第080話 緊急事態
ペンドラゴンの仲間たちとともに、ゴブリン討伐へ向かう。
今回は山岳地帯での戦いになるため、
“黒馬”ヘングローエンは留守番だ。
まずはアウラとフィズルで、
それぞれ別方向に"探知魔法"を展開。
同時に、俺が"円形の探知魔法"を重ねて掛け、情報の確度を高める。
こうして互いの魔法を補完し合いながら、目的地を絞り込んでいくのだ。
そして目的地が決まれば、俺の空間魔法で一気に移動する。
ペンドラゴンでは、こうした"サーチ"&"ワープ"を訓練しながら、クエストに挑む。
訓練を兼ねた実戦だ。
仲間たちと共に、今日も一つ、確かな経験を積みに行く。
「旦那様…見つけました。
左前方、200m…10体以上。ゴブリンらしき反応です」
左側の索敵を担当していたフィズルが、敵影を捉えた。
その反応は、どうやら何かを追いかけているようだ。
追いかけられているのは弱い生命反応…小動物だろうか?
「ああ、12体いる。
これは…狩りをしているのか?
2体は生命反応が強いぞ」
俺は情報を補完しながら、仲間たちに声をかける。
「皆準備してくれ。
敵から20m程離れて、ワープホールを設置するぞ」
「「はい!」」
イヴとリーシャが魔法を唱える。
「「ディグ・ノドス・バリス」」
まだ彼女たちは、戦闘中に盾の魔法を展開することはできない。
なので、こうして事前に展開してから移動するのだ。
もっとも、質の方もまだ低く、
物理的な衝撃にわずかに抵抗できる程度なのだが。
一方、盾魔法を使えないアウラは、
すでに弓を構え、矢を番えて待機していた。
その姿は、静かに獲物を狙う狩人のように凛としている。
「では行くぞ‥」
"ワープ"
…
まずは俺からワープホールから身を乗りだす。
周囲を目視したその時、
目に飛び込んできたのは、見覚えのある姿だった。
「ん?」
■ネイ
「ネイ!」
「…!!?アレク!」
俺の声に、ネイが振り向く。
その瞳が俺を捉えた瞬間、彼女は迷うことなく懐に飛び込んできた。
まさか追われているのがネイだとはな…
なぜ一人なのか、色々聞きたいことはあったが、
今は状況の把握が優先だ。
すぐに探知魔法を掛けると、敵全員の位置を特定した。
―――――――――――――――――――
・小鬼(上位種):ゴブリン・ファイター Lv.51
・小鬼(上位種):ゴブリン・アーチャー Lv.44
・小鬼(中位種):ボゴブリン Lv.35
・小鬼(中位種):ボゴブリン Lv.35
・小鬼(中位種):ボゴブリン Lv.28
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.18
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.16
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.16
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.12
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.10
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.9
―――――――――――――――――――
敵の数は11体。数的不利。
上位種も混ざっており、油断はできないが、
…俺達なら問題ないはずだ。
アウラがワープホールから顔を出したのを確認すると、
俺はすぐに指を伸ばし、敵の位置を伝えた。
まずは厄介なアーチャーから仕留める。
「アウラ、100m先だ」
「うん!」
アウラは静かに探知魔法を唱え、敵の位置の補足に努める。
そして、少しばかり集中した後、魔弓を射た。
※シュパン!※
※ギュゥゥゥン※
放たれた矢が、蛇のような唸りを上げながら敵へと向かっていくと、
視認できない森の奥から、探知魔法の反応が一つ消えた。
■アウラ
―――――――――――――――――――
★ 魔法弓 【夢弦・オロチ】
└突撃+80 / 貫通+50 / ☆属性魔法+50 / ★追尾+100
―――――――――――――――――――
ゴブリンたち、突如現れた俺たちに一瞬面食らった様子を見せるも、
すぐに態勢を立て直し、こちらを囲むように動き始める。
少し驚いた。
上位種に率いられたゴブリンたちは、こうも動きが違うのかと。
だが、それだけだ。
突如ボゴブリンの1体が、味方のゴブリンたちに襲い掛かる。
■リーシャ
―――――――――――――――――――
★ 魔導書 【八咫の記】
└外練+100 / 魔導+80 / ☆詠唱速度:大↑↑↑ / ★神使
―――――――――――――――――――
こちらに向かって突進してきたゴブリンたち。
だが、その足元の土が、突如として崩れ始めると
数体が落とし穴に呑まれた。
■フィズル
―――――――――――――――――――
★ グランドスタッフ 【第六天魔王】
└外練+100 / 魔術+80 / ☆詠唱速度:大↑↑↑ / ★六重奏
―――――――――――――――――――
