序
窓の向こうで点滅する、赤い光。 クルクル、クルクル、光り続ける。
おいでおいでと招いているようだ。
ここなら安全だよ、と。早く戻って来いよ、と。
いざなわれるままあそこに行けるというならば、どんなにいいだろう。自分こそが、もっとも、それを望んでいる者だ。
彼は冷たい窓に縋りつく。曇り一つないそれは、さながらじわりじわりと冷やし固めた氷のようだった。
窓の外に集う人々はきっと声高に呼び合い、こちらを指さす人さえもいる。
だが、その喧騒は、一つもここには届かない。
ああ、何でこんなことになってしまったのか。
彼はガラスに額を押し付け嘆く。
何故、こんなことになってしまったのか。
何故、こんなことを招いてしまったのか。
後悔は、決して行為の前に訪れることはない。
だから、彼は後悔していた。
バカな選択をしてしまったことを。
もっと、違う道を選ぶべきだった。
心の底から、そう思う。
もしもやり直せるものならば、きっと、あの扉を開けることなく踵を返し、尻尾を巻いて逃げ出している。
だが、そう。
それは、不可能だ。
そして、あの時あの選択をした彼は今、後悔しているのだ。