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夜明けの星の黙示録  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第六章 ロスデア動乱編

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第090話 大海を知らず

―――聖都サンクタリア:50km地点。


■地図:聖騎士団経路

挿絵(By みてみん)


1万の聖騎士団は、事前の計画にあった通り補給地点へと辿り着いたが、

そこで目にした光景に愕然としていた。

ルシフルの村から届く手はずとなっていた補給物資がそこに無いのだ。


(…まずいな)


盛大な出征式で見送られてきたのだ。

手ぶらのまま、聖都へ帰るわけにもいかない。


かといって、物資が無いままディアブルムの町へ向かうのは自殺行為だ。

今はただ、斥候を出して情報を取りに行くことしかできず、

聖騎士団は不安と焦り、それに怒りに包まれていた。


ただ空しく時は過ぎ、

ただ空しく風が吹き抜けるのみ。


そんな時だった。

情報収集に出ていた斥候が戻ってきたのは。

彼の顔は蒼白で、その言葉は震えていた。


――聖都サンクタリア陥落


「は?」


もたらされた情報は、耳を疑うほどの衝撃であった。


「すでに新教皇が即位しただと…っ!」


今や静けさは砕け散り、

1万人の聖騎士団は騒然となっている。


「何が即位だ!簒奪(さんだつ)じゃないか!」

「聖都奪還に向かうぞ!」

「待て!神敵になるぞ!」


聖騎士団が騒ぎ出してしばらくした後、

数台の馬車が姿を現した。

背後には武装した兵士たちもチラホラ見える…


馬車から降りた男たちの格好は、

足首まで届く長いリネンのチュニックを纏っており、

赤色のガードルでウエストを縛っている。

―――教皇使節だ。


「総員傾注。新教皇からのお言葉である」


その威厳の前に、聖騎士達は戸惑いながらも膝を折る。


「長きにわたり教会を惑わし、

 信徒を苦しめた邪悪なる教皇は、ついに滅びた。

 その権威は崩れ落ち、闇の支配は終焉を迎えた。

 今ここに、我は枢機卿の推挙を受けて首座に就き、

 再び神の道を歩まん。

 神の子らよ、我がもとへ帰順し、共に祈りを捧げよ」


すぐさま反抗派は怒声を上げた。


簒奪者(さんだつしゃ)に膝を折るなど断じてできぬ!」

「聖都を奪還し、神の道を取り戻すのだ!」


彼らは剣を抜き、教皇使節を睨みつける。

だが、その数はわずかだった。

ポツリ、ポツリと立ち上がる者はいるものの、

大半は膝を折り、沈黙のまま地に伏している。


「どうしたっ!立て!」

「…神敵になって生きて行けるかよ」

「家族を人質に取られてんだぞ!」


聖騎士団は二つに割れた。

新教皇の元に帰順する者が7,000、

反抗した者が3,000。


「…っ!!我々はアンゲロームへと向かう!」


反抗した者たちは、すぐには行動に移さなかった。

数的不利な状況で、殺し合いになるのを避けたのだ。


それよりも、一旦都市へ避難し、

情報を収集し、勢力を整えることを選んだ。


そんな聖騎士団の様子を、

高台の山から見渡していた獣人族の影があった。

レデンサクラメントを陥落させたルガードだ。


「すげえ……叡聖閣下(えいせいかっか)

 目論見通りじゃねぇか」


―――聖騎士団は必ず二つに割れる。

帰順派は聖都までの帰路をキリアンが監視し、

反抗派はルガードが西へ追いやるよう追跡する。

それは、ルシエン・バエルより下された指令であった。


そのように単純に事が運ぶのか不安もあったが、

目の前の現実は、まさにその通り動いている。


ならば、自分は思考を趣味に向けるまでだ。

これから始まる、楽しい狩りに――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アンゲロームへ向かう、反抗派の道中。


■地図:反抗派経路

挿絵(By みてみん)


「付けられているな…」

「ああ…」


ルガードの部隊に追尾され続けていた反抗派は、

ついに反撃に打って出る決断を下した。


疲弊と苛立ちが積み重なり、剣を抜く音が響く。

彼らの瞳には怒りと決死の覚悟が宿っていた。

しかし―――


※スカァンッ!※

※スカァンッ!※

※スカァンッ!※


「撤退!撤退っ!」


ルガードたちの新兵器は、

聖騎士達のプレートアーマーを容易く貫いた。

騎士たちは抗う術もなく、その威力の前に退却を強いられた。


やがて隊列から脱落する者が現れ、

次々とルガードの部隊に呑み込まれていく。


強行軍の果てにアンゲロームへ辿り着いた時、

反対派は2,000人を下回っていた。


だが、そこは既に陥落済みの都市。

反抗派たちは、そこでも憂き目にあう。

聖騎士達は、忌まわしき新兵器によって歓迎された。


「ちくしょう……」


悲鳴が交錯し、戦列は乱れる。

反撃の余力もなく、彼らはただ逃げるしかなかった。

追われるように、西へ――


物資は底を尽きた。帰る場所も失った。

最後の希望だけを胸に秘め、向かうはクルキス城塞。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――聖都サンクタリア

