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最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

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第42話 【最終話】マリリスの最期、そして第十階層へ――

 灼熱と氷嵐が広間を蹂躙(じゅうりん)する中、私たち勇者パーティーの反撃が次第に形を成し始めた。


 イグノールの聖剣が光を増し、クローディアとメリエラの連携が竜の鱗を穿(うが)つ。


 バルドスの盾が衝撃を受け止める。


 そして、その背後で私が結界を張り、幾重にも重なってみんなを守る。


「これで――!」


 クローディアが踏み込み、魔剣ノクス=エクリプスの一撃必殺斬をマリリスへと振り下ろす。


 私は入ったと確信した。


 その刹那。


 轟音と共に、巨体が割り込んだ。


 黄ばんだ鱗に(おお)われた翼が大きく広がり、マリリスを(おお)い隠す。


 ――ホワイトドラゴン――。


「やめろっ……!」


 マリリスの叫びも(むな)しく、斬撃と魔力の奔流は竜の身体を直撃した。


 鱗が砕け、血が飛び散り、巨体が大きく揺らぐ。


 赤黒い血を(さら)しながらも、それでも白い巨大な竜は倒れない。


 最後まで、マリリスを背に(かば)ったまま、牙を食いしばって立ち続けた。


『フィナーン、お前だけは死なせるわけにはいかぬ』


「シグ!!! ……こんな無茶をしおって!」


『お前といて、楽しかったぞ……』


 やがて、そのまま静かに膝を折り、大地を揺らして崩れ落ちる。


「……シグ?」


 マリリスの顔が凍りついた。


 炎の瞳に、怒りと絶望が(にじ)む。


『ありがと……愛し……て……』


 白き竜の(まぶた)が閉じる。


 頭から首が力を失い、地面に堕ちる。


 しばしの沈黙。


 私はその光景に、竜とマリリスの心が通い合っていた事を悟った。


 そして、呆然とするマリリスが口を開く。


「……シグ、立って……まだ、戦いは終わってないのよ――!」


 竜は答えない。(かば)う姿勢のまま動かなくなった。


「……ふざけないでよォォッ!!」


 次の瞬間、マリリスの絶叫が広間を裂いた。


 涙とも怒りともつかぬ声を響かせ、白銀の鎧を両手で引きちぎる。


 露わになった肉体を炎が包み、背には巨大な炎翼が噴き出す。


「シグを奪ったあんたたち……! 絶対に許さない! 全部、焼き尽くしてやるッ!!」


 炎獄が広間を(おお)い、私たちを呑み込もうと渦巻く。


 ――第九階層、最後の死闘が本当の意味で始まった。


 炎翼を広げたマリリスは、灼熱の狂気そのものだった。


 剣を振り抜けば大地が溶け、拳を叩きつければ溶岩が噴き出す。


 狂喜の笑い声が轟き、広間は灼熱の地獄と化す。


「もっと! もっと戦わせなさいよ!」


 (ほのお)の六本腕を持つ四天王の一角は、最高潮の魔闘気を放つ!

 

 剣神が乗り移ったが如く、超スピードで私たちに襲いかかってきた。


 バルドスが吹き飛ばされ、クローディアの双剣をはじき飛ばし、メリエラの急所にダメージを与えてなお、乱舞する。


「まずい! イグノールたちの手に負えないかもしれない……」


 私は彼女の変貌(へんぼう)ぶりを見て直感する。


「うおおおおおおおおおおお!!!」


 マリリスの力が十倍に膨れ上がる。


 六本の腕が無差別にしなった。


 次の瞬間、バルドスとクローディアが無残に斬られ、地に伏せた。


 残ったイグノールが聖剣アルノールを構え直す。


 だが、遅い。


 六連撃乱舞がイグノールを貫き、絶命する。


 空に陣取るメリエラが絶望にさいなまれ、後退する。


 私は察知し、彼女の前に陣取る。


 これ以上犠牲を増やすわけにはいかない。


 私はマリリスに呪文を唱えた。


重力の枷グラヴィティ・プリズン


 魔法はマリリスを束縛し、息巻いていた彼女は重力の力に屈し、地に伏す。


「タクト! みんなを」


 メリエラの言葉に(うなず)き、呪文を唱える。


範囲蘇生術(エリアリザレクション)


