第010話 【愛奴】イヴ
「あの、魚が焼けました」
「オウ」
アレクは格好つけて答えると、焚火へと向かった。
(だいぶ回復したように見えるが、
今どんな感じだ?)
スキル:"解析"で女の状態を覗き見る。
"解析"
―――――――――――――――――――
名前:イヴ Lv:Lv.33
HP:504 / 630 MP:280 / 350
種類:亜人類 種族:人間 種別:イーシス
性別:♀ 年齢:16歳 身長:160cm
ジョブ:
・【巫女】
・野草採集者 Lv.9
・料理人見習い Lv.14
スキル:
・【特権解呪】
・採集
・料理
称号:【聖女】
―――――――――――――――――――
「なっ!?聖女だと!?」
思わず声を上げてしまった。
俺はこの女の名前を知っている。
転生前、賽の目のポイント割り振りで
いくつか取れない称号があった。
そのうちの称号:【聖女】を取得していたのが
目の前にいるイヴなのだ。
まさかこんなすぐに会えるとは…
そして俺と同じ年だとはな。
特別なジョブ:【巫女】は一体どんなものなんだろうか?
解析する。
■イヴ:ジョブ
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・【巫女】
└スキル:【特権解呪】
・野草採集者 Lv.9
└効果:生活:小↑
└スキル:採集
・料理人見習い Lv.14
└効果:料理:小↑
└スキル:料理
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【特権解呪】!?
強力な解呪スキルのようだ。
あれ?でも一つだけ・・・?
他のジョブには二つの能力があるのに…
なんか…弱いような…
能力も解析する。
■イヴ:身体
■イヴ:道具
■イヴ:魔法
■イヴ:生殖
魔法のレベルが全般的に低いが、
魔導:光はギフト10 / 才能10もある。
伸びしろの塊だ。
そして生殖能力。
こちらもポテンシャルが高い。
俺と同じの特別な能力:神器
まで持っているではないか。
・・・Hだ。
何としても俺の女にしたい。
「あの、どうかなさいましたか?」
「いやぁ、まさか聖女様だとはな」
「い、いえ…私はそのようなものでは。
それよりなんとお呼びすればよろしいでしょうか?」
イヴは困惑しながらも否定すると、
逆に名前を聞いてきた。
「?…ああ、そうか。すまん。
オレの名はアレクだ」
聖女ではないとはどういうことだ?
正体を隠しているのか?
「アレク様、この度は助けていただき、
誠にありがとうございます。
おかげ様で命拾いしました。
…私はカナンの集落のイヴと申します。
申し上げにくいのですが、
集落に火急の危機が迫っており、
今一度力をお貸し願えないでしょうか」
「うむ。わかった。
ひとまず魚が焦げそうだ。
食いながら詳しく聞こう」
(アレク様だって。むずかゆい。
思わず分かったとか言っちゃったよ。仕方がない。
男というのは女に頼まれたら断れんのだ。
そのようにできている。
しかし、聖女だということは隠しても、
名前は隠さなかったな)
疑問を感じながらも、
いい感じに焼けた魚にかじりついた。
直後、うま味が脳天を直撃する。
(うお!!…うまい!!
こんなうまい物は初めて食った!)
身に脂がのっており、塩味が効いている。
火を通しただけで引き立つ自然の塩味と香り。
皮はパリッと、身はふわりとほどける。
☆☆☆希少な 「霜降り鮎」
だったな。覚えたぞ。
(ん?)
イヴの方を見ると、手を合わせて何やら祈っている。
女神への感謝を述べているようだ。
こんな時まで…敬虔な奴だな。
祈り終わると、こちらをチラチラ見てきた。
「?どうしたんだ?食え」
「あ、はい。それではいただきます」
許可を待っていたのだろうか。
俺が勧めるとイヴも魚を口に含んだ。
「~~~~っ!!」
悶絶しておる。
どうだ。うまいだろう?
「さて、集落に危機が迫っていると言ったな。
食いながらでいいから、聞かせてみろ」
イヴの口から、少しずつ語られていく
―――――――――――――
・カナンの集落で母と二人で暮らしていた
・昨夜、賊達に襲撃され長老が殺された
・賊は10人以上はいた。どれだけいるかは分からない
・母が私を逃がし、今は生死不明となっている
・救援を呼ぶべく、ラエルノア魔法教団へ向かおうとしていた
・迷子になり、男達に襲われた
―――――――――――――
そして今に至る。と。
「そうか。つらかったな。
迷子と言ったが集落の場所はわかるか?」
「いえ、すみません…ただ、恐らくですが
方角はあちらの方だと思います」
イヴは自分が逃げてきた道の方向を指さした。
「よし分かった。俺に任せろ」
方角さえ分かれば問題ない。
"ワープ"と”探知魔法”で探し当てるか。
方角が合っていればだが・・・
「今度は俺の話を聞いてくれ。
こちらも火急なのだ」
アレクは自分のステータスを確認する。
―――――――――――――――――――
名前:アレク Lv.156
状態:▽『呪い:災禍級』
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「ここに来る途中、悪魔と戦闘になってな。
呪われてしまったのだ。"災禍級"の呪いらしい」
「え?悪魔と戦われたのですか?」
「あぁ。デーモンと言ったか。
ぶっ飛ばしてやったが。
呪いを解くことができなくてな」
「ええ!?デーモンを倒したのですか!?