混乱に陥った敵陣に、アウラの矢が容赦なく降り注ぐ。
視認できる敵には、"麻痺の魔法"を試している様だ。
気が付けば、あれよあれよという間に敵の隊列は崩れ、
生き残ったゴブリンは敗走し始めた。
「後は俺がやる」
仲間にそう伝えると、★ 大金棒 【大激震】を取り出した。
俺も対赤竜に向けた戦闘訓練をする。
―――これまで二度の交戦で、分かったことがある。
奴は"抗体"の能力を持っているせいか、
"麻痺の魔法"がほとんど効かない。
だが、"王級の雷の光線"で
赤竜を撃墜できた。雷の魔法は通りがいいのだ。
そして★ 大金棒 【大激震】のダメージが通ることも分かっている。
問題は防御面だ。
赤竜の攻撃に、盾の魔法で耐えようとすると、
ジリ貧に追いやられて、死が待っている。
攻撃をくらわせた後は、必ずワープで移動し、
その場に居続けない戦い方を徹底しなければならない。
雷×空間×無属性魔法。
赤竜には、この三重奏で挑む―――
早速、逃げ出すゴブリン・ファイター目掛けて、
威力を下げた魔法を念じる。
"雷の光線の魔法"
バチっとした音と共に、
ゴブリン・ファイターは雷に貫かれて転倒する。
"空間魔法"
すかさず、ゴブリン・ファイターの元へ移動し、
軽めに【大激震】をぶち込む。
「ふんっ!」
※ドゴッ!※
打ったらすぐに移動。そして次の攻撃。
"空間魔法"
"雷の光線の魔法"
…
こうして、俺達はゴブリンを全滅させた。
※シャン※
※パァァァア※
イヴが全員に回復を施してくれる。
■イヴ
―――――――――――――――――――
★ 巫女鈴 【聖鈴・神楽】
└外練+100 / 魔法+40 / ☆魔法(音)+80 / ★魔法(癒)+100
―――――――――――――――――――
「ふぅ…ありがとう、イヴ。皆、怪我は無いか?」
俺が声をかけると、仲間たちはそれぞれ頷き、無事を確認し合う。
ネイは胸を撫で下ろしながらも、目を丸くしていた。
「す…すごい。さすがペンドラゴンっ!」
どうやら安心よりも驚きのほうが勝っているようだが、
こちらとしても、ネイがここにいること自体が驚きだ。
ここはドラコニス山脈の中層~深層に位置する場所である。
上位種が出るような危険地帯で、1人でうろついていい場所じゃない。
「一体どうしたんだよ?」
俺は水とルビー・ブドウを分け与えながら、
ネイに事情を聴くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話によると、ネイの所属する"猫耳探検隊"の5人は、
例の年次依頼を受けたかったらしいのだが、
ランクが足りずに正式受注できなかったという。
それでも諦めきれなかった彼女たちは、
ギルドにもクランにも相談せず、
勝手に依頼を遂行することにしたらしい。
一応、ネイはこっそりと受付に報告だけは入れて来たようだが…
(まじかよ……)
最初は、ドラコニス山脈の表層でゴブリンを発見し、追跡していたという。
だが気づけば、いつの間にか森の奥地まで足を踏み入れてしまった。
(いつの間にか"狩られる側"に回っていた、という奴か。
カラドクもそんなこと言っていたなぁ)
そして、突然の待ち伏せ。
ゴブリンの集団に囲まれ、“猫耳探検隊”は二手に分断されてしまったらしい。
少なくとも、二人はゴブリンに捕らえられたとのことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「事情は分かった。俺に任せておけ。
一先ず、ネイはガルフ・バウまで帰ろうか。送るぞ?」
俺がそう言うと、ネイはすぐに首を振った。
「私も行く!」
その瞳に宿る決意は、揺るぎなかった。
俺は少しだけため息をつき、説得を諦めた。
「……仕方ないな。ネイ、これを貸してやる」
そう言って、以前のレイドで貸した短刀を手渡す。
―――――――――――――――――――
★ 短刀 【地獄痺刃】
└突撃+80 / 斬撃+50 / ☆貫通+80 / ★麻痺+100
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ネイは短刀を受け取ると、ウットリとその短刀を眺めた。
そして、その瞳に戦う意思の炎を灯す。
緊急事態だ。
訓練は中止し、強力な探知魔法を展開する。
"偉大なる広域の探知魔法"
魔力が地を這い、周囲の情報を一気に洗い出すと、
すぐに、ゴブリンの巣と思しき反応を捉えた。
ここから約1キロ先の、最も近い巣に標準を定める。
連れ去られているとすれば、ここが一番可能性が高い。
…だが、懸念もある。
強力な生命反応が二つ、はっきりと浮かび上がっているのだ。
「巣と思わしき場所を捉えた。数は52体。
…飛びぬけて強いやつが、2人いる。
幻獣種以上だ―――」
仲間たちにそう告げると、一気に空気が張り詰める。
全員が、戦闘に向けた準備を始めた。
入念に装備を確認し、防御魔法を展開。連携の準備を終える。
そうして俺は、空間魔法を展開した。
"ワープ"
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