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夜明けの星の黙示録  作者: アレクサンドル・スケベスキ
第六章 ロスデア動乱編

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第094話 クルキス城塞陥落

クルキス城塞へ向かうその道中―――

ふと横を見ると、フィズルが何やら難しい顔をしていた。


「どうしたんだ?フィズル」


「これから詳細を詰める"カナン星約機構(ステラパクト)"なんですが、

 分からないことがありまして……」


「分からないこと?」


フィズルが首をひねるなんて、珍しいな。


「ラエルノア様に妙な謎かけをされたのです。

 "タイラスはこの軍事同盟を切望しているが、

 今はまだ加入しないだろう"……と。

 この意味が分かりますか?」


「"今はまだ"か……後から加入することで、

 ガルフ・バウに利する点があるというのだな?」


そう言いながら、星約機構の草案に目を通す。

―――――――――――――――――――

■概要

加盟する勢力が攻撃されれば、

加盟する全勢力への攻撃と見なし、

集団防衛にあたる軍事同盟


■加盟勢力の義務

・侵攻を受けた勢力への即時支援

・兵力の一定割合を常備軍として提供

・補給、情報、作戦の共有

・星約違反勢力への制裁参加


■契約期間

・1年単位での更新

―――――――――――――――――――


今まで見て来たガルフ・バウの姿を、

ひとつひとつ思い出す。


冒険者ギルドには、初心者向けに

"郊外に花を摘みに行く"というクエストがある。

俺が最初に受けたアレだ。


最近気づいたのだが、あの花摘みには複数の種類があり、

指定される場所はガルフ・バウを中心に、

まるで網を張るように郊外へ散らばっている。

…あれは、異変が起こっていないかの情報取得を兼ねているわけだ。


ルベル=オーガの水星への派遣を考えると、

その情報網は金星の外側まで伸びていると考えていい。


さらに商人ギルドは隊商の運営に力を入れており、

遠方との取引を積極的に広げている。

その範囲はウェルス地方全域に及ぶのだとか。


そして最近知ったのだが、

商人ギルドはいくつかキャバクラのような娼館を所有しており、

そこで働く嬢達は旅人から得た情報を共有すると、

内容に応じて、インセンティブを受け取れるらしい。

明かな情報の買い取りだな。


こうして並べてみれば、嫌でもわかる。


ガルフ・バウとは、それほどまでに“情報”を重んじ、

徹底して集めようとする町なのだ。


それを考えると……

・兵力の一定割合を常備軍として提供

・補給、情報、作戦の共有

この辺りは早く入ることに利点があるように思う。


ネガティブなのは

・侵攻を受けた勢力への即時支援

……位か?


だが、あの町(ガルフ・バウ)なら血を流すリスクを取っても

情報の為に喜んで参加しそうなもんだが…

なんなら、"支援"と言いながらちゃっかり

情報だけ吸い上げて行く様子が目に浮かぶ。


「う~ん……分からんな」


まぁ、フィズルに分からん事が

俺に分かるわけ無いわな。


フィズルは"そうですか…"といって肩を落とす。


そんな顔するなよ。

俺にはまだラエルノアやタイラスのような視座は無い。

もう少し成長を待ってくれ。


そんなやり取りをしていると、

前方の道に、ウェアドッグの集団がうずくまるようにしているのが見えた。


こちらに気づいた瞬間、彼らは大きく身をすくめた。

まるで、次に何が起こるのか分からず怯えている子犬のようだ。


フェンリルと共に、フェンリカが彼らの元へ駆け寄る。

観戦隊であること、そして安全を確保するために動いていることを丁寧に説明した。

その後、ガルフ・バウまでの道を案内し、持ってきた補給物資を分け与える。


俺もルビー・ブドウを取り出し、手渡した。

甘い香りに、ウェアドッグたちの表情がわずかに緩む。


「よし、ここに補給テントを張るぞ」


フェンリカの声が響く。


彼らの姿を見た瞬間、すぐに理解した。

比較的若く、その割には目には光がない。

生活のすべてを捨て、人生を賭けて安住の地を求めて逃げてきた者たち

――これが難民か。


胸の奥が騒めきやがる。

いよいよ戦争の気配がしてきやがった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


その日の夕暮れ、

俺達は途中、難民の保護に努めながらも、

遂にクルキス城塞2km手前までたどり着いた。

ここはもう国境付近らしく、この先は神聖ロザリ法王国。


■地図:観戦隊経路

挿絵(By みてみん)


