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夜明けの星の黙示録  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第六章 ロスデア動乱編

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第089話 黄金の夜明け

―――神聖ロザリ法王国:聖都サンクタリア

夜の帳がまだ街を覆い、

灯火の揺らめきだけが石畳を照らす頃。


ラフィン、ルシエン、バルバラの3人は、

再びこの地に姿を現していた。


「こっから電光石火やでぇ♪」

「……武装解除」


ルシエンの短い号令と共に、

聖騎士キリアン配下、5,000名が一斉に動き出す。


目指すは、都長の邸宅。

この都市の地治印章(じちいんしょう)が管理されている権力の拠点だ。


「急報!大隊長ー!!」


昼間のアルコールを残したまま深い眠りについていた大隊長は、

部下の怒号に叩き起こされた。

荒々しく揺さぶられ、意識は無理やり現実へと引き戻された。


「……何事だ…」


「包囲されています!」

!!


さぁーっとアルコールが抜けていくのが分かった。


「都長を叩き起こせ!!」


大隊長は、声を張り上げ部下へ指示を飛ばすと、

自らも慌ただしくプレートアーマーを身にまとい、戦に備えた。


その傍ら、チラッと外を見る。

視界に入ったのは、邸宅を包囲する大量の松明の火。

血の気が引き、冷たい汗が背を伝う。


(ちくしょう…ッ!)


準備を終えて廊下に飛び出る。

すると、すぐに戦列を組んだ大盾と鉢合わせた。


(下のやつらはもうやられたのか

 ただの荒くれ者ではないな…)


何奴(なにやつ)だっ!!」


交戦に入ったことを知らせるべく、

精一杯の声を張り上げた。

だが返答はなく、代わりに大盾の背後で何かを構えたのが見えた。


(弓……?いや―――)


※スカァンッ!※


次の瞬間、プレートアーマーに守られているはずの腹部に激痛が走る。

鉄板が貫かれたのだ。


~~~ッ!!


条件さえ整えば、

弓矢が鉄板を貫くことは知っている。

しかし――


※スカァンッ!※

※スカァンッ!※

※スカァンッ!※


衝撃は何度も走った。


(そんな……そんな馬鹿な―――)


大隊長の身体は瞬く間に穴だらけとなり、

抗う術もなく、意識は闇の底へと落ちていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


――サンクタリア宮殿

眠りから起こされた4人の枢機卿は、会議室に集まっていた。

早馬より、五大都市のひとつ

レデンサクラメント陥落の報が届けられたのだ。


「だから言ったではないか!!

 遠征など中止だ!!」


声を上げたのは、レデンサクラメントを管轄(かんかつ)する枢機卿(すうききょう)

彼は理性を失い、半狂乱のまま空気を震わせていた。


そこに第二報、第三報が入ると、

次第に惨状の輪郭が浮かび上がってきた。

・襲撃は3時間前

・レデンサクラメント都長は死亡

・敵は獣人族の集団、数は3,000~5,000


「なんだその数は…っ!」

「ガウガレルの残党か!?」


宮殿は異様な空気に包まれ、

何事かと関係者たちも次々と目を覚まし集まって来た。

大司教、従士、教皇の愛人…

するとそこへ、さらなる凶報がもたらされる。


「急報!ヒエロヘイブン陥落!」

「急報!ローズスローン陥落!」


~~~ッ!!


