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「いや、騙されねぇよ!?」

どうしても、書きたかったんです。

例えこの話が、どれだけいらないと言われても。

 ごどん、という鈍い音で俺は飛び起きた。

 一瞬ここがどこかわからず呆然としてしまったが、すぐにここが馬車の中であると思い出す。確か、することも無いからと寝てしまったんだった。

 寝る前までは馬車は動いていたが、今はもう止まっている。たぶん、目的地に着いたのだろう。ベルはまだ寝ていた。


 鈍い音がしたほうを見てみる。

 音は馬車の外からしたらしく、ドアが開いていた。ドアから顔を覗かせて外を見てみると、そこには仰向けに倒れた若い青年の姿があった。なぜか鼻血を垂れ流している。


 青年は腰に剣を差しており、体には皮製と思われる鎧を着けていた。鎧はまだ新しく、買ったばかりだということが伺えた。

 もしかしたらプレイヤーかもしれないので、まずは剣だけを抜いて武装を解除してから頬をつついた。


「おい、大丈夫か?」


 何が起きるか分かったものではないので、念のために剣を構えて頬をつつく。

 5回ほどつついたところで青年が目を覚ました。


「う、うぅ.....」


 俺は1歩下がり、剣を首筋に突きつけてできるだけ鋭い声色で問いただした。


「お前はプレイヤーか?」

「....え?えぇ?」


 状況を理解できていないようで、しばらくはきょとんとしていたがすぐに何が起きているかを理解すると、腰にあったはずの剣に手をかけようとした。

 だが、そこにあるはずの剣はすでに俺の手の中にある。


 青年は悔しそうな歯噛みすると、俺の顔を見て急に何かに気がついたように口を開いた。


「あ!お前百合の奴隷......」

「奴隷?」


 俺は奴隷という耳になじみの無い言葉に反応する。

 それ以外にも何か言っていたような気もするが、気のせいだろう。


「ああ、お前ら奴隷にされるために拉致されたんだよ。まあ、モンスターだしもともと人権なんて無いから拉致って言うのか判断に迷うとこだが」


 いたって冷静な青年の言葉に、逆に俺がたじろぐ。

 つまり、この青年の言を信じるとするならば、俺は奴隷にされるために連れて来られたという事になる。まさか、剣を首筋に突きつけられている状況で嘘をつくわけも無いだろうし、十中八九本当のことだろう。


 俺だって、その可能性が浮かばなかったわけではないが......。

 ゲームでは奴隷制度なんて無かったし、まさか俺が奴隷にされるなんて、という希望的推測もあって考えないようにしていた。

 だが、認めなければいけないだろう。


「俺の帰りが遅かったら、すぐにほかの仲間が見に来る。すぐに剣を俺に返せ。この状況を見られたら、間違いなく仲間に殺される。

お前のためを思っていっているんだ。信じてくれ」


 心底俺のことを案じていることが声から伝わってくる。

 その目は、嘘を言っているようには見えない。


「........わかった」


 俺は少し逡巡したのち、剣を青年に返した。青年はその剣を受け取ると、刃をチェックしてから鞘に収めた。


 と、青年が俺に提案してきた。


「なあ、お前はこのことを俺の雇い主、奴隷商にチクられたらたぶん奴隷としての扱いが悪くなるぜ。だれかれかまわず剣を向ける野蛮人としてな」


 先ほどまでの誠実そうな顔は急激になりを潜め、真剣に思われた声はドスの聞いた声になる。

 青年のあまりの豹変振りに、理解が付いてこない。まさか、さっき言っていたことは嘘だったのだろうか。


 それに、悔しいことに言っていることは間違ってもいないだろう。確かに俺は知りもしない人に剣を向けるという、人としてあるまじき行為をしてしまった。今までここまで同じ人間に悪意を向けられたことは無かったため、こっちにきて人間に対する信頼がすべて失われていたというのもあるのだろうが――。


 どっちにしろ状況は変わらない。

 青年は俺が言っていることを理解したのを見届けると、話を続けた。


「つまり、お前はこのことを奴隷商に知られないようにしないといけないわけだ」


 ......つまり、何が言いたいんだ?


