第009話 オマエノモノハ、オレノモノ
※ドサッ※
「いてっ」
空から全裸の男が降ってきた。
その手には長杖が握られている。
「!?」
男達は背中の声に驚き、
突如背後に現れた男に一斉に目を向けた。
「あー・・・」
アレクは起き上がり、声をかけようと思ったが
一目見て只事ではないことを理解した。
憔悴している少女が1人と、それを囲っている男が4人。
少女はとびっきりの美人さんだ。
「何だてめぇ!」
「なんでマッパなんだ。頭おかしいのか!」
驚いた男たちが威嚇を発する。
(やべえな。どう転んでももめる雰囲気だな。
4vs1で勝ち目はあるか?
・・・ん?おかしいな。
反応は全部で6だったはず)
アレクは1人見当たらないことに気づき、魔法を念じる。
"探知魔法"
至近距離ならはっきりわかる。
もう一人は姿は見えないがアレクの左後方20m程先、
土手の上にいる。
身を隠し、弓を構えようとしている姿勢まで分かる。
一方、囲まれている少女は生命・魔力反応共に
かなり少ない。ずいぶん危険な状態だ。
イヴは突然現れたアレクに驚いていたものの、
声を振り絞って助けを求めた。
「お助け下さい!!」
美人さんにこう言われちまったらお終いよ。
男というもの、女に助けを求められれば
逃げ出すわけにはいかないのである。
アレクは腹を決めると相手の戦力を確かめた。
"解析"
―――――――――――――――――――
・ケルティア:ボス Lv.53
・ケルティア:ザコ Lv.42
・ケルティア:ザコ Lv.41
・ケルティア:ザコ Lv.38
―――――――――――――――――――
森の中で出会った魔物たちと同じ位のレベルだ。
だが、相手は複数…いけるだろうか。
―――一方、賊側視点
賊達は突如現れたアレクに驚きはしたものの
数の優勢があり、侮っている様子だ。
しかし、リーダー格の男だけは
突如現れたアレクをかなり警戒していた。
(なんだこいつ!?
いったいどこから現れた!?
それになんだこの体つきは…)
裸で森の中を佇む筋骨隆々の男に
ただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
まずは情報を取るべく問いかける。
「てめぇ…どこの者だ?どこから来た?」
アレクは空いている右手を背後に隠し、
アイテムボックスから
★ 短刀 【地獄痺刃】 を取り出すと、
そのまま背後で"ワープ"を作り出す。
転移先は探知魔法で捉えた背後の男だ。
魚とりの要領で、ワープホールに短刀を突き刺す。
が、見えていないせいか、うまくいかない。
転移先の場所を微調整し、何度か試みる。
アレクは時間稼ぎするように、男に語りかける。
「あー、俺の言葉通じるか?」
「俺の問いに答えろ」
リーダー格の男は平静を装っていたが、
内心穏やかではなかった。
この男の前では、自分は被食者だと感じるのだ。
「女神の使いってところだ。遠いところ来た」
アレクは転生前の女神の姿を思い出し
適当に返しただけだったが、
それを聞いた男たちは動揺した。
(…ッ!!女神の使いだと…ッ!?)
少したじろいだリーダー格の男は権威を示し、
自分たちの他にも本隊が居ることを仄めかした。
「俺たちは神聖ロザリ法王国、
[聖騎士] アムル 卿 配下の別動隊だ。
神事の務め中だ。…分かったなら消え失せな」
本隊が居ることは本当だが、
騎士団直属ではない。ただの雇われの冒険者に過ぎない。
男達は自分たちの獲物に手をかけた。
剣が2人、弓が2人だ。
もはやこの場の全員が
戦闘になる予感を感じ取っていた。
「ところで君、いい服を着ているな?」
アレクは無視して、話を逸らしたちょうどその時、
背後から悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃっ」
※ドサッ※
【地獄痺刃】に感触あり。
大当たり。
土手の上にいた男は無力化した。
「てめぇ!」
男たちが戦闘態勢になると同時に、
アレクは時間魔法を念じる。
"クロノス・マギア"
時間の流れが緩やかになると、新たな魔法を重ねる。
"ヴァリドゥス・イグノ・バリス"
アレクの目の前に火柱が上がった。
男たちから身を隠し、さらに魔法を重ねる。
"ウラノス・マギア"
アレクはワープホールを作り、
男たちの背後に転移すると
右手に短刀を握りしめて背後から襲い掛かった。
胴体は装備で守られているので、
空いている首元を狙う。
※サクッ※
1人、2人、3人・・・
あっという間に3人を刺し、残り1人。
最後に残っていたリーダー格の男に襲い掛かると、
男はまさに振り向く最中で、
驚愕の表情を浮かべているのが見えた。
とっさに防御を取ろうとしているが、
こちらはスローモーションで流れている。
防御の隙間を狙うのは容易い。
※ピリッ※
浅くだが、短刀が首元に触れた。
そのまま駆け抜け、少し距離を取ってから
全ての魔法を解除した。
「「がぁっ!」」
4人全員が倒れ、痙攣している。
一時はどうなるかと思ったが、
終わってみればあっけない。一瞬の出来事だった。
右手の短刀に目を移す。
―――――――――――――――――――
★ 短刀 【地獄痺刃】
