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俺と許嫁  作者: シラバス
9/13

共同生活は危険が一杯(1)






 ドタバタしつつも何とかゴキブリを退治した俺は寝袋を借りる為に藤田にアパートまで来て貰った。


 しかし家に入った瞬間、三塚由奈を見た藤田は口に銜えていた煙草をポロッと落としそうになるし、見た目金髪ヤンキーな藤田を見た三塚由奈は恐怖で凍りついた。


 取り合えず立ち話も何なので、硬直している二人に声を掛け、部屋に入りテーブルを囲む状況まで扱ぎ付けた。



「……」

「……」

「……」



 はい、沈黙が痛いです。


 まあ、なんでなのか大体の想像は付くけどね。ここはどう見ても俺が話を進めるべきだろう。









「藤田、寝袋持ってきてくれた?」


「いやいやいやいや、言うべき事は他に在るだろう!?」



 話を進めようと思ったら藤田に突っ込まれた。


 あれ?取り合えず本題からと思ったが違かったのかなと思いつつ、ちゃんと寝袋を貸してくれた藤田。やさしいね。



「この人は何処の誰だよ!? いつ、西城に、そんな関係の女性が出来た!?」



 言いながら藤田は視線を三塚由奈に移す。


 その瞬間三塚由奈は藤田に視線を合わせない様にササッと顔を逸らした。やはりヤンキー顔の藤田に目を合わせるのは怖いらしい。


 藤田の顔は初見だと怖くて見られない人の方が多い。よく見ると俺と丘村を含む三人の中で一番カッコ良いと思うけどね。


 一度だけ、すれ違った子供に指を指されて泣かれたのは俺と丘村の中で藤田を弄る爆笑の鉄板ネタとなっている。



「あー、そっちかー」


「この状況でそれ以外の何処に気になると言うんだ!?」


「寝袋を持って来てくれているか、とか?」


「それはもう良いっつーの! 良いよ、好きなだけ貸してやるよ!! それより説明しろ!!」


「……藤田、なんか無駄に熱いと言うか、切羽詰まってない?」



 何だろう、妙に普段の藤田のキャラからかけ離れ過ぎている様な……。三塚由奈も大声をあげている藤田に驚いているし。



「西城、俺達は丘村を含めて四年……いや三年と半年の付き合いだ。」


「……? そうだな」


「いいか? 西城、お前はモテない。いいか?モテないんだ!」


「否定できないが、何故二回言った?」



 重要な事なのか? それは重要な事だから二回言ったのか?


 しかし俺がモテないと言うのは事実なので反論できない。俺自身が恋愛に興味がなったからというのもあるが、学力も運動能力も顔もたいした特徴が無い俺は女性からモテようが無いのだ。積極的に女性にアピールする性格でも無いし。



