第046話 "ビビり"のアレク
■フィズル
ラエルノア魔法教団だと!?
魔法教団は強者揃いと聞いていたが、
目の前の少女を含めてこの洞窟の中から強者の気配は感じない。
「俺はペンドラゴンのアレクだ。
裏に控えているのは仲間か?」
「ええ、まぁ…そんなことろです」
(何か含みがあるな)
明かりを照らすと、
洞窟にはフィズルを含めて13人が隠れていた。
状況はよくわからんが、とにかく全員が弱っている。
まずは回復を優先する。
イヴに全体回復をかけてもらい、
水の魔法を生成し、簡易的な水飲み場を作る。
ある程度潤ったところでルビー・ブドウを配った。
いつもの感謝パターンだ。これで窮地は脱したはず。
「このブドウはっ・・・!
何から何まで、ありがとうございます」
グフフ。はい頂きました。美女からの感謝。
後ろの仲間達も驚愕している。
どうだ参ったか。うまいだろう。
ルビー・ブドウに夢中になっている所で、
フィズルと名乗った少女を解析する。
”解析”
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名前:フィズル Lv.45
HP:550↑ / 660 MP:285↑ / 480
種類:亜人類 種族:妖精 種別:ノーム
性別:♀ 年齢:21歳 身長:145cm
ジョブ:
・「土工」 Lv.11
・魔法使い Lv.21
・『学者』 Lv.18
スキル:
・「上級施工」
・二重奏
・『博学多識』
称号:
・「叡智」
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少女かと思ったが年上だった。それも5歳も上だ。
妖精族は油断ならんな。
確かラグナル達ドワーフも妖精族だが、
ノームというのには初めて会った。
ジョブが金色の『学者』で、
称号に「叡智」とあることから
頭がよさそうだ。
そして何より、MPの最大値が少ない。
アウラより少ない位だ。
魔法教団なのにどういうことなんだろう。
そもそも本当にフィズルは魔法教団なのだろうか?
スライムのように擬態しているとか?
能力の詳細も解析する。
■フィズル_身体
■フィズル_道具
知力はLv.85とやはり高い。身体の【閃き】、
道具の【発明】と特別な能力を二つ保持している。
"天才"という奴なんだろうか。
■フィズル_魔法
■フィズル_生殖
木の魔法というのは初めて見た。
珍しい魔法を持っている。
しかし、魔力の潜在能力が低すぎる…
能力レベルは上限に達しており、これ以上、上達する見込みはない。
MPの最大値が低い理由はこれだ。
魔力の才能がない魔法教団員か…
「それで、ラエルノア魔法教団が
こんなところで何をしているんだ?」
「あ、魔法教団所属は私だけでして…」
フィズルはそう答えると事の成り行きを教えてくれた。
―――主であるラエルノアから、
カナン付近の強大な反応を調査するよう命じられ、カナンへと派遣された。
しかし、地理に疎くすぐに森の中を彷徨うことになってしまう。
そんな折、同じノームがゴブリンの群れに絡まれている場面に遭遇。
助けに入ってはみたものの、魔力が尽きてしまい、
逆に窮地へと追い込まれてしまった。
そこへ、運よく俺が現れた。…ということらしい。
「ラエルノア様は大変尊敬できる方なのですが
少々妖精使いが荒いところはあります…」
(こんなかわいい子を1人で派遣するなんて
ラエルノアというのは少々ぶっ飛んどるようだ
そして"強大な反応"の調査か。おそらくあの《赤竜》の事だろう。
上手くいけば有益な情報を引き出せるかもしれん。)
「そうか。ちょうどカナンへ帰るところでな。
着いて来るか?」
「え?カナンの方だったのですか?
