていたからベルは獲物を取り逃がしたのか。それはなんというか......罪悪感があるな。


 ......よし、ここは男気を見せて、少し手伝うか。


「俺も一緒に行って手伝うよ。この前は俺のせいで獲物が取れなかったんだろ?それにこれからしばらくはここに住まわせてもらうんだし」

「え?そんなのいいよ!私が勝手におせっかい焼いただけなんだし」

「それでもやっぱり、住まわせて貰いながら何もしないって言うのはちょっと、ね」

「え、うん、そう?じゃあ.....お願いしてもいいかな」


 かくして俺は、狩りについていくこととなった。

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