3 恐怖の冷蔵庫整理ーささやかなおしゃれ
桐子には家でやらなければならないことがいろいろある。最も恐ろしいのは週一回の冷蔵庫整理だ。おばあちゃんは買い物が好きで、それ自体は近くとは言っても5分ほど歩くし気晴らしにもなって良いことだとは思うのだが、冷蔵庫の中に今何が入っているのか確認しないで、最も確認しても買い物に行くまでに忘れてしまうのだが、かなりその時の気分で適当に買ってくるのだ。
そこで冷蔵庫整理はどういうことになるかというと、同じものがたくさん詰め込まれているのを処理していくことになる。例えば牛乳1リットルのパックが6個も入っていて賞味期限の新しいものが開封されている。古いものから飲むべきなのに。豆腐が6丁入っていることもある。
おしんこの類も7個くらいあるのだが、一つ買ってきてちょこっと口をつけると冷蔵庫に入れ、そのおしんこの存在自体忘れてしまうようで、翌日はまた新しいお新香を買ってきてちょっと食べると冷蔵庫へ、また翌日はさらに新しいものを買ってくると言った調子なので、ちょっとずつ口をつけたお新香がいくつもある。」
だいたい昔は賞味期限などというものは無かったので、おばあちゃんは人生のかなりの期間を見た目や匂い、ちょっと舐めてみたりといったある意味動物的なやり方で過ごしてきているので、期限を確認するという習慣がなかったし、それを確認してと言われてもそんな若い頃やったことのなかった新しいことはできないらしい。
毎回買ってくるのがカップラーメンだ。おばあちゃんはカップラーメンはほとんど食べることがない。けれども雰囲気で手に取ってしまうらしく、また缶詰も毎回のように買ってくる、それも秋刀魚やサバとかはいいとして、焼き鳥もかなり買ってくるのだ。別に焼き鳥が好きなわけではないのでそのまま山積みになっていて増える一方だ。
しかもこれまでは1日に一回買い物に行っていたのに最近は例えば午前中に買い物に行ったことを忘れてしまうらしく午後にも、つまり一日に2回買い物に行くようになり、その度にカップラーメンや缶詰やお新香、豆腐など同じものを買ってくるのでたまったものではない。
週に一回の冷蔵庫整理は本当に気が重いし扉を開けるのが恐ろしいし、それに大量に捨てるので罪悪感を感じる。フードロスもいいところだ。
ただ最近はいつも利用しているスーパーにフードドライブというコーナーができたので、ナマモノはダメだが賞味期限が2ヶ月前までのカップラーメン、乾麺、缶詰などは持っていけば必要としている人たちに食べてもらえるということなので、毎回少しずつ寄付をしているといった感じで持っていくので、食品の一部は有効利用できているとは言えるだろう。
今夜もヘルパーさんが来てくれたので、ガールズバーのバイトに行ける。その3時間がどんなに待ち遠しいことか。桐子にとって砂漠の中のオアシスだ。いつものようにカウンターに立ち、お客さんと話をしている。
ここでは私服でいいのだが、ズボンは禁止で、スカートの丈はなぜか膝下はダメで膝上となっている。桐子は週に3回、それもたった3時間であっても女の子らしい格好ができるのが嬉しい。たまには勇気を出してミニを履いてみたりして楽しんでいる。ただお客さんとの間にはカウンターがドーンとあるので、オシャレをしても上半身しか見せられないのが残念だ。