第011話 再会
「よし、では行くぞ」
アレクは グランドスタッフ 【第六天魔王】 を
握りしめると、探知魔法を念じた。
"イス・エクスプロラーレ・ラトゥス・マギア"
イヴが指さした方角へ集中すると、
山を越えた先、ここから5Km程先に沢山の生命反応を感知した。
・80人程の集団が1つ
・40人程の集団が2つ
集団の生命反応はある程度距離を取って
三角に点在している。
これほど多くの反応をすぐに把握できたのは
能力:認識 Lv.60 のおかげだろう。
「イヴ、カナンの周りにも集落は存在するか?」
「はい。カナンから1時間程離れたところに
ドワーフの里とダークエルフの里があります。」
ドワーフ?ダークエルフ?
そんな奴らまでいるのか。
「カナンと、それぞれの里の人数は分かるか?」
「カナンは12人…11人。
ドワーフの里とダークエルフの里は
詳しくありませんがそれぞれ50人程だと思います」
カナンの12人というのは殺害されたという
長老を含めたのだろう。
…少しまずいな。カナンの区別がつかん。
それに思ったより数が多い。
任せろなどと見栄を張ってしまったか…
むむ!
集団とは別の場所に少数の生命反応を確認できる。
5人だ。ただし生命力は弱い。
まずは情報を集めたい。そこに飛んでみるか。
友好な勢力であれば、カナンの場所を聞く。
賊の集団であれば、捕らえて情報を聞き出す。
これで行こう。
「イヴ、山の向こうに5人の集団が確認できる。
まずはそこに行くぞ。今から空間を作るから、
俺が入った後に飛び込んで来い」
「え?…あ、はい」
空間魔法を念じる
"ワープ"
5人の集団から少し離れた場所にワープホールすると、
飛び込んだ。
「いてっ」
くそぅ。なぜいつも地面の少し上にできるのだ。
転んでしまうではないか。
自分の背丈の少し上にできたワープホールを睨むと
イヴの転移を待ち構えた。
「きゃっ」
しばらくしてイヴが現れた。
地面に追突しないようキャッチすると抱きかかえた。
(柔らかい…そしていい匂いだ…)
「え?ここは・・・?
もしかして一瞬で移動したのですか?」
「まあな」
「さすがはアレク様です!」
グフフ。もっと褒め称えよ。
もっと抱きしめていたいが
今はそんなことをしている場合ではない。
イヴを下すと、兜の緒を締め直し、
5人の集団に慎重に迫っていく。
しばらくして5人の姿を捉えるところまできたが、
空が暗くなってきたせいでよく見えない。
相手の様子が分からないまま近づきたくはない。
仕方がない。光を灯すか。
"ルクス・マギア"
光を灯して集団に近づいていくと、
5人の様子が明確になってきた。
突如、イヴが声を上げた。
「おかーさん!!」
5人の集団は驚いてに振り向くと、
その中の1人が駆け寄ってきた。
「イヴ!!無事だったのね!」
2人はお互いの存在を確認しあうと、抱擁し合った。
「イヴ…」
周りも声をかけて集まってきた。
「リーシャ、ヘレン、それに子供たちも…」
よかった。全員顔見知りのようだ。
5人は女が3人と、子供が2人の集団だった。
だが、全員疲労困憊で、元気がない様子だ。
女は3人共全員美人で、
胸にとんでもない果実をぶら下げてやがる。
(この世界の女は全員巨乳なんだろうか)
そんなことを思いながら、全員の状態を確認していく
"解析"
―――――――――――――――――――
・イーシス:サクラ[♀]32歳 Lv.44
・ケルティア:リーシャ[♀]17歳 Lv.35
・ケルティア:”性犯者”ヘレン[♀]18歳 Lv.34
・ケルティア:レイ[♂]8歳 Lv.22
・ケルティア:アイネ[♀]5歳 Lv.15
―――――――――――――――――――
5人全員が[状態:渇き・空腹]だ。
イヴの母親の名前はサクラというらしい。
娘に似てとても美しい。
そして気になる称号があるな。”性犯者”…
かなりの美人さんだが、一体どういうことなんだ…
戸惑っているとサクラが娘に問いかけた。
「イヴ、こちらの殿方はどちら様なのですか?」
「女神の使者・アレク様です。
