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最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

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第11話 魔王軍特殊部隊【深淵の六翼《シェオル=シクス》】

 次の瞬間、そこには六体の悪魔が、悠然(ゆうぜん)と立ち並んでいた。


 中央に立つのは、禍々(まがまが)しい四本角を生やした大柄な悪魔。

 全身が黒曜石のような鎧に(おお)われ、右手には巨大な双刃斧。


 その背後には、片翼を持つ細身の悪魔、毒々しい笑みを浮かべる魔道士風の悪魔、四本腕の剣士悪魔、鎖を引きずる獣人型悪魔。

 そして――ひときわ小柄な少女のような悪魔が立っていた。


 彼らは全員返り血を浴び、血生臭い臭気を(ただよ)わせている。


「……来たな、“異世界人”」


 中央の四本角の悪魔が低く(うな)るように言葉を吐く。

 その声は地鳴りのように響き、言葉に圧を宿している。


(何だこいつ……。私の素性を知っているというのか? 何故だ?)


「貴様がここまで来るのを待っていた。王国の斥候ごときでは我らの手間をかけるに値しないからな」


「ほぉ……わざわざ待ってくれてたのか。律儀な連中だな」


「我らは『殲滅(せんめつ)戦』をしに来たのではない。“実験”に来たのだよ」


「……実験?」


 その言葉に、私は一定の理解を示す。


(――これは、試しに来た。人間側の“力”を測るために)


 イグノールが言っていた“ボス級”の悪魔。

 どうやらこいつらのようだ。

 各々が相当な圧を出している。


(なるほど、レベル八十では太刀打ちできない強さを持っているようだ……)


「いいだろう。ならば――その“実験”とやらに付き合ってやる」


「勇ましいな。まあここで死ぬだろうから教えてやる。我ら【深淵の六翼(シェオル=シクス)】。魔王軍特殊部隊とは俺たちのことよ」


「特殊部隊、――魔王側の中でも強いのか。じゃあ死ぬついでに一人ずつ自己紹介でもしてもらおうか」


 私が魔力を少し開放すると、敵側に一瞬のざわめきが走る。


「フハハハハ。情報通りの面白い奴だ。いいだろう。俺はグラギオス=ドレイス」


「バルグレイスだ」


「レメナス=フィニス」


「ゾルバ=メルファ」


「ミラクリア=フォム」


「フィリカ=アル=マナ」


「律儀な名乗りに感謝する。タクトだ」


 グラギオスと名乗った四本角の悪魔が双刃斧を肩に担ぎ、ゆっくりと前進してくる。


「まずは手合わせだ。貴様がどこまで抗えるか……楽しませてもらおう」


 同時に周囲の五体が配置につき、陣形を組み始めた。


(……こいつら、間違いなく“連携”してくる。単純な力押しじゃないのか)


 エレノーラ様の言っていた“手の内を見せるな”という助言が頭をよぎる。


(少しは見せないと無理だな。お許しください、師匠)


「――さて、誰が先陣を切る?」


 そう(つぶや)いた瞬間、背後から低く(うな)る声がした。


「俺が行く。“狩り”は俺の役目だ」


 バルグレイスと名乗った鎖を引きずる獣人型の悪魔が、嬉々とした笑みを浮かべ、前へと躍り出る。


「食らえぇ!」


 バルグレイスが奇襲をかけて駆ける。


『インフェルノチェイン!』


 鎖がこちら目がけて飛ぼうとするその時、鎖が粉々になり消滅する。


分子分解モデキュール・ディコンポゼション


「何だと?」


 バルグレイスは面食らうが、そのまま私に突進してくる。


衝撃波(インパクト)


 次の瞬間、バルグレイスの屈強な巨体が激しく後ろに吹き飛んでいく。

 着地してもそのまま転がって後ろの崖に激突して止まる。

 ほかの五体の悪魔がその光景に硬直する。


「……さて、勇者イグノールに致命傷を与えたのは、どいつだ」


 私の問いかけに、六翼は硬直から解放される。

 しかし、その沈黙を破ったのは、レメナスと名乗った女悪魔だった。


「私よ。戦場で高らかに名乗りを上げていたおバカさん――無様だったわ」


 レメナスは片翼を優雅に揺らし、細剣を肩に担ぐ。

 その冷笑する片翼の剣姫に、私は真っ直ぐ見据えた。


「……そうか。わかった」


 その瞬間、私の足元に緻密な魔法陣が浮かび上がる。


『――無属性結界術式牢獄(インペリオ・ゲヘナ)


