第045話 "叡智"のフィズル
ミスリル級昇格祝いのどんちゃん騒ぎの支払い終えると、
アレクは酒場を出た。
まだ夕方か。カナンへ帰るのはちょっと早いな。
俺はカナンの主になったはいいが、
カナン付近の事を良く知らない。
マッピングがてら、少し散策してから帰ろう。
「帰る前にカナン付近でも散策するか」
すると、アウラは反対意見を述べて来た。
「えー、もう日が暮れるし、
幽霊が出るよー!早く帰ろうよー!」
なんだアウラのやつ、お化けが怖いのか。
さすが14歳。可愛いところがあるじゃないか。
「ふふん?怖いのか?アウラ。
幽霊が出たら俺様が守ってやろう。
俺様の後ろにでも隠れておけ」
アウラは「もー…」とうな垂れると説得を諦めた。
"ワープ"
今朝、道を作ったところまで移動した。
夕方とはいえ森の中は確かに暗い。町とは全然違う。
周りを散策するといっても、
木、木、木。あたり一面、ただの森だ。
とは言っても前世をベッドの上で過ごした俺からすると、
ただ散歩するだけで楽しいのだが。
むむ?
散策していると何やら緑色の肌をした小人が
木の根っこに向かって棒をつついているのが見えた。
「アレク、ゴブリンだ!珍しい」
ゴブリンなんて居るのか。
"解析"
―――――――――――――――――――
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.14
―――――――――――――――――――
だが、大した脅威ではないな。
丁度リーシャの使役の練習にいいんじゃないか?
「リーシャ、どうだ?使役の」
「嫌です…」
言いきる前に拒否られてしまった。
まぁ確かに汚らしいし、頭も悪そうだしな。
使役魔法は敵対していると使えないが、
仲良くできそうにないしな。仕方あるまい。
一応、戦い方を見ておくか。
ゴブリンに近づくと威嚇してきた。
「キキー!」
アウラは警戒して弓を構えている。
―――――――――――――――――――
★ 魔法弓 【夢弦・オロチ】
└突撃+80 / 貫通+50 / ☆属性魔法+50 / ★追尾+100
―――――――――――――――――――
威嚇されてもさらに近づくと
今度は持っていた棒で襲い掛かって来た。
「アウラ」
「うん!」
アウラはシュパンと矢を放つと
ゴブリンは雄たけびを上げ、ばたりと倒れた。
一撃必殺。やるじゃないか。
「ふぅー」
アウラは一瞬ホッとした後、周囲を警戒しだした。
まだ少し緊張が見える。
下位種は丁度いい練習相手になるかもな。
(しかしこんな木の根っこをつついて
何をしていたんだ?…むむむ?)
ぱっと見では分からなかったが、何かある。
軽く探知魔法をかけてみると弱弱しい生命反応があった。
"解析"
―――――――――――――――――――
・粘体(下位種):スライム Lv.9
―――――――――――――――――――
「スライムがいるぞ」
しかしただの木の根っこに見えるが、
スライムとはどういうことなんだろう。
能力の詳細を解析してみる。
■スライム_身体
珍しい能力を持っている。
木に見えるのは"擬態"か。
■スライム_魔法
"粘"、"泡"なんて魔法があるのか。
そして、道具と生殖の項目が無い。
どれどれ。魔法を見せてみろ。
先程のゴブリンと同じようにスライムにちょっかいを出す。
スライムは"きゅー、きゅー"と鳴くと
ようやく魔法を行使した。
"ジェル・マギア"
信号が降りて来る。
粘の魔法はジェル・マギアというらしい。
しかし、粘液を纏い始めただけで脅威を感じない。
"バブル・マギア"
ぷくぷくと泡を生成しだした。
泡の魔法らしいが、これも脅威を感じない…
「ご主人様、可哀そうです…」
スライムの能力を確かめていると、リーシャが抗議してきた。
確かにこれだけ脅威がないと心が痛む。
庇護欲って大事だよな。
ゴブリン、そこがお前との違いだ。
「すまん。すまん。
イヴ、このスライムに回復を頼む」
スライムに回復させると
お詫びとしてルビー・ブドウを差し出してみた。
食べるか不安だったが、
スライムはルビー・ブドウに触れると食べ物と認識したようで
もそもそと取り込んだ。
噛めないのでゆっくりと消化するようだ。
そんな姿を見たリーシャが黄色い声を上げる。
「きゃー!」
え?可愛いの?これが?
