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最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

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第38話 四天王の一角、コルヌゴンのゲルミス、起つ

 私たちは第四階層を守護する魔物の群れを撃破し、第五階層へと上り詰めていた。


 大聖堂のように高く広がる天井。石造りの柱が並び、そこかしこに悪魔の彫像が睨みを利かせている。



 そこがこの大広間だった。


 石造りの大広間に入った瞬間、空気が凍り付いた。


 玉座に座す四天王コルヌゴン。


 その威厳に満ちた魔闘気から、四天王クラスだと認識できた。


 周囲には影の亀裂が走り、ぞろぞろと悪魔の軍勢が湧き出してくる。


 牙を剥き出しにしたバルバズゥ(猿魔)が五体。


 重甲冑を纏ったハマトゥラ(鎧鬼デヴィル)が三体。


 頭に炎を宿したアケロンの魔騎兵二体。


 さらに、天井近くでは蝙蝠翼を持つスピナゴンが六体、甲高い声で笑いながら舞い降りてくる。


「ふん……俺が相手する前に、まずは我が眷属どもで血を啜ってやろう」


 コルヌゴンの声に応じ、デヴィルの群れが一斉に襲いかかってきた。


「数が多い……! けど、やるしかない!」


 バルドスが盾を構え、前線を受け止める。


 クローディアは左右から迫るバルバズゥを斬り伏せ、イグノールは聖剣の光で敵を押し返す。


「まとめて焼き払うわ!」


 メリエラが両手を掲げ、炎の魔法陣を大広間に展開する。


『フレイム・ストーム』


――業火の嵐が渦巻き、十数体のデヴィルを巻き込み、断末魔の悲鳴を響かせる。


 それでも数で押し寄せる魔たちに、私は無属性魔法で応じた。


「『ガイア・バースト』!」


 床から隆起した石柱が敵の群れを貫き、崩れた破片が弾丸となって周囲を薙ぎ払う。


 範囲ごと吹き飛ばされたデヴィルたちは次々と壁に叩きつけられ、黒い霧となって霧散していった。


「タクト、助かった!」


 バルドスが叫び、さらに突撃する。


 残ったスピナゴンたちは空へ逃げようとしたが、メリエラの氷結魔法フリーズ・レインがそれを許さない。


 氷の矢が雨のように降り注ぎ、翼を貫かれた小悪魔たちは次々と墜落した。



 息を合わせた範囲魔法により、大広間に充満していた悪魔の群れはほとんど殲滅されていた。


 血と煙の匂いの中、私たちは剣を構え直し、玉座を睨む。



「ほう……部下をここまで容易く薙ぎ払うか」


 コルヌゴンが重々しく腰を上げる。


 巨大な角が火花を散らし、背後に黒き魔力の渦が広がった。


「ならば次は――俺様、四天王ゲルミス自らが相手をしてやろう!」


 大広間の床が震え、圧倒的な威圧感が全身を押し潰す。


 四天王との本戦が、今まさに幕を開けようとしていた。



 大広間に、重々しい足音が響く。


 ゲルミスが一歩進むたびに、床石が軋み、空気が圧し潰されるように重くなる。


「さあ――見せてもらおうか、人間の力とやらを」


 その声と同時に、雷鳴のような咆哮。ゲルミスの角から黒紫の魔力が奔流となって放たれ、稲妻が広間を走った。


「くっ……!」


 バルドスが盾を構えて受け止めるが、衝撃は壁をも揺らす。


「バルドス、前を頼む!」


 イグノールが聖剣を掲げ、光の刃を叩き込む。


 クローディアはその隙に素早く横へ回り込み、長剣の剣戟で角の根元を狙う。


「――まだ硬い! 一撃じゃ通らない!」


「ならば、削るだけだ!」


 イグノールの声に応じ、メリエラが後方から火炎弾を連射する。


 爆発が立て続けに起こり、ゲルミスの巨体を覆う鱗が焼け焦げて剥がれていく。


「クローディア、下がれ!」


 私が詠唱を終えると同時に、大地を裂く魔力が広間を震わせた。


 『ストーン・ランス』――石の槍が突き上がり、ゲルミスの脚を拘束する。


「今だ、イグノール!」


「おおおおお!」


 聖剣が閃き、拘束された脚に叩き込まれる。


 ゲルミスの咆哮が轟き、石の柱が粉砕される。


(たわむ)れは終いだ!!」


 ゲルミスが両腕を広げると、黒い波動が爆発し、床を割って衝撃波が走る。


 全員が吹き飛ばされ、壁や柱に叩きつけられた。


