プロローグ――春休み明けたらハーレム展開――
全15回程度の掲載を予定しています。面白そうでしたら、続きも読んでやってください。よろしくお願いします!
自分は恋愛ゲームの主人公になってしまったんじゃないかと思う時がある。
俺は今年の春、高校二年生になった。
それまでは実に平凡な、ごくごく普通の男子高校生だった。
身長だけは175あるが、カッコいいとか、「イケメン」だなんて言われたことはない。
勉強もスポーツも普通で、特に芸術センスがあるといったわけでもなかった。
それが高校二年生になって数日した時のこと。ついさっきのこと。
教室にて、美少女二人が俺――永堀フミヤをめぐって言い争いをしていた。
「フミヤさん、小葉子ちゃんとキスしたって噂は本当なんですか!」
黒いロングヘアーの、清楚な雰囲気の美少女が俺に言った。
名前は塚地緑奈。
この子とは高校二年の新学期初日の朝、学校へ行く途中に道ばたでぶつかったのが最初の出会いだった。
そんなに気に入られるほどのことをした覚えはないが、なぜか出会って数日で、俺に近寄る能見小葉子にやきもちを焼くまでになっている。
「ほんとだよね、フミヤ! 塚地さん、フミヤはわたしと結婚するんだから、早くあきらめて他の男を探しな!」
高校生にもなってツインテールがばっちり似合っちゃってる美少女が言った。
名前は能見小葉子。
こいつとはやはり高校二年の新学期初日、たまたま隣の席になったのが出会いだった。
こんな美少女が俺なんかと口を利いてくれるとも思わなかったが、どういうわけか、数日して、同じクラスのもう一人の美少女、塚地緑奈にやきもちを焼いている。
もちろん俺はキスなんかしていない。
新学期が始まる前の春休みだって、遊ぶ友達も居ないから、家で一人、恋愛シミュレーションゲームをやったり、ライトノベルを読んだりしていた。
一人でニヤニヤしながら「自分の高校生活もこうだったらな」と、そんな妄想ばかりして、現実の恋愛と向き合おうとはしなかった。
それから数週間も経っていないのに。
塚地緑奈と能見小葉子。クラスで一、二を争う美少女が俺をめぐって争っている。
「フミヤさん、わたしとだったら、キスできますよね?」
緑奈が言った。
「フミヤ、わたしとだったら、キスどころか、結婚だってできちゃうよね」
小葉子が言った。
「二人とも、落ち着けって」
「「チューしてくれるまで落ち着かない!」」
二人が声をそろえて、強く迫ってきた。
それなのに、俺は教室から逃げて行方をくらませることしかできなかった。
今はこうして、静かな図書室に安息の場所を求めては、「はぁ」と溜息をついている。
どうしようもないヘタレだ。
俺は彼女たちがどうしてこんなに俺を好きになったのか分からない。
春休み中にさんざん読んだライトノベルによると、こういうのを「ハーレム展開」というらしい。
俺は特にカッコいいわけでもない。勉強もスポーツも、芸術も、すべてにおいて平均かそれ以下だ。
きっと俺は、運だけで彼女たちから好かれているんだ。
だから「自分は恋愛ゲームの主人公になってしまったんじゃないか」と思うのだ。