ぬれぎぬ――終わらないブルマの呪い(1)――
翌朝の通学路――。
校舎が遠くに見えてきたところで、緑奈に出会った。
「おはようございます、フミヤさん」
黒髪ロングに、黒いフリルのあしらわれたカチューシャ。
ニッコリ微笑んで、風が髪をなで上げる姿は、まさに清純ヒロインって言葉がぴったりだ。
「お、おはよう」
そのあいさつは俺に向けられたものだった。俺は朝の低い声で、返事をする。
「教室まで、一緒に参りましょうか」
「そ、そうだね」
通りすがりの生徒たちが、チラッとこっちを見てから、追い抜いていく。
緑奈があまりに美しいから、つい見てしまったのか。
あるいは、一緒に居る男が平凡過ぎるので、二重に驚いたのか。
(なぜこんな美少女が、こんな男と?)
って、思われてると思う。
俺だって不思議だ。
俺は緑奈と、今日の天気とか、授業の内容とか、とりとめもないことを話しながら学校に着いた。
昇降口まで来ると、小葉子が居た。
ピンと張ったツインテールにオレンジ色の紐リボンがあしらわれた、小顔の美少女。
「おはよっ。フミヤ!」
小葉子は俺を待っていたみたいで、こっちに気づくと笑顔になって声をかけてくる。
緑奈一人でもすごいのに、小葉子までもが俺を好いてくれている。
緑奈と小葉子が、美少女ゲームのヒロインを具現化したような女の子というのなら、さしずめ俺は、ハーレム作品の主人公を具現化したような平凡男子だ。
運だけで成功している、というのだろうか。自分で言うのも悲しいけど。
「今朝は、塚地さんも一緒だったんだね?」
小葉子は、俺の隣にいる緑奈を見た。機嫌を悪くするかと思ったら、なぜかそうでもない。
「塚地さん、おはよう」
「おはようございます。わたくし、抜け駆けのつもりじゃなくて、今朝はたまたまフミヤさんと一緒なだけなんですよ」
緑奈が事情を説明しても小葉子は笑顔のままで、
「うん、いいんだよ。それに、塚地さんも居た方が都合いい……」
ここまで言って「しまった」と、小葉子は口をつぐむ。
「都合いい? 何がですの?」
「うんん。何でもない」
二人のやりとりを見ながら、俺はとりあえず下駄箱まで行く。
校舎に入る前は、上履きに履き替える。当たり前のことだ。
自分の下駄箱(というかロッカー)の前まで来て、小さなドアに手をかけた時、横の視線に気づいて手が止まる。
「……どした小葉子?」
小葉子がこっちをジーッと見ていた。
男子の下駄箱だけがズラッと並び、女子の下駄箱は、反対側にある。
緑奈もそっちに行っている。
それなのに、小葉子は俺のすぐ横に立ってこっちを見ていた。
よく見ると小葉子の足は既に上履きに履き替えている。
もしかして、だいぶ先に着いて、俺が到着するのを待っていたのだろうか。
「なんでお前は、ニコニコしながら俺が下駄箱を開けるのを見ているんだよ?」
そう問うたが、小葉子は笑顔のままフルフルと首を横に振るだけだった。
「……変なやつだな」
俺は呟き、ロッカータイプの下駄箱を開けた。
バサバサ。
「ん? 何か色々と落ちてきたぞ?」
下駄箱を開けた瞬間、カラフルな布が落ちてきた。
赤、緑、紺色……ボーダーカラーのもある。
「キャーーーー!」
小葉子が悲鳴をあげた。
「フ、フミヤ……あんたどうしてそんな……ブルマなんか下駄箱に集めてるの」
「は? ブルマ?」