「ぐっ……強すぎる……!」


 クローディアが息を荒げる。


 だが、その瞬間。


「下を向くな! 奴も無敵じゃない!」


 イグノールが叫び、立ち上がる。


 聖剣の光がさらに強く輝き、全員の心を奮い立たせる。


「タクト、援護を!」


「任せろ!」


 私は《ガイア・シールド》を展開し、ゲルミスの反撃を相殺する。


 その後ろでメリエラが氷と炎の複合魔法エレメンタル・バーストを詠唱する。


 氷柱と炎柱が交互に炸裂してゲルミスを押し戻した。


「今度こそ――!」


 クローディアがイグノールに合わせて飛び込み、魔剣ノクス=エクリプスを抜いて切り裂く。


 聖剣と魔剣の光が交差し、ゲルミスの胸甲をついに割った。



 黒い血飛沫が床に散り、ゲルミスの巨体がぐらりと揺れる。


 だが、まだ終わりではない。玉座の主の目が、灼熱のような怒りを宿して輝いた。


「面白い……ならば全力で葬ってやろう!」


 四天王ゲルミスとの死闘は、ここからが本番だった。



 ゲルミスの咆哮が大広間を震わせる。


 全身から黒炎を噴き上げ、炎と雷を纏った巨体が突進してきた。


「下がれッ!」


 バルドスが盾を突き立て、仲間の前に立つ。


 重圧に膝がめり込みながらも、踏み止まった。


「クローディア!」


「任せなさい!」


 盾で止められた一瞬、クローディアの魔剣が閃き、鱗の隙間を斬り裂く。


 血飛沫が弧を描き、ゲルミスが(うめ)いた。


「今度は私の番よ!」


 メリエラが詠唱を終え、巨大な炎柱が天へと昇る。


 《フレイム・インフェルノ》――灼熱の奔流がゲルミスを包み込み、焦げた鱗を剥ぎ取っていく。


「……なら、俺も行く!」


 私は地を打ち、《ストーン・ランス》を顕現させた。


 石槍が突き上がり、巨躯(きょく)を足元から貫く。


「ぐぬぅ……!」


 膝を折り、動きを止めたその瞬間。


「イグノール、今だ!」


 全員の声が重なる。


 イグノールは聖剣を掲げ、全身に白光を(まと)う。


 「ここで終わりだ――!」


 踏み込みと同時に放たれた斬撃は、光そのものとなって一直線に(ほふ)った。


 クローディアの斬撃、メリエラの業火炎、そして私の『大地の拘束』。


――仲間の攻撃が一つに繋がり、そのすべてを束ねた最後の一閃がゲルミスの胸甲を割り砕いた。


「バ、バカな……この我が……人間に……!」


 ゲルミスの巨体が震え、次の瞬間、轟音と共に崩れ落ちた。


 黒炎は霧のように消え、圧倒的な威圧感が静かに溶けていく。


 バルドスが盾を下ろし、重い息を吐いた。


「……倒した、のか」


「ええ。みんなで力を合わせたからこそよ」


 メリエラが疲れた笑みを浮かべる。


 イグノールは聖剣を収め、静かに(うなず)いた。


「……ありがとう。お前たちがいたから、この一撃を振るえた」


 玉座の前に沈むゲルミスの亡骸。


 四天王の一角を討ち果たしたという事実が、私たちの胸に重く刻まれていた。


 黒炎が消え、広間に残されたのは巨躯を横たえるゲルミスの亡骸だった。


 それを前に、メリエラが杖を掲げる。


「このままでは瘴気を残すわ……『フレイム・ピラー』!」


 炎の柱が立ち昇り、死体を包み込む。


 やがて灰となり、風に散って消え去った。


 大広間を(おお)っていた禍々(まがまが)しい気配も同時に消え、静寂が戻ってくる。


「……終わったな」


 バルドスが大盾を下ろし、床に腰を下ろす。


 クローディアも剣を収め、軽く肩を叩きながら笑った。


「よく持ちこたえたわね、バルドス」


「お前こそ斬り込みすぎだ……ヒヤヒヤしたぞ」


 そのやり取りに、メリエラがクスリと笑みを漏らす。


「でも、みんながいたから押し切れた。……ありがとう」


 イグノールはそう言って、聖剣アルノールを膝に立てかけ、仲間を見回した。


「俺一人じゃ絶対に勝てなかった。タクトも、魔法で何度も助けてくれたな」


 私は(うなず)き返す。


「お互い様だよ。誰かが欠けてたら、あそこで終わってたかもしれない」


 みんなで頷きあい、讃えあった。



――戦いでの疲れを癒し、次の戦いに備えるのだった。



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