叔母と姪
3月始め、私は叔母と2人で心療内科へ来ていた。
月に1度の診察とカウンセリングの為。
暦ではもう春なのに、顔にあたる風は刺すように冷たい。
「まだ冬物のコートが丁度良いね」
駐車場から院内まで歩く中、叔母が微笑みながら話しかける。
「…舞子ちゃんみたいにマフラーしてこればよかったなぁ」
私が冷んやりした自分の頬を手で触りながら呟くと、
「もぅ! すぐに室内だからねっ」
舞子ちゃんはイタズラっぽく笑う。
その笑顔があまりにも可愛かったので、私も自然に笑顔になった。
叔母、野並舞子こと、舞子ちゃんは私のお母さんの妹さんだ。
30代で、バツイチ。
子供はいなく、大手の会社で管理職を任されるほどのキャリアウーマン。
見た目は若い頃に、地元ファッション情報誌の読者モデルをやっていた事をうなづけるような可愛らしさ!
今日のメイクや服装も、自分を綺麗に可愛く見せるにはどうすれば良いかしっかりわかってる…。
きっと、私より女子力高いんだろうな…。
私が中等部時代、まだ寮に入る前 2人で暮らしていた時の事を思い出した。
食生活、スキンケアなど色々アドバイスをくれて、私がおでこにできたニキビを気にしていたら、とてもよく効く塗り薬を買ってきてくれた。
院内の待合室は人も少なく、病院とは思えないようなお洒落な家具や大きな観葉植物がいくつもあった。
お水とお茶は飲み放題だし、マガジンラックは新聞各種からファッション雑誌、週刊誌、奥様用のお料理本、漫画など種類が豊富だ。
ちょっとしたカフェにも見える。
舞子ちゃんと私は診察券を受け付けへ出し、番号札を貰うと、診察室に近い可愛らしい濃紺の2人がけソファへ座った。
私はなんとなく、舞子ちゃんと暮らしていた事を思い出しながら待合室でぼぉーっとしていたら、
「紫、どうしたの?眠いかな…?朝早かったし…」
いきなり舞子ちゃんが顔を覗き込んできてびっくりしてしまった!
舞子ちゃんが心配してる様な表情だったので、私はあわてて
「大丈夫だよ‼︎全然眠くないしっ」
と首を横にぶんぶん振りながら言う。
「そう…よかった」
安堵の表情をうかべ、いつもの可愛い笑顔でニコっと微笑む。
つられて、私も笑顔になってしまった。
少し、間をおいて
「舞子ちゃんとさぁ、2人で暮らしていた時の事思い出してて。凄く楽しかったなーって」
心配させまいと、ぼんやりとしていた事の理由を少し力を抜いた感じで説明する。
だが、舞子ちゃんは意外にも無反応だ。
下を向いたまま、じっとしている…。
⁇⁇
聞こえてなかったのかな?
それとも、何か気に障る事を言ったりしてしまったのだろうか?
恐る恐る、声をかける。
「舞子ちゃん…?」
反応はやはりなかった。
ずっと下を向いたまま…
私はわけわからない状態だったが、もうそろそろ診察呼ばれる時間なので舞子ちゃんの方へ向いていた体を真っ直ぐに座り直した
その瞬間、
グイッと手をつかまれた。
「紫…」
声で、手の主は舞子ちゃんだとわかった。
しかし、
「番号札、26番ご予約の伏見さん 診察室へどうぞ〜」
看護師さんが診察室から出てきて私の名前を呼んだ。
すぐに、舞子ちゃんは手をはなした。