私が5人の男たちに襲われていたところを助けていただきました。
おかげ様で、命を救われました」
「なんと…まぁ」
何やら異常に持ち上げられている気がする。
サクラたちはアレクに簡単な自己紹介をすると、
今度はこちらの自己紹介をする。
「俺はアレクだ。俺が来たからにはもう安心。
一切合切任せなさい。ガハハハ!」
またやってしまった。男というものは、
美人の前では格好つけたい生き物なのだ。
これは仕方が無いことである。
「まずは水を作ってやる。順番に飲め」
"水の魔法"
水を生成すると、周囲がざわつく。
「魔法…」
イヴもそうだったが、ここらでは魔法は珍しいのだろうか。
飲みやすいように、
噴水のように上に小さく水を射出すると
1人ずつ水を飲ませていった。まずは子供達から。
※ごくっごくっごくっ※
「ありがとう。お兄ちゃん」
「うむ」
感謝を受けるというのはむず痒いものだな。
次に水を飲んだのはリーシャという女だった。
■リーシャ
とてもふくよかな胸だ。
今にもこぼれ落ちそうではないか!
能力を盗み見ると、パッとしなかったが、
ひと際目を引く項目があった。
"生殖"項目だ
■リーシャ_生殖
性欲が高い。絶頂も経験しているが
技術のレベルは全て1だ。
どういうことだろう。1人で慰めているのか?
レア・伝説共に能力を持っており、
さらには特別な能力:【母乳絶頂】とやらを持っている
(エッチな子だ。グフフ♡)
「ありがとうございます」
「うむ」
まるで紳士のごとく返事を返す。
次はヘレン…”性犯者”持ちの気になる女だ。
■”性犯者”ヘレン
こちらもとびっきり美しい。シスターのようだが、
”性犯者”の称号はどういうことなんだろう。
能力を盗み見る。
"生殖"項目、技術の能力Lvが上がっている!
セックス経験者だ!そして…
・伝説:小児愛 Lv.61
レ…レベル高ぇ…これか?
正太郎コンプレックス、所謂ショタコンという奴か?
「ごちそうさまでした」
最後はサクラ、イヴの母親だ。
■サクラ
娘に似てとても美しい。
32歳ということは16歳でイヴを生んでいるんだな。
ちょうど今の俺と同じ年齢か。
能力はイヴとさほど変わらない。
道具項目がやや高く、料理 Lv.68が見える。
さすがにイヴより長く生きて来ただけある。
そして気になる"生殖"能力・・・
■サクラ_生殖
イヴを生んでいるのでもっとレベルが高いかと思ったが、
意外とそうでもない。なにより絶頂を経験していない。
夫は淡泊なのか?
「お恵み、感謝いたします」
いろいろ考察していると、サクラがお礼を述べてきた。
(顔を赤らめて”お恵み”か…妙にエロい)
「イヴ、薪と串に使えそうな小枝を集めてくれ。
飯の準備だ。俺は食材の準備をする」
そうしてアイテムボックスから
賊から奪い取った食器類と
森で採取した食材を取り出しいった。
―――――――――――――――――――
・☆☆☆☆奇跡の 〈燻製トリュフ〉 ×5
・☆☆☆☆奇跡の 〈オーロラいわな〉 ×5
・☆☆☆希少な 「蝋色椎茸しいたけ」 ×5
・☆☆☆希少な 「霜降り鮎」 ×5
・☆☆☆希少な 「ルビー・ブドウ」 ×10
―――――――――――――――――――
「うわぁ~」
「こんなに大量に…」
「とても貴重な食材なのでは…」
「今のも魔法なのでしょうか」
女たちがざわつく。
襲撃があったのは昨夜と聞く。
察するに、もう丸一日何も食べていないのだろう。
「アレク様、集めてきました」
「うむ」
焚火の準備をする。
幸い地面は岩盤ではなく腐葉土だ。
近くに生命反応はないが、
念のため周囲に明かり漏れないよう
簡易的な土のかまどを作る。
"土の魔法"
土の壁の中に薪を並べ、火をおこす。
"火の魔法"
「女たち、手伝ってくれ」
「「はい!」」
女たちはテキパキ食材を串打ちすると、
火を通していった。
(さて、回復に取り掛かるか…)
今一度自分の状態を確認する。
―――――――――――――――――――
名前:アレク Lv.156
HP:1901 / 2360 MP:584 / 2360