「生活の中に女っ気が全くないお前が、就活が終わり、夏季休業が始まるというこの時期に家で女性と二人きり……、正直俺はへこんでいる」


「完全に僻みだよな」



 まあ、藤田や丘村に彼女が出来たら俺も同じ反応するかもしれない。


 現状、俺と三塚由奈はそんな関係では無いので濡れ衣と言うか、邪推されていると言うか、とにかく勘違いされているのは分かった。



「……で、何処で騙して誘拐したんだ?」


「三年と半年の付き合いで最終的な解釈がそれかあああああ!?」



 その結論はあんまりだ。


 ていうか、さっきから遠回しに俺が三塚由奈と一緒に居るのが意外という反応を通り越してこの世の終わりのような反応をされている気がする。



「まあ冗談はこれくらいにして……っと」



 藤田は煙草に火を付け、煙を吐きながらそう言った。


 どうやら途中から遊ばれていただけらしい。何処までが冗談で何処までが本気かは分からないけど。



「結局、俺や丘村達の知らない所で上手くやっていたという解釈で良いのか?」


「うーん、改めてちゃんと説明しようとなると難しいな」


「何でだよ?」



 何から説明しようか考えていると先程からずっと黙って俺達の会話を聞きながら座っている三塚由奈に気が付いた。



「ああ、三塚さん、コイツは俺と同じ大学で友人の藤田ね」



 よくよく考えたらお互いを紹介していない事に気が付いた。三塚由奈も俺の意図に気付いたのか藤田に向かって自分から名乗った。


 ……まだ藤田の顔に目線を合わせられないみたいだけど。



「三塚由奈です。宜しくお願いします」


「あ、俺は藤田 亮って言うんだけど……、まあ藤田で覚えてくれ」


「んで、自己紹介が済んだところで藤田は許婚ってどう思う?」


「……はあ?」



 お互い名乗ったのが功を奏したのか、若干雰囲気が柔らかくなった気がする。


 そのままの勢いで此処最近の出来事を三塚由奈にも協力して貰ってなるべく詳しく藤田に説明した。


 藤田は終始訝しんだ表情を崩さなかったけど三塚由奈も説明や補足を入れてくれたりすると少しずつ信用してくれるようになった。










「そして今日が共同生活初日で、さっき布団が一組足りない事に気付いて今に至る」


「マヌケ」


「うるさい」



 最後まで聞いた藤田は短くなった煙草を携帯灰皿に入れて新しい煙草を取り出した。



「……一応最後まで聞いたけど、よくそれで共同生活する事になったよな。そこがビックリだ」


「まあ、半年は猶予が出来るし、親の意図が不明だからな」


「西城の親はともかく、三塚さんの親は?」


「……私の親も今聞くのは無理ですね」


「じゃあ現状維持しか無いな。少なくとも一ヶ月後には聞き出せるんだろうし、それまでは適当に生活するしかない。両親同士で洒落にならない約束事もあるかもしれないし」


「洒落にならない約束事?」



 三塚由奈が小首を傾げながら疑問の声をあげる。


 藤田は少し考えた後――



「金銭関連とか?」


「ええー? 娘をあげるからお金頂戴ってやつ? 立派な犯罪だろ、それ」


「それはないです」


「まあ冗談だからな。実際俺達が考えても答えは出ねえ。今のはそんな約束が裏で会ったのかもってだけの推測の話だ」


「うーむ、あの親父がそんな黒い事出来る様な性格とは思えないけど」



 その後も推測や憶測の域が出ない話が幾つか出たが、最終的に一ヶ月後に本人に聞くしかないと言う事になった。


 一息ついたところで藤田が深い溜息を吐いた。



「俺は西城の惚気話しを聞く心算だったんだがなあ……」


「悪かったな、予想と違ってて」


「いや、寧ろ心の底から安心したわ」


「どういう意味だ!」



 それはあれか、俺にそういう女性が現れることは絶対に無いと言っているのか?


 あり得なくないと思ってしまう自分が恨めしい。


 また煙草が短くなってきたところで藤田は腕時計で時間を確認した。俺と三塚由奈もつられて時間を確認する。



「――っともう八時か、ちょっと長居し過ぎたかな。そろそろ帰るわ。」


「そうだな、俺もお腹が空いたよ」


「……事情を知っちまったからな、何か困った事があったら言ってくれ。出来る範囲で手助けしてやるよ」


「おお、本当か!」



 その後、三塚由奈は晩御飯の準備をして俺は藤田を見送るために玄関まで付いて行った。


 ドアノブに手を掛けたところで藤田は此方を振り返った。



「しかし、男と女が共同生活って幾ら家族公認でも問題在りだな」


「そうなんだよなー。だから色々対策を――」


「お前の事だ、二人暮らしでも相手に無理やりって状況は百パーセント無いだろうけど、お前が考えているより女との共同生活は大変だぞ?」


「信用されているのか貶されたのか微妙な気分だけど、心に刻んでおくよ」


「まあ、頑張れ」



 藤田は困ったような、同情しているようなどっちつかずの表情を俺に向けたあと帰って行った。


 藤田には実家に姉がいた筈なので俺と三塚由奈の共同生活がどうなるのか、在る程度予想が出来ているのかもしれない。


 和室の方へ戻ると三塚由奈が料理を丁度並び終えたところだった。


 今日買ったばかりの食器に簡単で良いと言ったにも関わらずそこそこ手の込んだおかずが盛りつけられている。



「あ、西城さん。今並び終わりました」


「うん、ていうかいきなり友人を読んだりして御免。驚いたでしょ?」


「いえ、明日は我が身ですから」


「え?」


「藤田さんのあの様子だと、私の友達にも許婚の件は黙っていた方が良いのかなと」


「そうか、三塚さんにも友達がいたんだっけ」



 何より説明に時間が掛かる。


 今回は俺の説明というより、三塚由奈がいたから藤田も信じたのだろうが、立場が変わった場合、三塚由奈の友人に俺が説明してどれだけ信じても貰えるのだろうか?


 下手したら友達が変な男に騙されているとか判断されるかもしれない。





 成り行きで始まった共同生活だが、前途は多難だ。


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