第003話 転生
…まぶしい
頬に触れる柔らかな日差し。
心地よい温もりに包まれているのが分かる。
まだ眠っていたい――そう思った矢先。
……まぶしい?
……!!
脳が一気に覚醒する。
ここは外?なぜ外にいる?
体に強烈な違和感を覚え、ゆっくりと視線を落とす。
そこにあったのは、見慣れない、
だが筋肉質で健康的な肉体だった。
(なぜ全裸なんだ!)
とりあえず、その身体を動かしてみる。
痛みはない。関節も滑らかに動く。
どうやら、健康そのもののようだ。
それに身長もデカい。
190cm近くあるのではなかろうか。
(うお!ちんちんもでけぇ!)
見慣れない、巨大な倅に驚く。
どこか威厳の漂うオーラを放っており、
思わず敬語であいさつしそうになったくらいだ。
・アレク:神器 Lv.80
(いずれ使い倒してやるからな
…しばし待て)
初めて手にした、筋肉質で健康的な身体。
その感触に心が少し躍る。
だが、状況はまったく健康ではない。
まずは、今の自分が置かれている場所を把握する必要がある。
周囲を見渡すと、そこは深い森の中だった。
木々は高く、空を覆うほどに生い茂っている。
そして、自分は見たこともないほど巨大な樹にもたれかかるようにして、眠っていたらしい。
ふと見上げると、木々の隙間から青く澄んだ空が広がっていた。
太陽の光が差し込み、目を細めるほどにまぶしい。
―――今は昼だろうか?
少し離れた場所、100mほど先に
見晴らしの良さそうな丘が見えた。
木々の間から顔を覗かせるその高台は、
周囲の状況を把握するにはちょうどよさそうだ。
(まずはあそこ移動してみよう)
歩を進めながら、懸命に記憶をたどる。
病院で息を引き取ったはずの自分、
その直後、まばゆい光の中に女神が現れた。
彼女はいたずらに賽を投げ、
その後、謎の画面の前で賽の目に応じてポイントを割り振るよう促された。
そして気づけば、今この世界に転生していた。
「これは奇跡なんだろうか…
いったい俺は何者なんだ…」
思わず漏れた問いかけ。
その瞬間、頭の中にふと浮かんだ言葉――“解析:自分”。
……?
疑問に包まれながらも、導かれるようにその言葉を心の中で念じた。
"解析"
―――――――――――――――――――
名前:アレク Lv.156
HP:1888 / 2360 MP:1888 / 2360
種類:亜人類 種族:人間 種別:イーシス
性別:♂ 年齢:16歳 身長:186cm
―――――――――――――――――――
これが俺か?
目の前に浮かんだ情報を見つめながら、思わず息を呑む。
名前もレベルも、設定した通り。
HP、MPはおそらく体力、魔力のことだろう。
しかし8割程じゃないか。一体なぜ。
種別欄には「イーシス」と記されている。
人間のようだが、聞き慣れない種別だ。
“イースト”…東方系の人種という意味だろうか?
年齢は現実世界と同じ。
そして、身長はやはり高めだった。
見慣れない身体ではあるが、どこかしっくりくる感覚もある。
新たな自分。
その全貌が、少しずつ明らかになっていく。
―――――――――――――――――――
ジョブ:
・戦士 Lv.1
・魔法使い Lv.1
・狩人 Lv.1
・ ー
・ ー
・【アドニス】
・【英雄】
スキル:
・闘争心
・二重奏
・狩り
・【ポイント付与】
・◆任命:【愛奴】(7)
・【無詠唱】
・【精密解析】
称号:ー
装備:ー
―――――――――――――――――――
ジョブにはどうやら7つ枠があるらしい。
そのうち、すでに5枠は埋まっていた。
戦士/狩人/魔法使い…どれも自分で選んだ覚えはない。
だが、初期設定のように、すでにセットされていた。
そして気になるジョブがある。
初期から選ばれていた【アドニス】だ。
頭の中で"解析:【アドニス】"と念じてみる
"解析:【アドニス】"
―――――――――――――――――――
ジョブ:【アドニス】
スキル:【ポイント付与】 / ◆任命:【愛奴】(7)
―――――――――――――――――――
よし、ジョブの詳細も確認できた。
しかしどういうスキルなのかはイマイチわからん。
【愛奴】って…たぶんエロいやつだよな?
グフフ。
もう一つのジョブも解析する。
"解析:【英雄】"
―――――――――――――――――――
ジョブ:【英雄】
効果:【能力下降:抑止】 / 【ジョブスロット+4】
―――――――――――――――――――
こちらはスキルではなく、効果が2つだ。
【】付きは1等級のグレードのはずなので
かなり強力な効果に違いない。
残りのスキル欄に目を移す。
スキル:
・【無詠唱】
・【精密解析】
【無詠唱】は魔法関連だろう。
【精密解析】は今使っている能力か?