「…このスライムは使役にどうだ?」
「はい!…"アミクス"!」
使役魔法が成功したようだ。
スライムはのそのそとリーシャの方に寄ると、
リーシャはすくい上げた。
「きゃー!きゃー!
これからよろしくね!Qちゃん!」
もう名前まで付けちゃって。
「そのスライムは"ジェル・マギア"と"バブル・マギア"を使えるみたいだぞ。
訓練すれば基礎魔法も使えるんじゃないか?仕込んでみるといい」
「わかりました!
Qちゃん。これから頑張ろうねー」
リーシャはご機嫌だ。
使役魔法の練習相手も見つかったな。よしよし。
しかしアウラはまだ周囲を警戒しているようだった。
「どうしたんだ?アウラ」
「う~ん。ボク、そんなに詳しくないんだけど、
ゴブリンは集団で行動するらしいんだよね。
近くに仲間が潜んでるんじゃないかと思ってね」
なるほど、"珍しい"とはゴブリンが
単体であることを指していたわけか。
出力を上げた"探知魔法で"周りを確認すると、
確かに少し離れた場所に20体ほどの生命反応を確認できた。
やるじゃないっすか、アウラさん。
カナンに近いし駆除していくか。
「アウラの言う通り近くにいるな。
丁度いい練習相手だ。倒そう。
このパーティの初陣だ!」
これから戦闘に入ることを伝えると、
みんな緊張した面持ちで武器を構えだす。
準備が整ったところで、
生命反応から少し離れた場所を狙って転移した。
"ワープ"
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
移動先は洞窟の近くのようだった。
(おー、おるおる)
―――――――――――――――――――
・小鬼(中位種):ボゴブリン Lv.29
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.18
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.16
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.16
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.13
・小鬼(下位種):ゴブリン Lv.8
―――――――――――――――――――
ゴブリンの集団を視認できた。
ボゴブリンというのがこの群れのリーダーらしい。
しかし、どこか様子がおかしい。
洞窟を守るようにして外を警戒するのではなく、
洞窟の中にちょっかいをかけている様だ。
群れ同士の喧嘩だろうか?
「よし、俺は危なければフォローに入るから、
みんなで戦ってみろ」
「う、うん!」
アウラは呼吸を整えると、矢を放った。
―――――――――――――――――――
★ 魔法弓 【夢弦・オロチ】
└突撃+80 / 貫通+50 / ☆属性魔法+50 / ★追尾+100
―――――――――――――――――――
ゴブリンにヒットし、一体が倒れる。
群れもこちらを敵と認識する。ゴングだぜ。
…っと思ったら、その直後、
ボゴブリンが突如周りのゴブリンに襲い掛かった。
一瞬困惑したが、リーシャだ。
―――――――――――――――――――
★ 魔導書 【八咫の記】
└外練+100 / 魔導+80 / ☆詠唱速度:大↑↑↑ / ★神使
―――――――――――――――――――
【八咫の記】は敵対関係にあっても魔獣を使役できる。
こうして見ると随分強力な力だ。
ゴブリンの群れは突如味方に殴られて混乱していた。
そこにアウラがスパスパ矢を当てると
群れはあっという間に全滅してしまった。
あれ…?思ったより強いのか?ペンドラゴン。
俺とイヴは出番なしだった。
だがまだ洞窟に弱い反応を確認できる。
暗いので、明かりを灯して接近しよう。
「全員、ルクス・マギアだ」
イヴとリーシャが光を灯す。
よしよし。うまくできているな。
するとアウラが泣きついてきた。
「アレク~ボクまだできないよう」
「そうだったか。俺の手を握れ。
魔力を練るから出力してみろ」
アウラは分かったと言って詠唱すると、
あっさり光の魔法を成功させた。
「そのまま出力を続けろよ」
アウラと手を握りながら洞窟の入り口まで足を運んだ。
生命反応は洞窟の奥の方に固まっている。
入り口付近を見ると
いくつかのゴブリンの死体を確認できた。
やはり群れと戦っていたみたいだ。
慎重に洞窟に入っていく。
「あのー!誰かいらっしゃいますか!」
人!?
反応が似ているのでゴブリンと思い込んでいたが、
まさか人なのか?…ひとまず応答する。
「ああ、いるぞ!
俺たちは冒険者パーティ:ペンドラゴンだ。
入り口の群れは倒した!」
「助かりました!」
すると、洞窟の奥から小さな人影が近づいて来て、姿を現した。
「危ないところを助けられました…
私はラエルノア魔法教団所属のフィズルと申します」
■フィズル
ラエルノア魔法教団!?
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