アルバイト
ブリュンヒルデは、地元の格安引越業者「スピードバリュー運送」でアルバイトとしての勤務を始めていた。
採用面接では、前職を「近衛騎士」と言い張り、面接担当者を困惑させたが、洗濯機を一人で持ち上げたことで即採用が決定した。
「お姉さん、マジでそれ一人でいけるの?」
「これは軽い部類だ」
そして初任務当日。
現場は1Kの単身者宅。
冷蔵庫、洗濯機、ベッドフレームに段ボール十箱──一般人には骨が折れる内容だが、ブリュンヒルデは淡々とこなしていった。
「ベッドフレーム、回してから入れると楽っすよ」
「む……そうか? こうして──」
慎重に角度を調整しながら、ベッドフレームをなんとか搬入した。
「完璧っすよ、初日にしちゃ」
豪快すぎる力任せの運び方には課題もあったが、それでも総じて評価は高かった。
休憩中、同僚のアルバイトに話しかけられた。
「ブリュンヒルデさん、中型免許取ったら個人委託になるんすよね?屋号とか、もう決めてるんすか?」
「屋号……?戦場に名乗りを上げよと言うのか」
「まあ、そんな感じっす」
「ならば──『ブリュンヒルデ運搬便』。それでよい」
「おお、強そう!間違いなく重いもん運んでくれそう!」
その日の夜、カズキのスマホに一通のメッセージが届いた。スマホまで支給されたらしい。
『任務完了。報酬を受領したので酒を買う』
カズキは缶チューハイを開けながら、思わず吹き出した。
数日後、カズキが見に行ったときには、制服姿のブリュンヒルデが倉庫に仁王立ちしていた。
制服の下に、銀の鎧が光っている。
「……似合ってるけど……それ、鎧の上から制服着てる?」
「当然だ。脱ぐ理由がない」
近くにいた現場のおじさんが苦笑しながら近づいてきた。
「いや~、ブリュンヒルデちゃん? それ、鎧は脱ぎましょうね~。作業しづらいでしょ?」
「やめろ……! 触れるな……! ……くっ……殺せ!」
「いや冗談だから!?冗談で言っただけだからね!?」
「問題ない。誇りと実用は両立する」
「いやいや、どっちかにしてくれ」
「えっ、鎧はダメだろ普通に考えて」
もしかすると、この世界に転移してきた異形や異分子たちも、こうして少しずつ居場所を得ていくのかもしれない。
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