レデンサクラメントに続いて、

2都市も陥落したという報が入ったのだ。


「どうなっている!!」

「作戦参謀はどこにいるッ!」

「皆さん、落ち着きましょう。

 まずはサンクタリア都長へ協力を要請しましょう」


この報告が事実なら、

枢機卿の4人中、3人が帰る場所を失ったということになる。

もはやここに留まって、都市奪還の指揮を執るしかないのだ。


「サンクタリア都長なら死にましたよ」


その声と共に、姿を現したのは、

この遠征の作戦参謀【叡聖(えいせい)】ルシエン・バエル。

彼は印鑑型のアイテム、地治印章(じちいんしょう)を手にしている。


続いて姿を現したのはラフィン・ダンタリオン。

いつも通りの作り笑いのような笑顔を浮かべている。


最後に姿を現したのはバルバラ・ベレト。

いつもは控えめな態度を取っていたが、

今日はどこか堂々としている。


3人共、見慣れない赤色の十字架を首から掛けており、

背後には武装した兵士が控えていた。

いつの間にか、この宮殿は制圧されていたのだ。


―――(はか)られた


枢機卿たちが、この動乱がこの三人の手によって

仕組まれたものであると悟ったのは、この時であった。


(都長が…死んだ?)


頭が混乱する。もうこれ以上の凶報は聞きたくない。

だが、ルシエンの手にしている地治印章(じちいんしょう)

都長暗殺を裏付けている。


…この都市も落とされたとなると、

遠征に出ている騎士団も帰る場所が無い。

もはや…この状況を覆せるのは教皇による"十字軍"発動しかない。


だが、教皇はルシエンたちと行動を共にしていた。

まさか……この動乱に教皇も乗っているのか?

なぜそんなことを……とうとう狂ったか?

胸のざわめきを抑えつつ、ルシエンに質問する。


「教皇は…どこにいる……?」


猊下(げいか)ならこちらに」


そう言って、紹介されたのは

ラフィン・ダンタリオンだった。



彼はいつもの笑顔を崩さず、

横にしたピースを顔に近づけながら皆へ挨拶した。


「よろしゅう♪」


そして控えの兵士が、無造作に何かを放り投げた。

()()は転がりながらグレースの足元で止まると、

正体が明らかになった。

―――【教皇】キアンの首だ。


「いやぁぁぁっ!! 」


グレースの甲高い声が響き渡る。

枢機卿たちは腰が引けつつも、大いに混乱していた。


??

教皇になるためには、枢機卿3人の主である必要がある。

まさか…


「まさか、貴様ら裏切ったかっ!」


枢機卿の1人が声を上げると

4人の枢機卿は自分ではないと言い争いになる。


「奴隷を3万人以上集めたんや。

 この意味わかるかぁ?」


!?


奴隷を管理するのにも費用が掛かる。

そんな富どうやって…いや、そうでは無い。


教皇レースのライバルになりうる《枢機卿》や『大司教』は、

互いに監視し合っていた。

だが、1,000人足らずの教会の管理者である「司祭」など、無警戒だ。


3万の奴隷を集めただと!?そんな馬鹿な!?

誰も気付けなかったのか??


それに、順当に『大司教』、《枢機卿》と地位を上げていくこともできたはずだ。

それをこいつ…今日まで隠し通してきたのか。


新【教皇】ラフィン・ダンタリオンは

右往左往する枢機卿連中を眺め、楽しげに微笑んでいた。


(こいつらテンパってんなぁ♡

 ヒエロヘイブン陥落とローズスローン陥落は

 こちらのフェイク♪

 ちょっと考えれば気付けそうなもんやけどな)


ラフィンが実際に送り込んでいたのは

・キリアン:5,000:聖都サンクタリア

・ルガード:3,000:レデンサクラメント

・アムル:3,000:アンゲローム

計11,000の騎士団包囲網であった。


ヒエロヘイブンとローズスローンなど、後でどうとでもなる。

重要な意味を持つのがアンゲロームだ。

もうすぐ、アンゲロームからの使者が届く手はずとなっていた。


アンゲローム陥落失敗であれば、

枢機卿を人質に取りながら騎士団及び3都市と戦う。

だいぶ面倒なパターンに入る。


アンゲローム陥落成功なら―――


その時、使者が駆けつけた。


「急報!」


"マギステル"階級を表す銀色の十字架を確認。

水晶に手を当て、"従士"のジョブを確認。

最後に使者は、複数かけているタスキの内の一つを渡してきた。


ルシエンがタスキを受け取り、杖に撒く。

事前にアムルに渡していたタスキの長さと一致した。


この手続きを持って、

この使者は、アムルがもたらした使者であると承認された。


(さあ、アムルよ。表と出るか…裏と出るか)


「アンゲローム、陥落!!」


新【教皇】側からは"おおっ!"と歓声が上がり、

逆に枢機卿たちの顔からは生気が失われていった。


(ダメだ…もはや……完全に詰んだ…)


アンゲローム陥落の報を持って、

ルシエンが次のステージへ勧める。


「ラフさん、地治印章(じちいんしょう)

 すでに登録済んでます。水晶へ」


「おう」


このやり取りを聞いて、枢機卿たちの顔は青ざめた。


この都市、聖都サンクタリアは100万人都市だ。

100万人を配下に抑え、水晶に向かう理由はただ一つ。

枢機卿は最後の抵抗を試みる。


「ま…待ってくれ!!げ…猊下(げいか)…っ!!

 スタルディア星王国と…

 政教分離の協定を結んでおりますゆえ

 …それだけは…何卒…っ!」


ラフィンは警告を無視して、手続きを進める。


「あ、ホンマ?

 ……転職:"王"」


星暦932年、ノルド人国家・スタルディア星王国との間に

政教分離協定を結んで以来―――


今日ここに、"王"が誕生した。

神聖ロザリ法王国に、貴族社会が復活したのである。

実に60年ぶりの事であった。


―――――――――――――――――――

・ラフィン・ダンタリオン:★【教皇】/《王》/『豪商』

―――――――――――――――――――


もはや、ラフィン・ダンタリオンは制御不能だ。

枢機卿たちは、ルシエンを責め立てるように言うしかなかった。


「今ラフィンを討たねば、

 スタルディア星王国との戦争は避けられまい。

 分かっているのか…待っているのは破滅だぞ」


だが、ルシエンの語気も強気であった。


「革命とはこうやるのだよ」


そして冷酷に言い放つ。


「あなたたちはここまでだ。……やれ」


その号令と同時に、背後に控えていた兵士たちが一斉に槍を突き出した。

鋭い金属音と悲鳴が交錯し、枢機卿たちは串刺しにされる。

血の気が引く間もなく、4人の命はその場で絶たれた。


「ひぃぃぃぃ!」


虐殺の幕が上がるのではと、場は混乱に包まれた。

だが、その混乱を制したのはラフィンだった。


「コラコラ♪落ち着かんかい。

 ここで消えるんは枢機卿だけや♪

 これから重要な話がある。騒いだら殺すで?」


場が静まるのを見計らって、

ルシエンは静かに語り始めた。


「これからの社会階級について話そう。

 ルシフルの村で成功を収めた社会構造を拡張し、

 これからは私が長を務める"構造管理官"が

 階級を統制することになる」


■奴隷社会

挿絵(By みてみん)


「私が付けているこの赤色の十字架(クロス)

 "エクシミウス"階級、君主階級だ。

 後ろの兵士たちが付けている銀色の十字架(クロス)

 "マギステル"階級。上級奴隷階級となる」


「詳しい構造は後程発表するとして…

 ここに、"レガートゥス"階級……金色の十字架(クロス)が3つあるのだが…」


ここまで説明した所で、

元教皇の愛人だったグレースが真っ先に飛びついた。

這いつくばりながら、必死にラフィンにすり寄る。


「猊下…なんでもじまず!!

 どうがわだじをがわいがっでぐださい」


グレースは、涙とよだれを垂らし、

さらに震え声でしゃべるもんだから、

最初の言葉以外、何を言っているのかよく聞こえなかった。


とりあえず、グレースの胸を鷲掴みにして弄ぶと、

グレースは必死に笑みを作り、媚びへつらった。


「ん?今なんでもするって……?

 ほんなら、今日頑張った兵士全員の相手してもらうわ♡

 お前の階級はその頑張り次第やな♪」


兵士たちから歓喜の声が上がり、グレースの顔が絶望に変わる。

ここから見えるだけでも、兵士たちは100人以上いる。

一体、どれだけの相手をすることになるんだろう…


「娘のモニカはワシがたーっぷりと可愛がってやるから安心せい♡

 モニカの階級も、頑張り次第やな」


「ア…アッ…」


あれだけ生意気だったモニカは、

変わり果てたように顔を青ざめさせ、ただ言葉を失っていた。


「頑張ってね♡」


バルバラに笑顔で突き放されると、

グレース・モニカの母娘(おやこ)は捕らえられ、

ただうな垂れることしかできなかった。


「あ…あの~」


―――その後、捕虜達による必死のアピール合戦が始まった。

結局、ルシエンは3つの"レガートゥス・クロス"を

大司教、修道女、従士の3人へ授けることで決着となった。


「階級は流動的だ。今日選ばれなかった者も、

 努力すれば上がり、怠れば落ちる。

 今日はあくまでも出発点に過ぎない。

 …けして腐るな」


選ばれた3人は兵士から解放され、

今や兵士から敬礼を受けている。

早速、立場の入れ替わりを見せつけた。


ひと段落ついたところで、ラフィンは上機嫌に声を張り上げた。


「おっしゃ。新しい時代の幕開けや♪

 ここは一発、女神ヴィーナスへ祈りでも捧げたろやないか♪

 ルシ、…明けの明星はどっちや?」


「南東です」


ルシエンが金星の位置を示すと、

【教皇】ラフィン・ダンタリオンは膝を折って祈りを捧げた。

今日"教皇"になったばかりとはいえ、

今まで長いこと"司祭"だったのだ。こうした催事は手馴れている。


「んんっ!

 天の光に満ちる女神ヴィーナスよ!!

 明けの明星として輝き、

 愛と美の源として神聖ロザリを導き給えっ!!」


ラフィンはかなり気合の入った祈りを捧げ始めた。


「んんんっ!

 唯一神ヴィーナス!!

 我らは全ての姉妹を薙ぎ払わん!!

 クルトゥス・ヴィー」


クライマックスの〆に入ったところで、

ルシエンから突っ込まれた。


「あ、ラフさん、立膝逆です」

……


その場は、一気に凍てついた。

うっそだろおい!?そこ突っ込む!?

今!?

なんで早く言わないんだよ……

クライマックスの〆の部分で止まっちゃったよ…

どうするんだよ…これ………


誰もリカバリー方法が分からない中、

【教皇】ラフィン・ダンタリオンはポツリと呟いた。


「…そうか、祈りは左ひざを立てるんやったなぁ」


そしてこちらを向き、飄々と言い放つ。


「……まっ、これまで神罰は下らんかったし、

 女神ヴィーナスも案外ゆるいもんやな」


どう反応していいか分からず、固まる。

そして、信じがたい事を口にした。


「この調子じゃ股も緩いんちゃうか?

 女神ヴィーナス」


!?

嘘だろ……女神への罵倒だ。

これまでなら破門は免れない。

するとその時、ルシエン・バエルが突如笑い出した。


「アッハッハッハ!」


え?ツボ、そこ?

兵士たちは慌てて笑い声に続く。


「「アッハッハッハ!」」


この流れを見た捕虜達も必死に笑い声に続く。


「「アッハッハッハ!」」


―――神の都、聖都において

教会の頂点たる君主が、女神ヴィーナスを罵倒した。

その冒涜を、神の信徒たちは笑いながら受け入れたのである。


朝日が昇り、聖都サンクタリアを黄金に染めていく。

長い夜を越えた街は、まるで息を吹き返すかのように目覚め始めた。


ロザリは一夜にして姿を変えた。

これから訪れるのは暗黒の時代。

出口が見えないほどの、闇の時代―――


「おぉ。眩しいなぁ……

 女神ヴィーナスも祝福しとるわ♡

 黄金の夜明けやないか♪」


ブクマ・評価いただけると大変助かります(>ㅅ<)

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