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「まさか、俺が殺される立場になるとは思わなかった」

「ん.....ここは.......」


 あたりを見回すと、そこはどうやら室内であることが伺えた。

 さらに言えば、木でできた体育館のような場所。


「えっと......どこかで見たことがあるような........」


 まだぼんやりする頭を振って、ここがどこだか必死で思い出す。ここにきたことはないが、画面越しに見たことがあるような――テレビで見たとか、そんな感じか?

 もうすこしで出てきそうなんだが.......。


 どうにか思い出そうと苦戦していると、部屋のドアが急に開いた。

 中から出てきたのは、


「次に、実践訓練に入りたいと思います。先ほど教えたことを十分に考えて、モンスター娘を殺してくださいね?」


 スーツを着たロングヘアーのお姉さんと、皮っぽいものでできた服に、木でできた鍋の蓋と見まごうほど安っぽい盾。そして腕ぐらいの長さの剣を持っている俺と同じくらいの年齢に見える男性だった。


「おお、ゲームで見たときとおんなじだなぁ、確かに試練場だ。お、スライム娘だ。いるいるぅ!」


 ......ああ!思い出した!

 ここは俺が嵌っていたゲーム、モンスター娘ハンターのチュートリアルを受ける場所だ!ここはあいつが言っている通り、モンムスのチュートリアルを受けるところで、ここで初めてモンムスを殺すんだった。ここで倒すのはモンムスで最弱のモンスターである、『スライム娘』。絶対に負けることはないだろう。


 もしかして、俺はゲームの世界にやってきたのか?しかもモンムスの世界に?


 もしそうだとしたら、神様はなんと最高の巡り合わせをしてくれたんだろう。

 俺は自他共に認めるリョナラー。リョナゲーが現実になるなんて、まさに夢見たいだな!――いや、さすがに悪名高いモンムスの世界はちょっとやばいか?

 実際に現実でグロいシーンを見たことがないから、現実におけるグロ耐性については正直分からないな。



 まあそれはおいといて、あそこにいるのも言動からしておそらく元モンムスプレイヤー。

 ここは少し現状について聞いて、友好を結ぶのもいいだろう。というより、俺には今の状況が分からない。あちらにはチュートリアルを行ってくれるNPC、通称チュートさんもいることだし、少し話を聞くか。


「おーい、これっていったいどういうことなんだ?ちょっと状況がわからないんだが――」


 男たちに話を聞こうと、立ち上がって声を発した、その時だった。

 異変に気が付いたのは。


 いくつかおかしなところはあるが、まず一つ目。声が変だった。

 最近はボイスチャットもしてなかったし、学校には友達がいるわけでもなかったから......思い返してみればここ1週間は一言も声を発していなかった気がする。それでも、自分の声を忘れるなんてことはないだろう。

 俺の声は、最後に聞いたときよりも確実に高くなっていた。まるで女の子のように。


 まあ仮に、仮にそれが俺の勘違いだったとしよう。

 寝起きに声が変になることって、あるよな?今回はそれの酷いバージョンだったとしよう。だとしても、身長が縮んでいることは説明できまい。


 俺の慎重派最後に計ったときで約168cm。それから少しは伸びただろうし、まあ希望的観測を含め仮に170cmだとしよう。

 だとしたらあいつらはなんだ?あの男は俺よりも20cmぐらいは高いぞ!?顔立ちは俺と同じくらいの年齢に見えるから、高校生で190?ありえんありえんいやまあありえないというほどありえなくもない気がしなくもない(なにを言ってるんだ)が、その隣のチュートさん。

 あの人は確か公式設定では150台だった気がするが(実は彼女も攻略(殺害)可能キャラなのだ)、俺と同じくらいの身長はあるんじゃないか?


 ど、どういうことだ?



 もしかして、もしかしてだが、俺の身長が縮んでる.....?

