起
「なあ、文化祭、何出す?」
晃一は、机の上に足をのせ、椅子を揺らしながらのんきに漫画をめくっている伸介に声をかけた。
少子化のあおりを受けて使われなくなった北校舎の隅っこの一室に、新聞部の部室はある。そこにいるのは、部長である晃一と、副部長である伸介の二人きりだ。後四人、いることはいるのだが、部の存続の為に頼み込んで名前だけ借りている連中なので、この部室に姿を現したことは、一度もない。そして、連日ここで漫画を読みふけっている伸介も晃一に付き合って顔を出しているだけで、新聞部員としての情熱は欠片も持ち合わせていない。
「あと一ヶ月だろ? そろそろ本腰入れないと間に合わねぇよ」
ネタ帳をパラパラとめくってみても、最近の校内の話題でめぼしいものはない。
地味な新聞部にとって、文化祭は一大イベントだ。ここで脚光を浴びておけば、配ったばかりの自分達の力作がゴミ箱に山盛りになる様を、しばらくは、見なくて済むようになる。それに、三年生の彼らにとって、これが最後の文化祭なのだ。せっかく晃一が立ち上げた大事な新聞部は、今、存亡の危機にある。二人以外の幽霊部員四名も同学年だから、はっきり言って後がない。卒業する前に、何としても人数を増やしておかなければならないのだ。
晃一はネタ帳を放り投げて伸介に目を向けた。
「なあ、伸介、聞いてんの?」
「ああ? そうだなぁ、サッカー部のエースとそのマネージャーのスクープとか」
そう答えた友人の目は、漫画に釘付けだ。
「そんなの皆知ってるだろ」
「じゃあ、『衝撃! 学校裏サイト』とか」
「取材もクソもないだろ。ただネット覗くだけじゃんか」
「ナンだよ、ケチ付けるだけか? 少しは自分でも考えろよ」
漫画をバサリと机の上に放り投げた伸介が、呆れたように晃一に返した。晃一は、クルリクルリとシャープペンシルを回しながらぼやく。
「んなこと言ったってさぁ、もっと、こう、すげぇの無いんかなぁ」
伸介はしばらく椅子を揺らしていたが、不意にピタリと動きを止めた。
「なら、とっておき。町の外れにさぁ、古くて大きい家があるだろ? 何十年も前――下手したら百年単位で建てられたってことなんだけど、何度も何度も住む人が変わってるんだってさ。しかも、何日も持たないんだと。で、それなら壊しちまおうって話も出たんだけど、何故かその話も潰れちまう」
もったいぶって声を潜めた伸介に、晃一はガバリと身を乗り出す。
「それ、面白いな。『潜入! 幽霊屋敷の謎を追え!』か」
「な? いい感じだろ?」
「ああ……行ってみようぜ」
「いつにする?」
伸介に訊かれ、晃一は腕を組んだ。
「そうだなぁ……やっぱり夜がいいよな。その方が雰囲気出るだろ?」
「ああ、いいな」
「よし、じゃあ、今度の金曜の夜にするぜ」
晃一のその言葉に、伸介もニッと笑って応じた。