 緑色に輝く魔法陣がフロアを包み込む。


 イグノール、クローディア、そしてバルドスの身体を光が包み込む。


範囲修繕魔法(エリアリペア)


 さらに魔法を重ね、壊れた武器や防具を元通りに修繕する。


「お、俺は……」


 イグノールが意識を取り戻す。


 そしてクローディアとバルドスも。


 空から見ていたメリエラが両手で顔を(おお)い、涙する。


「まだだ、メリエラ。戦いはこれからだ」


 感涙する彼女を律するようにささやいた。


「う、うん。そうだね……」


 私の目を見て、ミリエラは再び気を引き締め直す。


 イグノールたちが武器を取り、立ち上がった。


 私は術を解除し、マリリスを解放する。



 マリリスの絶叫が響き渡る。


 私とメリエラが付与していた状態異常無効化をはじめとする効果が、すべて一瞬でかき消えてしまう。



 絶望が私たちを襲う。


「やるしかない!!」


 私は付与魔法を高速でを唱え、再度強化と防衛魔法を付与する。


「――お前、邪魔だな」


 マリリスから私めがけて強烈な思念波が飛んでくる!



 だが、福音を伴った聖属性魔法で吸収し、無効化してしまう。



「……無駄だ」


「くっ、何だ貴様。しんがり野郎のくせに生意気だな……」


 マリリスが挑発するが、無視する。


 魔王城、この第九階層を守護するほどの相手だ。


 さすがに一筋縄ではいかない。


「お前はやらんのか?」


「……私は勇者達のサポートをするだけだ」


「ふん。とんだ腰抜けだな……」


「タクトを悪く言う奴は、この俺が許さん!」


 イグノールたちが剣を構えながら対峙する。


 ――みんなのレベルは、また上がっているようだ。


「いいさね! かかってきな!」


 マリリスが私たちを挑発してみせる。


「うおおおおお!!」


 イグノールが声を張り上げ突っ込んでいった。



――戦いは三十分以上に及んでいた。


 こちらも渾身(こんしん)の攻撃を繰り出しているが、決定打にならない。


 マリリスは傷ついても回復魔法で(よみがえ)る。



「命の炎を燃やせ! うおおおおお!!」



 炎に焼かれながらも、私たちも一歩も退かない。


 バルドスが盾で炎撃を受け止め、クローディアが切り裂き、メリエラが雷の雨を降らせる。


 イグノールの聖剣が光を増す。


 私は最後まで状況を俯瞰(ふかん)し、仲間を守り支え続けた。


「目覚めよ、七つの力!」


 光は集まり、七色の光を発動する。


「うおおおおおおお!!!」


 私たち四人のサポートの甲斐あり、マリリスは弱っていた。


「七つの力よ、俺に応えろ!

不屈の闘志――烈火の信念――光輝の慧眼(けいがん)――希望の導き――大地の守護――真なる勇気、そして真理の覚悟!」


 聖剣アルノールが輝きを増し、七色の波動がオーロラの如く剣を(おお)い、激しく揺らめいている。


「これは俺ひとりの剣じゃない。

 共に歩んだ誓い、不屈と希望、勇気と覚悟――そのすべてが今、ここに宿る!

 七星よ、道を照らせ!

 ――七星永劫斬セプテントリオン・エターナル!」」


 剣の大きな波動がイグノールの動きに呼応して揺らめく! 


 そして、イグノールの渾身の斬撃がマリリスを横一文字に両断する!