└突撃+80 / 斬撃+50 / ☆貫通+80 / ★麻痺+100
―――――――――――――――――――
さすが特別なアイテム。すさまじい力だ。
一瞬で4人を無効化してしまった。
痙攣していた男たちは
しばらくすると、動かなくなった。
解析スキル で状態を確認。
離れていた男を含めて5人中4人の死亡が確認できた。
1人だけまだ息があるのは、リーダー格の男だ。
やはり浅かったか。
「ヒュッ…ヒュッ…」
リーダー格の男は空を見上げながら
うつろな目をしている。息は細い。
「安心しろ、お前の装備、俺が使ってやるよ」
アレクはそう言い放つと、
男の表情はみるみる変わっていった。
"驚愕、苦悶、憤怒"
全てが混ざったような壮絶な表情でアレクを睨む。
アレクは男の喉元に短刀を突き刺すと、
壮絶な表情のまま息絶えた。
(最後目が合っちゃったな)
やや興奮しているが
命を奪う躊躇いも薄まってきた。
この世界に適応してきたのだろうか。
「あ…あの…
女神様の使者の方でしょうか?」
戦闘を見ていた少女は、恐る恐るアレクに問いかけた。
「うむ。そんなところだ」
自分が女神の使いかは定かではないが、
ついそう答えてしまった。
きれいな女性の前では見栄を張りたいのだ。
嘘じゃないし…サイコロ振ってもらったし…
「お願いします。どうかお助け下さい」
目の前の脅威は去ったというのに、どういうことなのか。
そんなことより体中ボロボロで、美人が台無しだ。
ひとまず手に持っている短刀を
アイテムボックスへ仕舞う。
警戒は解いておいた方がいいだろう。
装備を【第六天魔王】 だけにすると、
女に話しかけた。
「ちょっと待ってろ、今回復してやる」
"エイル"、"ルクス"
癒しと浄化の魔法を重ねて施す。
念のため、強力なやつをかけておいた。
すると、女は驚いた様子で問いかけてきた。
「これは…癒しの魔法ですか?」
「そうだ。水も作ってやるから飲め」
魔法で水を生成すると、女に飲ませる。
「これも食え」
アイテムボックスからブドウを取り出し
女へ与えた。
・☆☆☆希少な 「ルビー・ブドウ」
「あ…ありがとうございます」
少女はブドウを口に含むと驚愕し、涙を流した。
「こんなおいしいもの、食べたことがありません」
「そうか、ならもっと食え」
さらにルビー・ブドウを3房取り出して渡した。
「いえ、ですが…」
「やかましい。俺も腹が減ったのだ。
魚もあるから一緒に食うぞ。今は言うことを聞け」
「はい・・・」
「話は食いながら聞く」
その辺に転がっている、
串になりそうないい感じの木枝を集めると
アイテムボックスからアユを取り出して串打ちした。
・☆☆☆希少な 「霜降り鮎」 ×4
焚火の準備をしながら、
ブドウを食べる少女を盗み見る。
■イヴ
しかし改めて近くで見ると、とても美しい女だな。
いい匂いもするし。なんだか頭もクラついてきた。
顔も赤らめちゃって可愛らしい。
※チラッ、チラッ※
いつの間にか少女に見惚れていると、
女の視線が不自然なことに気づいた。
目のやり場に困っているようだ。
(ん?)
※ボッキーン!※
女の視線の先、
股間に目を向けると息子が起立していた。
(し…!しまった!!)
「ん゛ん゛!ゴホン!!
俺は死体を片してくる。魚の世話を頼むぞ!」
いそいそと魔法で火を起こしてから
死体の方に向かった。
(これが健康な体か。恐ろしい)
いくつか装備を見繕い、
自分と似た体格のリーダー格の男の装備をはぎ取ると、
入念に浄化魔法をかけてから装備した。
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・胴体:☆☆精良な [レザーアーマー]
・腕:レザーグローブ
・上衣:リネンチュニック
・下衣:リネンパンツ
・足:レザーブーツ
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黒を基調としたレザー装備だ。
一目見てカッコイイと思ったのだ。
アーマーは☆付きだ。中々いい物のようだ。
さすが威張っていただけはある。
硬貨も見つけた。
(お!この世界の通貨か?)
当然もらっておく。
念のため武器も回収し、
一緒にアイテムボックスに放り込んだ。
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[武器]
・☆良質な ダガー ×1
・ダガー ×4
・長剣 ×1
・▽粗悪な 短剣 ×1
・短弓 ×3
・弓矢 ×45
[ルビー]
・大銀貨 ×1
・銀貨 ×5
・青銅貨 ×21
・銅貨 ×36
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男の中の一人は荷物を抱えており、
中身は木の食器類など生活に関する道具が入っていた。
これもいただこう。
浄化魔法をかけてからアイテムボックスに放り込む。
剥ぎ取るものがなくなると、
土魔法で5名の死体を埋めた。
「あの、魚が焼けました」
ちょうどその時、女が声をかけて来た。
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