表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/46

第29話 最終裏ボス、幻界竜帝王メタトロン

 門をくぐった瞬間、世界の輪郭が音もなく溶けていった。


 足元の床は透明な水晶板のように滑らかで、その下には無限の空と光の帯が流れている。

 上を見上げれば、天もまた同じく反転した夜空で、星々は直線ではなく螺旋を描いて動いていた。


 空気は存在しているのに、呼吸をしている感覚がない。

 熱さも冷たさもなく、ただ均質な圧が全身にまとわりつく。

 耳元で小さな囁き声が絶えず響くが、内容はわからない──それが逆に心をざわつかせた。


「……気を抜くな。これは景色じゃない、試されている」


 イグノールが低く告げる。

 私は魔法で薄い光の結界を展開し、メリエラは視線を泳がせながらも詠唱を続ける。

 バルドスは盾を前に出し、進路を守った。


 やがて道が途切れ、その先には空間を占め尽くすほど巨大な“座”があった。


 白金と漆黒の装飾が交互に組み合わされ、中央の球体状の光から八つの光柱が外周へ伸びる。

 まるで無数の細い糸が世界全体を縫い止めているかのようだ。

 その奥、二つの金色の眼が静かにこちらを見下ろしている。


『……汝ら、己が魂の価値を信じているか』


 脳髄に直接響く問いが胸に刻まれる。


『我は幻界竜帝王、メタトロン。この座に至りし者に問う──その力、万象を統べるに足るや』


 光が膨張し、竜の如き威容に十二枚の純白の翼、背後には幾何学模様の光輪が浮かび上がった。

 鱗は星雲のように揺らめき、見る角度ごとに色と質感が変化する。

 ただ立っているだけで世界が沈黙し、時間が凍りつく感覚があった。


 十二枚の翼が広がると、幻界の空全体が振動した。

 床の水晶板に天使文字が浮かび、光の波紋が走る。

 その波紋は空間全体を駆け抜け、私たちの魔力回路に干渉してきた。


「……魔法が勝手に吸われてる!?」


 メリエラが息を呑む。

 《アーク・マナドレイン》──開戦と同時に発動する、フィールド全域から魔力を微量ずつ吸収し続ける効果だ。


――均衡の試練


 メタトロンは《セラフィック・レイ》で光属性の直線ビームを放つ。

 床の紋章と連動し、光は軌道を変えながら迫ってきた。


 さらに《エクリプス・ウィング》で闇と光を交互に展開する。


 一定時間ごとに「光」と「闇」のフィールドが切り替わり、対応する属性以外は攻撃が半減し、被ダメージは三割増える。


「光場に変わるぞ! 闇属性で押すんだ!」


 私の声に、クローディアが闇の魔剣を展開する。

 私も闇魔法を連続で叩き込む。

 翼の輝きが鈍った一瞬に、バルドスが突進し盾で胸部の光輪を砕いた。


 メタトロンの体力が七割を切る。

 翼が閉じ、光輪が逆回転を始める。


 《クロノ・リバース》

 ──過去十秒間の行動が逆再生され、回避した攻撃が逆方向から戻り、放った魔法が自分を直撃する。


「やばい、俺の斬撃が──!」


 イグノールの剣閃が逆流し、バルドスの盾を弾き飛ばす。


 私は反射軌道を予測し、防御魔法を未来位置に置いた。

 反転直前に“空振りや不発”を仕込むことで、被害を最小限に抑える。


 奴の体力が残り四割を切った瞬間、十二の翼が天へと伸びた。

 背後に巨大な天球儀が出現し、星座が回転してすべての線が一点に収束する。


 《コスモス・アポクリファ》


 八秒間、全属性+時属性の多重攻撃がランダムに降り注ぐ。

 各属性防御を瞬時に切り替えなければ即死だ。


 攻撃を受けるたび魔力が削られ、長期戦は不可能だ。


「今しかない──全力で行くぞ!」


 クローディアの聖剣が最後の光輪を砕く。


 さらに私とメリエラの八属性合体魔法が天球儀の核を撃ち抜く。

 閃光が弾け、幻界全体が沈黙した。


 メタトロンは(ひざまず)き、黄金の瞳でこちらを見据える。


『……万象を越えし者よ、その魂に“幻界の紋章”を刻もう』


 光が降り注ぎ、称号と報酬が授けられる。

 気づけば私たちは静かな祭壇の上に立っていた。


 イグザリオンの亡骸も、幻界門も跡形もない。

 ただ胸の奥に、まだ消えない熱と、あの視線の感覚だけが残っていた。


 黄金の光が消え、静けさが広がる。

 幻界の紋章は胸の奥で淡く脈動し、戦いの余韻をまだ(ぬる)く残していた。


 クローディアが聖剣を下ろし、微笑む。


「……やり遂げたわね」


 その声は疲れているはずなのに、不思議と澄んでいた。


「本当に……最後まで立っていられるなんて思わなかった」


 メリエラは息をつき、額の汗を拭いながら笑う。


「でも、みんながいたから、私も諦めずに済んだの」


 バルドスは重い盾を床に置き、腕を回しながら頷く。


「全員が自分の役目を全うした。これほど誇らしくきつい戦いはなかったな」


 その時、背後に宝物庫のような空間が出現する。

 中には貴重な装備品や魔道具が見られる。

 持ちきれないほどの金貨が溢れる中、例の球体を見つける。


 私はためらうことなく回収し、インベントリにしまった。


 皆が回収を終える。

 イグノールは私の肩を軽く叩き、真っ直ぐな目で言った。


「タクト、お前の判断と魔法の切り替えがなけりゃ、何度やっても負けてた。……礼を言う」


「いや、私一人じゃ無理だった」


 私は自然とそう返していた。


「バルドスの盾も、クローディアの突破力も、メリエラの支援も、そしてイグノールの指揮も……全部があってこそだ」


 誰かが笑った。

 それが合図のように、全員の顔に疲れと同じくらいの笑みが広がる。


「みんな、ありがとう。これで……俺たち、本物の勇者パーティーって言えるんじゃないか?」


 イグノールの冗談めいた一言に、皆が声を上げて笑った。


 その笑い声は、高く澄んだ天井に反響し、長い戦いの幕引きを告げていた。



【今回の勇者パーティーの成長の記録】

===============

 イグノール……104⇒107

 クローディア……101⇒104

 バルドス……100⇒103

 メリエラ……102⇒105

===============


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【まめちしき】


【幻界竜王メタトロン】……ダンジョン第六十階層の裏ボス。幻界に棲む竜王で、次元干渉・幻影支配・因果操作を行う超越的存在。鱗は万象を映し、時間や空間さえ歪める防御と攻撃を兼ね備える。本来は外界の管理者的存在で、挑戦者に「異界の理」を突きつける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