表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む  作者: ワスレナ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/46

第6話 狂い始めた歯車

 王都中央の謁見の間。

 王城とは違った空気が(ただよ)うそこに、今日はどこか重い沈黙が流れていた。


 玉座の前で(ひざまず)き、王命を待つイグノールを中心とした勇者パーティーの姿があった。

 だが、そこにタクトの姿はない。


 その前に立つのは、冷徹な視線を持つ国王の右腕――宰相カルミナス。

 カルミナスの声が広間に淡々と響いた。


「……よって、魔王国領国境へ向かう先遣の斥候隊に、勇者パーティーを随伴させるとの陛下の御意向だ」


 玉座の間には重い沈黙が流れるが、イグノールはすぐに一歩前に出る。


「異議はありません。魔界の動きをいち早く探るなら、我らが前に立つべきです」


 その言葉にクローディアが驚き、イグノールを見る。


 メリエラも口を開きかけたが、イグノールは視線だけで制した。

 イグノールの瞳に一瞬、わずかな影が差す。


「……そうか。わかった」


 カルミナスはその後、淡々と玉座の前から書簡を読み上げる。


 「……出立は明朝。――早々に支度をし、所定の場所に来られたし」


「はっ! かしこまりました」


「これにて終了だ。下がってよいぞ」


 カルミナスはそう言うと、イグノールたち一行の退出を見届けた。


 謁見の間を出たイグノールたちは、回廊の少し先にある控室に入り、扉を閉めると同時に小さく息を吐いた。

 そしてみんなに頭を下げる。


「……すまない、みんな」


 バルドスが渋い顔で問いかける。


「お前、本気で斥候なんかやる気か?」


「……ああ。俺たちは王国の剣だ。必要とあれば先陣に立つ」


 クローディアが不安げに口を開く。


「でも、タクトが……」


 イグノールは小さく(うなず)いた。


「タクトには俺から話す。……いや、あいつならきっと来てくれるさ」


「イグノール……」


 メリエラが心配そうにイグノールを見つめる。


「なぁに、大丈夫さ。先に行ってくる。みんなも落ち着いたら後から来てくれ」


 イグノールはそう言い放つと、席を立ち一人ギルド本部へと向かった。



◆◆◆



 ギルド本部の勇者パーティー控室。

 イグノールが扉を開ける。

 そこには椅子に座って待つタクトの姿があった。


 重たい気配を(かも)し出し、イグノールはゆっくりとタクトの向かいの席に歩み寄る。


「……イグノール! おかえり、待ってたよ」


 タクトが立ち上がると、イグノールは目を伏せ、やや言い淀んだ声で口を開く。


「悪い。少し……話がある」


 二人はそのままテーブルに相対して着席する。


 イグノールは深く息をつくと、テーブルをを拳で軽く叩いた。


「! どうしたんだ?」


「先に言っておく……これは、俺の意思だけじゃない。国王陛下の命令なんだ」


「……命令? 何があった?」


「魔王軍が近く動きを見せているらしい。先遣隊を組んで探りを入れるとさ。……で、俺たちのパーティーも同行することになった」


 タクトは眉をひそめる。


「何ということだ……国王も言う事がころころ変わるな……」


「……ああ。実はお前も連れていけと言われた」


 ――短い沈黙。

 タクトはわずかに目を伏せ、低く息を吐く。


「……で、イグノールはどうするんだ?」


 タクトの問いに、イグノールはタクトをまっすぐに見た。

 その瞳には焦燥と、どこか揺れる自尊があった。


「俺は先遣隊に参加するつもりだ。ほかのみんなも連れていく。タクト、どうする?」


 タクトは驚き、わずかに目が見開かれる。


「そんな……今の力では……」


「俺は勇者だ。今までだって困難を切り開いてきた。今回だってやれる自負がある!」


「……そうか。それは私にも決定権があるのか?」


 イグノールの瞳にかすかな光が差す。


「ああ。選ぶがいい。俺たちと共に行くか、それとも行かずに残るか。どちらにせよ、俺は尊重する」


「……」


 タクトは両手を組んで頭を預け、しばし考え込む。

 その後顔を上げ、イグノールに向かって言葉を紡ぐ。


「私は行かない。申し訳ないが……」


 イグノールは少し無言でタクトを見つめてから口を開く。


「……そうか。尊重すると言ったが、理由を聞かせてくれ」


 タクトはため息をつき、小さく頭を下げた。


「確かに一緒に行けば、それなりに戦力になると思う。でもエレノーラ様から言われているんだ」


「何を?」


「『今は奥の手だ、ここで敵に不用意に力を(さら)すな』と――」


 イグノールはそれを聞いて口元が緩む。


「……奥の手だって!? 冗談だろ?」


「あんまり魔王軍を舐めるな、イグノール」


「なっ!?」


 タクトが珍しくイグノールを睨んでいる。


「何が言いたい?」


「私は魔王軍と戦うために異世界からわざわざ呼ばれたんだぞ。エレノーラ様が秘術を使ってまでして。これがどういう事かわかるか?」


「……何を言ってるのか意味が分からん」


「じゃあ教えてやる。少なくとも、この世界の現状じゃ敵わない相手だから、私は呼ばれたんだ。国王も、この国のみんなも、それを認めてるってことだ」


 イグノールは小さく肩を震わせ、しかしすぐに口元を(ゆが)めて言った。


「……なるほどな。だがそれでも俺は行くぞ。臆病者を連れて行っても仕方ないしな」


「好きにするといい。……だが、生きて帰って来いよ」


 タクトはそう言って、イグノールを真正面から見据える。


「あ、当たり前だ」


 イグノールが少し動揺しながら返す。

 そんな彼にタクトがはっきりと言った。


「私には信頼できる師匠がいる。エレノーラ様が『まだ役割がある』とおっしゃる限り、魔王を倒すためギリギリまで力をつけるさ」


 イグノールはそれを聞いてせせら笑ったが、その瞳はわずかに曇る。


「フッ……あの聖女様は相変わらずだな」


 ――二人の視線が一瞬だけ交わる。


「じゃあ、あとは俺がみんなに話しておく。今日は攻略は中止だ。帰っていいぞ」


「……わかった。みんなによろしく伝えておいてくれよ」


 タクトは静かに控室から立ち去る。

 残ったイグノールは拳を握りしめた。


(勝つ。絶対に――勝って戻る)


 静寂を取り戻した控室に、勇者の息だけが響いていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