―――――――――――――――――――
今日一日、結構な魔法を使用してきた。
魔力の生成を★【第六天魔王】 に
頼りっぱなしだったが、MPは随分減っている。
この杖でも、"癒しの魔法"で
5人ずつ回復することはできるが、
もっと効率よく回復できる方法は無いだろうか。
そんなことを考えていると、
回復に特化したアイテムがあることを思い出した。
★特別な ”冥府に響く” 巫女鈴 【聖鈴・神楽】
詳細を見る。
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アイテム名:聖鈴・神楽
分類1:短柄
分類2:巫女鈴
等級:★特別
設計:ミスリル:1 / 聖樹の枝:1 / +魔法(音)
効果:外練+100 / 魔法+40 / ☆魔法(音)+80 / ★魔法(癒)+100
使用条件:精神力:Lv.90 / 魔法(量):Lv.70 / 魔法(光):Lv.80
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試してみるか。
★巫女鈴 【聖鈴・神楽】
を取り出し、自分に向けて軽く振りかざす。
※シャン※
※パァァァァァ※
小さなが鳴り響き、自分の体が光に包まれていった。
おお、ほとんど魔力を練っていないのに
イメージどおり作用した。状態を確認する。
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名前:アレク Lv.156
HP:1952↑ / 2360 MP:693↑ / 2360
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MPまで回復している!?
特に癒しの力はかなり強力なようで、
今もリアルタイムでガンガン上昇中だ。
この回復には"浄化"もかかっているようだ。
回復の実験をしていると、
料理の準備をしていたサクラ達が
集団で祈っている姿が見えた。
祈り終わると、こちらをチラチラ見て来た。
既にいくつかの食材に火は通っているように見える。
何かを待っているのか?
あーイヴのやっていたあれか。
「よし、冷めないうちに早く食え」
「「はい。いただきます」」
やはり許可を待っていたのか。
出来上がったら各々食えばいいのに。
律儀なやっちゃなー。
空腹の5人は各々食材を口に運ぶと、
歓喜と驚嘆の声を上げた。
「~~~~!!」
「おいしい!!」
どうだ。うまいだろう。
心なしかにぎやかになってきた。
希望が見えて元気になってきたようだ。
先ほど自分と一緒に飯を食ったイヴも、
その光景を少しばかり羨ましそうに見ている。
「そういえばキノコは食っていなかったな」
これをもって混ざってこい」
食材を見繕い、イヴに渡した。
―――――――――――――――――――
・☆☆☆☆奇跡の 〈燻製トリュフ〉 ×1
・☆☆☆希少な 「ルビー・ブドウ」 ×1
―――――――――――――――――――
「あ…ありがとうございます!」
お辞儀をすると、イヴも輪に加わった。
「今から回復するが、
気にしないでそのまま食っててくれ」
そう伝えると
★巫女鈴 【聖鈴・神楽】を
みんなに向けて振りかざした。
※シャン※
心地のいい音が鳴り響き、
全員の体が光に包まれていった。
※パァァァァァ※
よし。全体回復成功だ。
驚いた様子でサクラが問いかけてきた。
「アレク様…
これは回復魔法と浄化魔法でしょうか。」
「うむ。そうだ」
「何から何まで…ありがとうございます」
グフフ。いいぞ。
美人の好感度はあげておきたい。
それにこの武器はあまり魔力を練らなくても扱えた。
もしかして・・・
「イヴ、このアイテムは回復の力を持っている。
これをみんなに向けて振ってみろ」
★巫女鈴 【聖鈴・神楽】をイヴに渡す。
「は・・はい」
イヴは巫女鈴を鳴らすと、同じように作用した。
※シャン※
※パァァァァァ※
よっしゃ。実験成功だ。
「ガハハハ!!やったなイヴ。回復成功だ。
この巫女鈴 は"聖鈴・神楽"という。