現在はリーシャが鳥を飛ばしクルキスの情報を集めつつ、

俺達はテントの設営の準備中だ。

―――――――――――――――――――

★ 魔導書 【八咫の記(やたのき)

└外練+100 / 魔導+80 / ☆詠唱速度:大↑↑↑ / ★神使

―――――――――――――――――――


ここへ来るまでに設置した補給テントは5つで、

観戦隊の人数は、もう50名を切っている。


道中で出会った難民は、300名を優に超えていた。

想像以上の数に一瞬たじろいだが、

フェンリカ曰く、これらはまだ序の口で

これから本格的に増える見通しらしい。

……タイラスが難民対策に打って出る訳だ。


そしてもう一つ、この遠征で気付いたことがある。

世界樹から離れたせいか、わずかに魔素(マナ)が薄いのだ。

まだほんの少しだが、魔力を練るのに苦労する。


エルフ達が世界樹や月冥樹(げつめいじゅ)などの

魔素(マナ)を生成する樹々を保護する理由も分かった。

樹から遠ざかれば、魔法使いはそれだけで不利になる。


そんなことを考えていた矢先、

リーシャが突然声を上げた。


「旦那様っ…!!これは……

 クルキスの外壁はすでに突破されています!

 既に城内で戦闘中です!!」


胸が跳ねた。


「フェンリカ!!」

「……よし、行くぞ!!」


黒狼の牙の精鋭10名と俺達ペンドラゴンの6名。

予定を切り上げ、クルキス城塞へと急行する。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「何だこりゃ……」


思わず声が漏れた。

目の前に広がる光景は、俺の想像を超えていた。


クルキスと呼ばれた石造りの城塞。

その堅牢さを誇るはずの外壁は、

まるで空から隕石でも降り注いだかのように砕け、

あちこちから黒い煙が立ちのぼっている。


夕暮れの空を背景に、煙はゆらゆらと揺れ、

城塞全体が静かに燃えているように見えた。


大規模な魔法が行使されたのだろうか?

良く周りを見渡すと、城壁から離れたところに、

4基のデカい投石機が設置されている事に気付く。


「あれは、カタパルトですね」


フィズルは、戦況を書物(コデックス)に書き写しながら教えてくれた。

石や火のついた可燃物を放ち、

城壁や人馬を攻撃する兵器なのだとか。


そして城壁にピタリと張り付いた木造の塔と梯子(はしご)


攻城塔(こうじょうとう)攻城梯子(こうじょうはしご)です」


攻城塔(こうじょうとう)

車輪付きの移動可能な木造の塔で、

城壁の高さまで兵士を運び、

上部の渡り板を使って城内へ侵入するものらしい。


攻城梯子(こうじょうはしご)の方は、

城壁をよじ登るための、はしご状の簡易装備で、

突入手段としてよく使われるものなのだとか。


そして、城門には(やぐら)のようなものが張り付いている。


「あのやぐらは何だ?」


破城槌(はじょうつい)です。

 城門を破壊するための攻城兵器で、

 丸太を台座に吊り下げ、前後に振って門を叩き壊します。

 あれは屋根付きで、矢や火から操者を守る構造になっていますね」


フィズルの話によれば、

攻城戦では侵攻側は要塞を包囲すると同時に、

まず周囲の森を伐採して攻城兵器を作り始めるのだという。


そうして作り上げた攻城兵器を使い、

およそ1週間~2週間かけて攻め落とすのが一般的らしい。


「これが……攻城戦……」


その時、外壁に不気味な影が掲げられたのが見えた。



四肢を切断され、串刺しとなった女の死体だ。

人の尊厳を踏みにじる残酷な証であり、

目を背けたくなるほどの惨状だった。


城内からは絶え間ない悲鳴が響いてくる。

もはや戦いの形を保ってはおらず、

繰り広げられているのはただの蹂躙であった。


「……見てられんな」


腹の底から例えようのない感情が湧き上がってくる。

怒りとも、憤りとも、ただの嫌悪とも違う。


「待て!アレク!!」


何かを察したフェンリカに抑止される。

俺達の目的は観戦であって、戦いに来たのではない。

それはよくわかっている。だが――


「旦那様!」


フィズルも止めるか。


「あの兵士達が持っている

 武器を手に入れて来てください!」


「お、オウ」


フィズルは冷静沈着というか…リアリストだな。

この惨劇を前にしても、理性で動くか。


"ワープ"