帰順した者たちが目にしたのは、

思いもよらぬ光景だった。


聖都では盛大な凱旋式が行われており、

その主役は、まさかの自分達なのだ。


「おお!偉大なる聖騎士団!!」


吟遊詩人たちは高らかに歌い上げる。

神の天敵に乗っ取られた町を、

()()()の威光が薙ぎ払い、再び安寧をもたらしたのだと。


知らぬ間に、聖騎士団は悪しき旧教皇を打ち倒し、

ディアブルムの町を解放したという物語が

民衆の間に広まっていた。


民衆の多くは、ディアブルムの町の正確な場所など

把握していない。


民衆の多くは、往路300kmの行軍時間など

理解していない。


ただ、目の前の勝利に酔えればそれでいいのだ。

そんな彼らが、奴隷に落とされていくのはもう少し先の話である。


――ヒエロヘイブン帰順

――ローズスローン帰順


「なんやあっけないなぁ」

「まぁ、これも計画の範疇(はんちゅう)です」


聖騎士団の凱旋に湧き立つ民衆を見ながら、

教皇(きょうこう)】ラフィン・ダンタリオンと

叡聖(えいせい)】ルシエン・バエルは

穏やかに言葉を交わしていた。


ルシエン曰く、新しい奴隷社会の見せしめとして、

都市を一つくらい犠牲にした方が

結果的に早く社会を構築できるとのことだったが…


まあいい。素直に帰順するのも悪くない。

吟遊詩人が唄う歌が一つ減るだけだ。


森羅万象(しんらばんしょう)はルシの掌の中か?」

「いいえ、そうでもありませんよ。想定外が一つ」

「……オルフか」


奴隷時代から苦楽を共にしてきたオルフが、

ここに来て裏切った。


新たに《枢機卿(すうききょう)》となったオルフには、

〈聖騎士団長〉を1人任命する権限がある。

だが、彼はその割り当てを拒んだのだ。


いつも弱気な彼が、ここまで明確に拒否の姿勢を

示したのは初めての事だった。

枢機卿のジョブは強大である。

今やオルフの存在は、目の上のたんこぶになりつつあった。


ルシエンは、このまま協力の姿勢を見せないようであれば、

オルフを斬ると言っているが……


「まぁ待てや。

 あいつはテンパっとるだけや。

 ワシから話してみるわ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ラフィン、ルシエン、バルバラ、

そしてオルフの4人は海岸沿いまで来ていた。


ラフィン自らオルフの説得へ当たったところ、

彼は突然、"海を見たい"と言い出したのだ。


"大海を見よ"とはいつも言い聞かせてはいるものの、

まさか、この場面で口にするとは思わなかった。


背後にはラフィンが引き連れる大司教や聖騎士、

それに従士たちも控えている。


さすがのオルフも、ただの享楽ではないことを

感じ取ってくれるだろう。


「これが海かぁ…」


そんなオルフが、感嘆の声を漏らす。

奴隷として生まれ、村に閉じこもって生きて来たオルフは、

初めて海を見たのだろう。


いい機会だ。

自分達がいかに狭い世界に住んでいるのか、

これを機に開眼してくれるといいのだが…


「海の向こう…水平線の果てには水星――

 プレダドール水星帝国があるぞ」


「ルシよ、お前の目からどう映る?

 水星の叡聖(えいせい)にして…新皇帝……

 "神君"ガイウス・セレステオラは?」


「私の数段上です」


「……くくっ……そうかっ」


――この2人はいつもそうだった。


「水星だけやない。

 ノルエン=アールヴ木星帝国…

 イノ=ケンタウリア土星帝国…

 エンゼルホルス太陽帝国…

 ……金星だけが遅れを取っている」


――いつも、遠くを見ている。


「見たかオルフ。これが"大海"や。

 ワシの歩みは、いずれ金星を救う。

 来い。ワシと共に――」


それを拒むように、オルフはつぶやいた。


「綺麗な景色だなぁ」


そして振り返り、ラフィンを見つめた。

それは今まで仲間内にも見せたことのない、

とても満たされた表情であった。


「友よ。まずは君が救われよ」


「っ…!!」


そう言い残して、オルフは崖に身を投じた。

……


教皇の差し伸べた救いの手を振り払い、

自ら裏切りの道へと進んだオルフに向けられたのは、

容赦ない罵詈雑言(ばりぞうごん)であった。


背後に控えている者達は、4人の関係をよく知らない。

ただ教皇への忠誠を示そうと、良かれと思って声を荒げる。

その喧騒の中、1人の従士がラフィンの異変に気づいた。


「な……泣いておられるのですか?猊下(げいか)?」


その刹那、ルシエン・バエルの怒号が場を裂いた。


サイレンス(黙祷)!!」


その怒号が落ちた瞬間、

場は一瞬のうちに静寂に支配された。

そこにあったのは、僅かにこぼれた涙の跡だけ。


「ああ、綺麗な景色だな……友よ…」


そんなささやきは、そよ風へと溶けていった。


―――星歴:992年12の月

新教皇ラフィン・ダンタリオン一派は

目論見通り反乱分子を西へ追いやると、

僅か7日間で国土のほぼ全域を掌握した。


最後に残るは、国土最西端の城塞――クルキス。


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