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秘密の境界線 百合短編小説集  作者: 六格祭
「これ、生徒会の仕事じゃないんだけど!?」恐怖の首長女、女子高生を追い詰める
17/21

[1]

「こんなの届いてた」


 放課後、生徒会室。

 といっても何か特別なものがあるわけでもなく、普通の大きな机と書類棚が置いてあるだけ。メンバーも2人きりで机を挟んでななめに座る。

 1人は黒髪ロングを小さくツインテールにしてる少女で身長は高2としては平均程度。つり目がちで強気な印象を受ける。

 美玲は読んでいた紙切れをひょいと机の上を滑らせれば、それはぴたりともう1人の前で止まった。

 アッシュグレーのセミロングで全体に軽くウェーブがかかる。椅子に座っててもわかる程度に小柄、美玲とは対称的に柔和な感じ。

 れこは一瞬眉をひそめてから机の上の紙片を拾い上げる。それを一瞥してから顔をしかめた。


「なにこれ?」

「それは私も聞きたい」


 生徒会は生徒からの要望を聞き取るために投書箱を設置している。滅多に投書なんて入っていないけど。

 前に入っていたのはいつだったか? ちょっと思い出せない。まあいつだったにしても大した内容じゃなかったことは確か。

 それが今日美玲が久しぶりに中身を覗いてみたところ1通だけ入っていた。


『旧校舎4階、階段から数えて4つ目の空き教室にて、4時44分に首長女が現れます』


 以上。A5わら半紙に綺麗な字で書いてあったのはそれだけ。

 現れます――だから何? どうして欲しいの?

 わりと古びた、いい言い方をするならそれなりに伝統のある、女子校。怪談のうさわのひとつやふたつぐらい耳にする。

 でもそれを生徒会に投書されたって困る。まさか退治して欲しいとでも? それはどう考えても生徒会の仕事じゃない。

 単純に考えられるのは冗談というかいたずらというかそういうものでつまりはまともに取り合う質のものでないということ。

 なのにれこと来たらじっくりとその文面を読み返したのち、「行ってみようか?」なんて言いだして、思わず美玲は「は?」と返していた。


「あんた正気?」

「正気だよ。今4時半すぎでちょうどいい頃合いだし」

「こんなの生徒会の仕事じゃないでしょ、会長さん」

「せっかくの生徒からの要望? なんだから、行くだけいってみようよ、副会長さん」

「……まあいいけどね」


 2人の付き合いは長い。小学校に入ってから。中学校も同じでそれから現在、高校も同じところに通っている。

 れこにはどういうわけだか人望? がある。体型的にも雰囲気的にも人に頼られる感じじゃないのに。ともかくそれが高じたあげく生徒会長なんてものに任命されていた。

 仕方がないので美玲は副会長なんてものになってあげた。れこ1人に生徒会の仕事ができるんだかあんまりにも心配だったので。

 幸いなことに今のところ2人しかいない生徒会だけど十分に仕事は回っている。もともと問題を起こす生徒がいない学校だからそこまで大変なことがない部分はあるが。

 今日片づけたいと思ってた仕事はすでに片づいて、けれども帰るにはまだちょっと早い時間帯で、気分転換してからもう一仕事といった頃合い。

 その気分転換に噂話の検証か。美玲としてはよくもないけど悪くもないといったところ。

 思い出してみれば昔かられこは霊感があるとかそんなことを言ったりはしなかったがオカルト話に結構興味を持つ方だった。

 小さくため息をつく。しょうがない。付き合ってやろう。

 書類と荷物はそのままに生徒会室を後にする。

 2人つれだって廊下を歩いているとちらほらと他の生徒とすれちがう。それなりに顔が知れてるので軽く挨拶をかわしておく。

 目的地の旧校舎の4階の4つ目の教室の扉を開けたのは16時40分すぎ。遅れてはおらず、かといってあんまり待たされることもなさそうでいい感じの時間。

 特に現在何にも利用されてはいないようで机も椅子も置かれていない。そのせいで非常にがらんとした空虚な印象を受ける。

 日当たりはよくない上に、電気も通ってないようで薄暗い。隣に立ってるれこの顔もはっきりしない。雰囲気だけならなんか出てもおかしくはないといえる。

 少しの待ち時間、手持無沙汰の美玲は尋ねた。


「で、本気で首長女がでてくるって信じてるの?」

「本気ではないよ。わかってるとは思うけど」

「まあさすがにね。ってか首長女って何?」

「私は聞いたことないかな。うちの学校に特有のやつかも」

「首が長いだけってちょっと化け物としては地味じゃないかな」

「うーん、でも日本の妖怪ってわりとそういう感じでしょ」

「言われてみればそうかもね」


 ぴったり4時44分。特に何も起きない。当たり前だけど。

 というかそもそも現れるってなんだ?

 教室の真ん中からにゅにゅっと生えてくるのか? あるいはだんだんと姿が濃くなってくるとか?

 まあどっちにしろそんなことは起きなかったわけだけど。

 気分転換終わり!


「じゃあもどろっか」


 声をかける。返事はない。

 その時になって美玲はれこの身体が硬直していることに気づいた。立ったまま固まっている。

 なんだろうか? その視線の先をたどっていく。

 空き教室の入り口の扉は上半分が窓ガラスになっている。その向こう側に『それ』はいた。

 ぎょろりと飛び出した紫色の眼球がきょろきょろとせわしなく動く。2つの眼球はランダムに回転し同じ1つの意志のもと制御されているとは思えない。

 整えられていない黒い長髪がゆらゆら揺れる。顔の下に肩は見えない。ひょろりと伸びた細い首が不安定に頭を支えていた。

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