…さすがアレク様です」
むふふ。褒められた。
ドラゴンから逃げたことは伏せておこう。
「だが、呪いが解けん。そこで頼みがある。
呪いを解いて欲しいのだ」
「呪い……ですか。すみません。
私にそのような力は…
呪いでしたら教会に行かなければなりません。
強力な呪いでしたら、聖堂か大聖堂に
行けば解除してもらえると思います」
イヴの顔が少しづつ暗くなっていった。
うん?もしかして自分がスキル:【特権解呪】を
持っていることを知らないのか?
「イヴ。君ならできるはずだ。
試しに俺に向かって"解呪"と念じてみてくれ」
「え?はい……」
イヴは祈り始めた。なんだかぶつぶつ言っている。
そのうち
「え?これは…?あ!"解呪"!」
※カチッ※
※パァァァァァァァ※
アレクの体が光に包まれた気がした。
自分のステータスを確認してみる。
―――――――――――――――――――
名前:アレク Lv.156
状態:ー
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▽『呪い:災禍級』が無くなっている。
「よし!成功だ!助かったぞ!」
なんだか体が軽くなった気がする。
気分も上がってきた。
「あの、アレク様。
なぜ私が解呪を使えることをご存じだったのですか?」
「うむ。俺はある程度人の能力が分かるのだ。
俺様は凄いからな!ガハハハ!!」
呪いを解けなかった時は焦ったが、
イヴがいれば俺は無敵だ。
どうにかしてイヴをモノにしたい。
はっと、自分のジョブを思い出す。
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・【アドニス】
└スキル:【ポイント付与】
└スキル:◆【任命:愛奴】(7)
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最初から付いていた特別なジョブ【アドニス】と
スキルの任命:【愛奴】
【】ということは、"特別"な等級のやつだ。
そして、多分エロいやつだ。
グフフ。
この出会いを逃したくない。
イヴに向かって念じる。
"任命:【愛奴】"
直後、イヴは驚いた様子で声を上げた。
「え?なんですかこれは?
アレク様!!なにか選択肢が見えます!
…愛奴?」
ま…まずい!!相手に伝わるのか!?
どうやって誤魔化そう
「落ち着けイヴ!!
承認して俺の女になれ!一生守ってやる!」
ま…まずい。
慌てて誤魔化そうとしたが、調子に乗りすぎた。
これは終わったか?
「ぇ…」
これは終わったわ。
こっそり愛奴にしようとして、バレたら愛の告白。
普通に考えて頭おかしいもんな。
"時間の魔法"で過去に遡れないだろうか?
「は…はぃ…不束者ですが
よろしくお願いします…」
あれえええ!?
この女も頭おかしいのか!?
だが、逆転のサヨナラホームランだ!
うおおおおおおお!
魂のガッツポーズ!
「ガハハ!任せておけ!!
俺が来たからにはもう安心だ!
ガハハハハハハ!!」
嬉しさを抑えきれず、高らかに笑う。
人生で初めて心から喜べたのかもしれない。
※パァァ※
一瞬、イヴの体がピンク色に光ったあと。
イヴの首元にハートの首輪が装着された。
何だ!?
自分に"解析"をかけてジョブを確認してみる。
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・【アドニス】
└スキル:【ポイント付与】
└スキル:◆【任命:愛奴】(6)
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愛奴が(7)→(6)へ減っている。
このように数が減っていくのか。
イヴの方はどうだ?
"解析"
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名前:イヴ Lv.33
ジョブ:
・【巫女】
・野草採集者 Lv.9
・料理人見習い Lv.14
・◆【愛奴】
スキル:
・【特権解呪】
・採集
・料理
称号:【聖女】
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おお、ジョブに【愛奴】が追加されている。
能力はなんだ?
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・◆【愛奴】
└効果:【能力Lv:特大↑↑↑↑】
└効果:【ジョブスロット+1】
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【】付きのスキルなんだ。かなり強力に違いない。
イヴの方を見ると首輪に戸惑っている様子だ。
慌てて話しかける。
「その首輪はオレのモノとなった証だ。
首輪を装着している間は安全だからな。
外すなよ!」
嘘八百である。
首輪を外されると思い、
ついついホラを吹いてしまった。
これまでの人生で
人付き合いというものをしたことが無い。
失敗も成功もしてきていない。
人との接し方がよく分からないのだ。
とはいえ16年の人生で初めて守るべき存在ができた。
(通常の告白とは違ったかもしれんが…)
舞い上がって仕方がない。
俺は一生、この女に槍をささげることを誓う。
…二つの意味でな。
「よし、では行くぞ!」
空は夕日が沈み、夜を迎えようとしていた。
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