俺は単身、クルキス城塞へと乗り込んだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


―――クルキス城塞内

城塞攻略に当っていたのは、アムルとルガード。

新教皇:ラフィン・ダンタリオンが信を置く2名の聖騎士であった。


「ギャハハハ!!欲望を"解放"しろ!!」


ウェアウルフのルガードが、獣じみた咆哮を上げた。

先ほど決着した攻城戦は、これからフィナーレを迎える。


彼らにとってフィナーレ…蹂躙(じゅうりん)とは、

これまでの働きに対する褒賞。

女神ヴィーナスから与えられたご褒美なのだ。

それは、彼らにとって当然の権利であった。


男はじっくりと(なぶ)り、飽きたら殺す。

女は犯し尽くし、飽きたら殺す。


同じ生き物を(なぶ)ることで、

自分が"生きている"と実感できる数少ない時間だ。


そんな楽しい宴の最中、突如雷鳴が会場を貫いた。

空気を引き裂くような轟音が、城中へと響き渡る。


「なんだ!?」


一斉に雷鳴の方へ駆け寄る。

アムルは、冷や汗を抑えることが出来なかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「フィズルが言っていた武器はこれの事だよな?

 ……随分短い矢だな」


気を失った兵士たちから武器を取り上げ、

いくつかアイテムボックスへ放り込んだ。

―――――――――――――――――――

機械弓:クロスボウ

└突撃+50

専用矢:ボルト

└貫通+50

―――――――――――――――――――


先程の"雷の魔法(ジグス・マギア)"につられて、

人が集まって来た。一応、赤竜も呼んでおくか。


「来い……"赤竜"《アルバストラス》」


俺は完全に包囲されていた。

どこから突破するか狙いを定めていたその時、

人影の中に、見覚えのある輪郭が目に入った。


褐色肌で、がっちりとした体格のスキンヘッドの男。

忘れもしない、あいつは…カナン襲撃のボス。


「てめぇ!アムルか!!」


その名を叫んだ瞬間、相手の目が大きく見開かれた。


「お前は…カナンの……

 一体何者だ!ここへ何しに来た!」


「俺はカナンのアレク。

 ガルフ・バウ町長、タイラスより任を受け、

 難民の保護に来た」


そんなアレクの首元には

赤みがかった金色のドッグタグが輝いていた。


(あれは……オリハルコン(超越者)級っ!!)


ルガードがクロスボウに矢を装填し、

アレクに向けようとしたその瞬間、

アムルが慌てて抑止した。


「待て!攻撃停止!攻撃停止だっ!!」

「はぁ!?一体どうしたんだよお前?」


同時に、クルキス城塞は影に覆われた。


(―――え?)


上空に姿を現したのは、神獣種:赤竜。

信じがたい光景を前に、その場の全員が硬直した。


~~~~っ!!


ルガードは、不幸にも赤竜の黄金の瞳と目が合ってしまった。

背筋が凍りつき、血の気が引いていく。

生殺与奪、その全てを握られたのだ―――


「あ……ぁぅ……」


絶句するルガードを他所に、アレクは言葉を続ける。


「捕虜は全員俺が貰い受けるぞ。いいな?」


めちゃくちゃな要求である。

通常であれば到底許容できない。


「ああ、分かった。

 捕虜は全員そちらに引き渡そう。

 だがこの城塞は我々のものだ。これは譲れない」


だが、アムルは承諾せざるを得なかった。

彼らはすでに任務を果たしている。

ここで無用な抵抗をして失敗に転じでもしたら、

取り返しがつかないのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


こうして、捕虜の引き渡しが行われた。

捕虜となっていたのは聖騎士や従士、それに修道女。

若いケルティア人ばかりであった。


疲弊しきった捕虜達にイヴが回復を施すと、

それを見た黒狼の牙の獣人たちは、

気の毒に思ったのか声を掛けた。


「これは聖女イヴ様の施しだ。

 お前たちは女神ヴィーナスに祝福されているぞ」


(―――聖女イヴ?)


ルガードは、城塞の上から引き渡しの様子をじっと眺めていた。

手出しできず、ただ指を咥えて見ているしかない。


そんな中、視界の端に同じ種族の女を捉えた。

フェンリカだ。


「……いい女だなぁ」


低く漏れたその声には、

抑えきれない恨みが滲んでいた。


ルガードは異様なまでに自分の物に固執する。

今日取り上げられたご褒美、

その代わりを、あの女に求める事にした。

この恨みは忘れない………決して。



―――星歴:993年1の月

クルキス城塞陥落。

新教皇:ラフィン・ダンタリオンは

神聖ロザリ法王国の全土をその手中に収めた。


そして俺達は、

戦争の現実を脳裏に焼き付けながら、帰路へとついた。

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