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俺と許嫁  作者: シラバス
11/13

共同生活は危険が一杯(3)






 今、どういう訳か目の前に三塚由奈が寝ている。


 朝とはいえ季節は夏、若干蒸し暑い所為かお互い汗をかいている。それがまた何とも言えない女性特有の色気を――



――ってそうじゃないだろ!!



 とにかく落ち着いて状況を整理しよう。


 一つ、何故か和室で寝ていた筈の三塚由奈が俺の寝ていた洋室に来ている。


 二つ、俺が寝たのは深夜三時頃。


 三つ、和室と洋室を仕切る襖が開いている。



 ……状況を整理して考えても答えは出なかった。


 どちらにせよこれは拙い。唯でさえ寝不足の中、朝っぱらから俺の精神を抉るこの状況を何とかしないといけない。


 というか起きた瞬間目の前に女性がいましたなんて俺が生きてきた人生の中で一度も無かったので心臓に悪い。


 しかし気持ち良さそうに寝ている三塚由奈を起こすのは悪い気がしたので、俺は静かに起き上がり洋室から出た。



「……朝食作るか」



 だが俺はご飯とみそ汁と目玉焼きの様な簡単な物しか作らない。料理はするが余り手の込んだ物は作れないし、朝はこれくらい軽い物で十分だからだ。


 顔を洗うついでに洗濯機も回し、新聞を取ったりといつもの朝の日課を手早く終わらせる。


 そんな事をしている内に三塚由奈が目を覚ました。


 目が在った瞬間に慌てた様子で話しかけてきた。



「す、すいません!! 私、ひょっとして寝坊しました!?」


「いや、まだ七時半くらいだから寝坊って程じゃないけど……、ていうか気になる事はそこなの?」



 共同生活をする関係で三塚由奈が家事は自分の仕事だと感じて言ったのなら俺は気にしていない。


 そもそも俺は三塚由奈に家事を強要している訳でもないし、そこは分担制で良いと思う。


 そんな事より洋室で寝ていた事に関して何も無いのが気になる。



「和室で寝ていたのにどうして洋室に? 朝起きた時凄く驚いたんだけど」


「……朝早くに目が覚めたので、朝食とかどうしようかと西城さんを起こしに行ったのですが、洋室が涼しくて、気持ち良さそうに寝ている西城さんを見ていたら眠くなっちゃって」



 洋室の方が涼しいのは多分俺が冷房を切らずに寝てしまったからだ。


 三塚由奈が朝早くに起きたという話は特におかしいとは思わない。俺のお祖母ちゃんが住んでいる地域、まあ直球で言えば田舎だが、そこ住んでいる人の殆どは早起きだから三塚由奈がそうだったとしても別に驚かない。


 生活習慣というものは中々抜けない物だから、普段のように今日も早くに起きたのだろう。



 それは良い、問題は――



「俺の横で寝た意味は? 一応俺も男なのですが」


「西城さんは安全だと弟さんと御婆さんが言ってましたし――」



 何故に此処で哲史とお祖母ちゃんが出てくる?


 多分三塚由奈と初めて会った日に一緒に食べた夕食、あの時俺がいない間に三塚由奈とお祖母ちゃんが色々吹き込んだのだろう。哲史から吹き込まれたとしたらタイミング的にあの時しか無い。やはりあの時に哲史を帰らせるべきでは無かった。


 俺がそんなふざけた事を抜かす哲史へどう復讐するかを考えていると三塚由奈は言葉を続けた。



「あとは、西城さんは兄と同じ雰囲気を出していますから、親しみ易いのかもしれません」


「んん? お兄さんがいたんだ?」


「……はい」



 よく考えたら俺は三塚由奈の家族構成も知らなかったな。


 兄に雰囲気が似ているねえ……。少し腑に落ちないところがあるが、三塚由奈が俺に対して無防備な理由の一端が見えた気がした。


 しかし三塚由奈の兄に対する話題で何か忘れているような、気付かないような、喉に魚の小骨が刺さっているような些細な違和感があったのだが、気のせいだと思い気にしなかった。



「とにかく朝食を作ったから食べちゃおうよ」


「はい」



 そう言って俺と三塚由奈は食事の席に着く。


 折角なので家事の役割分担等を話し合った。俺が思っていた通り三塚由奈は家事は全部自分がやるつもりだったようだ。意外そうな顔をされたが特別な事が無い限りは分担通りに家事を行う事に決めた。