 確かチュートリアルクエストで試験場にいるのは主人公とチュートさん、後はもう1人、チュートリアル用のモンスター娘だけが――


(おお、ゲームで見たときとおんなじだなぁ、確かに試練場だ。お、スライム娘だ。いるいるぅ!)


 先ほど男が言っていた言葉が脳内で反芻される。

 俺が目覚めた時点で、俺以外の生物がこの部屋にいたか....?

 その事実を自覚した瞬間、恐ろしい想像が俺の脳を駆け抜けた。


 ――いやいやいや、まさかな。きっとここはモンムスの世界に似た異世界で、他にもプレイヤーがたくさんいて、その影響で2人づつチュートリアルを受けることになっていて、その説明を俺が聞き逃していて.......。


 ご都合主義なラノベばかりを読んできた俺の脳内には、俺に都合のいい妄想・ ・が垂れ流される。だがどこまで行っても妄想は妄想。

 現実ではない。


「嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろ――」


 きっとスライム娘は俺以外にいるんだ、部屋の中に元からいたけど俺が気づかなかっただけなんだ――


 そう言い聞かせながら室内を見渡すが、どこまで見てもこの部屋にいるのは進行役のチュートさん、主人公役の男、そして、俺だけ。

 目線を下に下げる。そこには、モンムスの初心者用狩場でよく目にした、青色がかった髪の毛と、スライム娘の初期装備である水色の布切れがあった。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ――誰か嘘だといってくれ........」


 そんな俺の呟きをあざ笑うように、男はニヤニヤしながら近づいてくる。俺は涙を目に溜めて、後ずさるしかない。

 完全に捕食者、被捕食者の関係だった。


 まさか被捕食者というのがここまで恐ろしいものだとは思わなかった。今まで俺はこんなことを、ゲームとはいえ平気でやってきていたというのか。しかも、殺す相手をあざ笑うように。


 まさに、目の前の男そのままだな――


 男が剣を振り上げる。

 最後の最後。俺を突き動かしたのは原始的な本能だった。


「うあああああああああ!」


 ――それは恐怖。

 生物なら誰しもが持っている、死に対する恐怖だった。







 実はチュートリアルでも出てくるスライム娘は、素早さだけはそこそこ高かった。それ以外の能力があまりに低いためゲーム内最弱娘といわれたが、実はすばやさの値においては初期状態のプレイヤーは及びもしない。

 それは、モンムスプレイヤーなら誰でも知る事実だった。


 しかし、スライム娘は組み込まれたAIによって、逃げるという選択をとることが極稀である。その上、チュートリアルでは絶対に逃げ出さないようになっているため、その素早さは忘れられることが多いのだ。


 さて、ここで質問。

 自分の知っているゲームに飛ばされた主人公が、一番初めに考えることはなにか。


 正解は、ゲーム知識チート。


 それなら、それに対する最も有効な攻撃は。


 正解は――ゲームにはない行動だ。



 なにが言いたいかというと。

 俺はその場からダッシュで逃げ出したのだった。






「はぁっ、はぁっ」


 試験場からわき目も振らずに逃げ出してから約15分間。

 その間、俺は一瞬たりとも停止することなく走り続けた。結果、うまく虚をつけたのか、唖然とするチュートさんおよび名も知らない男の横を走りぬけ、見事町から脱出することに成功した。


 そして、現在俺がいるのはゲーム序盤で初心者がお世話になるフィールド、アレン平原だ。ゲームだとフィールド間の移動は一瞬だったが、現実となった今では少し走らないと平原の入り口までたどり着けず、少し迷った。

 が、あまり離れてもいなかったのですぐに平原の入り口にたどり着くことができた。そして、フィールドが余りにゲームそっくりだったので驚いたのだ。


 急に切り殺されそうになったり、走って逃げてきたりしたが、まだ半信半疑だった。だって、ゲームそっくりな異世界に転移するのが許されるのはラノベの中だけだろう?

 だが、おかしなことかもしれないがフィールドの入り口を見て、ようやく俺は認めたのだ。



 ――ここが、モンムスの世界であると。

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