しばらく預かっていろ」
これでイヴを強力な回復役にできる。
気分は上々だ。
「はい。ありがとうございます」
「それで、カナンの場所はどこだ。誰かわかるか?」
サクラが指をさす。
「カナンの方角はあちらです。」
「賊は何人くらいいたかわかるか?」
「恐らくですが・・・50人ほどかと」
「…よし分かった。
俺は周りの様子を見てくる。
みんなは飯を食ってろ」
そう伝えると、アレクは一人その場を離れた。
(賊は50人か…まずいな…)
サクラが指さした方角に探知魔法を向けて放つと、
1km程先に80人程の生命反応を感じた。
(あれがカナンか)
カナンを中心として左右1km程離れた場所に
40人程の集まりも感じ取れた。
イヴの言っていたドワーフとダークエルフの里だろう。
賊が50人いるとして、捕虜は30人の計算になる。
集落の人口:11人と計算が合わない。
ドワーフや、ダークエルフの里にも被害は出ているのだろうか。
襲撃から一日、まだカナンから離れておらず、
今もまだ占領中のようだ。
今日は賊5人と戦ったが、魔法を駆使して1人ずつ戦ったから勝てたのだ。
50人を同時に相手して倒しきる自信はない。何か策を考えなくては。
そんな思慮に更けながら戻る途中、
茂みの奥に空間を見つけた。
茂みの奥はV字型にへこんでおり、
土手自体がいい感じに隠れていたのだ。
(緊急避難用の身の隠し場所として使えるかもしれない)
"土の魔法"でいくつか穴を掘る。
地面は腐葉土であり、
崩落の恐れがあるので深く広くは掘れなかったが、
その代わり人が3人ほど治まりそうな穴を3つ掘った。
"風の魔法"で葉っぱを集めると、地面に撒いた。
これで座れるだろう。
よし、戻るか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、女たちは食事をしながら情報交換をしていた。
「お母さんたちは、どうやってここまで来たの?」
―――問いかけに応じて、サクラが静かに口を開く。
サクラは一度、賊に捕まりかけたものの、
ダークエルフたちの弓に救われたのだという。
その後、集落から離れた場所で偶然リーシャを見つけ、
さらにヘレンたちとも合流して、
ようやくここまで辿り着いたのだとか。
本当は、もっと遠くに避難したかったが、
土地勘もなく、子供たちを引き連れて移動する自信もなく、
ここに留まり続け、途方に暮れていたらしい。
「そうだったの…」
今度はサクラが娘に問いかける。
「それで、イヴ、あなたの方はどうなの?」
―――イヴは自分の身の周りに起こったこと語り始めた
五人の男達に追われ、絶体絶命の状況に陥った。
恐怖の中で祈りを捧げたその瞬間、アレク様が現れる。
アレク様は自らを“神の使い”と名乗り、
わずか一瞬で五人の男たちを葬り去ると、
皆と同じように施しを受け、死の淵から回復した。
さらに驚くべきことに、
アレク様は遥か遠くからこの場所を見つけ出し、
魔法によって瞬時に移動してきたのだという。
「うそでしょ…」
話を聞いた女たちはざわつき始めた。
「女神様の使者に違いない」
「いつまで居てくれるのでしょうか」
サクラは、娘の首元についているハートの首輪を見ながら尋ねた。
「それで…この首輪はどうしたの?」
すると、イヴの声は徐々に小さくなっていった。
「その…ここに来る前に…
一生守ってやるって。俺の女になれって」
「「キャー!」」
ヘレンとリーシャの声が色めき立つ。
「それで…了承すると
いつの間にかこの首輪がつけられていたの。
魔法だと思う。付けていれば安全だって」
「俺の物だってこと?キャーッ!!」
情報交換の場は、いつの間にか
にぎやかな女子会となっていた。
サクラは真剣な眼差しを娘に向ける。
「イヴ!よくやりました!
決して、逃がしてはなりませんよ!」
イヴは顔を赤らめて頷く。
ちょうどその時、偵察に出ていたアレクが戻ってきた。
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