情報を事細かに把握できるのは、このスキルのおかげのようだ。
取っててよかった【精密解析】。
ステータスの割り振りだけでなく、
いくつかアイテムも準備していたはず。
その記憶がふとよみがえった。
だが、周囲を見渡しても、それらしき物は見当たらない。
……おかしい。
何を揃えたんだっけ?
どうやって使うつもりだったのか?
思い悩んでいると、頭の中にふと浮かんだ言葉――“収納”。
導かれるように念じる。
”収納”
―――――――――――――――――――
・★特別な ”麒麟を統べる” 短刀 【地獄痺刃】
・★特別な ”天界を貫く” 妖刀 【冥狂血吸】
・★特別な ”大地を揺るがす” 大金棒 【大激震】
・★特別な ”神蛇を統べる” 魔法弓 【夢弦・オロチ】
・★特別な ”冥府に響く” 巫女鈴 【聖鈴・神楽】
・★特別な ”世界にささやく” グランドスタッフ 【第六天魔王】
・★特別な ”神鳥を統べる” 魔導書 【八咫の記】
―――――――――――――――――――
「おお!?」
思わず声が漏れた。
目の前の、何もなかったはずの空間がふわりと揺れ、ぽっかりと開いたのだ。
恐る恐る手を突っ込むと、
格納されているアイテムの存在が直感的に分かる。
どうやらこれは、アイテムボックスに接続された魔法のようだ。
あれ?揃えたのはこんなのだったっけ?
記憶とのズレに首をかしげながらも、
試しに大金棒を取り出してみる。
―――――――――――――――――――
★ 大金棒 【大激震】
└打撃+100 / ☆破砕+80 / ★衝撃波+100
―――――――――――――――――――
取り出して目の前に現れたのは、
自分の背丈とほぼ同じ、黒みがかった巨大な金棒だった。
見た瞬間、思わず口をついて出る。
「あれだ…鬼が持つやつだ…」
そしてずしりとした重みが腕にのしかかる。
「重っも!」
声が漏れるほどの重量感。
これは間違いなく、ぶっ叩くための武器だ。
なんとか振ることはできるが、まともに使いこなせる気がしない。
それでも、手の中にあるこの武器は、妙に頼もしく感じられた。
これも解析できるんだろうか。
【大激震】 の方を見ながら
"解析:大激震"と念じてみる。
―――――――――――――――――――
アイテム名:大激震
分類1:長柄
分類2:大金棒
等級:★特別
設計:オリハルコン:10 / アダマンタイト:100 / +魔法(無)
効果:打撃+100 / ☆破砕+80 / ★衝撃波+100
使用条件:剛力:Lv.90 / 中柄:Lv.70 / 魔法(無):Lv.80
―――――――――――――――――――
(見れた!)
表示された武器の設計情報に目を走らせる。
オリハルコン?アダマンタイト?
聞いたことが無い。どちらも金属だろうか?
効果欄には「破砕」「衝撃波」とある。
なんかすごそうだ。
ただ、使用条件もあるらしい。
……ん?待てよ。俺って、こんなにレベル高かったっけ?
疑問が浮かび、もう一度“解析:自分”と念じてみる。
今の自分の正体を、もう少し深く知るために。
"解析"
―――――――――――――――――――
名前:アレク Lv:156
装備:【大激震】 ※下降補正:中↓↓
―――――――――――――――――――
装備欄に"下降補正:中↓↓"が付いている!
自分の能力はどうだったか。
"解析:能力"
―――――――――――――――――――
名前:アレク
・剛力:Lv.80
・中柄:Lv.60
・魔法(無):Lv.70
―――――――――――――――――――
能…能力が足りてない!
剛力、中柄、魔法、いずれも10Lv足りていない!
「なんてこった…」
ステータスは全体的に高めに振ってきたつもりだった。
だが、アイテムの要求は、それをさらに上回っていたのだ。
まるで、理想を追い越すように設定された壁。
この世界の装備は、そう簡単には使わせてくれないらしい。
「くぅ…」
気を取り直して他のアイテムを探してみる。
ひとまず衣服が欲しい。
いつまでも全裸のままじゃおれんのですよ。
…しかしボックス内は武器以外見当たらない。
あれ?