 次の瞬間、レメナスの周囲の空間が(ゆが)み、重厚な結界壁が四方八方から迫り出す。


「……っ、何――」


 レメナスが動く間もなく、六重の封印結界が音もなく閉じ、彼女を完全に閉じ込めた。


「悪いな、……お前の処遇は最後だ」


 私は静かに必死に足掻(あが)く女悪魔から目を逸らす。

 そしてたじろぎ動きを止めるほかの悪魔たちに対峙する。


「さて――残りの五匹。“実験”として消し炭にしてやる」


 その言葉に、グラギオス=ドレイスがニヤリと笑う。


「ほう……面白い。だが、貴様如きが我らを相手取るなど――」


 グラギオスが言葉を終える前に、私は無詠唱で術式を展開する。


地獄の業火・爆散ヘルフレイム・バースト


 発動と同時に、漆黒の業火が渦を巻きながら炸裂した。

 広域に燃え広がる消滅の炎が、瞬く間に獣魔バルグレイスと瘴気(しょうき)魔導士ミラクリアを飲み込む。


「ギャアアアア――ッ!!」


「……ッ! こ、こんな……バカな……!」


 抵抗する間もなく、二体は一瞬で炭化し、燃え尽きた。


「フィリカ、下がれ!」


「無理だよ、隊長……もう逃げ道はない……」


 フィリカが背後に回り込もうとするも、私の“魔力探知”からは逃さない。


「お前、さっきから背後狙いすぎだ」


 振り向きざまに放った魔力弾(マジックバレット)がフィリカの腹部を貫き、彼女は呆気(あっけ)なく倒れる。


 残るは二匹――


「ゾルバ、お前が盾なら、そのまま燃え尽きろ」


 ゾルバが四本剣を振るい、“炎斬り”で耐え凌ごうとするが、漆黒の業火は容赦がなかった。

 剣ごと彼を包み込み、抵抗も虚しくその肉体を焼き尽くしていく。


「ぬ、ぐぉおおおおおおおおおおおおおおお――!!」


 全てが燃え尽き、辺りには黒焦げた悪魔の残骸と、静寂が残った。

 私は死亡した全員の頭蓋骨を拾い、インベントリに収納する。


 一人となったグラギオス=ドレイスが咆哮(ほうこう)を上げ、双刃斧を肩に担ぎ全力で突進してくる。

 その全身から放たれる殺気と魔力圧は、まさに“魔王軍将級”そのものだった。


魔力衝撃波(デモニッククラッシュ)!!』


 斧を振り抜くと同時に、地鳴りのような重低音が(とどろ)き、空間を圧縮する衝撃波が一直線に襲いかかる。

 直撃すれば、肉体など紙屑のように押し潰されるだろう。


「……残念だったな」


 私の前に、黒い亀裂が走る。


次元断層ディメンジョンフォルト


 瞬間、グラギオスの放った魔力衝撃波は裂け目に呑まれ、無音で()き消えた。


「何……!?」


 驚愕(きょうがく)する暇も与えず、私は指を鳴らす。


「“次”だ――グラギオス」


「ぐおおおお!!『ヘルレイザー』!!」


 怒りのままに斧を振り上げ、グラギオスが突進する。


 だが、その巨躯(きょく)が目前でピタリと動きを止めた。


「遅いよ」


 私は指を弾く。


捻転圧迫(ツイストプレス)


