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夜明けの星の黙示録  作者: 妖怪サトリ
第一章 賽は投げられた

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第008話 【聖女】イヴ

森の中を一人の少女が彷徨(さまよ)っていた。

黒い髪をなびかせ、豊満な胸を揺らしながら森の中を駆けている。


■【聖女】イヴ

挿絵(By みてみん)


カナンの集落のイヴは男達の追跡から逃げている最中だ。


(女神様…お助け下さい…)


少女のこれまでの人生に祝福は無かった。

それでも少女は信仰を捨てず、神の道に殉じていた。

祈りを捧げども状況は悪くなる一方で、今まさに絶命の危機に瀕している。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


今から3年前———

魔王軍の侵攻に抗う為、イヴの父は帝国軍の

"第二回(ヴィーナス・) 金星十字軍(クルセイダーⅡ)"に従軍した。


"参加したものは、家族と共に審判の日を越えられる"


教皇によるこのようなお墨付きもあり、

当時多くの男達はこの十字軍に参加した。


皇帝自らも出陣し、意気軒昂(いきけんこう)の帝国軍は連戦連勝。

一大決戦となったアヴァロンでの会戦が決定打となり、

魔王軍はロスデア島から撤退。帝国は勝利を確信した。


父はすぐに戻ってくると思われた。


だが、時の皇帝はその勢いのまま魔人殲滅を宣言し、

人間族が未踏の地――魔人領への侵攻を開始すると、

それ以降、吉報は途絶えた。


皇帝死亡が噂される中、

昨年、ようやく教皇は皇帝の行方不明を公表し、

魔人領からの撤退を宣言した。

十字軍の事実上の敗北である。


父は今だに帰ってこない。


神聖ロザリ法王国の片隅で母と二人、苦労しながらも信仰を糧に生きてきたが

この土地では珍しい、イーシス人(東方人種)では静かな暮らしは難しかった。

怪奇の目に晒され、不吉な黒髪と後ろ指を指され、教会に入ることも叶わず。

平穏とは程遠い生活を送らざるを得なかった。


生活は厳しさを増すばかりだったが、

母と共に信仰を守り、貧しさに耐えながら父の帰りを待ち続けた。


やがて、そんな生活にも限界が訪れる。

法王国内で、ケルティア(西方)人種以外を奴隷化する動きが活発になり、

イーシス(東方)人である自分と母にも危機が迫ってきた。


母サクラは決断すると、安息の地を求め、二人で法王国を離れた。


漂流の末、魔人圏と帝国圏の境界に位置する空白地帯、

小さな集落カナンへたどり着いたのは、

今からひと月程前の事だった。


生活はさらに厳しくなったが、

母と二人、集落の人たちとも力を合わせ、

静かに、慎ましく暮らしていたのだが、

そんな慎みも奪われたのが、昨夜の事だ。


突如、武装した男たちが襲来。

言葉での調和を試みた長老は、あっという間に斬り殺された。


凄惨な光景を目の当たりにした母は、即座に娘に役目を託した。

魔法教団へ助けを呼ぶこと――

それが、母との最後の会話だった。


少女は暗闇の中を一心不乱に駆け抜けた。

一縷の望みを抱き、北西にあるというラエルノア魔法教団を目指して。


(女神様、お助け下さい。)

夜を駆け抜ける間も祈り続けていた。


やがて夜が明け、陽が昇り始めた頃、

力尽きた少女は、擦り傷だらけの身体でその場に倒れ込んだ。

場所もわからず、迷子になっていた。


張りつめていた緊張の糸が切れ、大粒の涙が頬を伝う。


今思えば、母は自分を逃がすために役割を与えたのだろう。

母の愛に涙し、そして孤独が恐ろしくなった。


(女神様の使いが現れ、私と集落を救ってくれる)


そんな祈りと共に、意識が遠のいていった。


…どれほど眠っていたのだろうか。

男たちの声で目を覚ますと、すでに日は傾いていた。


すがるような思いで助けを求めようと近づいたが、

彼らの会話から、集落を襲った一派だと気づく。


「誰かいるのか?」


男達に気づかれた。少女は再び森の中を駆けだした。


(女神様、お助け下さい)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お嬢ちゃん!こっちおいで!

 気持ちよくしてやるから!」


「ギャハハ!」


嘲笑を浴びせながら少女を追いかける男達は

人間狩りを楽しんでいた。


「あうっ」


イヴの足がもつれ、地面に倒れ込むと、

膝を擦りながら、這うようにして近くの木へと向かう。

ようやくたどり着いたその幹に、彼女は力なく身を預けた。


昨夜から、迷いながらも走り続けていた。

体力も気力も、とうに限界を超えている。

息は荒く、視界は滲み、意識は今にも途切れそうだった。


背後から足音が迫ると、男たちに囲まれる。


「ヒュー大当たり!」

「珍しい、黒髪じゃん♡」

「可哀そうに震えてんじゃん。ギャハハ」


獲物を捕らえた男達は色めき立っている。

イヴは手を震わせながら祈祷していた。


そのうちリーダー格の男が近づき、声をかけて来た。

「死にたくなかったら四つん這いになってケツ向けろ」


イヴは祈祷をやめる様子はない。

「女神様…お助け下さい…」


リーダー格の男は舐めまわすようにイヴの体を見た。

(いいねぇ)


その男は女の心を折り、服従させて犯すことを趣味としている。

抵抗する女や、諦めた女はもっぱら犯し飽きているのだ。


どうせ()るなら心まで()りたい。

そのために丁寧に、慎重に、時間をかけて心を服従させる。

その苦労に悦びを感じるのだ。


男は目の前にいる女を服従させる手続きを想像して

勃起していた。


言葉に怒気を込めて伝える。

「なぁ、現実が見えてないなら

 顔の形が変わるまでブン殴ろうか?

 お前の顔がぐちゃぐちゃになるのが先か、

 女神が現れるのが先か、競争してみるか?」


まずは鞭を打つ。

ある程度痛めたら今度は飴を与える算段だ。


「女神様…お助け下さい…」


イヴがそう祈った時、少し離れた場所に別の空間が現れた。


※ドサッ※


「いてっ」―――

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