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俺と許嫁  作者: シラバス
10/13

共同生活は危険が一杯(2)







 俺は藤田が帰る際に発した言葉を俺はもっと深く考えるべきだったと直ぐに後悔する事になった。





 比較的に言葉も途切れず食事を終えた俺達は特に打ち合わせをするでもなく、三塚由奈は皿洗い、俺は風呂掃除と役割分担した。


 三塚由奈は家事手伝いをしていたから癖でやっているのだろうし、俺も一人暮らし……というか昨日までの癖で動いているだけなので別にお互いを気遣っての行動という訳でもないと思う。



「……」



 俺は浴槽を洗いながら今後の事を考える。


 藤田にはバレてしまったがやはり許婚や共同生活の件は余り話さない方が良いだろう。しかし、どうしても話さなければならない人物は現状、二人の候補が挙がる。


 俺の部屋に遊びに来たりする丘村には遠からずバレるだろうし、恐らく連絡した事で三塚由奈の友達も三塚由奈がどこに住んでいるか等を気にするだろう。


 この二人には寧ろ面倒な事になる前に折を見て此方から話した方が後々変な勘違いもされないと思う。藤田の様子を見ると、三塚由奈と説明すれば丘村は問題無いだろう。


 問題は三塚由奈の友人だ。どんな人物か分からないが、時間が在る時に三塚由奈に聞いた方が良いかもしれない。その時は丘村の事も教えておこう。いきなりあったらあの濃いキャラだ、藤田の時のように凍り付くかもしれない。


 それに三塚由奈に藤田の事を教えないで呼んだのは俺の反省点だ、あのヤンキー顔を説明なしに呼んだのは悪かったと思う。


 しかし事情を知った藤田の協力が得られるのは大きいと思う。少なくとも丘村への説明はスムーズに進められるだろうし、今後俺と三塚由奈だけでは対応不可能な場面に直面した時、相談が出来る相手がいるだけで全然違う物だ。





 考え事をしていると浴槽の掃除が終わった。



「後はお湯を沸かすだけか……」



 後は機械のボタンを押せば自動でお湯を張ってくれる。


 ボタンを押してお湯が沸くのを待つ為和室に行くと三塚由奈は持ってきた荷物を整理していた。



「持ってきた荷物はそれで全部? 結構少ないね」


「基本は着替えがあれば何とかなりますよ」



 三塚由奈が持って来ていたのは着替えが主で、他には髪留め等の小物、小さい熊のぬいぐるみくらいだった。



「そうだけど……、うん、やっぱり服とかも買いに行こう」


「え?」


「だって鞄に入る程度の着替えじゃ足りないでしょ?」


「洗濯すれば――」


「雨が降ったりして乾かなかったら大変だよ?」


「うっ……、でもお金は……」


「お祖母ちゃんから二人暮らしって事で臨時支給があったから大丈夫」


「うー」



 三塚由奈は服を買うか買わないかで葛藤している様だが、やはり女性として新しい服に魅力が在るのだろう。やっぱり新しい服を買いに行こう、もし男の俺と一緒だと探しにくいと言うなら三塚由奈の友達に任せても良いかもしれない。


 暫くは三塚由奈の荷物整理の様子を見ていたりテレビに目を向けたりして過ごした。


 荷物整理を手伝おうかとも思ったがチラッと覗かせた女物の下着が目に入った瞬間止めた。三塚由奈も時折顔を赤くしながらあたふたするので、俺は無理に手伝わずテレビに目を移すしかなかった。


 荷物整理が終わりテレビを見ていると風呂場からお湯が沸いたアラームが鳴った。



「お風呂、沸いたみたいだから先に入りなよ」


「あ、はい」


「タオルは洗濯機の横の棚に入っているから」



 うん、こうして見ると共同生活というのも案外そんなに大変では無いかもしれない。


 許婚とはいえ、あくまで俺と三塚由奈は他人同士なのでかなり気は使うが、ずっとこの調子なら別に半年間一緒に住むとなっても苦にならないかもしれない。







********







「あがりましたよー」


「ああ、う――」



 途中から言葉が出なかった。


 振り向いた俺は湯上りの女性が放つ色香を三塚由奈に見てしまったからだ。濡れた長い髪をタオルで拭きながら現れた三塚由奈は湯上りの為か顔を火照らせ妙な艶やかさがあり、薄緑色の半袖パジャマを着ていた。