アイテム欄でのポイント割り振りを、必死に思い返す。
確か、武器、防具、装飾――確かそんな項目が並んでいたはずだ。
武器を選んで……えーっと……
そのあと、[称号]欄に移動して……
それで、そのまま……。
――その瞬間、記憶がつながった。
「し、しまった!防具を選んでいない!!」
なんということだ…
せっかく恵まれたポイントを入念に割り振ったというのに、
武器には謎の下降補正がかかり、装備はゼロ。
まさかの全裸スタート。
見事なまでの間抜けっぷりだ…
…まあ、仕方が無い。
初見で割り振りのバランスなんて分かるわけがない。
ここは気持ちを切り替えていこう。
そうこうしているうちに、
気づけば目指していた丘の入り口に到着していた。
どうやら足は勝手に動いていたらしい。
来た道を振り返ると、ひときわ目立つ一本の樹が視界に入った。
自分がもたれかかって眠っていた樹だ。
離れて見ても、その大きさは圧倒的だった。
幹は太く、枝は空を覆うように広がっている。
こんな樹は、今まで見たことがない。
だが、それ以外は森ばかりで、手がかりになるようなものは見当たらない。
参ったな。情報がなさすぎる。
空を見上げると、太陽がやや傾いているのが分かる。
ただ、太陽の位置から時間を割り出す知識なんて持ち合わせていない。
午前なのか午後なのか――さっぱりだ。
……少しまずいかもしれない。
このまま全裸で夜を迎えるなんて、さすがにサバイバルすぎる。
「もう火を起こした方がいいのだろうか…
火ってどうやって起こすんだ?」
不安がじわじわと押し寄せる中、ふと記憶がよみがえる。
そういえば、魔法の「火」や「水」の項目に、ポイントを割り振っていたはずだ。
よし、もう一度自分の能力を確認してみよう。
"解析:能力"
―――――――――――――――――――
名前:アレク
・魔術(火):Lv.70
・魔術(水):Lv.70
―――――――――――――――――――
よし。火と水の魔法レベルはしっかり上げてある。
…そういえば"魔法"はどのように使う?
道具面では見事にしくじったが、
魔法さえ使いこなせれば話は別だ。
これさえあれば俺は生き残れる……はず。
試しに火を出してみたい――そう思った瞬間、
頭の中に「魔力を練り、形成し、出力する」イメージが浮かんできた。
それと同時に、呪文も自然と頭に浮かぶ。
イメージ通りに体内で魔力を巡らせながら、
その呪文を心の中で念じる。
"イグノ・マギア"
ぼっ、と小さな火が目の前に現れた。
しばらく揺らめいたあと、ふっと消える。
「…っ!!」
すぐに消えてしまったが、魔力を出力し続ければ
火を持続できる感覚は確かにあった。
これは…いけるかもしれない。
今まで感じたことのない万能感。
まるで神にでもなった気分だ。
もっと大きい火も出せそうだ。
よし。空中に巨大な火球を生成してみようか。
そう思うとまたしてもイメージが頭に浮かぶ。
先ほどより僅かに時間をかけて、魔力を練成する必要があるようだ。
そして、呪文も自然と浮かび上がってきた。
"マグナス・イグノ・デル・スパエラ"
いざ、実行。
魔力を練り、呪文を唱えようとした
――その瞬間。
"離れろ"
え?
誰かの声?いや、違う。
頭の中に、警告のような信号が流れ込んできた。
うまく説明できないが、上空から何か危険なものが迫っている
そんな感覚がある。
慌てて空を見上げると、遠くに鳥のような群れが確認できた。
目を凝らしてじっと見つめると、頭の中に情報が流れ込んでくる。
これは……ただの鳥じゃない。
―――――――――――――――――――
・幻獣種:グリフォン Lv.71
・幻獣種:グリフォン Lv.69
・幻獣種:グリフォン Lv.65
…
―――――――――――――――――――
グリフォンだと!?
Lv.65~75が10匹ほど、群れを成して空を飛んでいる。
「奴らが危機感の正体か!」
脅威に備えるべく、急いで道具を準備する。
対空戦なら、やはり弓だろう。
"収納"と念じ、弓を取り出した。
―――――――――――――――――――
★ 魔法弓 【夢弦・オロチ】
└突撃+80 / 貫通+50 / ☆属性魔法+50 / ★追尾+100
―――――――――――――――――――
が、取り出してみて驚愕した。
「矢がねぇ!!」
弓の使い方はよく分からないが、
矢を射る武器だということくらいは理解している。
その肝心の矢が、どこにも見当たらない。
アイテムボックスを必死に探すも、見つからず。
あたふたしているうちに、
グリフォンの群れはさらに遠くへ飛び去っていった。
「…ぬぅ」
なんとも間抜けな初対空戦である。
グリフォンの群れは離れていったが、
上空からの危機感はまだ消え失せない。
「何なんだ…この嫌な感じは…」
安心したのも束の間だった。
突然、全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、
頭の中に大量の危険信号が流れ込んできた。
"逃げろ"
"早く"
"致命的"
"死"
――警告の嵐
直後、周囲が一瞬で暗転した。
太陽の光が遮られ、空気が重くなる。
直感で分かった。
自分の体が、何か巨大な影に覆われたのだ。
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