 炎の暴風が弾け飛ぶ。


 真っ二つに地面に崩れ落ちながらも、マリリスは笑っていた。


「楽しかった……シグ……」


 地面に叩きつけられても、痛みで歪むことなく、安らかな顔つきをしていた。


 やがて、広間を(おお)っていた灼熱と冷気は嘘のように静まり返った。


 息を荒げる勇者たちは互いに視線を交わす。


「やった! 俺たちはこの強敵も倒せたぞ!!」


 歓喜を言葉に乗せたイグノールが振り返った時、私の目からは大粒の涙が(あふ)れていた。


 目が合った時のイグノールの表情が曇る。


「タクト、何を泣いているんだ?」


「……イグノール、これが泣かずにいられるか」


「何を言っている? こいつは俺たちの敵だぞ」


 イグノールがそう言った瞬間、私はイグノールの頬を殴っていた。


――吹き飛ぶ勇者。


 呆然とする仲間たち。



 じんじんする拳の痛みに気づき、私はハッとする。


 だが、彼の考え方が許せなかった。


 相手をただの敵とみなし、ただ倒せばいい――というその考え方に。


 倒れたイグノールは呆然としていた。


 私は彼のもとに歩み寄って(ひざまず)き、ヒールをかけた。


 そして無言のまま立ち上がり、半身になった女戦士の前に(ひざまず)く。



 彼女は絶命しながらも、満足げな表情をしていた。


「よく頑張ったな。敵ながらあっぱれだった」


 私は離ればなれになった彼女の胴体と下半身を集め寄せる。


『ダークハイヒール』


 真っ二つに寸断された半身はつながった。


 だが命は戻っていない。


 私は彼女の亡骸をお姫様抱っこし、絶命したホワイトドラゴンの遺体のもとへ連れていく。


 竜の胸にそっと下ろし、竜の身体を止血した。


「いつでも生き返れるよう、浄化してやるよ」


 そして少し浮遊し、呪文を唱える。


『|神々の祝福を伴った浄化ゴッドブレス・ピュリフィケイション


 聖属性最上位魔法を発動する。


 彼らに対する私の気持ちを込めて放った。



「――安らかに」


 浄化の光が広がり、白き竜と六本腕の女戦士を包み込む。



 竜の亡骸が光に照らされ、庇う姿勢のまま静かに光の粒となり溶けていく。


 光の中で、満たされたマリリスの肢体がキラキラと輝き、粒子となって天に昇る。



 その光景に圧倒され、誰も声を上げなかった。


 儀式を終えた私は涙を拭い、微笑んだ。


 地上に降り立つと、イグノールたちが歓迎してくれた。


「すまんタクト。お前の気持ちを理解してやれなかった」


「私の方こそ、殴ってしまってすまなかった」


「そうだな。痛かったぞ」


 私はイグノールの目を見て言った。


「……彼女と竜の間にはきっと愛が芽生えていたんだ。私はそれを感じ取った」


「愛?」


 クローディアが驚きの声を上げる。


「ああ。君たちは気づかなかったか?」


「ええ」


「白竜が絶命してから、彼女が強くなっただろう?」


「そうね」


「あれはただの力の解放じゃない。愛と憎悪によるものだ」


 私の言葉にみんなは信じられないという表情をしていた。


「魔界や悪魔に愛があるって、そんなことある?」


 メリエラが疑問を投げかける。


「多分、ないと私も思う。でも、彼らがしていた言動は、少なくとも人間のそれだった……」


 私にも正しい答えはわからない。


「タクト……お前、そんな視点で戦ってたんだな」


 イグノールが私につぶやいた。


「いや、前の世界にいた頃の自分の気持ちが出てしまっただけかもしれない。私もまだまだ未熟だ」


「それは違う」


 クローディアが異論を唱える。


「タクト、貴方は優しい戦士だ。騎士として、相手に対する礼節も備えている。私は評価する」


「そうだな。強敵だっただけに尚更だ」


 バルドスも腕組みしながら頷く。


「ちゃんと最後まで戦ってたし、感情をコントロールして敵と対峙できてたのは、評価できるね」


 メリエラが私を指さして擁護(ようご)してくれた。


「ありがとう、みんな」


 私の言葉にみんなの顔も晴れやかだった。




 激しい戦いは終わった。


