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最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

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第23話 奈落の修羅カルマ

 勇者パーティーと共に裏ボス攻略に挑んでから三日目。


 ――ダンジョン第四十層。

 空気そのものが、深海のように重かった。

 石造りの回廊を抜けた先、私たちは階層ボス、監視者セリオスの間へと続く巨大な扉の前に立っていた。


 その時だ。

 何の前触れもなく、扉の表面に黒い文様が浮かび上がった。

 それは血管のように脈動しながら、やがて形を成す。


 ――文字。

 私には読めない。

 だが、見ただけで胸の奥を握り潰されるような、冷酷な意味を感じさせる。


 次の瞬間、足元の床に淡く赤黒い光が走り、私たち一人ひとりの影がゆらめいた。


「……タクト、これ……」


 クローディアが息を呑む。

 彼女の影が、剣を振り下ろす自分自身の姿へと変わっていた。


 バルドスの足元には、鎧を打ち砕く光景。

 メリエラには、魔力の奔流に焼かれる何か。

 そして、私の影は――数えきれない骸の山の中に立っていた。


「クローディア、今の状況を見て恐怖や金縛り感はあるか?」


 私の問いにクローディアが目を閉じて反芻(はんすう)し、答える。


「ううん、無いわ」


 私がかけた【状態異常無効化】と【完全耐性】の付与魔法は、効果を発揮している。

 ということは、今見えているものは“幻覚”ではい。

 それぞれの心の中にある、贖罪(しょくざい)――すなわちカルマそのものだ。


 確認していた矢先、耳の奥で低い声が(ささや)く。


 『罪業――可視化完了』


 ――監視者セリオスは出現しない。


 大地が裂けるような音と共に、床の中央から黒い霧が噴き上がった。

 それは人影を形作り、やがて漆黒の甲冑を(まと)う。

 無数の怨嗟(おんさ)が絡みつく、修羅の面。

 握られた双刃が、こちらを試すようにゆっくりと交差した。


 『奈落の修羅――カルマ』


 耐性で感じない“畏怖の念“と共に、その名が私の脳裏に刻み込まれる。


 ここから先は、罪の重さで戦場が傾く。

 ――一歩踏み込めば、後戻りはできない。


 漆黒の甲冑が立ち上ると同時に、扉の奥から別の気配が(にじ)み出した。

 それは本来この階層で相対するはずだった監視者――セリオスのものだ。


「……あいつは覚えてる。確か……セリオスだったか」


 バルドスが思い出して盾を構える。

 だが、異様なことにセリオスは動かない。

 彼の頭上にもまた、淡い赤黒い紋様が浮かび、罪業を数える刻印が脈打っていた。


 カルマの面が、かすかに笑ったように見えた。

 次の瞬間、セリオスの胸を黒い鎖が貫き、魂ごと引き寄せる。

 その鎖は呪詛の炎となって甲冑に吸い込まれ、修羅の双刃に絡みついた。


「罪業……供物として受領」


 低く響く声が、私たち全員の耳の奥を打つ。


 空気が()ぜ、怨嗟(おんさ)が渦巻く。

 カルマの両腕がゆっくりと開き、刃が宙を裂いた瞬間――

 目の前の大広間が一瞬で血色の闇に塗り替わった。


「来い……(あらが)えぬ罪と共に」


 それは宣告だった。

 この戦いに勝つためには、力だけでは足りない。

 背負ってきたものを昇華できなければ、怨刃は無限に鋭くなる。


 ――奈落の修羅カルマ。

 第四十層、真の地獄が、ここから始まる。


 カルマが双刃を水平に構えた瞬間――

 赤黒い衝撃波が全方位に奔った。


「来るぞ!」


 バルドスが大楯を構えながら叫ぶ。


『復讐咆哮』!


 カルマの耳を裂く咆哮が大広間を揺らす……はずだった。


 ――一瞬、すべての時が止まる。


「時空魔法――『時間停止(タイムストップ)』」


 私以外の時が止まる。

 目の前には、出現時の六倍、約三十メートルに巨大化した奈落の修羅カルマが叫びをあげている姿で佇んでいる。


 私は瞬間移動で巨大なカルマの顔に肉薄する。


「……五月蠅(うるさ)い、黙れ」


 六種類の属性を均等に編み込んだオーラを瞬時に創り出し、顎めがけて衝撃波をぶち込む!

