5 桐山さんとの楽しい食べ物の話
沙耶香さんの常連は桐山さんなので、いつも桐山さんに指名されるのだが、それをこの店では使命ではなくリクエストというのだが、彼女は他のお客さんにも人気があるので、当然他のお客さんとリクエストが重なることがよくある。
そうするとその時の状況にもよるが、15から20分くらい桐山さんのもとを離れて他のお客さんの席につくことになる。そうすると他の女の子がヘルプで呼ばれて沙耶香さんが戻ってくるまで桐山さんの相手をすることになる。
ある晩桐子がヘルプとして初めて桐山さんの席についた。彼は気さくで楽しく話のできる人だった。
「私、桐子です。よろしくお願いします。」
「あれ、私の苗字と同じ『桐』の字なんだね。不思議なご縁だね。」
話し始めるといつのまにか食べ物の話になった。
「私は野菜は何でも食べる人なんだけど、あのパクチーってやつは駄目なんだよね。だって見た目はミツバと水菜とほうれん草を足して3で割ったみたいな感じなのに、包丁で切った途端水道の塩素の匂いがするからね。桐子さん、あなたは何か苦手な食べ物はある?」
「私、何でも食べられるんですけど、ただあんまり辛いのは駄目なんですよね。」
「辛いのが駄目ってことはカレーは甘口とか?」
「カレーは中辛なら大丈夫です。七味唐辛子とか、ワサビとかが苦手なんですよね。」
「ふうむ。そうだ、じゃあ食べ物のクイズを出すね。」
「クイズですか?できるかしら?」
「大丈夫だよ。長寿の人たちがよく食べていると言われている体にいい食べ物をまとめて、それぞれの頭文字をとって『まごわやさしいよ。』となるんだけど、この8種類の食べ物を順番に当ててちょうだい。」
「いきなり『ま』が分からないわ。うーん。豆?」
「ピンポーン」
「『ご』はごまね。
「ピンポーン。次は文としては普通は『は』なんだけど、ここでは『わ』で考えてね。」
「わ?分かった!ひらめいた!『わ』はわかめ。」
「そう、いい調子だね。」
「『や』は野菜で、『さ』は魚ね」
「そう、そう、もうちょっとだよ。」
「『し』って全然分かんない。」
「ほら、鍋にあるじゃない。」
「えー?鍋に?」
「好き嫌いの分かれる、あの茶色いやつ。これってヒントというよりほとんど答えなんだけど。」
「あっ、椎茸ね。次は『い』ってもっと分かんない。」
「ほら、昔から女性が好きだと言われてるものだよ。巨人、大鵬、◯◯◯◯◯って聞いたことはない?ただしここでの答えはひらがなで2文字だけどね。」
「あっ、芋ね。最後は簡単ね。ヨーグルトでしょ。」
「正解。やったね。このクイズって結構難しいんだよね。桐子ちゃんはなかなか善戦したと思うよ。」
「あー、楽しかった。」
ここでママさんが来て桐子に耳打ちした。
「沙耶香さん戻ってくるって。良かったわね。それじゃ。」
桐子は他には行きたくなかったがこればっかりは仕方がない。