表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの女

作者: 益田米村

十日前

あの女を見た。


九日前

駅で見かけた。

向かいのホームに立っていた。


八日前

今度は公園で見かけた。

いつも赤いコートを着ている。

もう夏も近いというのに。


七日前

まだあの公園にいる。

普段は親子連れでにぎわう公園に、今日は何故か人気が無い。

ただ公園の真ん中にあの女が立っているだけ。

不気味だ。


六日前

別の場所で見かけた。

横断歩道の向かい側にあの女が立っていた。

やはり赤いコートを着ている。

青信号になっても動く気配が無い。

気味が悪いので、渡るのを避けた。


五日前

この日は雨だった。

車の運転中、あの女を見かけた。

視界が悪く、良くは見えなかったが、おそらくあの女であろう赤いコートが歩道にいた。

傘は差していなかったように思える。

すれちがう瞬間寒気がした。

あの女はいったい何者なのだろうか。


四日前

さすがに連日のように見続けるのはおかしいのではないか。

ただおかしな格好をした人というだけでは説明がつかない。

真夏に赤いコート。

長い黒髪で顔を隠している。

背はかなり高い方だ。

よくいるタイプの女性とは言い難い。

それを毎日見かけては、不気味に思うのも仕方が無いというものだ。


三日前

コンビニで立ち読みをしている時、ふと顔を上げると、店の前、駐車場の向こう側の道を、あの女が歩いていた。

周囲の人とは違う時間が流れているようなゆったりした動き。

手はだらりと横に下がり、歩行に合わせてゆらゆらと揺れていた。

ただ、顔だけは何かに引かれるようにしっかりと前を向いている。

あの女を凝視していたことに気が付き、慌てて手にしていた雑誌で顔を隠した。

気付かれてはいないだろうか。

恐る恐る覗いてみる。

もう女の姿は無かった。


二日前

初めて間近であの女を見た。

家に帰る途中、すれ違った。

というより、あの女の前を横切った。

電柱の陰にいて気が付かなかった。

思わず早足になったが、後ろから付いてくる気配は無い。

何かつぶやいていた気がしたが、聞き取る余裕はなかった。

それよりも、髪の間から見える口元が異様に赤く、異様に大きかったことが目に焼き付いて離れない。

急いで家に帰えると、すぐにドアに施錠し、全ての窓の戸締りを確認した。

見かける場所が少しずつ自宅に近付いているのは、気のせいだと思いたい。


昨日

この年初めての熱帯夜のせいで眠りが浅く、真夜中に目を覚ました。

汗だくの服を着替え、気分転換の一服をするためにベランダに出た。

いた。

マンションの下。

あの赤いコートがたたずんでいる。

思わず部屋に駆け戻り、ベッドの中に身を隠した。

引いたはずの汗が噴き出る。

間違いなくあの女だった。

身の危険を感じた。

明日朝一番で警察に相談しに行こう。


さっき

ふざけんな何でまだマンションの前にいるんだよおかしいだろあれか一晩中見張ってたっつーのか絶対危ない奴だあれやばい絶対にやばいうわこっち見てるもしかして入ってくるんじゃないだろうなやばいってホントやばいってどうしようあれかまずは警察に通報かマンションの前に変な奴がいるって言わなきゃな信じてもらえるかいや信じるな最近こういう変な奴よくニュースでやるし何か起きてからじゃ意味無いんだからきちんと説明すれば信じて助けに来てくれるはずだ警察が来ればさすがにどっか行くだろあれがやばい奴じゃ無いにしてもとりあえず警察が来れば俺の安全は保障されるよしそれだまずは警察に通報その前にいったん家に戻った方が安全かないつあいつがマンションの中に入ってくるかわかんなってうわ何だよ何だこの声やばいって何か叫び出したよ何する気だよ何で誰も出て来ないんだよ荒れ絶対やばい奴じゃんっておいおいおいおいもう入ってきてるじゃねえかやばいやばいやばい何でだどうやって入ってきたやばい逃げろ来い来い来い来いエレベーター何やってんだよ早く来いよやばいかこれやばいか階段で行くか階段の方が良いのかいや来るよしエレベーター来る来る間に合う間に合うよし来たしよしよし早く閉まれ早く閉まれ閉まれよおい来るってあいつ来てるってやばいやばい来てるすげー叫びながら来てる来てるよ早く閉まって早く閉まってよしよしよし閉まった良くやったエレベーター良くやったとりあえず6階までならこっちの方が絶対速い家入ったら速攻で鍵閉める鍵閉めるよしそんでチェーンだ二重だ二重なら大丈夫だろそんで警察だやばい奴に追われてるって変な奴が追いかけてくるって言って来てもらう鍵鍵鍵あったやばいやばい来てるか階段で来てんのかまあいい絶対に追いつけるわけ無いんだ6階着いたらダッシュして家入って鍵して通報よし着いた着いた6階着い・・・あ・・・いるじゃん・・・。






僕は彼女の中にいる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