 カルマの顎は砕け散り、頭も粉砕されて消滅する。


「これで呪いと怨念は封じた。あとはこっちのカルマだな……」


 さらに再生を未然に防ぐため、消滅した首と胴体のつなぎ部分の細胞レベルに『極限時間遅延(エクストラスロー)』を付与する。

 その後『時間停止(タイムストップ)』を解除する。


 視界が一瞬白んだ後、全員の胸元に黒い刻印が浮かび上がった。

 見覚えのない文様だが、それが何を意味するのかは直感でわかる。

 カルマ値の付与。

 時間と共に、この刻印は私たちを蝕む……。


 だが次の瞬間、黒い刻印は音を立てて破裂し、効力を失う。

 状態異常無効化の魔法が効力を発揮する。


「ちゃんと対策はしてきた。何もさせないよ」


 みんながカルマの頭部が無いことに気づき、異変を察知する。

 それぞれが自分の役割を果たすべく態勢を整える。


「……タクトがやってくれたのか。俺たちも続くぞ!」


 イグノールがみんなに号令をかける。


 クローディアが歯を食いしばり、剣を握り直す。

 バルドスの盾越しに響く衝撃波が、じわじわと腕を痺れさせる。


「やべぇ……こいつ、怒らせれば怒らせるほど強くなる!」


 バルドスがカルマの様子に立ち止まる。


「大丈夫だバルドス! 最初のカルマ攻撃の対応だけに集中するんだ。みんなならやれる!」


 私はバルドスだけでなく、みんなに対して檄を飛ばす。


 カルマは一歩、また一歩とこちらへ迫る。

 刃先から漏れる最後の呪詛の火花が、床石をじりじりと焦がした。


「時間をかけると不利です。――一気に行きましょう!」


 メリエラが詠唱に入ると同時に、私も補助魔法を重ねる。

 呪詛、カルマ値の進行ともに抑えている。

 みんなの耐性をもう一段階上げ、スピード上昇を付与する。


 だが、カルマは動じない。

 双刃が交差した瞬間、刃先が黒く膨れ上がる。

 次の技が来る――。


『……怨刃乱舞』


 しかし、その刃の連撃は我々には届かなかった……


 時間解除する前にすでに防御結界を張り、カルマの攻撃を防ぐ手立てを講じていたのだ。


 嵐のような刃の連撃が、結界の中で激しく降り注ぐ音がこだまする。

 しばらく斬撃音が鳴り響いていたが、やがて威力を失い鳴りやむ。


 怨刃の乱舞の後、カルマは静かに刃を下ろした。

 次の手を探るその仕草に、一瞬の隙が見えた。


 だが、みんなのカルマ値を軽減しないと、完全な力を発揮できない。

 刹那、私の脳裏にある言葉がよぎった。


『あなたは、誰かを剣で守る人ではないのかもしれません』


 ――聖女レティシア様。

 そうか、その手があった!


 私はその瞬間に最大の念を込めて祈る。


「祈りの力よ、みんなに届け! 『祈りの福音(プレイヤーゴスペル)』」


 私の祈りは全員に作用し、金色のオーラがそれぞれの身体を包む。

 私たちの中にあるカルマが弱まり、薄らいでいった。


 その瞬間、全員が同時に動いた。


「今だ、畳み掛ける!」


 クローディアが剣を閃かせ、バルドスが盾で突進する。

 メリエラの詠唱が終わり、雷光の槍がカルマの右肩を貫いた。


 カルマは怯むことなく双刃を振るい、怨念の火花が床を裂く。

 だが、その刃はもう先ほどのような圧を持たない。

 各々のカルマ値が下がった今なら、押し切れる――!


「イグノール!」


「おうッ!」


 勇者の剣が蒼く輝き、私の魔力強化を受けて一気に加速する。

 クローディアの一撃が左側から、イグノールの渾身の突きが正面から。

 双刃で受け止めようとするカルマの動きが、わずかに遅れた。


「罪を縛れ、聖なる鎖――『聖鎖断罪』!」


 円環状の聖印が浮かび上がり、そこから純白の鎖が飛び出す。

 鎖はカルマの腕を縛り、刃の軌道を封じる。


 次の瞬間、イグノールとクローディアの剣が同時にカルマの胸甲を貫いた。


 黒炎が上がり、怨嗟の声が断末魔に変わる。

 カルマは崩れ落ちながら、どこか誇らしげに(つぶや)いた。


 『……(あがな)い……か……』


 甲冑が砕け、奈落の修羅カルマは黒い霧と共に消え去る。

 床には《修羅の怨刃》と《怨念核の破片》、それに数点の戦利品と金貨が残され、静寂が訪れた。


 深層に続く、封じられていた隠し通路がゆっくりと開いていく。


 「まさか、俺たちの中にある罪の意識に干渉して攻撃してくるとはな……」


 イグノールが地面に座り込みながら(つぶや)く。

 クローディアとバルドスは互いに肩を借りながら何とか立ち、(たた)えあった。

 メリエラと私はそんな姿を見てホッと息を吐き、微笑んだ。


 その後私は、召喚に必要な球体を探し当て、インベントリに収納する。


 この戦いが今後、単なる勝利だけではなく、自分たちの内側の成長が必要なことを、改めて思い知るのだった。



【今回の勇者パーティーの成長の記録】

===============

 イグノール……80⇒81

 クローディア……77⇒78

 バルドス……76⇒77

 メリエラ……78⇒79

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【まめちしき】


【奈落の修羅カルマ】……ダンジョン第四十階層裏ボス。カルマの念を具現化し、対象の罪業に応じて攻撃力が上昇。カルマ値が高い者ほど致命的ダメージを受ける。


【監視者セリオス】……第四十階層ボス。冒険者たちを試す「審判者」の役割を担う存在で、冒険者の過去の戦闘行為を記録・監視する。戦闘スタイルは冷静無比で、観察の眼を象徴する多重の光輪を展開し、相手の行動を逐一解析して対応する。観察と審判を司る試練の守護者で、過去の戦いを糧に真価を測る存在。

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