 俺に何かをしろと脅していることだけはわかるが、いったい何をすればいいかがまったく見えてこない。

 そんな俺に、青年は冷たく、小さな声で言い放った。


「.....もう一人の奴と、絡め」

「は?」


 声が小さすぎたせいだろうか、すこし変な言葉に聞こえてしまった。

 こんな状況で変な聞き間違えをするなんて、俺も馬鹿だナァ、アハハ。


「だから、もう一人の女と....その.....絡めと言っているんだ!何度も言わせるな、恥ずかしい!俺は!女同士で絡んでいる場面を見るのが!大好きなんだよ!」


 鼻から吹き出る赤い液体を乱暴に拭いながら叫ぶ青年へんたい。こいつ、もしかして――


「お前、百合好きかよ!いや、そうじゃなくて、そんなことできるわけ無いだろ!」

「なんだと!さっきのことをばらされてもいいのか!」


 ここぞとばかりに脅してくる変態。俺は反論することができない。


「大体、お前たちはすでに”そういう関係”なんだろ!知ってるんだからな!」

「ハァ!?そんな訳ないだろ!なんで俺とベルが絡んでることになってんだよ!」

「俺っ子かッ!ますます好みだ!」

「知るか!」


 やばい、こいつと絡んでるとSAN値がピンチになる。

 このままでは俺が恩人と.....その.....致すことになってしまう。どうにかしてここを切り抜けねば。

 だが、こいつとはなんだか会話にならないし、どうすれば......。


 俺が状況を打破する方法を考えて思考を加速させていると、向こうのほうから人影が近づいてきた。

 その人影はでっぷりと肥えており、明らかに行き過ぎた肥満体であることがわかる。しかも全身に趣味の悪いキラキラとした宝石を着けていて、装飾過多であるといわざるを得ない。


「おい、君。君は何をしているんだね?」


 青年の背後に近寄ると、男はまだ男に気がついていない様子で百合がどれだけいいものかを語っている青年に話しかけた。

 青年は話しかけられた瞬間こそビクッ、と肩を跳ね上げたが、話しかけてきたのが誰かを認識するとすぐになにかをまくし立てだした。


「ああ、奴隷商の旦那!さっきは話を聞き流したりしてどうもすんませんでした!俺が間違ってました!モンスターって、本当にいいものなんですね!俺はてっきりモンスターっつったらキメラみたいなもんだと思ってましたよ!

 いやぁ、考えてみれば女性体しかいないモンスターなんて百合の宝物庫じゃないですか!なんでそれに気がつかなかったんだろう!もう一度、もう一度俺と話し合いましょう!そうすれば俺も、あなたとモンスターのよさについて語り合える気がします!」


 正直、引いた。

 涙さえ流しそうな迫力で太った男にすがる青年の姿は、さながらダムにためられていた水がいっせいに放出されるかのような幻覚を見せる。

 青年が奴隷商の旦那、と呼んだことから、あの男は青年を雇ったたとい主である可能性が高い。

 仮にも雇い主である奴隷商に対してあんな態度をとってはまずいだろう。


 これには奴隷商もさぞかし腹を立てただろうな、と奴隷商の顔色を伺ってみる。

 案の定、奴隷商はその顔を真っ赤にして、怒って――いなかった。


 確かに顔を赤くしているにはしているが、それは怒りからではないようだ。


「う、うぅ.....ようやく......ようやく分かり合える人が現れた!私がモンスターのよさを肩ってもその話を聞いたものは皆顔を曇らせ、私から離れていくばかり!あれだけ美しく儚いモンスターのよさを、誰もわかってはくれなかった。

 なぜ、わからない!なぜ、私がその話を始めたとたんに皆は顔を曇らせ、目をそらすのか!ずっと私は一人で苦悩してきた!

 だがそれもこれで終わりのようだ!

 ようやく、ようやく分かり合える相手に出会えた!どうだ、後で私と飲み明かさんか!」


 泣いていた。

 目から涙を溢れさせ、腹の脂肪をたぷんたぷんと揺らしながら。


 話を聞くところによると、たぶんあの奴隷商はモンスター好きなのだろう。だが、この世界ではモンスターといえば疎まれ、嫌われる存在。

 そんなモンスターが好きな奴なんて、いくら金持ちでも触れたくはないはずだ。


 だが、あの奴隷商にとってはモンスターは唯一の心の癒し。

 そんなモンスターが蔑まれるのは、心が痛かったのだろう。


 誰にもわかってもらえない趣味、誰にも理解されない好み。


 それが、ようやく同じ志を抱くものに出会えた――。


 ああ、なんて、なんて素晴らしいこと――


「いや、騙されねぇよ!?」


 太ったおっさんと鼻血まみれの青年が変態的思考を共有できて泣き喚きながら人目も気にせず抱き合ってるだけだよね!?

 感動なんてしないよ!?

前の話の後半はこの青年視点です。

わかりにくくてすいません。

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