 空間ごとグラギオスの身体が捻じ曲げられる。

 骨が(きし)む音が肉を裂く悲鳴と重なり、内臓が激しく弾け飛ぶ。


「ギャアアアアアアアアアア!!」


 四本角の巨体が地面に叩きつけられ、動かなくなる。

 血しぶきの中、奴の首が無惨にもぎ飛んだ。


「“次元を(ゆが)める”ってのは、そういうことだ。覚えておけ……死ぬけどな」


 私は無言でグラギオスの頭部を掴み、インベントリへと収納する。

 怒りも、哀れみも、ここには無い。

 ただ、淡々と片付けた。


 ただ一人、結界の牢獄に閉じ込められたレメナスだけが、怒りと恐怖の混在した瞳で私を見据えていた。


「……さて。お前の番だ、レメナス=フィニス」


 全てが燃え尽き、戦場には焦げ付く臭気と静寂だけが残った。

 結界の牢獄の中で、レメナスが沈黙していた。

 彼女は未だに表情を崩さず、しかしその瞳の奥に宿るのは、確かな“恐れ”だった。


 六翼が、たった一人の男に壊滅させられたという現実――。


「どうした、レメナスとやら。お前、もう“切り刻む相手”がいなくなって寂しいか?」


 私は冷静な声で挑発する。

 怒鳴り声など必要ない。

 ただ、事実を淡々と突きつけるだけだ。


「だが、お前はまだ死なせない」


 レメナスがわずかに目を細める。

 それが、“自分が殺されない”という意味か、“まだ弄ばれる”という意味かを探るかのように。


「お前には“役目”がある。――この戦いのことを、魔王軍に戻ってお前の上司にに報告しろ」


「……報告?」


「ああ、伝えろ。近いうちにお前たちを討伐しに行くとな」


 結界の牢獄を解除しながら、私は一歩、彼女に歩み寄る。

 レメナスは一瞬、剣に手をかけかけたが、それが無意味であることを悟る。


「あと、もう一つ大事な役目だ」


 私はレメナスの眼前で、はっきりと告げた。


「もう一度勇者イグノールと戦え。次は、お前の全力で決着をつけろ。奇襲も卑怯も全部使った全力勝負だ」


 レメナスの顔に、初めてわずかな動揺が走る。


「ふ……ふざけないで。私があの男ごときに負けるわけが――」


「だったら、受けて立てよ」


 私は鋭くレメナスの目を見て言った。


「お前が完膚なきまでに叩きのめした相手が、次に会った時どうなっているか、お前の目で確かめろ」


 レメナスは数秒の沈黙の後、静かに一礼した。


「わかった……ボスには全部報告する。そして次もあの男を正面から叩き潰してやるさ」


「ああ、それでいい」


 レメナスは私を睨み、低い声で叫んだ。


「お前も人間どもに伝えろ。我らはこんなものじゃないと。来るならそれ相応の覚悟をするんだと」


「ああ、伝える」


 レメナスは片翼を広げ、宙へと舞い上がる。

 その姿に、かつての強大さはなかった。

 遠ざかるその背を見送りながら、私は届かぬ思いを(つぶや)く。


「……イグノール。残しておいたぞ。強くなってあいつを倒すんだ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【まめちしき】


【深淵の六翼(シェオル=シクス)】……魔王軍特殊部隊。構成員は六体の悪魔。


【グラギオス=ドレイス】……四本角の大悪魔。オニ=デーモンロード。圧倒的な筋力と斧技で戦場を()ぎ払う“破壊の権化”・戦闘中でも冷静沈着、指揮官として部隊全体を統率。


【バルグレイス】……鎖獣魔。ベスティアル=デーモン。鋭敏な嗅覚と瞬発力を持つ“狩猟者”。鎖による中距離牽制と高速突進で敵を追い詰める。


【レメナス=フィニス】……片翼の剣姫。戦闘天使型デーモン。片翼で空間機動を行いながら高速度の斬撃を繰り出す。グラギオスへの忠誠心が厚く、冷徹で効率主義。


【ゾルバ=メルファ】……四腕剣士。アスラ=デーモン。四本腕を駆使した“無間連斬”による攻防一体の戦法。地味ながら“六翼の守護壁”と呼ばれる防御の要。


【ミラクリア=フォム】……瘴気(しょうき)魔導士。ナイトメア=デーモン。広域に瘴気(しょうき)を展開し、敵の魔法発動を阻害する“妨害専門”。幻惑結界や呪術的な縛鎖で味方の連携を支える。


【フィリカ=アル=マナ】……小柄な少女型悪魔。リリム=デーモン。小柄な体格で視界外から忍び寄る暗殺者タイプ。敵の背後・死角を突く高速連撃。


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