私は行きたいのですが…」
フィズルはそう答えると同種のノームの方に目を配る。
その目線を察すると、ノームの1人が答えた。
「今日は助けてくれてありがとう。
僕たちはいいよ。洞窟暮らしが性に合っているからね」
どうやらノームは洞窟を転々として暮らす種族のようだ。
幾人かのノームの能力を解析したが、総じて土の魔法のレベルが高く、
ジョブは「土工」「鉱夫」が多い。大地の相手が得意なようだ。
この洞窟も岩肌が若い。自分達の手で作ったんだろう。
丁度カナンも開拓中だし、こういった職人達が来てくれると助かるんだが…
「そうか、残念だな…
せっかくうまい肉を用意したんだがな…
一緒に旨い肉を食いたかったのだが…」
「え?肉!?行くー!」
やったぜ。ちょろいな。
あわよくばこのまま定住してもらおう。
ノームの勧誘に成功し、全員でカナンへ行くことになった。
洞窟を出ると、もう周りは随分と暗くなっていた。
暗い森というのは昼間とは別世界である。
人間の領域ではない。アウラがビビるのもわかる。
…俺はビビってないがな。
何より嫌な感じがする。
さっきから誰かに見られているような…
早くカナンへ帰ろう。決してビビっている訳ではないがな。
周りを注視すると、視線の先、
誰もいないはずの空間に、ぼんやりと揺らめく影が立っている。
「え?」
心臓が一拍、強く脈打つ。
人の形をしている…気がする。だが、輪郭は曖昧で、
まるで霧が人の姿を真似ているかのようだ。
それは、確かに“こちら”を見ていた。
「どわああああ!!で、出た!!」
驚いて尻もちをつくアレクを余所に、
フィズルは冷静に魔法を唱え出した。
(え?魔法?…まさか!)
アレクは慌てて"解析"を使う
―――――――――――――――――――
・幽霊(下位種):ゴースト Lv.9
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"幽霊"という種別のモンスターだと!?
「ルクス・サギッタ」
フィズルの光の矢がゴーストを貫くと、
ゴーストはあっさり消えてしまった。
「ふぅ、大丈夫ですか?アレクさん?」
フィズルに助けられたようだ。
「…あ、ああ」
我ながらなんと情けないことか。
Lv.9のモンスターに驚き、慄き、何もできないとは。
これで『ミスリル級冒険者』だというのだから情けない。
明日ガルフ・バウへ着いたらミスリル級を返上しよう…
そう落ち込んでいると、
ニヤ~っとした顔のアウラも語りかけて来た。
「大丈夫ですか?アレクさん?」
「・・・」
くそっ!アウラのやつめ!
フィズルの真似しやがって!
一生の不覚!何とか挽回せねば!
あばばばばば!!
「え~、ゴホン!脅威は消え去ったようなので、
今から特別な魔法を使ってカナンへ移動します。
…え~、特別な魔法です。
皆さん、準備ができ次第刮目してください」
いつもは頭の中で念じているワープの魔法をワザとらしく詠唱した。
「神よ…我に力を貸したまえ…
うむむむむ…
おお、神よ…感じる…力を感じるぞ…」
まぁ嘘なんだが。
「ええ?」
フィズルを含むノーム達は驚いている。
ふふ・・・いいぞ。
俺様に驚き、そして慄け。
周囲のざわつきを背中で感じる。
場は"整った"ようだな。
そして"くわっ"と目を見開き、
空間魔法を大声で詠唱した。
「"ンンウラノス!・ンンマギアアア"!!!!」
そしてカナンに通じるワープホールが出現した。
―――どうだ、思い知ったか?
いつもバカスカ利用しているこのワープはな、
"特別な魔法"なんだわ。
使うたびに敬意を持ってもらわないと困るんだわ。
そしてワープホールを潜り抜け全員がカナンへ移動した。
やはりというか、初めてワープを利用したノーム達は驚愕している様だ。
背中で騒めきを感じる。そうそう。これこれ。
「これは…この魔法は…」
フィズルはショックを受けたように呆然としている。
(フフ。どうだアウラ?
かのラエルノア魔法教団さえ驚く俺様の魔法は?)
チラッとアウラの方を見ると、
うれしそうな表情で皆のところへ駆けていくのであった。
いいぞ、我が【愛奴】アウラよ、
その勢いのまま主人の名を広めるのだ。
(威厳を)産めよ
(尊敬を)増やせよ
(名声よ)地に満ちよ!
―――アレクは"ビビり"の称号を獲得したのであった。
■アレク
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称号:
・『ミスリル級:冒険者』
・ビビり
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