第三話 ひらめき
これが今現在のAI自動生成の文章。我は一切手直ししていない。
日曜日の夜、午後八時を過ぎた頃、蓮はソファに座って天井を見つめていて、今日も一日AIと向き合っていて、昨日ほどの興奮はないけれどそれでも新しいことを試すたびに小さな発見があって、少しずつこのツールの輪郭が見えてくるような気がしていて、疲れているけれど悪い疲れじゃなくて、何かを成し遂げた後の心地よい疲労感。
スマホを手に取ってなんとなくSNSを開くと、タイムラインにはいつも通り友人たちの投稿が流れていて、誰かがカフェでコーヒーを飲んでいる写真を上げていて、誰かがアニメの新作について熱く語っていて、誰かが仕事の愚痴をつぶやいていて、それらをぼんやりと眺めているとふとある投稿が目に入った。
『最近読んだWeb小説、めちゃくちゃ面白かった! でもAI使って書いてる人もいるらしいよね、時代だなぁ』
蓮はその文字列をじっと見つめて、Web小説、AI、その二つの言葉が画面の中で並んでいて、何かが頭の中でカチリと音を立てた。
AI、文章、小説。
昨日も今日も蓮はAIにコードを書かせていたけれど、このAIは文章も書けて、それは最初に読んだ記事にも書いてあって、プログラミング、データ解析、文書作成、デザイン、さまざまな分野での応用が期待されているって、文書作成、つまり文章を書けて、ということは。
蓮は立ち上がってデスクの前に座って、パソコンの画面を開いてAIツールを起動して、対話画面に文字を打ち込む。
『ファンタジー小説の冒頭を書いて、主人公は剣士で森の中を歩いているシーンから始めて』
エンターキーを押して数秒後にテキストが表示される。
「朝靄に包まれた森の中を、一人の剣士が歩いていた。彼の名はアレン。腰に下げた剣は、幾多の戦いを経て刃こぼれしているが、その輝きは失われていない。木々の間から差し込む朝日が、彼の顔を照らす。彼は目的地を目指していた。その先に待つものが何であれ、彼は恐れることなく進んでいくだろう。」
蓮は生成された文章を読んで、悪くない、というか普通に読めるけれど何か物足りなくて、説明的すぎて感情が薄くて、でもこれは最初の試しでもっと指示を出せばもっと良くなるかもしれない。
『もっと感情的に、主人公の内面を描写して、彼は何かを探している、大切な人を失った悲しみを抱えている』
また数秒の待機で新しいテキストが生成される。
「森の中を歩くたびに、アレンの胸には重い痛みが広がる。朝靄が彼の視界を遮るたびに、失った妻の面影が浮かんでくる。彼女の笑顔、彼女の声、彼女が最後に彼に向けた言葉——すべてが、今は遠い記憶の中にしかない。剣を握る手に力を込める。彼はまだ、諦めていない。もし、もしもこの先に彼女を取り戻す方法があるなら、どんな困難も乗り越えてみせる。そう、心に誓いながら、彼は歩き続ける。」
蓮は画面を見つめて、これは、これは読める、普通に小説として読めて、完璧じゃなくてもっと磨けばもっと良くなるだろうけれど、これは。
可能性で、AIで小説が書けて、ちゃんとした小説が。
蓮の心臓が少し早く打ち始めて、これは何かに使えるんじゃないか、副収入を得る方法として。
そこまで考えて蓮は検索窓を開いて「Web小説 投稿サイト 収益」と打ち込んで、検索結果にはいくつかの有名な小説投稿サイトが並んでいて、その中の一つを開く。
ランキングページを見ると、上位の作品はすごい数のPVを稼いでいて、何十万、何百万というアクセス数で、読者からのポイントも膨大な数。
サイトの下部にある「インセンティブプログラム」というリンクをクリックしてページが開いて詳細が表示される。
「作品のPV数とポイント数に応じて、収益を得ることができます。月間PVが10万を超えた場合、1PVあたり0.5円の収益が発生します。また、読者からのポイントに応じて、追加のボーナスがあります。」
蓮は数字を見つめて、10万PV、0.5円、ということは5万円で、もしもっとPVが増えれば月に20万PVなら10万円、50万PVなら25万円。
それは決して不可能な数字じゃなくて、ランキング上位の作品はそれ以上のPVを稼いでいて、もちろんそこまで行くのは簡単じゃないだろうけれど、もしAIを使って効率的に作品を作れたら、複数の作品を同時に展開できたら。
頭の中で構図が組み立てられていって、AIで小説を書く、それを投稿サイトに掲載する、インセンティブプログラムで収益を得る、シンプルな構図だけど現実的な構図。
蓮は椅子の背もたれに体を預けて、やってみよう、やってみる価値はあって、これなら本業を続けながらでもできて、プログラミングの案件を取るよりもずっと楽しそうで、何より自分が興味を持てる。
でも一つだけ気になることがあって、倫理的な問題で、AIで書いた小説を自分の作品として投稿していいのか。
蓮は再び画面を見つめてサイトの規約を読んで、「AIを使用した作品の投稿について、特に禁止する規定はありません。ただし、他者の著作権を侵害しないこと、公序良俗に反しないことを守ってください。」と書いてある。
禁止されていなくて、つまり投稿すること自体は問題なくて、でも読者には伝えるべきだろう、AIを使って書いていることを、それが最低限の誠実さだ。
蓮はアカウント登録ページを開いてメールアドレス、ユーザー名、パスワードを入力して、プロフィールの欄に一文を追加する。
「AIを使って小説を書いています。」
シンプルで明確な一文で、これなら読者は分かる、AIが書いた作品だと、それでも読みたい人が読めばいいし、嫌な人は読まなければいい、それでいい。
登録ボタンを押して確認メールが届いてアカウントが有効化されて、蓮は新しく作られた自分のプロフィールページを見つめて、まだ何も投稿していなくて作品一覧は空白だけど、これからここに作品が並んでいく。
時計を見ると午後十一時を過ぎていて、今日はもう遅くて、明日から本格的に始めよう、まずは一作品ちゃんとした小説を完成させて、それを投稿して反応を見て、そこから考えればいい。
蓮はパソコンを閉じてベッドに向かって、布団に入って暗闇の中で天井を見つめて、胸の中に小さな興奮と少しの不安があるけれど、それよりも何か新しいことが始まる予感のほうが強かった。
明日から、明日から新しいことが始まる、AIで小説を書いて、それを世界に発信して、誰かが読んでもしかしたら楽しんでくれるかもしれなくて、そして自分も、自分も少しだけ今とは違う場所にたどり着けるかもしれない。
そう思いながら蓮はゆっくりと目を閉じて、今夜は久しぶりに夢を見れそうな気がした。
この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称等は架空のものであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません




