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夜明けの星の黙示録  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第六章 ロスデア動乱編

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第087話 奴隷たちの唄

―――星歴992年11の月

神聖ロザリ法王国:ルシフルの村。


小さな村の片隅、粗末な木造の小屋に、

「司祭」ラフィン・ダンタリオンに仕える三人の聖騎士が集っていた。

(あるじ)より「ここで待機せよ」と命じられたためである。


―――――――――――――――――――

・アムル:サウル人:♂:31歳

・ルガード:ウェアウルフ:♂:25歳

・キリアン:ケルティア人:♂:34歳

―――――――――――――――――――


普段はそれぞれの任務に追われ、顔を合わせることも稀な三人。

久方ぶりに再会したアムルは、ベッドに横たわり、

腰に白い包帯を巻いているではないか。


隊を全滅させ、たった1人で這って戻って来たという

噂は本当だったようだ。

ルガードは獣めいた笑みを浮かべ、からかうように言った。


「あんたもポカするんだな。

 それでよく戻って来たもんだ。

 俺だったらとっくにズラかってるぜ」


キリアンも肩をすくめ、軽口を叩く。


「まぁ、戻ってきたくなるのも分かるさ。

 ここじゃ腹を空かす心配もない、女も抱き放題。

 "俺達"にとっちゃ~ここはパラダイスだもんな~」


「……」


アムルはいつにも増して寡黙だった。

まぁ、それもそうか。この失敗で、

もう彼の姿を見ることはないかもしれないのだから。

からかいがいのないアムルに興味を失った二人は、視線を外へと向けた。


「見ろよ、あれが猊下(げいか)だぜ」

「俺は今まで二回程見たことがあるな」


二人の遠い視線の先、そこに居たのは

仰々しい護衛に囲まれた【教皇】キアン・オブライエンと

その傍らに控える4人の主たちであった。


―――――――――――――――――――

・キアン・オブライエン:ケルティア人:♂:62歳

・ラフィン・ダンタリオン:アリアン人:♂:45歳

・ルシエン・バエル:アリアン人:♂:42歳

・バルバラ・ベレト:アリアン人:♀:26歳

・オルフ:アリアン人:♂:44歳

―――――――――――――――――――


やがて一行は蔵の前に到着すると、

叡聖(えいせい)】ルシエン・バエルが一歩進み出て

厳重に警備された蔵の禁を解いた。


猊下(げいか)、こちらです」

「おおっ…!」


扉の奥に広がっていたのは、収穫された大量の穀物。

ルシエンは頭を垂れながら、低い声で続ける。


「これらはほんの一部に過ぎません」


そして正確な収穫量を報告した。

―――――――――――――――――――

・穀物:1,000 t

・豆類:500 t

・肉・魚:100 t

・乾酪:50 t

・塩:5 t

・ワイン:2,000 t

[計:3,655 t]

―――――――――――――――――――


「なんとっ…よくぞここまで備えた。

 よくやった…ルシエン!」


教皇の声には驚きと満足が入り混じっていた。

だが次の言葉には、わずかな躊躇(ためらい)いが(にじ)む。


「しかし…本当に冬に行軍するのかね?」


「はい。雪解けになれば、各王国とのにらみ合いになり、

 身動きが取れなくなります。

 それまでに確実な一勝を取りに行きます」


その言葉に続いたのは、この村の村長であり司祭でもあるラフィン・ダンタリオンだった。

彼はいつも作り笑いをして崩さず、徹底して媚びへつらう。

どこか不気味な男である。


今日も卑下した態度を崩すことなく、(うやうや)しく頭を垂れる。


「西方への梅雨払いはすでに済ませておりますゆえ、

 抜かりありません。……こちらを」


司祭が差し出したのは、一篇の詩。

そこには、神の天敵に乗っ取られた町を、

教皇の威光が薙ぎ払い、安寧をもたらすという物語が(つづ)られていた。


「戦勝の暁には、この詩を吟遊詩人(ぎんゆうしじん)たちが歌い広める手筈となっております」


気味の悪い男だが、その仕事ぶりは確かだ。

民衆には、これくらい単純でわかりやすい方が広まりやすい。

そのことをよく理解している。


「おお…お前はいつも準備がいいな、ラフィン。

 もはや、ワシの味方はお前たちだけだ」


教皇は恍惚とした表情を浮かべ、

その声には揺るぎない信頼が込められていた。

栄光は、もはや手を伸ばせば届くのだと感じる。


「大変心苦しいのですが……

 これらの備蓄を軍備に転じるには時間を要します。

 今から準備に入らなければ間に合うかどうか……

 ここは一つ、ご聖断を賜りたく存じます」


「……うむ。やるぞ。進めてくれ。

 反対勢力など振り切ってくれるわ」


教皇は決断を下した。

普段は踏ん切りつかないところがあるが、

一度決めれば大胆に突き進むのがこの教皇の特徴だ。


"第二回(ヴィーナス・) 金星十字軍(クルセイダーⅡ)"敗戦によって

(おとし)められた教会の威光。

教皇は、その威光を取り戻そうと躍起になっていた。


話がまとまったその時、

バルバラ・ベレトが教皇に声をかけた。

彼女は修道女であり、教皇の公然の秘密の愛人だ。


猊下(げいか)、見事なご聖断です。

 そろそろお暇しましょう♡」


「こらこら、ベレト。公務中だぞ」


言葉では抑止しながらも、

その表情はまんざらでもない様子。


※十字架刑をお見舞いしますわ♡※


「うむ……まぁ……祈りを捧げて来るか」


バルバラの妖艶(ようえん)(ささや)きと共に、

二人はゆっくりと教会の奥へと姿を消していった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


アムルのいる小屋では、

突如として家内奴隷たちが慌ただしく動き始めた。

ざわめきの理由はすぐに明らかとなる。


直後、扉が開かれ、姿を現したのは、

「司祭」ラフィン・ダンタリオンと、

叡聖(えいせい)】ルシエン・バエルの2人。


「ご主人様っ!

 それに…叡聖閣下(えいせいかっか)っ!」


思わぬ大物の登場に、

キリアンとルガードは慌てて跪いた。

アムルもまた、ベッドから身を下ろして跪こうとしたが、その動きを主が制す。


「無理せんでええ。そのままで聞け」

「はっ!」


ラフィンの口から放たれた言葉は、重くその場を支配した。


「"彼岸花(ひがんばな)が咲く"。今年の冬や」


それは、作戦決行を告げる暗号―――


臣下3人の顔が一斉に引き締まる。

成功であれ失敗であれ、未来は大きく変わるのだ。

栄光への片道切符は今切られた。


「時は近い。抜かりなく備えよ」

「はっ!」


返事はいつもの調子であったが、

その声には僅かな震えが混じっていた。

ラフィンは視線を巡らせ、静かに告げる。


「アムルと話がしたい。外してくれるか?」

「かしこまりました」


キリアンとルガードは(うやうや)しく頭を垂れると、

二人は興奮気味に小屋を後にした。

残されたのは、アムル、ラフィン、ルシエンの3人。


「何があったか…ルシエンが興味があるようでな。

 今一度詳しく話してくれんか?」


(うなが)されるまま、アムルはカナンでの出来事を語り始めた。

その口から語られたのは、

"女神の使い"と名乗った1人の男が大暴れしてカナンを解放したという…

どこかおとぎ話のような話。


まるで金星初代皇帝―”雷帝(らいてい)”アレオス・スタルディアが

再臨したかのような英雄譚(えいゆうたん)だった。


「若い黒髪の男に…"(いかずち)の魔法"か…」


(皇帝の隠し子……?隔世遺伝(かくせいいでん)……?)


テストを兼ねての二度目の聞き込みだったが、

事前に聞いていた内容と一致した。

証言に矛盾はなく、整合性は保たれている。


ラフィンは"ミスを誤魔化すために大げさに言っているんだろう"と、

軽く受け流したが、どうにも取るに足らぬ石ころとは思えなかった。


計画は密に練って来のだ。

小石に(つまず)いて歯車が狂ったなど、許されない。

それでも、語られた内容だけでは確証を得られなかった。


("カナン"……ね……)


ルシエンは"カナン"というワードを脳裏に深く刻んで

聞き取りを終えることにした。


一通りのやり取りを終えると、

今度はラフィンが口を開く。


「褒賞必罰や。アムル」

「はっ!甘んじて受け入れます」


アムルは絶望の眼差しで、罰が下されるのを待ち受けた。


先ほど告げられた決戦の場に、自分は居ないのだろう。

信頼を築くのは大変だが、それ崩すのは一瞬。

また一からこつこつと積み上げるしかない。

自分の悲願ともいえる目的を達するまで…


すると、ラフィンが続けた言葉は意外な一言だった。


「お前が受けるのは褒美や。

 たった一人になっても帰って来たという、その誠意に報いよう」


一瞬、意味を掴めず固まったが、言葉は続く。


「お前の妹――"ヨル"は生きとるみたいやで。

 スタルディア星王国で、王族の侍従(じじゅう)として仕えとるわ」


!??!?

主の言葉に冷静さを装いながらも、

頭はパニックになっていた。


遠のいたと思った目的が、舞い戻って来たのだ。

しかも、それはあまりにもあっさりと渡された。


「全てを成し遂げ、ヨルに会いに行け。

 決戦の時に、お前を外すわけないやろ」


「ふぐぅ…ッッ!!」


気が付けばアムルは、涙を抑えることが出来なかった。


もう15年は経つだろうか―――

最後の記憶は、まだ言葉も話せない幼子のヨルを抱きしめ、

必死に温もりを守り続けた冬の記憶。


「必ず…!必ずや…ッ!」


人目もはばからず涙を流すアムルを見届けると、

ラフィンとルシエンは小屋を後にした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


その夜―――

小さな村には不釣り合いな邸宅に、

4人の主たちが集まっていた。

―――――――――――――――――――

・ラフィン・ダンタリオン:アリアン人:♂:45歳

・ルシエン・バエル:アリアン人:♂:42歳

・バルバラ・ベレト:アリアン人:♀:26歳

・オルフ:アリアン人:♂:44歳

―――――――――――――――――――


「しかしなぁ。ミスした奴と同じ船に乗るのはなぁ」


ラフィンはアムルの起用に反対だった。


「まぁまぁラフさん。

 アムルにはまだ使いようがありますので」


これを推したのが、【叡聖(えいせい)】ルシエン・バエルだ。


スタルディア星王国のケルティア人勢力、

ブルスター家とは密約がある。

事が順調に進めば、アムルには星王国で相応しい舞台が整えられるだろう。

そのような計算からだった。


「"奴隷社会"か…()()()か?」

「ええ、"奴隷"は最強のジョブですから」


叡聖(えいせい)】ルシエン・バエルは

"第二回(ヴィーナス・) 金星十字軍(クルセイダーⅡ)"に従軍している。

そこで、貴族の限界を見た。


当時の帝国軍の動員兵力は20万。

"金星最大の軍勢"などと、もてはやされたが、

最高権力の【教皇】と【皇帝】が手を組んで、この程度なのか…

というのがルシエンの率直な感想であった。


内戦しているうちはまだいいが、

海の向こうに目を向けるなら………


彼は、早々に既存勢力を見限ると、

何のスキルも効果も持たないが、

無制限かつ強制的に割り当てられる"奴隷"のジョブに目を付けた。


そして、この村で社会実験を行うことになる。


独自に細分化した奴隷階級を作り、

奴隷だけで循環する"ピラミッド・ストラクチャー"と呼ぶ社会を構築した。


■奴隷社会:ピラミッド・ストラクチャー

挿絵(By みてみん)


外から(さら)って来た奴隷は強制的に結婚させて地に足を付ける。

100人に一人の割合で"奴隷長"を置き、誰にでも機会を与えた。

さらに、階級間の移動を固定することなく流動させると、

奴隷たちはもはや上と下しか見なくなった。


こうして、3()()()()()()()()()を集めながら、

大きなトラブルなく社会を維持してきた。


「必ず築き上げて見せましょう。

 誰も見たことのないような奴隷社会を……

 史上最大の奴隷帝国をね」


ルシエンの語る未来に、

バルバラは瞳を輝かせて耳を傾ける。

4人の元奴隷たちは、彼の(えが)く船へと乗り込んだのだ。


「なぁ、ここまで連れてきてくれて感謝しているよ。

 だが、今のままでもいいんじゃないか?」


こんな時、決まって水を差すのはオルフだ。

3人とも成り上がったというのに、

彼だけ未だに苗字も持っていないのは、

その性格ゆえだろう。


そして、こういう場面で発破をかけるのは、

いつもラフィンの役目でもある。


「オルフよ、いつも言うてるやろ。

 "大海を見よ"ってな。

 ワシらは近いうちに、金星を救うことになる。

 それに……ほれ、外を見てみい―――」


ラフィンの視線の先、

遠方から奴隷たちの唄が流れてくる。


奴隷の吟遊詩人(ぎんゆうしじん)(うた)わせた、

最近彼らの間で流行っている"成り上がりの唄"だ。


「ここにおる連中、みんな“夢”見て生きとるやろ。

 辛い生活っちゅうもんが、人に“夢”を見させるんやで♪」


4人は奴隷たちの唄に耳を傾けながら、

それぞれの胸に夢を(えが)いていた。

その旋律は哀愁を漂わせながら、どこか希望を孕んでいる。


ルシエンもまた、強烈な夢を見ている1人。

その唄に耳を傾かせながら、決意を深めていく。


三年で金星を統一し、

次の三年で全ての異教を攻め滅ぼす―――

ブクマ・評価いただけると大変助かります(>ㅅ<)

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