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お泊まりイベント(2)――望まれないご都合主義――


「いやー、熱戦で暑い暑い」


 誰ともなく言いながら、小葉子はブラウスのボタンを外して、襟をはだける。


「そんなに暑いか? あいにく、うちはまだ扇風機も出してないんだが」


「いいよそんなの。いやー暑い暑い」


 女の子座りをしたまま、今度はスカートの裾に手をかける。


 するする、するすると裾が持ち上げられ、小葉子の太ももが見えてくる。


「小葉子さんやめてください。フミヤさんの目つきが、どんどんやらしくなっていくじゃないですか」


「だってさー、女の子を連れ込んどいてゲームだけやってさよならなんて、そんなのないでしょ」


「連れ込むっていうか、お前の方から勝手にうちへ来たんだろ」


「余計に幸せものよ!」


 小葉子はゲームのコントローラーを投げ出す。


 そして床に倒れ込み、仰向けになって俺の方を見る。


「ねえ、こんなに美味しい展開って普通はありえないものだって気づかないの?」


「どういう意味だよ」


「わたしや緑奈は女の子なんだよ。部屋に連れ込んだら、まずはゲームでもやって緊張をほぐして……それに飽きたらさ、押し倒しちゃえばいいんだよ」


 押し倒すまでもなく、小葉子は自分から倒れている。

 両腕は力なく投げ出され、目はトロンと甘えるようにして俺を見る。


「男の子が相手ならゲームだけやって終わりでしょ。でも女の子が相手なら、それ以外のことがあるんだよ。主にムフフな何かが」


「ムフフってなんだよ。とにかく姿勢を直せ。起き上がれって」


「そうはいかないよ!」


 小葉子は寝転がったまま緑奈の腕を引っ張った。


「ちょっと小葉子さん。わたくしもやるんですか」


 緑奈は困ったようにチラリと俺を横目で見てから、床に横たわった。


 そして両腕は無抵抗を示すかのように左右に投げ出される。


 ブラウスの襟もいつの間にかはだけていた。

 頬を染めながら俺の方を見て、もどかしそうに膝と膝をすり合わせる。


「フミヤさん……小葉子さんが無理やりに」


「嘘つけよ」


「でもわたくし、フミヤさんが望むなら……」


「待ってくれって。こんな展開、急過ぎるだろ。それに今は三人で居るんだしさ」


「二対一っていうのも、ありじゃないの」


「ねえよ」


 ゲーム画面はさっきから放置されていて、薄暗い画面に「3-3」と表示されたまま、試合再開ボタンが押されるのを待っている。


 目の前では緑奈と小葉子が横たわり、「来て」とばかりになまめかしい目で俺を見つめている。


 今日の昼までは、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。


 もし母ちゃんが居なかったら、俺もどうなっていたか分からない。


「フミヤー。ちょっとフミヤー」


 突然、母ちゃんが俺を呼んだ。階段の下からだ。


「なんだー」


 俺は階段の上から顔だけ見せて応じる。


「おばあちゃんが具合良くないっていうから、ちょっと行ってくるわ」


「マジかよ」


 俺のばあちゃんは自転車で二十分ほどの距離に住んでいて、独り暮らしなのもあり、母親がたまに様子を見に行っている。


「待ってくれよ母ちゃん。何もこんなタイミングで……」


「今夜は泊まりになると思うわ。夕飯は、テーブルに二千円置いとくからね。お友達にごちそうしてもいいわよ」


「いや、夕飯前には帰ってもらうつもりなんだけど」


 俺が言うのも虚しく、玄関の扉は閉まり、母親は自転車に乗って軽快に走り去ってしまった。



「フ・ミ・ヤ」

「フ・ミ・ヤ・さんっ」


 語尾にハートマークでも付いてそうな言い方だった。


 振り返ると、二人が顔もくっつかんばかりに寄り添って、俺を見ている。


「今日、帰り遅くなっても構いませんよね。お母さま居ないんですし」


 明らかに邪心を秘めつつも上品っぽく笑って見せる緑奈と、


「むしろ泊まっていってもいいよね」


 ニシシシシ、と歯を見せていたずらっぽく笑う小葉子だった。




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