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続・ぬれぎぬ――みんなの学びの空間で(1)――

 そしてまた昼休み――。



 俺は一人で学食に行くと、さっさと昼飯を済ませる。


 先日は緑奈たちと学校裏の公園でピクニック気分の昼休みを過ごしたが、緑奈と小葉子が悪ふざけをして追いかけっこした末に、誤って池にドボンしてしまった。


 しかも俺だけでなく、水沢さんまで巻き込んで……。


 あれ以来、昼休みは一人で過ごすようにしている。

 緑奈と小葉子も反省しているから、俺の提案に従ってくれている。


 どうせなら一緒に学食へ行く友達でも居ればいいんだけど、もうあきらめた。



 昼飯を終えて俺は、教室の前まで来た。


 中に入ると、小葉子が俺の机の引き出しに何かを入れている。


「何してた?」


 窓際の席まで歩いていき、声をかける。


「べつに」


 小葉子は知らんぷりして自分の席に戻った。


 絶対に何かあるが、めんどいし、無視しよう。


 そうするうちに緑奈が教室に戻って来た。


 小葉子と目が合うと「戻ってたんですね」「うん」などと、あいさつ程度に会話をしている。


「緑奈はさ」


 俺が声をかける。


「どこで昼飯を食ってるの? 学食にも居ないけど」


「中庭のベンチです。あそこなら一人でも浮きませんので……。教室はにぎやかですし、みなさんお友達が居ますから」


 なるほど。教室に一人で弁当を広げると、友達居ないやつって思われて恥ずかしいわけか。


「そうなんだよね。わたしも最近は中庭」


 小葉子が頭の後ろに腕を組んで、気だるそうに同意した。


「なんだ、小葉子も中庭か。それなら緑奈と二人で食えばいいじゃないか」


「なんでです?」


 緑奈がポカンとした顔で、俺を見ていた。


「え? だって、二人とも中庭がお気に入りなら、一緒に昼飯を食えば問題ないじゃないか」


「それって変ですよフミヤさん。わたくしと小葉子さん、お友達でもないのに」


 俺はずるっと足を滑らせそうになった。


 緑奈と小葉子は、友達じゃない?


 冗談かと思えば、小葉子も「変なフミヤ」と真顔だ。


 あっそう。そうですか。それならもう何も言わないけど。



「ところでさ」


 机で頬づえついた小葉子が、俺に言う。


「午前中の世界史の授業、よく分からなかったんだ。ノート見せてくれない?」


「ああいいぞ。えっと、確かこの辺に……」


 俺は机の引き出しに手を突っ込んだ。



 バサバサ。



 すると、見慣れない物が床に落ちる。


「朝の下駄箱といい、今日はよく物が落ちるな。って、なんだこれ」


 俺が拾い上げたのは、硬くて重い、50センチくらいのステッキ。


 バトミントンのラケットみたいな持ち手が付いていて、先端は黒くて細長いヒモ。


「なんだろうこれ。お、先がしなる……」


 竹でできた定規みたいに、先がビヨンと曲がる。


「ふ、フミヤ……そそそ、それは……」


 展開にデジャビュを感じつつ横を見ると、小葉子が青ざめていた。


「今度はどうしたんだよ?」


「どうしたって、見て分からないの? ムチよ! それはムチよ!」


「ああ、これがムチってやつか。お前、よく分かったな」


「まだ何かあるんじゃないの?」


 小葉子が断わりもなく俺の机の中をのぞき込む。机の側面と俺の腹の間は、頭が一つぎりぎり入るぐらいだ。


「こここ、これは!」


「……まだ何かあるのか?」


 小葉子の後頭部を見ながら俺は聞いた。ツインテールの分け目がすぐ目の前だ。


 やがて顔をあげた小葉子が、スルスルと、細長いものを引っ張り出す。


「それは一体、なんですの?」


 緑奈が聞いた。


「ロープよ、ロープ!」


 見てすぐ分かる通り、それは確かにロープだった。


 しかもなぜか蛍光ピンクで、素材は妙に安っぽい。

 そしてさっきまで「新品未開封」だったかのように綺麗なピンク色だった。


 俺の机の引き出しに、ムチとロープが……。


「どうしてこんな物が、フミヤさんの机に入っていたんでしょう?」


 怪訝そうに緑奈が、その二つのアイテムを見つめている。


「さあな」


 俺は溜息をしながら、ドカンと椅子に座り直した。

 時計を見ると、まだ昼休みは半分近く残っている。


「フミヤ、このロープでわたしか緑奈を縛ろうというんでしょ?」


 小葉子がピンク色のヒモを掲げて言う。


「いやいや。そんなことあるわけないだろ」


 俺が真顔のまま淡々と述べると、小葉子はロープをまじまじと見つつ、


「この細いロープがきつく結ばれて、わたしに食い込むの? それとも緑奈に? フミヤったら、なんてこと考えてるの! この変態!」


「だからそんなこと考えてないって。っていうかお前が用意したんだろそれ」


「黙れ!」


 小葉子が先ほどのムチで机を叩きつけた。


 ビシィ!


「うぉっ」

「「きゃっ」」


 ムチが机にヒットし、大きな音が教室に響く。


 その音がリアルに痛そうな音だったので、俺たちは思わず声をあげてしまった。


 教室内のみんなもびっくりして、こっちを見てくる。


「あわわ……どうしよう」


 黒くて硬くて細長い物体を持った小葉子が、あわわとたじろいでいる。


「バカ。みんな見てるぞ」


 俺は小葉子の手を引いて教室を出て行く。緑奈もロープを持ったままついてきた。




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