「タクト、みんな、少し休憩しようか」


 イグノールが提案する。


 浄化されたこの空間で、私たちは食事を摂ることにした。


 私はみんなに、錬金術で前の世界での料理をご馳走した。


 食は進み、ここまでの戦いや苦労への(ねぎら)いに花が咲いた。



 ――みんなのその瞳に宿る光は、次に待つ戦いを見据えていた。


「みんな、聞いてほしい」


 私はイグノールたちに説明する。


「魔王はもっと強力なはずだ。そこでみんなにさらなる魔法をかける」


「魔法?」


 私はバルドスの返しに(うなず)く。


「これは付与魔法じゃない。みんなの基礎力を底上げする魔法だ」


「そんなものがあるの?」


 クローディアが尋ねる。


 私はこくんと(うなず)いた。


「これは召喚獣にしか使ったことがない。だからどの程度効くのか、永続時間がどの程度なのかも不明だ」


「そんな魔法、聞いた事ないわ」


 メリエラが驚きながら言った。


「そうか、それは勉強不足だな、メリエラ」


 私は冗談めかして微笑んだ。


「まあそれもそのはずだ。私もまだよくわかっていないんだ。でも、副作用や痛みはないはずだから安心してほしい」


 私は召喚獣たちの実績からそう言った。


「大体はわかった。それをいつかけるんだ?」


 イグノールが聞いてくる。


「今、この場でだよ。覚悟が決まるまで待つ」


「それで俺たちはどのくらい強くなれるんだ?」


 バルドスが尋ねる。


「わからない。でもさっきのマリリスを一人で倒せるくらいにはなると思う」


「そんな力があるなら、なぜ先にしなかったんだ?」


 イグノールが私に問う。


「みんなの力を信じてたから。だが、それ以上に相手が強かった」


 私はみんなに頭を下げた――すまないと……。


「いいのよ。謝らないで」


 クローディアが微笑んで言った。


 その言葉に救われる。


 絶命させたことに申し訳なさがあったからだ。


「では、早速やってくれ」


 イグノールが覚悟を決めた目で言った。


 みんなも同様に(うなず)く。


「じゃあ、これからかける。あと、この先からは魔法は無詠唱でいくよ」



――私はそう言って、みんなに魔法をかけたのだった。



◇ ◇ ◇


 

 私たちは、イグノールを先頭に第十階層へつながる階段を駆け上がっていった。


 立ち(ふさ)がる魔物はもういなかった。


 そして、第十階層に足を踏み入れる。


「必ず討とう、魔王クライスラインを!」


 イグノールが私たちに(げき)を飛ばす。


 私たちも(うなず)いた。



 だが、私は知らなかった。


 魔王クライスラインがどんな魔物なのか。


 国王もエレノーラ様も、一切詳細を教えてはくれなかった。


 恐らく、本当に情報が無いのだろう。


 イグノールたちも、どんな姿をしているのかさえ、知らないと言っていた。


 超電の雷帝をはじめとする、召喚獣にした魔物たちも、それについては教えてはくれなかった……。




 この先のずっと奥に構えるであろう黒き門。


 ――魔王の間。


 そこに、魔王クライスラインが待つ。



 私たちは黙って(うなず)き合い、最後の決戦に向かう一歩を踏み出した。



 ――死闘となったこれまでの魔物たちを束ねる、魔王クライスラインに挑む緊張感を胸に抱いて。




「最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む」――完――

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この物語はここで最終ですが、ストーリー自体はこのあと、「トラウマ抱えた冴えない男は、異世界で魔王を妻にします」の第1話に続きます。


まだ未読の読者様は、ぜひご一読ください。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


よろしければ☆レビューやコメントを残して頂けますと、今後の活動の励みになります。

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