 俺は不意に浮かび上がった変な考えを無理やり振り払うと風呂に入るため風呂場へ向かった。そして着ていた服を脱いで洗濯機に入れようとしたところでハッと気付いた。




 既に誰かの服が入ってます、誰のかなんて考えるまでもありません、はい。




「(これは……、拙くね?)」



 主に俺の精神面が。


 俺の錆ついた何かを刺激する。恋愛歴ゼロの俺には女性の衣服だって精神的にダメージを与えられるのだ。というか三塚由奈も無防備過ぎると思う。


 幾ら共同生活をするにしても一週間前までお互い知らない者同士への行動や態度ではない様な気がする。


 お湯に浸かりながら俺は今後の共同生活に今さらながら不安を覚えるのだった。



「はあー」



 肩まで浸かると思わず溜息がでた。


 今思えば藤田はこの俺の状態を予測していたのだろう。実家で姉と暮らしていた藤田だ、女性の生活をある程度知っていて俺と三塚由奈の場合で置き換えてみたに違いない。


 藤田の場合は家族なので特に気を使う事も無かっただろうが、俺と三塚由奈の場合は違う。


 帰る前の困ったような、同情しているような顔をしていたのはこの事なのだろう。


 俺にも妹がいるが、妹は中学生で女性と意識することも無いし、別々に住んでいる為そんな状況にもならない。もっと言うと家族なので何とも思わない。


 そう思うと藤田の言いたかった事が若干理解出来た。



 女性との共同生活は、大変です。







********







「よし、寝よう!」


「そうですね」



 夜の十時ごろ、風呂から上がった俺は黒いジャージのズボンと白い半そでTシャツを見に包み勢い良く、というか勢いだけでそう言った。風呂に入る前に三塚由奈が小さく欠伸しているのが見えたのと単純に俺も疲れた。


 何か色々あった気もするが今日が共同生活初日なのだ。移動等もあって疲れたに違いない。


 その為か三塚由奈も賛成したようだ。



「良いしょっと」



 俺は和室のテーブルを台所の方へ持っていく。脇に立て掛けておけば別に邪魔にならないがこうした方が広々と布団を敷けるだろう。


 三塚由奈が布団を敷いたのを確認すると俺は藤田から借りた寝袋を手に取り洋室へのドアに手を掛ける。



「じゃ、お休み。そこの襖は洋室と繋がっているから何かあったら開けて俺を呼んでね」


「何か、ですか?」


「……うん、まあ何かだよ」



 またゴキブリが出たら、なんて寝る前に言うべきじゃないだろう。


 言葉を濁しながら俺は洋室の方へ入った。



「お休みなさい」


「……お休み」



 洋室に入った俺だが別に直ぐ寝る訳でもなくパソコンの電源を入れた。


 俺の手元には大学の教授から渡された分厚い参考書とレポートがある、この分厚さでは英語を翻訳するだけで凄い時間が掛かる。そのうえ内容も理解しなければならないと言うのは夏季休業では時間が足りないかもしれないので早めに動く事にしたのだ。



「(うげえ、酷いなこれは)」



 インターネット上では無料英語翻訳サイトというものがある。


 これは短文なら割と重宝するが長文となると和訳した日本語がおかしくなったり科学の専門用語や名詞は上手く変換されない事がある。そのため結局は一つ一つ手作業で和訳していかないといけないのだ。


 そして今、幾つかの専門用語と思わしき単語で詰まった。スペルで検索すると明らかに科学の専門家が入っているような有料情報サイトに跳んでしまい調べられない。



「(英語の授業、もっとちゃんと受けておけば良かったな)」



 改めて分厚い参考書に目を通す。相変わらず英語の羅列で何が書いてあるか分からない。


 数式は分かるが何を求める式なのか分からない。


 グラフは分かるが何の数値をグラフにしたのか分からない。


 先は長かった。



「……っ!」



 不意に目元が痛んだ。長時間パソコンに向かっていると偶に起こる。


 目をパソコンから離して時計を見るともう深夜の三時を回りそうだった。


 因みにレポートを作成している時は一睡もしない事もあるため別に遅くまで起きているという事自体に問題は無いが、今日は色々あった為疲れが溜まっている。


 パソコンに向かう集中力にも影響するし、今日中に終わらせなければいけない物でも無いので今日はこれくらいにして寝袋を敷き横になる。


 隣の和室に居る三塚由奈はもう完全に寝ているだろう。



「(明日は……に布団を買い…行って…、大学で藤…と教授……)」



 横になって明日やる事を考えているとやはり疲れていたのか直ぐに寝てしまった。







********







 朝七時、睡眠時間四時間と少なめだが目が覚めた。


 ああ、寝袋で寝たんだっけとぼんやり考えて二度寝しようかしないか考えようとした際、顔を横に向けると眠気が吹っ飛んだ。











「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 目の前にすやすやと眠る三塚由奈がいた。




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