 洗濯なども対応に結構困るが、お互いの下着以外は特に気にせず纏めて洗うことになった。



「共同生活で決めなきゃいけない事って結構あったね」


「家事は全部私がやっても大丈夫ですよ?」


「それじゃ悪いし、三塚由奈さんも何かやりたい事をやれば良いよ」


「やりたい事?」


「もうちょっとで夏季休業だけど、俺は課題の関係で大学に行かなきゃいけないし、その日は三塚さんも暇でしょ? 何かない?」



 これは共同生活が始まる前から考えていた事だ。


 今は夏季休業も近いし、夏季休業中は俺も三塚由奈の相手を出来るが、大学がある日などは一人になってしまう。出来ればやりたい事を見つけて有意義に過ごして貰いたい。


 三塚由奈は暫く視線を彷徨わせ、考えたのか思いついた事を口にした。



「バイトがしてみたいです」


「バイト?」


「私が住んでいたところは……その、閉鎖的といか余りそういう場がなかったので」


「……そうだね。働けそうなところを探しておくよ、俺のバイト先に聞いてみても良いし」


「え、西城さんもバイトしていたんですか?」


「就活中で休んでいたけど」



 取り合えず三塚由奈がやりたい事は分かった。


 確かに三塚由奈が住んでいた地域は働くとしたら密集化したスーパーくらいだ。そのスーパーだって通うのに凄い時間が掛かるだろう。


 少し変わったバイトを探してあげた方が良いかもしれない。







********







 朝食を食った後はまた課題に取り組んだ


 頃合いを見て駅前に行き布団を購入し、バイトの求人雑誌を二冊手に入れた俺はその後、大学の方へ出向いていた。


 布団を家に持って帰った際に求人雑誌を一冊三塚由奈に渡しておいた。俺も良いのが無いか探すが、やはり自分が興味を持った仕事が一番だろう。


 俺が大学に行く事で三塚由奈は一人になってしまうが、今日は家の周りを散策して過ごすらしい。迷った時は下手に動かず大学を目印にしてラウンジで待機してくれれば迎えに行くと言っておいたので多分大丈夫だろう。


 そんな事があって俺は今、大学の研究室に居る。理由は二つで、教授に話からなった科学の専門用語を聞くことと藤田に寝袋を返すことだった。



「くっそ、専門用語も載っている辞書が在るのなら始めから貸してくれれば良いものを」


「教授は西城を試したみたいだぜ」


「……藤田、どういう事だ?」


「ほら、分からない英単語をいつ聞きに来るかだよ。聞きに来る日が早ければ早い程ちゃんと課題に取り組んでいるってことだろ?」


「なんと!? 意地が悪いと言うか策士というか……」


「課題を出して一週間も経って無いだろ? 先生も機嫌良かったぜ、良かったな」



 藤田は毎日研究室に来ている関係上、俺や他の研究室に所属している四年より教授と接する時間が多い。その為今の様に教授の意図に気付けるのだろう。


 というか最近研究室に藤田と丘村がいるところしか見た事無い。他の連中は何やっているのだろうか。



「で、なんでお前はバイトの求人雑誌を広げているんだ?」


「……ああ」



 この場には珍しく丘村がいなく、俺と藤田しかいない。俺は今朝の出来事を藤田に話した。



「……バイトねえ、何か良いのはあったのか?」


「いや、パチンコ屋と居酒屋ばっかりだな」



 現在は就職難でフリーターの道を選ぶ者も少なくない。バイトから正社員に成れる確率は約四割くらいらしいが、それでも就職活動が上手いかない人達はフリーターを選択する人が多いのか、目ぼしい仕事は見つからなかった。



「ま、俺も何か探しておくよ」


「すまんね」



 ふと、丘村に三塚由奈の事をどう説明しようかと相談しようかと思った。


 藤田の件が在るので俺と三塚由奈が二人で説明すれば変な誤解無く信じてくれるかもしれないが、藤田の協力があればもっとスムーズに行くだろうからだ。



「藤田、丘村にも近いうちに昨日の件を説明したいんだけど協力してくれない?」


「それは良いんだけどよ……」



 了承しつつも丘村の名前を出した瞬間、藤田は難しい顔をした。


 俺はそれが気になったのでバイトの求人雑誌を閉じて藤田の方へ向きあった。



「……? 何か問題があるのか?」


「……あると言えばあるな」



 尚も言い淀む藤田だがやがて観念したのか、難しい顔をしている理由を口にした。



「丘村が行方不明になってる。判明したのは昨日、お前と別れた後だけどな」


「えっ……?」



 丘村が行方不明? 何でだ?


 俺が疑問に思っていると藤田は詳しい事情を話してくれた。



「丘村の奴、まだ内定貰っていなかっただろ? お前と昼食った後にな、研究室のパソコンで会社選考の結果を確認したら……」


「……落ちてたのか?」


「一度に五社の結果が来てな。全部駄目だった」



 そう言われると俺も心配になって来た。


 就職難の中、いろんな人がいる。


 すんなりと内定を決める者、希望とは違いつつも妥協する者、諦めない者、そして……諦める者、絶望する者。


 特に後ろの二つは厄介だ。立ち直れば良いが、そうでなければこの時世、悪い考えが俺と藤田の頭に過る。



「流石に丘村もショックだったんだろうな」


「……」


「事情を知っているのは俺を含めて三人だ」


「俺を入れて四人か……、少ないな」


「まだ何かあったと決めつけるには早いし……、取り合えず詳しい話しをしたいから場所を移そうぜ。流石に此処で二人きりで話すのは気が滅入りそうなんでな」



 そう言うと藤田は研究室の外に出ることを促す。


 俺は静かに頷いた。


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